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大学の危機打開へ、「学問の府」にふさわしい改革をすすめる日本共産党の提案 (要旨)

2010年6月3日 日本共産党



 わが国の大学は、かつてない深刻な危機に追い込まれています。各大学で教育・研究のための財政が枯渇し、地方の大学や中小の大学は存立さえ危ぶまれています。教員は資金集めに忙殺され、学術論文数も減少しています。経済的理由で進学をあきらめる若者がふえ、研究者を志す若者が将来への希望を失う重大な事態です。

 大学予算が先進国のなかで最低水準にとどまり、さらにこの10年来、旧政権が「国際競争力ある大学」を看板に、経済効率最優先の「大学の構造改革」を推進したからです。民主党中心の政権も、「事業仕分け」で、科学予算・大学予算を短期的な効率主義で縮減するなど、「構造改革」路線から転換する姿勢がみられません。

 この路線をさらにすすめて学術・教育を台なしにするのか、それとも「学問の府」にふさわしい改革に転換し、大学危機を打開するのかが、いま、わが国の政治に問われています。

≪社会の知的基盤としての大学の発展を応援する政治へ転換を≫

 大学は、「学術の中心」(学校教育法)であり、わが国の知的基盤として社会の知的・文化的な発展、国民生活の質の向上や地域経済に大きな役割をはたしています。学術の衰退は社会の大きな損失であり、大学が担っている基礎研究が枯れてしまえば、政府がいうイノベーション(新しい社会的価値や技術の創造)も望むことができません。

 欧州では、大学の多くが国公立で国が手厚い財政負担をしています。大学進学率も上昇し、大学が国民に開かれた教育機関として充実しています。わが国でも国民の8割がわが子に大学・短大までの教育をうけさせたいと望んでいます。大学教育の充実は、国民の願いです。

 「構造改革」路線は、こうした国民の立場から大学の発展を応援するのではなく、大企業の「国際競争力」に役立つ大学をつくるという、財界の要求にかなった改革を推進しました。経済的利益をうむかどうかをモノサシに、予算の削減と過度な競争を大学におしつけ、学術の発展そのものが危ぶまれる深刻な危機をうみだしたのです。

 大学が、この危機から抜けだし、その本来の役割を全面的に発揮することは、21世紀の社会発展にかかわる国民的な課題です。日本共産党は、この立場からの抜本策を提案し、その実現のために国民のみなさんとともに力をつくします。

≪日本共産党は提案します≫

1.大学の日常的運営に必要な経費(基盤的経費)の増額と基礎研究支援の拡充をはかり、じっくりと教育・研究できる大学へ条件整備をはかります

 国立大学の教育・研究をささえる基盤的経費を十分に確保する……国立大学の運営に必要な経費をささえる運営費交付金は、2004年の法人化以降に削減された750億円をただちに回復し、増額をはかります。「効率化」を口実に交付額を減らす「算定のしくみ」を廃止し、各大学の教育・研究費や人件費などの予算額を十分に確保するしくみに変更します。「5年間で5%以上の人件費削減」の義務づけを廃止します。図書館など大学の重要業務への市場化テストの導入に反対します。

 私立大学への「公費負担」原則を確立し、「経常費の2分の1助成」を実現する……私立大学がはたす公共的役割にふさわしく国の支援を強め、国立との格差を是正するため、私立大学にも国公立と同様に公費を支出する「公費負担」の原則を確立すべきです。1975年の国会決議が求めた「私立大学の経常費の2分の1を国庫補助」をすみやかに実現します。また、公費負担によって学費を国公立並みに引き下げます。「定員割れ」の大学に国庫助成を減額・不交付する措置は直ちに廃止します。

 公立大学への国の財政支援を強める……公立大学は、学術の進歩に貢献し、住民要求にこたえた高等教育を行い、地域の文化、経済の発展に寄与しています。地方交付税の大学経費を引き上げ、公立大学に対する国庫補助制度を確立するなど、国の財政支援を強めます。

 大学職員を増員し、教育・研究・診療への支援体制を充実させる……大学は、教員だけでなく、技術、事務、医療などの職員によって支えられています。大学の基盤的経費を増額して職員を増員するとともに、雇用は正規が基本となるよう促します。

 国立大学附属病院の基盤整備をはかり、資金貸付事業の廃止を許さない……国立大学附属病院は、医師の養成と先端医療の開発を担い、地域の高度医療のとりでとなっています。病院への交付金を法人化前の水準に直ちに戻すとともに、法人化の際に背負った病院債務を軽減します。施設整備に必要な資金は、国が責任をもって確保する体制を維持します。

