日本共産党

2004年9月15日(水)「しんぶん赤旗」

スポーツの力

内戦30年、無関心、暴力…でも、子らの目が生き生きと

五輪スケート金・ノルウェーのコスさん 熱く語る


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 スポーツを通じ、世界の飢餓、貧困、戦争に苦しむ子どもたちを援助する――。リレハンメル五輪(一九九四年)のスピードスケートで三個の金メダルを手にしたノルウェーのヨハン・オラフ・コスさん(35)は引退後、こうした活動を続け、昨年から非政府組織(NGO)「ライト・トゥ・プレー(プレーする権利)」を設立しました。アテネ五輪でも「スポーツと平和」などをテーマにしたシンポジウムを開いたコスさんに聞きました。和泉民郎記者 写真も

 ――今年四月にルワンダやウガンダを訪問されていますね。

 コス 九三年にアフリカのエリトリアを訪問したことがきっかけでした。三十年に及ぶ内戦の結果、私たちが見た子どもたちは、無関心、暴力、性的迫害のもとにおかれていました。そこにほんのちょっとしたスポーツや遊びの機会を与えただけで、エキサイトし、懸命にプレーしだしたのです。彼らの目は本当に生き生きして見えました。それでこういう活動をサポートする重要性を知ったのです。ルワンダでは、内戦のダメージで心に傷を受け、二年間何もしゃべらなかった子が、スポーツプログラムを行うことで、話し始めるということも経験しました。子どもたちの発達にとってスポーツは大きな意味を持っているのです。

紛争国の子で「平和チーム」

 ――パレスチナとイスラエルの子どもをノルウェーのサッカー大会に招待したとか。

 コス 両国の子どもたちを「平和チーム」と名づけ、一つのチームとして参加してもらったのです。初めは親やコーチが反対しました。「いったいどうやって十二歳の子どもに同じチームでサッカーをさせ、同じ屋根の下に寝かせるのか」と。

 しかし、彼らはいっしょになってプレーし、時間がたつにしたがって親密になり、友達になっていったのです。お互いに手を握り、歌を歌い、アラビア語とヘブライ語の通訳を通じてコミュニケートしようとした。違った文化を持った人々が互いを理解し、相互尊重を築いていけたのです。

 ――スポーツの力というのはすごいですね。

 コス この時に、ある子がこういうのです。「僕はハマスの自爆訓練を受けるつもりでした。でもいまは『平和の戦士』になりたい。パレスチナの解放を望んではいるけど、話し合いと平和的な手段を通じてやるべきだと思うから」と。

 十二歳の子がですよ。スポーツは人々に創造と相互尊重の感情とスピリットをはぐくむ。平和な社会の担い手をはぐくむと思うのです。

直接足を運びメッセージを

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「スポーツと平和」などをテーマに「ライト・トウ・プレー」が主催したシンポジウム=8月14日、アテネ

 ――今回のアテネ五輪は「五輪休戦」を呼びかけましたが。

 コス 私は五輪の平和の精神がそれぞれの国を動かすことができると信じています。しかし、それを宣言するだけではいけない。もっと紛争の地に直接に足を運ぶべきだったと思います。紛争地で命をかけてたたかっている人たちがどれだけアテネで起こっていることに関心を持つでしょうか。そこへ行って「私たちはあなたたちを信じている。平和的な解決を望んでいる」と伝えるべきです。

 ――選手たちは平和な社会への担い手になり得るでしょうか。

 コス スポーツは競争相手であっても友達になれる。世界の競技者が集まる五輪自体が、平和のメッセージにもなります。同時に、スポーツ選手は子どもたちのあこがれの存在です。選手たちは子どもたちの中に、スポーツの持つ素晴らしさ、価値を広げる活動ができるはずです。これは「あなたたちはかけがえのない人間だ」と伝えるのと同じように大切です。

 私は各国政府にも訴えたい。一部の人は「スポーツはそれほど重要ではない」「遊ぶことは子どもたちの権利ではない」という。これは、子どもたちの発達について何も知らないのと同じです。子どもたちの発達を促したくないというのと同じことなのです。

 スポーツや遊びというのは、社会的共存と彼らの身体的、健康的な発達など、子どもの将来にとってかけがえのない要素を持っています。私たちはそのことに気付いてもらうこと、そして支援を促す活動を行っています。ぜひ、日本の政府、人々にも協力してほしいと思います。


ヨハン・オラフ・コス

 1968年ノルウェー生まれ。94年リレハンメル五輪のスピードスケート1万メートル、5000メートル、1500メートルの3種目すべてに世界新記録で優勝。同五輪後、賞金や選手仲間の募金をもとに、貧困などに苦しむ子どもを救う「オリンピック・エイド」を設立。現在は「ライト・トゥ・プレー」代表。ユニセフスポーツ特別代表。選手委員会選出のIOC委員など歴任。



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