日本共産党

消費者保護基本法の一部を改正する法律案大綱発表にあたって

2004年3月10日                  
日本共産党国会議員団 消費者問題委員会

 昨年5月、国民生活審議会消費者政策部会の報告書「21世紀型の消費政策のあり方について」を受け、今国会で消費者保護基本法の改正が日程にのぼっています。

 現行の消費者保護基本法は、高度成長期に多発した消費者被害を防ぎ消費者利益を擁護することを目的に1968年に制定されました。法制定から35年余が経過し、経済社会及び消費者意識等の変化と消費者被害の実態を踏まえ、消費者の権利の実現を明記した抜本的な改正を求める声が強まっています。ところが政府・与党が検討している改正の方向は、消費者の権利を掲げてはいますが、その実現を確保すべき行政や事業者の責任はあいまいで、消費者の意見の反映についても消費者政策の企画・立案への消費者参加はありません。

 近年、消費者被害は増え続ける一方で、しかもその被害は多方面にわたり深刻化しています。国民生活センターと全国各地の消費生活センターに寄せられた2001年度の被害相談件数は、66万件にのぼり10年前の約3.8倍に達しています。被害内容もIT関連や詐欺まがいの不公正取引、金融・保険等の契約に関する被害など、複雑な案件が増えています。また、BSE汚染牛やO157、雪印の食中毒事件、食品偽装表示、三菱自動車リコール隠しなど、生命や健康にかかわる多種多様で重大な被害が続発しています。事業者のモラルハザードとそれを放置してきた行政の責任は重大です。

 ところが国と地方自治体の消費者行政は、消費者被害を防止するための事業者に対する有効な措置を怠ってきた上に、被害情報を収集している国民生活センターの統合・独立行政法人化、被害相談を受けている消費生活センターの統廃合・業務の民間委託化、食品安全や危害防止安全基準の規制緩和など、大幅に後退しています。消費者の「自立」を口実に、国や地方公共団体の責任をあいまいにし、消費者の権利を阻害する事業者の行為を野放しにするような消費者行政の後退があってはなりません。

 そこで、今日のこうした消費者をとりまく現状を踏まえ、消費者の権利の擁護を最優先にし、消費者の権利を実現する実効性のある改正とするため、日本共産党の改正案大綱を発表するものです。


与党案の基本的な問題点

1. 与党案は、消費者の自立支援と引き換えに、消費者に自らの利益を守る責任をおしつけ、行政や事業者の責任をあいまいにしています。その一番の特徴が、消費者に対して、情報収集や合理的行動に努めなければならないという責務をおしつけていることです。これでは、消費者被害をこうむった場合に、消費者の努力不足ということにされかねません。

2. 消費者政策への消費者の意見の反映についても、新たに透明性の確保を加えただけで、具体的な意見反映の仕組みはありません。消費者保護会議の名前を変えただけで、消費者基本計画を立案する消費者政策会議から消費者代表を排除しています。

日本共産党の大綱の特徴

1. 消費者を保護の対象としてではなく権利の主体とし、実効ある消費者施策に転換するため、法律の名称を「消費者基本法」に改めました。そして、法律の目的が消費者の権利の実現にあることを明らかにしました。
 さらに、安全が確保されることや情報を得られること、意見が反映されることなど、消費者の権利を具体的に法律に書きこむこととしました。

2. 消費者の権利を実現するため、消費者の意見を反映する仕組みを作るよう国や地方公共団体に義務づけました。そして、消費者基本計画などを決める国の消費者会議に消費者代表が参加するようにしました。
 消費者会議は、消費者の権利を実現するための施策を企画、立案、推進します。また各省庁を監視し、総理大臣に意見を述べることができます。

3. 国・地方公共団体は、消費者の権利を実現する実効ある施策を実施する責任があります。そのため、消費者基本計画をつくるとともに、国や地方公共団体が実施しなければならない具体的な施策も充実させました。
 例えば、消費政策情報の積極的な公開や、不適切な勧誘を規制するなど消費者契約の適正化を図る規定を新設しました。また、消費者の苦情や紛争については、市町村だけでなく国・都道府県も解決にあたることにしました。国民生活センターについても商品テストや行政への勧告など、機能を強めることにしています。

