日本共産党

2004年6月11日(金)「しんぶん赤旗」

9条守る思いあふれる

5氏会見 「憲法は私を支えてきた柱」


 「われわれの関心は九条の改定に集中しています。そのために作った会です」(加藤周一さん)。「イラクに日本の軍隊を送った今こそ、九条をよく考えなければならない」(大江健三郎さん)。十日の「九条の会」アピールの記者発表では、出席した五氏(加藤、大江、奥平康弘、小田実、鶴見俊輔の各氏)が、明文改憲が日程に上ってきたことへの強い危機感と、今何かしなければという熱い決意を語りました。会場にあふれた八十人近くの記者たちは、日本の知性と良心を代表する人たちの言葉に耳を傾けました。



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鶴見俊輔氏

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加藤周一氏

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大江健三郎氏

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小田 実氏

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奥平康弘氏

運動結ぶ「萃点」(すいてん)

「九条の会」呼びかけた理由

 「憲法は世界に対する自分の態度、モラルの支えであり、外してはいけない考え方の土台だと思ってきた」。大江さんは、憲法への思いを、自分の作家としての仕事、生き方と重ね合わせて語ります。

 イラクで戦争が起こったとき、子どもが障害をもって生まれたときなど、そのたびに憲法と教育基本法のことを思い、「憲法といっしょに生きてきた」といいます。

 今、憲法が書き換えられる危険がかつてなく強まっている現実は、「小説家としての自分の仕事の締めくくりをしなければならないときに、自分の支えとなってきた柱が倒されようとしている」と映っています。

 これまでは、解釈改憲はされても、明文では書き換えられないだろうと「楽観的に信じてきた」と率直にいいます。「憲法の空洞化というのは現実にあると思うが、憲法が文字としてあることと、それがなくなることとでは根本的に違うと考えてきました。しかしいま、言葉として書き換えられようとしている」。今、なぜ「九条の会」を呼びかけたのか――その思いを、大江さんはそう語りました。

 いろいろな人の憲法への思い、九条を守ろうというさまざまな声や運動、それが集まって一つに重なる場所、それを大江さんは「萃点(すいてん)」という言葉で表し、「この会が萃点の一つとして使われればうれしい」とのべました。

 小田さんは「なぜ、今、この会をつくったのか、憲法はずっと危機だったのにと思うかもしれないが、それほどの危機だということ。のりを越えている」といいます。「これまで、それぞれに憲法を守ることについて書いたり、話したりしてきたが、それだけでは足りない」と訴えます。

 加藤さんは「危機感を鋭く感じている。今までも九条を守ろうといういろんな運動があるし、これからもいろんなやり方が出てくると思うが、横の連絡がない。さまざまな運動の統一を目指すといったことではなく、有効な連絡、ネットワークをつくりたい。そのためにできることをしたい」と設立の趣旨を語りました。


焦点をはっきりと

さらなる軍事化をとめよう

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マスメディア各社の関心を集め、質問が相次ぐ「九条の会」アピール発表会見=10日、東京・千代田区、アルカディア市ヶ谷

 「六十年の戦後史そのものがこの会結成の経緯なのです」。こうのべた加藤さんは、戦後、自衛隊発足から新ガイドライン(日米軍事協力の指針)、有事法制まで、解釈改憲と事実の積み重ねで自衛隊の活動を拡大してきた歴史をあとづけました。

 そのうえで、軍事化をすすめてきた勢力が「憲法九条」を「うるさい制約」としてきたことを指摘。解釈改憲の積み重ねとなし崩しの軍事化が限界に達したことから、ついに憲法改定の要求になったとのべ、九条の立場にたって、その動きに反対してきた者が「軍事化がもっと先にいくことを止めなければならない」と語りかけました。

 「敵は九条改定にあり」とのべた奥平さん。改憲をしようとする人たちの思惑から、「九条以外のところに問題が拡散されてきて、九条改定という焦点がぼやけてきている」と指摘し、「憲法の体系全体にかかわる問題」として、九条改定の危険な意味を押し出していく重要性を強調しました。


いまこそ9条が旬

世界に憲法押し出す大切さ

 憲法の現代的意味はどこにあるか――この点も出席者が口々に強調した点です。

 小田さんは、四月末に兵庫・西宮で「今でも旬(しゅん)の憲法」という改憲反対集会で、「今でも」ではなく「今こそ旬」と話した経験を披露して、強調しました。「テロや紛争が武力で解決できないことが世界ではっきりした。今までは旬ではなかったが、今こそ旬なんですよ」

