日本共産党

2004年12月20日(月)「しんぶん赤旗」

農業 農民

「小泉・農政改革」で荒廃が心配

党国会議員団が各地で懇談

紙、高橋議員に聞く


高橋議員 現場の声は価格保障

紙議員 担い手増やし元気に

 日本共産党国会議員団は、今年から始まった「米政策改革」と小泉「農政改革」について各地の生産者や自治体、農協関係者と懇談しています。農水部会の紙智子参院議員(部会長)と高橋千鶴子衆院議員(農水委員)に特徴を聞きました。

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高橋千鶴子衆院議員

 ――懇談のねらいは。

 紙参院議員 まずは米政策改革で出ている問題を現場の方からうかがうこと、また、実際に農業を発展させている地域はどんな努力をしているかをお聞きしようとなったのです。

 いま農水省では「食料・農業・農村基本計画」の見直しの議論が農政審議会でおこなわれています。稲作を中心に“構造改革が遅れている”といいます。

 焦点になっている農家経営への補助対象の面積基準は、米政策改革では都府県の場合四ヘクタール以上といっていましたが、基本計画見直しでは十ヘクタールとか十四ヘクタールとかいっそう厳しい案を出し、農業補助の対象にならない中小農家を農業現場から排除しようとしています。

 しかし、何がなんでも農業施策を大規模経営に集中することには批判が強く、来年三月の基本計画の改定時に面積基準まで書き込めないといわれています。現場からの声をいっそう国政に反映させていきたいと思い、懇談を続けています。

 ――政府の農政改革案にはどんな声が。

  一戸あたり十四ヘクタール以上という大規模水田で有名な秋田県大潟村を訪問しました。みんな政府の助成対象となる規模です。しかし、米価暴落が続くなかで生産者も農協幹部の方も「これからどうなるのか」と不安の声が共通でした。

 有機・減農薬米で付加価値をつけて固定客を開発している農家も生産者米価がどこまで下がるのか心配だといいます。水田に麦や大豆、野菜を転作している農家も米政策改革で転作交付金が減らされるなかで「交付金がなくなると転作はやれない」といいます。

 長野県佐久地方では、周りの農家から十八ヘクタールの水田を委託されている大規模農家と会いました。その方は、農地が点在していて作業効率が悪く、これ以上の規模拡大は限界だといいます。農機具も壊れやすく、機械代が高くなるからなんとかしてほしいと訴えられたほどです。

 高橋衆院議員 大潟村の近くの若美町では政府が考えている農家への交付金の「直接支払い」も話題になりました。生産とは関係なく農地面積を基準に税金で補てんするやり方は国民の理解は得られないと話すと、「その通り、三年か五年で直接補てん金はなくなるだろう」と応じていました。価格保障がないと安心して農業をやっていけない、というのが現場の感覚なのですね。

自給率向上に明確な目標を

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紙智子参院議員

 ――食料自給率向上については。

 高橋 大潟村の農協の幹部の方からも話がありましたが、政府は二〇一〇年までに45%へ向上させる目標を決めたのだから堅持すべきだという声が強いですね。国際交渉でも、食料自給率の向上目標を日本は持っていると主張してほしいと。

  秋田県農協中央会は各党に要望書を出していました。明確な自給率目標をもって、生産・消費両面で向上するための戦略をもつべきだ、と話しておられました。自給率が低い大豆でも麦でも飼料作物でも、つくるためにはこれだけの耕地が必要だ、と計算できることになります。

 政府はよく自給率が下がる要因として消費者がご飯を食べなくなっているからといいますが、都合のいいときだけ“消費者重視の農政”というのはおかしいという話も出ました。学校給食はじめ、大豆でも麦でも国産をほしい消費者はたくさんいます。

 日本共産党は、米や麦、大豆、食肉など主な農産物に価格保障が必要だと考えていますが、価格さえひきあえば農家は作るようになります。

 高橋 その点で岩手県の農協組合長さんは、「自給率向上のためにやることは簡単だ。再生産できる価格にすることだ。野菜でもなんでも市場まかせで価格は不安定だが、農業資材価格は一定でしかも高い。再生産できれば後継者もでる」というんです。その通りですね。

直接支払い制度耕作放棄防止に

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 ――後継者や農村社会荒廃の不安の声は。

  長野県は、農業後継者として毎年三百人が必要だと考えています。「里親制度」といって、新しく農業をやりたい青年が技術を学ぶことから販売まで地域の篤農家が面倒をみる制度もあり、就農に成果を上げていますが、それでも目標の半分ぐらいだといいます。

