日本共産党

2004年11月28日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集 労働審判制度

労働審判制度

トラブル解決へ新しくできます


 「突然、会社から解雇された」「残業代が支払われない」。こうした労働者個人と雇用者とのあいだのトラブルをすみやかに解決することを目的にした新しい司法制度ができました。労働審判制度です。2006年4月のスタートをめざして、準備がすすんでいます。


解雇や賃下げ労働紛争が多発

 近年、企業による強引なリストラの横行で、解雇や賃下げなど労働者の生活が脅かされる事例が多発しています。

 厚生労働省の都道府県労働局に寄せられる労働相談は、二〇〇三年度一年間で七十三万四千件にのぼっています。そのうち、雇用や労働条件をめぐる個別労働紛争相談は十四万件をこえています。内訳は、解雇に関するものが29・8%と最も多く、労働条件の引き下げが15・8%、いじめ・嫌がらせ7・4%、退職勧奨6・8%とつづいています。

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日本労働弁護団の全国一斉残業・長時間労働110番=10月23日

グラフ

 労働組合や弁護士などによる「一一〇番」への相談を加えると、日本中でものすごい数の個別労働紛争がおこっていることになります。

 これまで、労働者の訴えを解決する手段として、不当労働行為事件や集団的労使関係事件を扱う地方、中央労働委員会がありました。個別の労働紛争は、都道府県労働局にあっせんを申請するか、民事訴訟を起こす方法がありました。

労働局あっせん打ち切り半数

 都道府県労働局へのあっせん申請は、費用は無料で、利用件数も増えていますが、相手の企業が話し合いに応じなければそれまで。打ち切りになり、解決しません。

 東京労働局に二〇〇四年度上半期(〇四年四月一日から九月三十日)に寄せられた個別労働紛争相談は七千六百四十七件、あっせん申請受理数は三百九十五件ですが、同時期に打ち切りになったのは半数を超える二百十二件にのぼっています。

 残るのは、法律にもとづいて「白黒をつける」民事訴訟を起こす方法ですが、これだと費用も時間もかかります。このため日本で裁判で争う労働事件は年間三千件強しかなく、ドイツの六十万件、イギリスの十万件とは比べ物にならない少なさです。

民事訴訟だと時間も費用も

 この違いは、ドイツ、イギリス、フランスなどヨーロッパ各国には、個別の労働紛争を専門に扱う裁判制度があるのにたいし、日本ではそれがないからです。

 自由法曹団事務局次長の今村幸次郎弁護士は、「民事訴訟だと費用と労力、時間がかかり、労働者にとって高いハードルになっている」と指摘します。「裁判は早くても七、八回の審理で半年から一年はかかります。請求金額が二、三十万円ぐらいだと、弁護士費用等の方が上回ってしまうこともあります。雇い止め、賃金未払いなどの権利侵害にあった労働者の多くが、泣き寝入りせざるをえませんでした」といいます。

裁判官と審判員で短期に解決

 新しくスタートする労働審判制度は、行政機関によるあっせん制度とは違い、裁判所の管轄のもとで労働者の訴えを短期に解決することをめざしています。

 ことし四月に国会で成立した「労働審判法」では、職業裁判官(労働審判官)一人と、労働者側、使用者側が推薦する一人ずつの労働審判員の三人で労働審判委員会を構成し、事件の内容に即した解決案を決定します。委員会は、全国五十カ所の地方裁判所の本庁におかれます。

 原則として「三回以内」で審理を終え、長くても、三、四カ月くらいと想定されています。

 訴えやすく速く決着がつくというのがこの制度の特徴。解雇、雇い止め、配転、出向、賃金・退職金不払いなど、事実関係が明確な事件に有効です。アルバイトやパートも申し立てることができます。

 審判の決定は、二週間以内に当事者が異議を申し立てなければ確定します。したがわない場合は強制執行をすることができます。都道府県労働局のあっせんとは大きく異なる点です。

 現在、最高裁で申立書などはできるだけ簡単なものにし、申立費用も労働者の負担にならないよう制度の規則作成にむけての検討がすすめられています。


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審判の流れは

 (1)申し立て

 労働者と使用者との間に生じた紛争について、個々の労働者あるいは使用者が申し立てることができます。当事者の一方の申し立てによって審理が開始されます。

 (2)審理から調停へ

 手続きの指揮は職業裁判官である労働審判官がおこない、審理は三回以内。その間に調停(和解)が成立すれば、決定を出さずに終了します。調停は、裁判上の和解と同様、強制力をもっています。

 (3)労働審判での解決

 審理にもとづき、審判を決定します。審判は、法律上の権利・義務関係をふまえた事件の解決案です。二週間以内に当事者の一方または双方から異議の申し立てがなければ確定します。

 (4)訴訟への移行

 出された審判に当事者が異議を申し立てた場合、地方裁判所での通常の裁判手続きに移行します。最初に労働審判に申し立てた書面が裁判訴状とみなされます。

 事件が複雑で争点が多いなど、三回の審理で終了する労働審判になじまず、裁判でおこなうことが妥当と労働審判委員会が判断した場合は、労働審判を出さずに終了し、訴訟に移行します。

今後の課題は

 労働審判制度は、新しい制度だけに、課題もいろいろ指摘されています。

 労働審判員は、全国で労働側、使用者側それぞれ五百人ずつ、あわせて千人の選出が見込まれています。

 労働側の推薦する五百人の労働審判員は、労働団体が推薦します。連合枠四百三十四人、全労連枠五十一人、全労協その他十五人の枠で人選がすすんでいます。ふさわしい経験と見識のある人を推薦し、十分な研修がおこなわれる必要があります。

 そして、「どれだけ多くの労働者がこの制度を利用し、審判が信頼されるか、審判の結果が当事者から尊重されるようになるかが重要です」と今村弁護士は話しています。

 労働審判法がことし四月に国会で成立したとき、付帯決議が付けられ、将来、必要があれば、「訴訟手続きに労使関係の専門家が参画する労働参審制に関し、導入の当否について検討すること」とのべています。

 労働審判制は、裁判所のもとに設置した委員会が解決にあたる裁判外の手続きですが、この制度を発展させ、ヨーロッパのように労使の専門家が裁判官として参加する労働参審制の実現が展望されています。




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