日本共産党

2004年11月24日(水)「しんぶん赤旗」

「三位一体の改革」

現局面をどうみるか

金子党自治体局次長に聞く

−上−


 小泉内閣の「三位一体の改革」について、いまの事態をどうみるのか、どうのぞむのか――日本共産党の金子邦彦自治体局次長に聞きました。


「補助金改革」 地方への支出減らす狙い

国民の権利と国の責任後退許さぬ視点が大切

 ――「三位一体の改革」をめぐる動きが連日のように報道されていますが。

 そもそも「三位一体の改革」というのは、国と地方の財政のあり方について、「国庫補助負担金の廃止・縮減」と「地方への税源移譲」、「地方交付税の見直し」の三つを一体的にすすめるというものです。いま政府は、来年度予算編成を前に、十八日に与党と合意した「基本的枠組み」にもとづいて「三位一体の改革の全体像」(来年度から二年間の計画)を二十六日にもまとめる準備をしています。

国の財政負担法で義務付け

 ――マスコミの報道では「補助金の改革」が盛んに言われていますが。

 ええ。「補助金の改革」と聞くと、私たちには縁遠い感じがしますが、実は、国民のくらしと権利にかかわるたいへん大事な問題なんです。

 たとえば、いま焦点になっているのは、義務教育費や国民健康保険、生活保護などの負担金です。これらは、日本国憲法とそれにもとづく関係法規で国が財政的にも責任を負うと定めたものです。まさに国民の基本的権利と国の責任に直結するものです。

 「補助金」「補助金」とマスコミも書くので、国の責任というより、裁量で地方に援助するものという印象をもつ方も多いようです。しかし、正確には「国庫補助負担金」といって、大きくは「補助金」と「負担金」の二種類です。このうち「負担金」というのは、法律で国の財政負担が義務付けられているもので、八割以上を占めています。

 義務教育費や老人医療費、国民健康保険、生活保護費、介護保険、保育所、児童扶養手当など、どれも「負担金」です。また、国に裁量権のある「補助金」も、たとえば私学助成費など、なくしてはならないもの、福祉や教育にかかわるものが多いのです。

 こうした補助負担金の「改革」なるものが、国の財政危機を理由に、地方への支出を減らそうという枠組みで議論されていることが一番の問題です。

 ですから、私たちは、この「三位一体の改革」問題には、地方財政を守るという立場と同時に、国民の基本的権利と国の責任の後退を許さないという二つの視点でのぞむことが大切だと考えています。

 ――「地方案」が議論の土台になっていますね。

 ええ。「地方案」が尊重されるのかどうかが基準の一つとして議論や報道がされています。

 実は、今年の六月の政府方針で、来年度からの二年間で三兆円を地方に税源移譲し、それに見合う補助負担金を廃止・縮減することを決めました。そして、その「補助負担金改革」の案を地方六団体にゆだねたのを受けてまとめられたものが、「地方案」です。三兆二千億円の補助負担金の廃止・縮減の具体的提案と、三兆円の税源移譲のすすめかたなどを提案しています。

 「地方案」には大きく二つの特徴があります。一つは、制度変更をしても地方が財政的に困らないようにするという見地が貫かれていることです。さすがに地方自治体の連合体です。

 同時に、もう一つは、そもそもの前提が三兆円もの補助負担金の廃止・縮減ですから、どうしても国民の基本的権利と国の責任に直結する負担金を含む廃止・縮減の提案にならざるをえません。

 しかし、補助負担金の廃止に本音では賛同していない知事や市町村長も多いと聞いています。全国知事会の議論では十数人が反対や慎重論を表明しました。PTAや教職員、私学関係者や保育所関係者の全国組織も、補助負担金の廃止・縮減に反対しています。

 こうした「地方案」ですから、私たちは賛同することはできません。しかし、だからといって地方六団体と対立する立場もとりません。「地方案」は、もともと政府決定の枠内での提案という制約を持っていますし、そのなかでも国に対して地方財政の確保を強く求める立場はしっかり貫いているからです。

義務教育費の一般財源化とは

 ――総務省などは「義務教育費は一般財源化しても大丈夫、県立高校の教員の給与も一般財源でやっている」といいますが。

 はたして大丈夫といえるでしょうか。一般財源化というのは、主には地方税と地方交付税に財源を移すということです。このうち地方税は、とくに都道府県の場合、景気に大きく左右されます。また地方交付税は、国が削減の方向です。ですから教職員給与費はこれから当分増加すると試算されているのに、財源の方は逆にきびしくなるのではという不安が出されるのは当然です。

 自治体の収入が大幅に減れば、教育関係費の削減にも結びつきかねません。「県立高校はやれている」といいますが、きびしい財政状況を理由に高校の統廃合計画をすすめている県も少なくありません。

 公立保育所の運営費はその先行例です。ことしから運営費の負担金(国基準の二分の一)を一般財源化しました。税源移譲(所得譲与税という経過措置)と地方交付税での対応です。総務省は「確実な財源措置をとった」と説明します。

 ところが、現実には三、四割の市町村で運営費を減らしました。公立保育所運営費の負担金分に限っていえば交付税措置がされたとしても、そもそも地方交付税の総額を大幅にカットされたため、予算を全体的に減らすことが余儀なくされ、その一環として公立保育所の経費も減らした自治体が続出したのです。

 教育権と義務教育の無償は憲法が明記しています。国民の権利であり、その実現は国の責任です。それを財政的に保障する義務教育費国庫負担金の制度を、国の財政危機を理由に改悪していくことは許されないことです。

 「教育に地域の自主性を生かす」とか「負担金事務の煩雑さをなくす」などを理由にする議論もありますが、それは、いまの制度のなかでも改善できることですし、端緒的ですが始まっています。

 しかも、子どもと教育をめぐる状況が深刻になるなかで、国と自治体、教職員と保護者、地域が力をあわせて教育問題に真剣にとりくむことがかつてなく強く求められています。そのときに、教育環境の後退につながりかねない制度変更を強行して不安をひろげることなどは政治がやってはならないことです。(つづく)



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