日本共産党

川口外相問責決議案 賛成討論

 2003年7月24日 参議院 本会議 日本共産党 畑野君枝議員

 私は、日本共産党を代表して、川口順子外務大臣の問責決議案に対して賛成の討論を行います。

 政府が強行しようとしているイラク特措法案は、米英による無法なイラク戦争を支持するのみならず、現に戦闘の継続しているイラク国内に自衛隊を派兵し、米英の軍事占領支配に日本が参加、加担するという正に軍事占領支援法です。今なお戦争状態にあるイラク国内で占領軍に対する輸送や補給などの後方支援を行うことが、武力の威嚇と武力の行使、交戦権を否定した日本国憲法第九条に真っ向から反するものであることは明らかです。このような違憲の立法を、ただアメリカから言われるがままに、国民に対するまともな説明さえ行うことなく強行しようとする川口外務大臣には、日本外交を任せる大臣を担う資格は全くないものと言わなければなりません。

 以下、具体的に賛成理由を述べます。

 第一は、米英がイラク戦争の最大の口実とした、イラクが大量破壊兵器を持っているという論拠を一貫して擁護し、大義のない戦争を支持してきたことです。

 今、イラク戦争の根本問題であるその大義が世界で大問題になっています。アメリカ議会や英国議会では、米英両国政府の大量破壊兵器をめぐる宣伝が国民の判断を誤らせ、偽装された情報により情報操作が行われたことが大問題となり、ブッシュ大統領、ブレア首相はピンチに立たされています。謀略、誇大宣伝で危機をあおって国民を戦争に駆り立てるようなことがあってはなりません。日本が戦前に行った戦争、例えば中国東北部への侵略戦争の始まりとなった満州事変でも、アメリカのベトナム戦争における北爆、トンキン湾事件でも、いずれも謀略宣伝によって開始されたことは厳然たる歴史の事実です。政府はこの歴史から学ぶべきです。

 重大なのは、川口外務大臣が、大量破壊兵器を口実にしたアメリカによるイラク攻撃の最も良き理解者として、一貫してこれに協力、支援をしてきたことです。

 アメリカによるイラク攻撃が取りざたされるようになった昨年以降、米側との交渉の場は幾度となくありました。しかるに、川口外務大臣がイラク攻撃反対を述べたことは一度もありませんでした。

 昨年十一月、国連安保理事会が決議一四四一を全会一致で採択し、国連による査察が再開されてからわずか十日後、川口外務大臣は、来日したアーミテージ米国務副長官に対し、軍事行動が不可能となった場合の対応として難民支援や周辺国支援を検討していることを伝えました。正にこれから査察が本格的に行われようとしていたときに、イラク攻撃を後押しする発言を行ったのです。

 今年二月、国連安保理でパウエル米国務長官はイラクは査察に非協力的との発言を行いましたが、川口外務大臣は、その直後に、この発言についてまともな精査を行うことなく談話を発表し、査察の有効性に疑問を呈したのです。米英によるイラク攻撃を後押ししてきた川口外務大臣の責任は誠に重大であります。

 さらに、米英が武力行使容認決議を提出した際には、イラクに対し最後の圧力を掛けるものなどとの詭弁を弄して即座にこれを支持したばかりか、決議が安保理事国の支持を得られないのを見るや否や、ODAをちらつかせて多数派工作まで行ったのが川口外務大臣なのです。アメリカによるイラク攻撃を正に後押ししてきたのが川口外務大臣であり、この責任は決して消せるものではありません。

 イラク攻撃の正当性についても、アメリカの言い分をオウム返しに繰り返し、十年以上も前のイラク軍をクウェートから撤退させるための決議を持ち出し、アメリカの弁明を擁護してきました。安保理事会、国際社会の圧倒的多数がイラクに対する武力行使を拒否したのは明白な事実であり、そのような言い分は通用するものではありません。しかも、米英がイラク戦争の最大の口実とした大量破壊兵器はいまだに発見されず、米英国内で政府の情報操作の責任を追及する声が日増しに大きくなっています。

 川口外務大臣は、ニジェールからのウラン購入疑惑について、もっときちんとした精査があってもよかったなどと人ごとのように答弁していますが、そうしたアメリカの言い分を支持してきたのはあなた自身なのであり、あなた自身の責任が問われているのであります。大臣としての責任を取り、国民に対する明確な謝罪を行うべきです。