4. 事業者は、消費者の権利が実現されるようにする責任があることを明らかにし、具体的な事業者の責務の内容を明記しました。


日本共産党大綱案の要点

1. 消費者の権利の実現を明記
「消費者の権利の実現の確保」を法律の目的とし、基本理念で消費者の権利を保障する消費者施策の策定・実施を明記するとともに、消費者の権利の内容として8項目を具体的に規定。

2. 責務の明確化
国・地方公共団体、事業者が「消費者の権利の実現を確保する責務」を有することを明記し、事業者の責務として具体的に7項目を規定。

3. 消費者参加の整備・拡充
国・地方公共団体は、消費者政策の企画・立案への消費者・消費者代表の参加など、消費者や消費者団体の意見の反映を保障する仕組みを整備することを明記。基本法では、消費者基本計画の立案などを行う消費者会議への消費者代表の参加を規定。

4. 消費者基本計画策定の新設

5. 消費者施策の拡充・強化

@ 「危害の防止」基準(現行法)を「安全の確保」基準に拡充強化するとともに、安全を害するおそれのある商品の回収や危害・欠陥情報の収集・公表を規定。
A 消費者施策に関する情報の積極的な公開を規定。
B 表示の適正化の規定を広告にも適用。
C 消費者契約の適正化に関する規定を新設し、不適正勧誘の規制を明示。
D 苦情・紛争の迅速・公正な解決の体制強化。
E 消費者の権利実現に必要な知識・技能を修得する機会を保障するための消費者教育の推進。
F 国民生活センターについて、情報提供・相談助言の強化、商品検査業務の明記、紛争処理機能の付与など、機能を強化。

消費者保護基本法の一部を改正する法律案大綱

第一、法律の名称を「消費者基本法」とする

 消費者を権利の主体として位置づけ、その権利の実現を確保するという趣旨から、法律の名称を改める。

第二、消費者の権利を法律に明記し、消費者の権利の実現を確保する国、事業者の責務を明らかにする

1、消費者の権利の明記

(1) 法律の目的に消費者の権利実現を明記する。
 事業活動に伴う消費者の被害が増加し、多様化し、深刻化している状況に鑑み、消費者の被害を防止し、消費者の利益の擁護及び増進を図るため、消費者政策の基本理念を定め、消費者施策を総合的に推進することにより、消費者の権利の実現を確保することを法の目的とする。
(2) 消費者施策は消費者の権利を保障する見地から策定、実施すべきことを基本理念に定める。
(3) 消費者の権利として、次の8項目を明記する。
@安全が確保されること
A必要な情報を得られること
B適切な選択を行えること
C公正な取引条件により消費者取引を行えること
D被害の救済が受けられること
E消費者教育を受けられること
F消費者政策に意見が反映されること
G消費者団体を組織し、行動できること

2、国・地方公共団体、事業者の責務

(1) 国・地方公共団体
 実効性のある施策を策定・実施することにより、消費者の権利の実現を確保する責務を有する
(2) 事業者の責務 
@商品・役務の安全性の確保及び品質の向上
A商品・役務に関する消費者への適正・迅速な情報提供
B商品・役務の品質等の内容の適切な表示
C商品・役務の価格、取引条件、リスクの明示等取引における公正の確保
D取引に関する苦情・紛争の公正・迅速な解決
E国・地方公共団体が実施する消費者の権利の実現を確保する施策への協力
F上記を確保するための自主行動基準の策定、体制の整備、従業員教育
を実施することにより、消費者の権利の実現を確保する責務を有する。
(3) 事業者団体の責務を新たに規定する
@事業者の責務が適切・確実に果たされるよう、事業者を支援する
A消費者の苦情・紛争の公正・迅速な解決の仕組みを整備する

