「触法心神喪失者医療・観察法案」ほか四案に対する反対討論

木島日出夫議員 衆議院 法務委員会 2002年12月6日

私は、日本共産党を代表して、ただ今議題となりました「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案」及び与党提出「同法案修正案」並びに、民主党提出「精神保健福祉法改正案」ほか二案に対し、反対の討論を行います。

反対の理由を申し上げるに先だって、委員会運営に関し、一言申し上げます。本日昼の理事会において、法務委員長は、四野党一致して、「まだ法案にたいする審議がつくされていない。質疑終結、採決は時期尚早」との意見にもかかわらず、職権で質疑終結、採決を宣告いたしました。そして、まさにそれを実践しようとしています。委員長の横暴な委員会運営にきびしく抗議します。

一昨年の長崎バスジャック事件、昨年の池田小学校事件などを契機として、触法心神喪失者に対する処遇問題が国民の関心を呼び、本法案の提出の契機となりました。わが党は、政府の法案提出を踏まえて、去る五月三十日、これらの問題解決のための「見解と提案」を発表いたしました。

そこでは、日本の精神医療が先進諸外国と比較して極端に遅れていることに根本的な問題があることを指摘するとともに、精神障害者の治療を進め、犯罪の発生を減らしていくためには、欧米諸国で取り組まれている「地域ケア」を本格的に推進し、触法心神喪失者の医療と社会復帰を推進する「司法精神医療」を前進させていかなければならないとの観点を明らかにしました。

そういう観点から、@逮捕・捜査段階での精神鑑定と治療を充実させる、A「入院治療」をふくむ処遇の決定は、裁判官・医師・福祉関係者などが関与する「審判」によっておこなう、B医療処分の内容とその要件を適切に判定できるようにする、C医療・生活支援、社会復帰促進のための地域ケア体制を確立する、D遅れているわが国の精神保健・医療・福祉を抜本的に拡充する、という政策を発表しました。

政府原案は、わが党の「見解と提案」に較べて、A、Bの審判手続の導入以外については、まったく触れていないか、きわめて不十分であり、現状を改善するものとなっていません。

反対の理由の第一は、まさにこの点であります。すなわち、新しい審判制度に基づく国の責任による医療が、真に触法心神喪失者の治療と社会復帰に役立つのか、それとも基本的人権を侵害する「保安処分」の強化になってしまうのかの決定的な分岐点は、精神医療とりわけ地域医療に対する人的・物的体制、予算がどれくらい手厚く確保されるかにかかっているにもかかわらず、本法案ではまったく明らかにされておらず、修正案の附則でわずかに入院治療については前進が見られるものの、地域ケア体制の整備については、再三にわたる質問に対しても具体的答弁はありませんでした。

反対の第二の理由は、退院後の通院治療を含めた社会復帰のための「医療・観察」を、保護観察所が中心となって行うこととしている点であります。通院治療を含めた社会復帰のため施策は、まさに医療・保健・福祉・雇用の問題であって、厚生労働省が責任をもって行うべき分野であります。刑事政策として犯罪者の更正を目的とする保護観察所が対象者を観察するという法案の基本的仕組みは、まさに保安処分的発想に基づくものであり、また、現在の保護観察所は心神喪失者対策の専門性があるわけでもなく、更生保護本来の人員すら極度に不足しており、ここに責任を押し付けることはふさわしくないと言わなければなりません。修正案も、官職名を変えただけで、中味を変えるものではありません。

反対の第三の理由は、法案に対する国民の理解が、現時点できわめて不十分であるという点であります。国民の基本的人権に重大な影響をもたらす制度を新設するにあたっては、その制度に対する国民の理解と合意を得てすすめるべきであり、日弁連を始めとする関係団体と国民の理解と合意が十分得られていない現時点での導入は適当ではありません。

与党提出に係る修正案については、附則第三条の精神医療等の水準の向上や第四条の検討条項については、一定の評価をすることはやぶさかではありませんが、治療処分の要件に関し、「再犯のおそれ」隠しの小手先の文言修正によって、審判の基準を不明確にしたことをはじめ、法案全体に逆に大きな混乱をもたらすものであり、到底賛成できるものではありません。

民主党提出の「精神保健福祉法」等改正案は、重大な他害行為を行った心神喪失者に対する医療、保健、福祉をどうするかという基本点で、わが党と考えを異にするので、賛成できません。

以上で反対討論を終わります


* 討論は、通例、採決に際して、賛否の違う場合、各会派がその態度と理由などを述べます。
   特に、反対会派が、反対の理由、法案の問題点について述べます。

*委員会名、法案名等については、略称、通称等で記載している場合があります。


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