 高橋 長野県庁に行ったとき、一人のすぐれたプロ農家や五年後に法人をめざす集落営農だけでなく、高齢者や女性も地域政策として担い手と位置付けていると担当者がいっていたことが印象的でした。農家がなくなり、人が住まなければ荒れて熊もでる、水田も水を入れて作付けしないと多面的機能が発揮できないというのですね。

  日本共産党は、環境保全として現行の中山間への直接支払い制度を、平場にも広げて耕作放棄地防止に役立てようと提案しています。管理した水田は地下水を作るし洪水の防止機能も果たします。みなさん同じ立場で役割を評価すべきだと賛同していました。

女性・高齢者地産地消の中心

 ――農業を発展させている地域の教訓は。

 高橋 群馬県の甘楽・富岡農協を訪問しましたが、ここの活動はすばらしいです。高齢者も兼業農家や女性もみんな地域農業の担い手として頑張っていました。中心作物は、少量多品目の野菜生産です。

 この農協は群馬県の西南部に位置して、東京からおよそ百キロです。高速道路なら一時間ほどです。富岡市内にある農協の二つの直売所だけでなく、都内のスーパーや百貨店の特設コーナー二十六店に毎朝、新鮮な野菜を運びます。

 直販部員の農家がはじめは三十四人でしたが、今は千百五十人にまで増えているといいます。年間十二億五千万円の販売ですから驚きですね。

  一番感心したのは、農業の担い手をまったく限定していないことですね。定年退職者、新規就農者もみんな農業ができるようにしています。

 つくり始めた人は、まず直売所に出して自分の農産物の人気を見るのです。それで自信がついたら、もっと面積を増やしてスーパーとか市場用に出荷していく。もともとは養蚕とコンニャク産地でしたが、輸入におされて離農、耕作放棄地がたくさんあったそうです。その農地を生かしているのです。営農指導員がたくさんいて、年間二百六十回も講習会をしているといいます。高齢者の生産者グループも意欲的です。

 政府は、農業の担い手を絞り込んでいこうとしていますが、甘楽・富岡農協の場合は、担い手を発掘して地域農業を発展させているのです。

 ――今後の方向として確信になりますね。

 高橋 政府の農政改革は、輸入農産物と価格競争をという産業政策ばかりなのです。そうでなく、若者もお年寄りも元気で働くことは、地域政策として重要だという声はどこでもありました。

 長野県ではお年寄りが働きつづけ、元気で寝たきりは少ないといいます。群馬県の富岡市でも、野菜生産に参加した高齢者は生活に張り合いができ、医療費がほかの自治体にくらべ少なくなっていると聞きました。

  消費者に喜んでもらうということが共通していますね。長野県では、学校給食へ週三回は土地の農産物をとりいれようと頑張っています。栄養士さんと生産者が話しあって献立をするのです。地産地消を促進する地域ぐるみの努力が大事ですね。方向を示していると思います。


 【米政策改革】 米の需給や価格を全面的に市場にゆだね、それに対応する農業構造をつくるとして政府が今年から始めた「改革」。170万戸の稲作農家を2010年までに8万程度に絞り込むことをめざし大規模経営に生産を集中する仕組みをおしつけています。政府が米価安定から全面的に手を引き、生産者米価を暴落させています。大規模経営に限った価格暴落補てんの対策を講じていますが、厳しい基準のため、対象は個別農家では3万戸、全国に1万ある集落営農では200戸程度にすぎません。

 【食料・農業・農村基本計画の見直し】 食料・農業・農村基本法では「基本計画」を定め、5年ごとに見直すとされています。これにもとづき政府は来年3月までに現行計画の見直し作業を進めています。明らかになっているその内容は、WTO(世界貿易機関)農業交渉での農産物関税の撤廃・引き下げに対応し、現行の作物ごとの価格安定対策の廃止や、ごく一部の大規模経営への施策の限定、株式会社への農地利用の拡大など、これまで日本農業や農家の経営を支えてきた戦後の諸制度をことごとく覆す方向です。

 【中山間の直接支払い】

 傾斜地や山間地の多面的機能を維持、回復するために共同作業する農家に助成金を交付する制度。農道の草刈りや水路整備、耕作放棄地の解消などをおこないます。9割以上の対象集落で「効果があった」と好評ですが、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は廃止を含む削減を打ち出しています。

 【不足払い制度】

 作物の生産にかかる費用と市場価格との差額を交付金で補てんする制度です。農家は生産を維持する一方、流通業者や消費者には安い市場価格が実現できます。アメリカやヨーロッパでは手厚くおこなわれています。



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