第三、消消費者参加の規定を整備し、消費者・消費者団体の役割を明確にする

3、消費者政策策定へ消費者・消費者団体代表参加の保障

(1) 国・地方公共団体は、消費者政策の企画・立案への消費者・消費者代表の参加、意見を述べる機会の保障、意見交換の場の設置など、消費者・消費者団体の意見の反映を保障する仕組みを整備する。
(2) 「消費者保護会議」の改組・拡充
@名称を「消費者会議」と改める
A委員に、消費者代表を含む外部委員の参加を確保する
B消費者基本計画など、消費者の権利を実現するための施策の企画・立案・推進の権限を付与する
C関係省庁の消費者施策を監視し、内閣総理大臣に意見を述べる権限を付与する。
Dこれを実施するに必要な専門的かつ継続的な担当部署を設ける

4、消費者・消費者団体の役割

(1) 消費者は、自主的に情報を収集し、合理的に判断・選択し、必要に応じて意見表明をするなど、自らの権利実現のため積極的な役割を果たす。
(2) 消費者団体の役割を新たに規定する
@消費者を自主的に組織し行動する
A消費者への情報提供、消費者教育、消費者施策への意見の表明、消費者の視点に立った市場の監視、消費者の権利を害する事業活動を是正させるための活動、団体訴訟制度の活用などによる消費者被害救済の支援等に努める。

第四、消費者基本計画を策定し、総合的な消費者施策を推進する

5、消費者基本計画策定の新設

(1) 消費者政策の総合的・計画的な推進を図るため消費者政策基本計画を策定する。
(2) 内閣総理大臣は「消費者会議」の建議を尊重し同計画を起案し、閣議決定を経て、国会に報告し公表する。
(3) 基本計画に定める事項を規定する

第五、消費者施策の拡充・強化

6、安全確保に関する国の措置に関する規定の拡充

(1) 商品・役務の安全性を確保し、消費者への危害を防止するための基準の整備
(2) 消費者の安全を害するおそれがある商品の回収、危害・欠陥情報の収集・公表

7、消費政策情報の積極的公開

 国・地方公共団体は、消費施策に関する情報を積極的に公開し、消費者の理解を深めるよう努める。

8、計量、規格、表示の適正化

 表示の適正化の対象に広告を含める。

9、消費者契約の適正化に関する規定の新設

(1) 事業者から公正な取引条件及び必要な情報が理解しやすい方法で提供されるなど、消費者の自由な意思決定を確保する施策の実施。
(2) 消費者の知識・経験、財産力、投資意向等に適合しない勧誘・販売や、消費者からの依頼によらない電話、訪問などによる購入勧誘など、不適切勧誘を規制する措置の実施

10、苦情・紛争の迅速・公正な解決のための体制の強化

(1) 国及び都道府県は
@専門的知見に基づく苦情処理・紛争解決に努める
A市町村が行う苦情処理が公正・迅速に行われるよう必要な施策を講ずる
(2) 市町村は、身近な相談窓口として、公正かつ迅速な解決に努める
(3) 被害救済体制の整備
 消費者被害の迅速な救済と総合的な被害防止措置を実行するよう、専門的かつ統一的な行政組織を設置し運営する。

11、消費者教育の推進

(1) 消費者が消費者の権利を実現するために必要な知識・技能を修得する機会を保障するための消費者教育を推進する。
(2) 国・地方公共団体は、学校教育、社会教育など、消費者の学習機会の提供に必要な措置を講ずる。
(3) 事業者・事業団体は、商品・役務の適正な情報の提供に努める。
(4) 消費者団体は、自主的に消費生活の知識の普及、啓発などに努める。

12、行政の推進体制

(1) 消費者行政の組織及び運営体制の整備
国・地方公共団体は、消費者の権利が実現されるよう、総合的かつ実効性ある消費者政策の企画、立案、推進の体制を整備する。
(2) 国民生活センターの機能の強化
@消費者に対する情報提供機能及び相談助言機能を一層強化する
A商品の試験・検査など、商品・役務に関する調査研究を行う
B紛争処理機能を整備する
C関係省庁に対し必要な行政措置を講ずるよう勧告する権限を付与する
(3) 公正取引委員会については、消費者被害の防止に向けた情報収集、権限行使の体制を強化する。

以上


日本共産党/国の政治へ

もどる
「戻る」ボタンが機能しない場合は、ブラウザの機能をご使用ください。

著作権:日本共産党中央委員会 
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp