日本共産党

2003年6月21日(土)「しんぶん赤旗」

イラク戦争と世界

第2部 国際政治の本流を探る(3)

存在感を増した中国


 先のエビアン・サミット(主要国首脳会議)に二十四時間しか滞在せず、ホスト役のシラク仏大統領とも形ばかりの会談しかしなかったブッシュ米大統領。それと対照的だったのが、中国の胡錦濤国家主席の存在でした。

多極化世界を象徴

 一時間半近くに及んだシラク大統領と胡錦濤主席の会談。主題は二国間問題でしたが、「多極化世界」下のサミットを象徴する光景でした。ブッシュ大統領が嫌ったのは、まさにこの「多極化世界」。それを演出するシラク大統領の「対話拡大のイニシアチブを警戒したからだ」と英国の新聞フィナンシャル・タイムズは指摘します。

 胡主席のサミット参加は、同主席としては初めての国外での外交デビュー。中国首脳のサミット参加もこれが初めてでした。その外交を際立たせたのは、エビアンに先立って五月二十七日にモスクワでおこなわれたプーチン・ロシア大統領との会談と共同声明の発表でした。

 声明は、名指しこそ避けたものの、「強権政治と単独行動主義が世界に新たな不安定要素を加える」と明確に米国を批判。国際法を基礎とした多極、公正、民主の世界秩序、国連憲章にもとづく国連中心の体制強化を主張したのでした。

 中国は対米関係を悪化させない配慮から、派手な米国批判を避けると日ごろいわれてきました。今回はロシアと共同の主張として、基本的世界観を明確にし、ブッシュ政権の一極覇権主義を批判したのでした。

 声明発表の翌日、胡主席はモスクワ国際関係大学で講演しました。そこで、中国の求める新しい国際関係の秩序の内容を全面的に説明。国際関係の民主化、世界の多様性の擁護、新しい安全保障観の確立、国連の役割重視など五つの柱を強調しました。

 モスクワでの提起は、エビアン・サミットへの前奏曲となりました。

新しい秩序の提起

 エビアンで胡主席は、国際経済における「先進」国の責任を強調し、発展途上国にたいする援助と市場開放などを明確に要求しました。モスクワで打ち出した新しい世界秩序の主張につながる、経済における新しい秩序構築の提起です。シラク仏大統領の議長総括のなかに、これらの提起につながる内容をみいだすことができます。

 中国が「国際政治経済の新秩序」を言い始めたのは一九八八年です。そして、新しい民主的な世界秩序という主張を掲げ始めたのはソ連崩壊から四年後の九五年になってからでした。十月の国連総会で、当時の江沢民国家主席が演説。主権と領土の尊重、内政不干渉、国際的紛争の平和解決、単一のモデルはない、などの主張を掲げました。

 東南アジア諸国への接近を意欲的に開始したのもこのころです。しかし、南シナ海の島嶼(とうしょ)の領有をめぐる対立など問題は山積。台湾との関係も緊張状態にあり、各国の間ではいわゆる「中国脅威論」が根強くわだかまっていました。

 状況はその後大きく変わりました。先月の中ロ共同声明には「アジア太平洋地域の協力と調和の増進に役立つ」協力体制確立の構想が盛り込まれました。折しも十九日までカンボジアの首都プノンペンでASEAN(東南アジア諸国連合)外相会議が開かれました。中国はその一連の会議に出席し、東南アジア友好協力条約に十月に加入すると発表しました。またASEAN地域フォーラム(ARF)安全保障政策会議を提唱し、アジア太平洋地域の平和の新秩序づくりに意欲的にのりだしています。(田端誠史記者)(つづく)


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