 基礎研究支援を拡充し、資金配分の偏りを是正して公正に配分する……基礎研究を支援する資金である科学研究費補助金を大幅に増額します。人文・社会科学を冷遇したり、旧帝大系など一部の大学に集中するような資金配分の偏りを是正し、研究のすそ野を思いきってひろげます。公正な資金配分のために、科学者で常勤の審査員を大幅に増員し、審査を充実させます。先端的研究などの大型の資金は、配分の決定を文科省に委ねるのではなく、専門家による独立した資金配分機関を新たに確立し、慎重で公正な評価にもとづいて配分します。

2.大学の自主性を弱めた国立大学法人制度をみなおし、大学の「生命」といえる“自治と民主主義”を保障します

 国立大学が法人化されて最初の中期目標期間(6年間)が終わり、第2期目を迎えた節目にあたって、法人化がもたらした現状と問題点を検証し、大学関係者の意見を尊重して、法改正を含む制度の抜本的見直しを行うことを提案します。

 国立大学法人制度を、大学の自主性を尊重した制度に改める……大学がどのような目標・計画をたてるかは、国が決定するのではなく、大学の自主性にゆだね、国に対しては届出制とします。国が大学の業績を評価してランクづけし予算を削減する制度を廃止し、大学評価は、すでに第三者機関が「大学の質保証」のために行っている「認証評価」に限定します。

 学長・理事長の独断専行をうまない民主的な大学運営制度を確立する……国立大学法人法、私立学校法を改正して、「大学の重要事項を審議する」教授会の権限を明確にし、学長選考で教職員の選挙を尊重する制度を導入します。さらに私立大学の財政を全面的に公開し、監事を評議員会が選任するなど財政のチェック機能を強めます。

3.大学でお金の心配なく学びたい、将来に希望をもって研究したい。この願いを実現します

 高等教育の段階的な無償化にふみだす……国際人権規約が定めた高校・大学の段階的無償化条項の留保を撤回し、学費負担軽減の一歩を踏み出します。国公立大学の授業料標準額を段階的に引き下げ、私立大学には国立との差額を補てんするための国庫助成や私立大学生への直接助成をおこないます。

 授業料減免の拡充、給付制奨学金の創設と貸与制の返済条件緩和をはかる……年収400万円以下の世帯に入学料と授業料を国公私立の区別なく免除する制度をつくります。奨学金は有利子制度をすべて無利子に戻し、返済は年収が一定額(300万円)に達してから行う制度にします。給費制奨学金をただちに創設します。滞納者への制裁をつよめる「ブラックリスト化」を中止します。

 大学・研究機関の人件費削減の義務付けを撤廃し、若手研究者の採用をひろげる……大学教員にしめる35歳以下の割合は13%に低下し、将来の学術の担い手が不足しています。国立大学法人が3年間に減らした人件費だけで、若手教員1万5千人の給与に相当します。国が国立大学や独法研究機関に義務づけた人件費削減を撤廃するとともに、国から国立大学や独法研究機関への運営費交付金、私立大学への国庫助成を大幅に増額し、若手教員・研究者の採用を大きくひろげます。

 博士が能力をいかし活躍できる多様な場を社会にひろげる……公務員の大学院卒採用枠を新設し、学校の教師や科学に関わる行政職、司書や学芸員などに博士を積極的に採用します。博士を派遣や期間社員で雇用する企業に対して正規職への採用を促すとともに、大企業に対して博士の採用枠の設定を求めるなど、社会的責任をはたさせます。

 若手研究者・女性研究者の待遇改善をはかる……期限付きで雇用された研究者の期限終了後の雇用を確保する制度を確立します。若手研究者に一定額の研究費を支給する特別研究員制度を拡充します。大学非常勤講師やポスドクの賃金の引き上げ、社会保険加入の拡大をはかります。出産・育児・介護にあたる研究者にたいする業績評価での配慮、育児休業による不利益あつかいの禁止、大学・研究機関内保育施設の充実など、女性が研究者としての能力を十分に発揮できる環境整備を促進します。

4.大学への公費支出を欧米並みにひきあげます

 大学の危機をうみだした根本的な要因は、大学関係予算が先進国で最低水準にとどまっていることです。学術、教育の発展は「国家百年の計」であり、将来をみすえた大学への投資こそ、次代を担う若者を育み、21世紀の社会発展に貢献します。欧米並みの大学予算を確保するために、日本共産党は全力をつくします。


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