 第二に、非戦闘地域を設定するから憲法違反にならないなどという、イラクの実情に照らせばおよそ成り立たない虚構の議論を繰り返し、憲法違反の自衛隊の海外派兵を強行しようとしていることです。

 米軍の司令官自身が認めざるを得ないように、イラクは正に全土が戦闘地域であり、ゲリラ戦の様相を強めているのが現状であります。毎日十件から二十五件もの襲撃が起こって、イラク戦争開始後の米兵の死亡者数は既に湾岸戦争時を超えています。米英による軍事占領に対する不満、抵抗はますます深刻の度を増してきています。

 そもそも、今国会で政府が強行しようとしているイラクへの自衛隊派遣は、国際法上、他国の領土にその国の同意なしに軍隊を派遣することであり、違法な武力行使に該当し、侵略行為を構成することになるのです。

 政府は、米英当局の同意を得ているから国際法上の違法行為にはならないなどと強弁していますが、イラク国民はこの占領当局を正当な統治権力と認める義務はないのであり、イラク国民は自衛隊を自国の同意なしに駐留している異邦の侵略者とみなして攻撃対象とすることができるのであります。

 その上、自衛隊の支援対象である米英軍は他国領土の占領という軍事行動を行っているわけですから、その部隊に対する補給や輸送は、武器弾薬であろうと、水、食糧、医薬品であろうと、すべて明白な作戦行動であり、フセイン残存勢力による攻撃や占領地住民によるレジスタンスの対象になるのです。

 そして、自衛隊のイラク派遣が憲法違反とならないようにする絶対条件と政府が強弁する非戦闘地域がどこなのかは、私も分かるわけがないと小泉総理自身が言い出したではありませんか。総理のこの無責任な放言は、そもそも政府も認めるように、法的には違法状態にあるイラクに政府の言う非戦闘地域など設定することは初めからできない相談であったことを露呈したものであります。

 このような状況を見れば、イラク国内に政府の言う非戦闘地域など設定できないことは明らかであります。政府は情報収集をすると言いますが、攻撃を受けているのは収集する先の米軍自身なのであります。政府がこれまで自衛隊の派遣を検討してきた南部でも、バグダッドでもバラドでも、現に米英軍への組織的、計画的な攻撃が起こっているではありませんか。にもかかわらず、このようなイラクの実情から目を背け、あくまで非戦闘地域を設定するから憲法違反にならないなどという虚構の議論を続けるのは、国民を欺くものであり、川口外務大臣の責任は極めて重大であります。

 第三に、米英の軍事占領があたかも国連で認められ、自衛隊の派兵が求められているかのような詭弁に終始していることです。

 川口外務大臣は米英の軍事占領に正当性があると言いますが、国連安保理決議一四八三は、無法な戦争に基づく軍事占領に合法性を与えておらず、軍事占領に対する国連加盟国の協力を要請しているものでもありません。無法な戦争の結果として、占領国に対し国際人道法に基づく義務や責任を果たすよう求めているにすぎないのです。

 ところが、川口外務大臣は、日本での国連決議の有権解釈は外務省の専権事項であるなどとして、あたかも国連が米英の軍事占領にお墨付きを与えたかのような暴論を展開した挙げ句に、米英の軍事占領へのイラク国民の抵抗は犯罪として排除されるとか、はたまた米英当局の同意の下に活動する自衛隊へのイラク国民の抵抗は犯罪行為であるなどと、大国主義、占領者意識丸出しの答弁をしております。

 このような大臣の態度は、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」と宣言した憲法前文を持つ国の国務大臣として、とりわけ平和外交の先頭に立つべき外務大臣としての資質に著しく欠けるものと言わなければなりません。

 中東諸国で、米英軍のイラク軍占領について明示的にその正当性を認めた国はありません。フランス、ドイツなどがイラクへの派兵を拒否しているのも当然です。

 イラク国民は自衛隊の派兵など求めていません。一刻も早く主権を回復し、米軍の撤退に筋道を付けることを望んでいます。そうしたイラク国民自身の国家の再建に対する国際社会の支援を求めているのです。

 我が党は、緒方参議院議員を団長として、イラクへ現地調査団を派遣いたしました。衆院のイラク特別委員会で、参考人として、イラクの治水、電気、水、医療、教育、雇用などの人道支援では巨大な援助が必要であるが、非武装が支援活動の大前提であり、国連が中心的な役割を担うべきことを強調しました。また、安全確保でも、米軍が軍事活動を強化すれば国民の不安、不満が高まる、その不満に乗じて旧政権残党も攻撃を強めるという悪循環を生み出し、かえって治安を悪化させると述べました。イラクの現地はこういう状況です。

 にもかかわらず、イラクに自衛隊を展開させ、米英占領軍の支援を行うことになれば、イラク国民の目に占領軍の加担者と映ることは明らかです。占領に抵抗するイラク国民から反発と抵抗を受け、砲火を交えるという危険極まりない事態も起こるのであります。二十一世紀の日本とイラク国民、イスラム社会との友好関係に計り知れない障害をもたらすことになるのです。

 このような日本の将来と世界の平和秩序にかかわる重大問題を、ただアメリカに従うことが国益だとして、まともな説明さえ行うことなく押し通そうとする川口外務大臣を問責するのは極めて当然であります。

 第四は、戦後日本を根本的に転換し、憲法にも、国民世論にも、中東諸国の思いにも真っ向から逆らうイラク特措法の成立を川口外務大臣が推進してきたからであります。

 七月に行われた全国主要三紙の世論調査では、多数がイラク派遣に反対しています。二十二日付け新聞の調査で反対五五%、賛成三三%など、どの調査も反対が賛成を大きく上回っています。反対の理由は、軍隊以外の方法で貢献すべき、イラク戦争に正当性がなかった、まだ危険だなどが特徴として挙げられています。

 防衛庁元幹部や現職自衛隊幹部からも批判の声が出ています。元防衛庁訓練局長で現在新潟県加茂市長の小池清彦氏は、イラク派遣について、このような地域へ自衛隊を派遣することは明確な海外派遣であり、明らかに憲法九条に違反する行為であります、イラク特措法が定めるような海外派兵さえも憲法九条の下で許されるとするならば、憲法九条の下でできないことはほとんど何もないと厳しく批判。イラク国民は決して日本国自衛隊の派遣を求めてはおりません、中東諸国の国民も自衛隊の派遣を求めてはおりません、自衛隊は招かざる客、自衛隊員はイラクで命を危険にさらすことを決意して入隊してきた人たちではないとして、法案の廃案を求める要望書を国会議員と閣僚に送付しています。現職の陸上自衛隊二佐も、今の自衛隊を出すべきじゃないと述べています。

 日弁連の本林徹会長も、衆院の通過に当たって、そもそも米英軍のイラク侵攻は国連憲章に反するものと指摘し、米軍自身が認めるようにいまだイラク全土が戦闘状態にある中、米英軍のために武器弾薬、兵員を輸送することは、決して非戦闘地域での後方支援などと言うことはできず、米英軍の武力行使と一体化したものと評価されることは明らかと述べた上で、憲法が他国領土での武力行使を禁じていることは言うまでもない、イラク特別措置法案に反対するとの声明を発表しています。

 その上、危険な在日米軍の基地強化を川口外務大臣は容認してきました。イラク戦争に出撃した横須賀を母港とする空母キティーホーク戦闘群のミサイル巡洋艦や厚木基地から飛び立った艦載機は、トマホークミサイルやクラスター爆弾を使用し、無実のイラクの子供たち、女性を殺りくしたのです。使っていない横浜市内の米軍施設返還の見返りに、日米合意では新たに池子住宅地区に米軍住宅の移設、追加建設を条件としておりますが、地位協定で言うように無条件で返すのが当然です。より大型の原子力空母の配備が言われている中で、イラク特措法案とともに、基地強化を進める態度を取る川口大臣の責任は重大です。

 討論を終えるに当たって、私は、一九五四年六月、自衛隊を創設するに当たって、この議場で、自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議を自民党の方々の先輩諸党も賛成して採択したことを指摘しないわけにはまいりません。

 この議場におられる参議院の皆さんは、本院が国の内外に向かって厳かに宣言したこの決議を忠実に守る義務があるのは当然です。そのためにも、この決議に背いて海外派兵を進める先頭に立っている川口外務大臣の問責に皆さんが賛成されるものと確信しております。

 憲法違反のイラク派兵法の廃案を断固主張し、討論を終わります。(拍手)


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