日本共産党

個人情報保護法案に対する討論

 2003年5月23日 参議院 本会議 日本共産党 八田ひろ子議員

 私は、日本共産党を代表して、政府提出の個人情報の保護に関する法律案及び関連四法案に反対の討論を行います。

 委員会審議では、個人情報保護に対する政府の基本的姿勢にかかわるいわゆる自衛官適齢者名簿が問題になりました。防衛庁が特別委員会に新たに提出した資料によって、住所、氏名、生年月日、性別の四情報以外の本籍や親の職業などの個人情報を、住民基本台帳法の趣旨を踏みにじり、五百五十七自治体から提供させていたことが判明しました。

 さらに、警察から大手サラ金業者への犯歴データの流出、その見返りとして業者から警察へビール券や時計などが届けられた贈賄疑惑、また警察官の個人信用情報が大手サラ金業者から警察に提供されていた疑惑などが次々と明らかになりました。

 これら個人情報保護の根本にかかわる問題の解明もまともに行わないまま採決に付すことは国会の責務を放棄するものであり、極めて遺憾であるとまず述べさせていただきます。

 反対理由の第一は、表現、言論の自由を脅かすおそれがあることです。事業者の取り扱う個人情報が報道目的なのか著述目的なのかの判断は個人情報取扱事業者を監督する主務大臣にゆだねられております。このため、主務大臣の恣意的な判断によって報道や著述の範囲を狭く限定して、公権力がマスメディアに介入する余地が残されています。

 さらに、NPOや市民団体、労働組合なども個人情報取扱事業者とされ、主務大臣の監督対象とされていることも問題です。政治的思惑等によって、労組、民主団体への介入、規制がないとは言い切れません。

 これに対して、野党が求めた修正では、主務大臣制ではなく、個人情報保護委員会という行政から独立した第三者機関を設置し、公正中立の立場から個人情報を取り扱うことにしています。独立、中立の第三者機関の設置こそ個人情報保護のかぎを握るものであり、国際標準です。大規模な行政組織が必要になるなどといって第三者機関の設置を拒否する政府の態度は、国民の基本的人権にかかわる個人情報保護の重要性を軽視するものであり、容認できません。

 反対理由の第二は、法案には、思想、信条など個人の名誉、信用、秘密に直接かかわるセンシティブ情報収集の原則禁止規定が欠落していることです。

 これらの個人情報は、民間事業者であれ行政機関であれ、特別の場合を除いて原則収集禁止をするべきです。このことは、国際標準であるばかりか、個人情報保護条例を策定している地方自治体の六割が既に実施しているものです。現に、経済産業省や総務省のガイドラインも、人種、門地、本籍地、思想、信条、犯歴、病歴などのセンシティブ情報の収集を禁止しているではありませんか。

 また、政府は、センシティブ情報の漏えいが問題になっている特定分野の個人情報保護のための個別法の制定についての計画も全く明らかにしていません。センシティブ情報の特に慎重な取扱いも規定できない法案では、国民の不安を解消できないことは明らかです。

 反対理由の第三は、自分の情報の取扱いに本人が関与し選択するという自己情報コントロール権が明記されていないため、業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合は開示の例外とされており、結局、企業や行政機関の運営が優先され、憲法上の権利であるプライバシー保護を中心とした個人の権利が後景に追いやられています。

 小泉首相は、自己情報コントロール権について、その内容、範囲及び法的性格に関し様々な見解があり、明確な概念が確立していないと答弁しました。しかし、自己情報コントロール権は、情報の高度化の中でプライバシー権を保護するものとして生成してきた権利であり、これを取り入れない法案は時代後れなものと言わなければなりません。

 目的外利用についても、政府は相当な理由などというあいまいな規定で目的外利用ができると答弁しています。

 さらに、行政機関から経常的に提供を受けている機関の公表が規定されてはいますが、省庁の外郭団体をトンネルにした提供という手法で全くの空文とされてしまうことが国土交通省から警察への自動車登録データ提供の実態によって明白になりました。

 野党が求めた修正では、利用目的が異なる個人情報ファイルを照合又は結合することが個人の権利利益を侵害するおそれがあることに配慮しなければならないと、いわゆるデータマッチング規制が置かれていますが、法案にはそのような規定はありません。

 行政の都合や利便性に偏った判断で、個人情報が国の機関から地方公共団体まで全国の行政機関で使い回しされるおそれが払拭できず、行政機関に対する国民の不安と不信は高まるばかりです。

 また、行政機関法では、委員会審議で明らかにされましたように、自衛官適齢者名簿提供事件及び警察の個人情報保護に無力であることが浮き彫りになったことを指摘しておくものであります。さらに、都道府県警察の個人情報保護については、条例の規制さえ全くない不合理な実態があることも明らかになりました。

 反対理由の第四は、法案の制定によって、金融など手厚く個人情報保護策を講ずる必要がある分野の施策がむしろ後退するおそれがあることです。

 これらの分野は、現在、所管省で基本法案よりハードルが高いガイドラインを設けています。ところが、所管省からは、基本法に合わせてガイドラインのハードルを引き下げる意向が明らかにされています。個人情報保護法の制定が個人情報保護策の引下げの役割を果たそうとしていることは、看過できない重大問題です。

 政府は本法案の成立をもって住基ネットの本格稼働の免罪符にしようとしていますが、とんでもありません。本法案が成立しても個人情報の保護に万全を期すため所要の措置を講ずることにはならず、住基ネットの個人情報の漏えいの危険性はなくなりません。このような住基ネットは直ちに中止すべきであります。

 日本共産党は、今後とも、憲法の基本的人権の大切な柱であるプライバシー権を守り、個人情報の保護と表現、報道の自由を守るため、国民の皆さんとともに全力を尽くすことを申し上げまして、私の討論を終わります。(拍手)


このほかの討論 → 【討論一覧】 (156通常国会 2003年 1/20〜)

本会議の質問と討論の一覧】 【5月23日の質問一覧


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