日本共産党

2004年10月18日(月)「しんぶん赤旗」

世界遺産そばに米大型店進出

“生活と景観守れ” 住民が反対運動

メキシコ テオティワカン遺跡


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ウォルマートの大型店建設反対を訴える市民団体の集会=メキシコ州テオティワカン

 メキシコ市から北東に約五十キロ、車で約一時間。世界遺産にも登録されているテオティワカン遺跡の周辺で米小売業大手ウォルマートが巨大なスーパーを建設中です。建設中止を求める運動は、多国籍企業や米国によるメキシコの文化破壊に抵抗するたたかいとして広がりつつあります。(メキシコ州テオティワカン=菅原啓 写真も)

 建設工事がはじまったのは今年六月末のこと。遺跡の西にある人口一万数千人の町サンフアンテオティワカンに住むロレンソ・ガルシアさん(47)は、「役場からは何の知らせもないし、最初は何をつくっているのか見当もつかなかった」といいます。

 遺跡の周辺は、遺跡中心部までの距離などによって、(1)建物の建設が一切禁止されている禁止地区と、(2)当局の許可を受けた場合に限って建設が許される規制地区に分かれています。スーパーが建設されているのは(2)の規制地区内ですが、遺跡の入り口までの距離はわずか七百メートル。ピラミッドの頂上からの視界にスーパーが丸ごと入るため、景観が台無しになることは確実です。

家族営業商店 次々に廃業

 最盛期には二十万人の人口を抱えていた都市遺跡テオティワカンの周辺地域だけに、考古学的に重要な遺跡が今後新たに発見される可能性もあります。本来ならば、町や州政府、連邦政府機関が建設申請を却下するべきでした。しかし、建設許可は異例の早さで下されました。

 ウォルマートはメキシコのスーパーマーケットを次々に買収し、傘下のチェーン店数と売り上げでメキシコ最大の企業となっています。大量仕入れにより、値段を安く設定できるため、家族営業の商店が次々に廃業に追い込まれています。メキシコ市では、野菜や食肉を扱う小規模の店が集まった公共市場が三百十二ありますが、大型店の進出が続けば「四年後にはすべて消滅する可能性がある」(全国公共市場統一運動協会の発表)といわれています。

 問題の大型店舗が完成すれば、地元の町の小さな商店はひとたまりもありません。ガルシアさんたちは、「テオティワカン盆地を守る市民戦線」という住民団体を結成して、反対運動に立ち上がりました。ウォルマート側は、「約二百人の新規雇用を提供できる」と発表するとともに、地元の町には六十万ペソ(約六百万円)の寄付を申し出るなど、反対世論をなだめる作戦に出てきました。

 ガルシアさんはいいます。「ウォルマート従業員は組合もつくれず、低賃金の奴隷労働をさせられる。二百人の奴隷労働が新たに生まれても、圧倒的多数の住民の生活は破壊される。こんなごまかしにはだまされない」

多国籍企業が食文化の破壊

 「市民戦線」の代表は、遺跡の入り口にテントを張って、ハンストや観光客へのビラ配りなど抗議行動を続けています。週末になると、全国から支援の人々が集まるようになりました。

 近隣の町から家族そろってやってきた精神分析医のホセ・アントニオ・ララさん(39)が心配するのは、多国籍企業によるメキシコの食文化の破壊です。遺伝子組み換え作物を含めて米国産の食物がばらまかれ、メキシコ本来の伝統が失われていくことに危機感を抱いています。「メキシコでは、多国籍企業がどんどん進出して、メキシコの利益をおかしている。テオティワカンからウォルマートを追い出すたたかいは、メキシコ人の尊厳をかけた、アイデンティティーを守るたたかいだ」と語りました。

 新店舗の建設はすでに90%まで進んでいます(十月十二日現在)。しかし、建設許可を出した全国人類学歴史管轄庁の幹部に「わいろが渡ったのでは」といううわさも後を絶ちません。労働組合や先住民団体が相次いで「市民戦線」への連帯を表明。たたかいは、ウォルマート阻止にとどまらず、多国籍企業のいいなりに規制緩和を進めてきたフォックス政権の政策の転換を求める運動として発展しはじめました。

 ガルシアさんは最後にこう展望を語りました。「ほとんど完成した店舗の建設を阻止するのは容易ではない。最後までたたかいを続けるつもりだが、たとえ阻止できなくても、貴重な遺跡と住民の生活を守る全国のたたかいが広がり、これ以上のウォルマートの横暴に少しでも歯止めがかかれば、私はうれしい」


 テオティワカン 紀元前二世紀ごろからメキシコ中央高原に高度の文明が発展しました。その中心となった都市テオティワカンは、人口が二十万人に達したとされています。強力な政治機構をもち、二世紀には現在のグアテマラまで進出し、ほぼ中米全域で政治的、経済的支配権を確立しましたが、外部からの侵略などのため八世紀ごろ滅亡。現在も残る太陽のピラミッドは高さ六十五メートルで世界第三位の規模を誇ります。



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