 「国連の世界人権宣言はあるけれど、世界平和宣言はない。日本国憲法九条は世界平和宣言なんです」と指摘する小田さん。「その価値がいま出てきた。『いまこそ』使わないと、世界がダメになります」

 奥平さんも相手の改憲攻撃に対して「九条を守れ」と消極的に対応するだけではだめだと強調。「九条をポジティブ(積極的)に押し出していく。世界にむけての意味、外交・経済政策にも生かせる意味を引き出していくことが大切だ」と、九条のもつ国際的意義をおしだしていくことの大切さをこもごも語りました。

 鶴見さんは異なる視点を提供。「九条を支えに生きていくためには、明治以前の、万葉集の防人の歌の日本から掘り起こさなければいけない」「日常のことばと身ぶりから出発しなければ、戦争に反対することはできません」と発言。

 「論憲・加憲の動き」について、「私も論憲や加憲の考えを持っています」と、起草段階でいっそう徹底した「人間の平等条項」案もあったことを紹介しつつ、「全体の焦点は九条です。九条を守るか守らないかというなら、守った方がいいと考えます」と結びました。




「九条の会」アピール (全文)

 「九条の会」が十日発表したアピール(全文)は次の通りです。

 日本国憲法は、いま、大きな試練にさらされています。

 ヒロシマ・ナガサキの原爆にいたる残虐な兵器によって、五千万を越える人命を奪った第二次世界大戦。この戦争から、世界の市民は、国際紛争の解決のためであっても、武力を使うことを選択肢にすべきではないという教訓を導きだしました。

 侵略戦争をしつづけることで、この戦争に多大な責任を負った日本は、戦争放棄と戦力を持たないことを規定した九条を含む憲法を制定し、こうした世界の市民の意思を実現しようと決心しました。

 しかるに憲法制定から半世紀以上を経たいま、九条を中心に日本国憲法を「改正」しようとする動きが、かつてない規模と強さで台頭しています。その意図は、日本を、アメリカに従って「戦争をする国」に変えるところにあります。そのために、集団的自衛権の容認、自衛隊の海外派兵と武力の行使など、憲法上の拘束を実際上破ってきています。また、非核三原則や武器輸出の禁止などの重要施策を無きものにしようとしています。そして、子どもたちを「戦争をする国」を担う者にするために、教育基本法をも変えようとしています。これは、日本国憲法が実現しようとしてきた、武力によらない紛争解決をめざす国の在り方を根本的に転換し、軍事優先の国家へ向かう道を歩むものです。私たちは、この転換を許すことはできません。

 アメリカのイラク攻撃と占領の泥沼状態は、紛争の武力による解決が、いかに非現実的であるかを、日々明らかにしています。なにより武力の行使は、その国と地域の民衆の生活と幸福を奪うことでしかありません。一九九〇年代以降の地域紛争への大国による軍事介入も、紛争の有効な解決にはつながりませんでした。だからこそ、東南アジアやヨーロッパ等では、紛争を、外交と話し合いによって解決するための、地域的枠組みを作る努力が強められています。

 二〇世紀の教訓をふまえ、二一世紀の進路が問われているいま、あらためて憲法九条を外交の基本にすえることの大切さがはっきりしてきています。相手国が歓迎しない自衛隊の派兵を「国際貢献」などと言うのは、思い上がりでしかありません。

 憲法九条に基づき、アジアをはじめとする諸国民との友好と協力関係を発展させ、アメリカとの軍事同盟だけを優先する外交を転換し、世界の歴史の流れに、自主性を発揮して現実的にかかわっていくことが求められています。憲法九条をもつこの国だからこそ、相手国の立場を尊重した、平和的外交と、経済、文化、科学技術などの面からの協力ができるのです。

 私たちは、平和を求める世界の市民と手をつなぐために、あらためて憲法九条を激動する世界に輝かせたいと考えます。そのためには、この国の主権者である国民一人ひとりが、九条を持つ日本国憲法を、自分のものとして選び直し、日々行使していくことが必要です。それは、国の未来の在り方に対する、主権者の責任です。日本と世界の平和な未来のために、日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、「改憲」のくわだてを阻むため、一人ひとりができる、あらゆる努力を、いますぐ始めることを訴えます。

 二〇〇四年六月一〇日

 井上ひさし

 梅原  猛

 大江健三郎

 奥平 康弘

 小田  実

 加藤 周一

 澤地 久枝

 鶴見 俊輔

 三木 睦子


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