日本共産党

2003年7月12日(土)「しんぶん赤旗」

イラク戦争と世界

第4部 2つの欧州から(1)

反対貫いた独国民の誇り

連載インデックス

 「われわれの国を誇るかと問われれば、答えは難しかった。(ナチスの犯罪など)ちゅうちょする理由があった。しかし、ほとんどの国民が予防戦争(米国の対イラク戦争)に反対し、政府が統一後初めて国家主権を行使(戦争に反対)したことを私は誇ることができる」

 ドイツの国民的作家ギュンター・グラス氏の言葉です。

 独政府は米国の大量破壊兵器を理由にしたイラク戦争に対し、「まだ平和的手段による問題解決の可能性はくみつくされていない」と一貫して反対してきました。

国民大多数の自覚

 政府の背中を押したのは、グラス氏も指摘する八割から九割が武力行使に反対を表明したドイツ国民の声です。

 簡単に戦争をしてはいけない−イラク戦争反対は過去にドイツが体験してきた「血の体験」から導かれた「国民大多数の自覚」(シュレーダー独首相)でした。

 「イラク戦争反対での自分の立場は以前と変わっておらず、正しかった」「(この問題で)何も後悔することはない」−ドイツのシュレーダー首相は六月十二日、仏議会のテレビインタビューで改めてイラク戦争で反対を貫いた「ドイツの立場」を確認しました。

 七月に米独首脳会談の準備のためのフィッシャー外相の訪米が予定される矢先のことです。

 国際テロ対策などでは米国と協調しパートナー関係を保ちながらも、国際法・国連尊重のドイツの立場は譲れないという対応です。

 話し合いを積み重ねながら多国間で一歩一歩、ルールを築き協力・協調を積み上げてきた欧州連合(EU)。その中心国、仏独にとって世界のルールを定めた国際法順守と国連中心主義は外交のかなめだからです。

欧州の強化と統一

 最新で巨大な軍事力を持つ米国の単独主義の危険性。国際法を平気で犯し、イラク戦争に走った米国にストップをかけることができなかった−今回のイラク戦争からドイツ政府が導き出した教訓は「欧州の強化と統一」です。

 イラク戦争では仏独ベルギーなどが反対、伊英スペインなどが賛成に回り、欧州連合(EU)の中での意見の分裂があったことが問題でした。分裂せずに「一つの声でしゃべる強化された欧州」が必要だとの発想です。

 フィッシャー独外相は三月の独誌『シュピーゲル』で「欧州の(統一した)外交政策を実行する機関が必要だ」「強固な欧州外相がいる」と強調。シュレーダー首相も四月にイラク戦争が防げなかった教訓として欧州の共通外交・安保の強化を提唱しました。

 その流れにそったものが、六月のEU首脳会議で採択されたEU憲法草案です。憲法草案は欧州の大統領、外相の創設をうたいました。

 また、「対等な立場にたった大西洋関係」を求めるEU独自の安保戦略報告をEU首脳会議の議長総括で明記しました。

 フィッシャー外相はEU憲法は「百年かかる仕事だ」としながら、草案を「欧州合衆国」へ向けた「歴史的な成果」と評価しました。

 イラク戦争で生まれた米国との亀裂はドイツの行方に大きな課題とともに展望をも与えています。

 (ベルリンで片岡正明)

   (つづく)

連載インデックス


もどる
「戻る」ボタンが機能しない場合は、ブラウザの機能をご使用ください。

日本共産党ホームへ「しんぶん赤旗」へ


著作権 : 日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp