日本共産党

個人情報保護法案に対する討論

 2003年5月6日 衆議院 本会議 日本共産党 春名直章議員

 私は、日本共産党を代表して、政府提出の個人情報の保護に関する法律案及び関連四法案に反対、野党提出の個人情報の保護に関する法律案及び関連三法案に賛成の討論を行います。(拍手)

 まず初めに、国民の個人情報の取り扱いに対する政府の姿勢が厳しく問われている自衛官適齢者名簿提供問題について申し上げたい。

 防衛庁が三十七年にわたって八百二十二もの自治体から住所、氏名、年齢、性別という個人の四情報を入隊適齢者名簿として提供させていたこと、うち四百四十一自治体からは健康や職業、続柄など募集に無関係の情報までも提供させていたこと、さらに、応募者の情報は警察に提供され、思想、信条まで含めた調査に利用されていることが明らかとなりました。驚くべき事態であります。

 「四情報も非公開に」が国民の多くの声であり、プライバシーを尊重する立場から個人情報保護法をつくろうという今、国の行政機関は、外部提供を原則禁じている住民基本台帳法の趣旨も踏みにじって国民が知らない間にその個人情報を収集する、こんなことは断じて許されません。直ちにやめるべきであります。しかも、出された報告書は極めてずさんであり、徹底した解明が必要であることを強く指摘するものであります。

 政府案に反対する理由の第一は、旧法案に引き続いて、表現、報道の自由侵害のおそれが排除されていないことであります。

 民間事業者を対象にした政府基本法案には、個人情報を取り扱う事業者を監督するために主務大臣制が設けられています。主務大臣には、事業者の取り扱う個人情報が報道目的なのか著述目的なのかの判断がゆだねられており、報道や著述が狭く限定されたり、恣意的な判断がなされるという危険な構造となっていることは重大です。

 また、政府案は、放送機関や新聞社などに、個人情報の苦情処理や適正な取り扱いを求める規定を設けています。メディアが自律的に定めるルールや倫理を国が法律で指示し、公権力の介入に道を開くべきではありません。疑惑の政治家が、この規定を根拠に、苦情に応ぜよと要求し、報道取材活動を妨害する口実にもなりかねません。

 一方、野党案には、表現、報道及び個人のプライバシーに公権力を介入させないために、これを実施する監督機関を、行政から独立性を持つ第三者機関で公正中立に行うことを規定しています。第三者機関は、政府案を検討してきた専門家も参考人質問でその必要性を認め、イギリス、ドイツ、フランスでも実施されている国際標準であります。

 第二は、思想、信条など個人の名誉、信用、秘密に直接かかわるセンシティブ情報の規定が欠落していることであります。

 これらの個人情報は、野党案に規定されているように、民間事業者であれ、行政機関であれ、特別の場合を除いて原則収集禁止というのが、憲法に定められた幸福追求権や法のもとの平等原則からも当然であります。

 政府は、類型化できないからと拒否しています。しかし、この規定は、諸外国でも設けられ、個人情報保護条例を策定している地方自治体の六割が既に実施しております。さらに、経済産業省などのガイドラインにも明記され、現に運用しており、明記できない理由は何もないと思います。

 第三は、自分の情報の取り扱いに自分が関与し選択するという自己情報コントロール権の立場をとっていないために、企業や行政機関の運営が優先され、個人の権利が後景に追いやられていることであります。

 それは、行政機関法案の「行政の適正かつ円滑な運営を図りつつ、個人の権利利益を保護する」という目的規定にも端的にあらわれています。

 目的外利用についても、「相当な理由のあるとき」というあいまいな規定では、行政の都合や利便性に偏った判断で、個人情報が国の機関から地方公共団体まで全国の行政機関で使い回しされるおそれがあります。

 国民の批判を受けて新設された罰則規定も、職務のためとの理由がつけば適用除外となることが明らかになりました。

 行政機関法のこうした欠陥の重大性は、さきに述べた自衛官適齢者名簿提供事件によって一層浮き彫りになったことを指摘しておくものであります。

 野党案は、法案の「目的」に、個人情報の取得、利用、提供などに本人が関与する自己情報コントロール権の立場を明記し、目的外使用についても、第三者機関である個人情報保護審査会に諮問し、客観的立場からの検討を経てから使用の是非を決めるなど、政府案の欠陥をふさぎ、行政の恣意的判断を排除する仕組みになっていることも強調するものであります。

 反対の第四の理由は、政府案の制定によって、金融、通信など、手厚く個人情報保護策を講ずる必要がある分野の施策がむしろ後退するおそれがあることであります。

 これらの分野は、現在、所管省で、基本法案よりレベルが高いガイドラインを設けて個人情報を保護しています。ところが、所管省からは、基本法案に合わせてガイドラインのレベルを引き下げる意向が審議の中で明らかにされました。

 個人情報保護法の制定が個人情報保護策の引き下げの役割を果たそうとしていることは極めて重大だということを指摘しておきたいと思います。

 日本共産党は、今後も、基本的人権の大切な柱であるプライバシー権を守り、個人情報の保護と表現、報道の自由を守るために国民の皆さんとともに全力を尽くすことを申し上げまして、私の討論を終わります。(拍手)


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