1996年 6月 11日「しんぶん赤旗」
これまでの日本社会では、政官財の一体となった支配が横行し、民間の団体はきわめて冷遇されてきました。営利団体以外は、狭い範囲に限定された公益法人(教育、医療、宗教などを含む)しかなく、その許可は主務官庁の恣意にまかされ、法人格を取得するのは至難の業でした。しかも、少数部分とはいえ、公益法人のなかには官僚の天下り先となり、官僚と一体となって国民の利益に反するような活動を続けているものもあります。
非営利法人制度はこうした社会のあり方を変革するうえで大きな第一歩になるものです。生存権、福祉権、文化権といった基本的人権を法制度の土台から保障することになります。非営利法人法は“国民こそ主人公”という民主主義の基本理念の“団体版”ともいうべきものです。“税金が安くなる”など実利面も重要ですが、それ以上に日本社会のあり方にかかわる大きな視点からとらえることが必要だと考えています。
わが党は、「公益」とか「市民活動」といった概念によって活動を限定したり、官側の介入を許したり、後に紛糾する恐れを残す要素をもちこまず、名実ともに「非営利」の一点にしぼった法律を作る必要があると考えています。
まず、「公益」という概念が本来の意味を離れて「不特定多数の利益に奉仕するもの」といった特殊な意味を持っており、しかも、公益団体なのかどうかの判定を官側が恣意的に行える現行制度はきわめて問題があります。こうした概念をこの際、きっぱりと放棄し、わかりやすく官僚統制を許さない概念にすることが必要です。営利団体は非常にわかりやすい概念です。それ以外はなにかといえば非営利団体です。公益団体は非営利団体の一部でしかありません。
また、私たちは非営利ならすべてカバーするようにすることが必要だと考えます。どんなに詳しく分類をやっても、将来それに包括できない業務内容が出てくるのは避けられないからです。
非営利法人法で重要な点は、(イ)準則主義による設立、(ロ)情報公開、(ハ)非営利法人委員会による自主管理の三点だと考えます。
(イ)準則主義による設立 主務官庁を定めると、必ず行政の介入がおこります。現行公益法人の許可制は生かすも殺すも行政のさじ加減一つという極端なものですし、認可制にしても、中身はこれまでの許可制と違わないようなものです。また、縦割りのなわばりも生まれます。
したがって行政による判断の恣意性を極力排除するために、公証人が書類に必要事項がすべて記載されているかどうかの技術的な点だけを認証し、法務局へ届けることで法人格が生ずるようにする準則主義による設立が非営利団体にもっともふさわしいと考えます。
(ロ)情報公開 宗教法人のオウムだけでなく、民法による公益法人の中に「公益」とは全く相反するような行為を続けているものもあることから、非営利法人についてもどう不正を防止するかが問われます。それを保障する制度が情報公開です。現行の官庁による監督では、住専問題に見られるようにいくら監督権限を強化しても、馴れ合い、天下りなど不正の一体構造のもとで不正が隠蔽されるだけです。活動内容、財政内容を公開し、誰もが見ることができるようにすることで不正を防止するとともに、相互に監督し合うことで、“自分たちがこの制度を支え守る”という意識を育てることにもなります。
同時に、公開する情報は必要最低限のものにする必要があります。だれでも見ることができるということは、税務署なども自由に見ることができるということであり、国家権力の介入や干渉に利用される恐れも十分にあります。したがって、すべての非営利法人について、会員名簿は公開しません。また、税制優遇を受けない非営利法人は、貸借対照表、損益計算書、活動報告書の提出を求めません。
(ハ)非営利法人委員会による自主管理 非営利法人はノーコントロールではありません。最初に述べた非営利団体の理念からいって、情報公開を基本に自主管理を行うのがもっとも望ましい方法だと考えます。そのためのカナメとして「非営利法人委員会」を都道府県毎に独立した機関として設置し、委員の三分の二を非営利法人の代表から、残りを都道府県知事が任命する有識者とする方式を考えています。
全国レベルの団体については、大半が主たる事務所を東京都に設置するでしょうから、東京の非営利法人委員会が総合的に掌握することになります。国の省庁による縦割りではありませんから、他の団体との比較なども容易になり、税制上の優遇措置の認定もやりやすくなるでしょう。
税制優遇とは、国民が平等に負担すべき税金を一定程度免除することですから、それ相応の理由が必要です。準則主義によって半ば自動的に法人になった団体がすべて税制優遇を受けることにはなりません。
一部に法人設立と税制優遇を切り離すという論がありますが、これだといままで営利法人として活動してきて今回の法改正で非営利法人になろうとするところにはメリットがありません。したがって、法人設立と税制優遇を一体のものとしながら、非営利法人に三つの区分を設け、それに応じた税制上の措置を講ずることにする必要があります。
(イ)基礎的な非営利法人 法人格はほしいが財政状況まで公開したくないという団体もあります。こういう団体は税制面では任意団体と同じで、非収益事業からの所得について非課税です。同時に非営利法人といえども収益活動をすることもありますが、これにたいする税率も任意団体と同じにします。
(ロ)免税非営利法人 財政面に関しても情報公開し、法人として1年以上の活動実績を有し、非営利法人委員会が認定したものは「免税非営利法人」として税制上の優遇が受けられるようにします。
(ハ)特定免税非営利法人 「特に社会的価値を増進させる活動を行っている」と認定されるものは、現行の「特定公益増進法人」なみの優遇措置を与えます。この法人へ寄付をおこなった個人、団体が所得税の際、控除ないし損金算入ができるという内容です。
非営利法人法は非営利団体が活動しやすい条件を作ることが目的です。そのためには当該団体の要求・意見を十分に反映した内容にすることが必要です。しかし、伝えられる案では、こうした肝心の点が十分だとはいえません。また、一般の国民にとっては、なぜいまNPOなのかということがほとんど分かっていないのが実情です。“阪神大震災で活躍したボランティア団体に資格を”ということで始まった今回のNPO法案をめぐる動きを利用して法案の早期実現を――という気持ちは十分理解できますが、官庁・官僚が前面に出て肝心の非営利団体がその管轄下に置かれるような法律ができたのでは元も子もありません。いったん法律ができたらそれを変えるのは新規立法より面倒なことにもなります。
したがって、非営利団体の要望・意見を十分に聞いたうえで条文にそれを反映させるために、一定の時間が必要です。今国会でそれらの条件をクリアするのは不可能でしょう。といっていつまでものばすことは、困難な条件の下で奮闘している多数の非営利団体のことを考えると許せないことです。一年以内をめどに実現するようにする必要があるでしょう。
また、立法の方法も、かつて「音楽教育振興法」を超党派の議員立法で成立させた経験に学び、この非営利法人法も超党派の議員立法で成立をはかるのがよいと考えます。それは、広範な民間の団体のいわば“自治法”ともいうべきこの法律の性格からも最適でしょう。
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