日本共産党

2004年5月7日(金)「しんぶん赤旗」

三菱=欠陥隠し 追認の=国交省

タイヤ脱落事故

直後から欠陥指摘した「赤旗」報道


 都合が悪い重大・危険情報ほど自動車メーカー内部で秘匿され、監督官庁の国土交通省もメーカーを擁護する――。それが、三菱自動車(昨年一月、三菱ふそうトラック・バスを分社)製大型車のタイヤ脱落事故をめぐる経過の真相でした。事故直後から本紙は欠陥の可能性を指摘し続けてきましたが、三菱も国交省も事件になるまで否定し続けてきたのです。



図
ハブの強度不足
整備不良といいのがれ

 「タイヤ直撃主婦死亡」。二〇〇二年一月十一日付新聞各紙は横浜市で起きた三菱製大型トラクター(トレーラーけん引車)のタイヤ脱落・母子死傷事故を報じました。

 重さ百四十キロのタイヤは五十メートル転がり、歩道を歩いていた岡本紫穂さん(当時二十九歳)を直撃。傍らには四歳とベビーカーに一歳の子どもがいました。

 「部品ごと脱落 前例ない事故」、ブレーキドラムごと外れた「前代未聞の事故」と各紙は指摘しました。

 まさに起きてはならない事故。問題は原因です。

 本紙が三菱に取材すると、広報部報道担当部長は同じ事例が「過去二件」あったと認めました。その後調査を続けると、同種の事例が多発していたことが判明。本紙は多発事故であることを報道しました(〇二年一月十七日付など)。

 しかし、同社は事故原因を整備不良と主張しました。車輪と車軸をつなぐ部品「ハブ」がユーザーの整備不良によって摩耗、亀裂が入り、破断するというのです。リコールはしませんでした。

 本紙には、全国の整備士、自動車業界関係者から批判の声がよせられました。「三菱の車だけ整備に手抜きをしている訳じゃない」「整備不良という説明はおかしい」

 ハブは外側にホイール、内側にブレーキドラムがついた構造です。

 「ハブは壊れることを想定していない。ボルトが折れ、ホイールが割れる前にハブが壊れるなんて聞いたことがない。三菱は『ガラスのハブだ』」

 「四十件もの事例が一律に整備不良とは通常考えられない。やはりハブの鋳物の強度不足と考えるのが妥当ではないか」

 それが専門家の常識でした。

 「本当に整備不良なのか ベテラン整備士の疑念」(〇二年二月八日付本紙)といった疑問が相次いでよせられました。強度不足による構造的欠陥――。それが専門家や本紙の指摘でした。

 一九九九年六月、広島で起きた中国ジェイアールバスのタイヤ脱落事故。本紙が入手した報告書によると、三菱は「整備不良」「多発性はない」と運輸省(当時)にあらためて報告していました。

 しかし、ジェイアール側は、本紙の取材にも、バスは一カ月に一度点検しており、整備不良はありえないと説明。三菱側への怒りを隠しませんでした。

立ち入り調査せず
見逃しつづけた国交省
写真

三菱ふそうの家宅捜索に入る神奈川県警の捜査員ら=6日午前8時58分、東京都港区の同本社

 三菱側の欠陥隠しに国交省はどう対応したでしょうか。

 実は、国交省の調査でも三菱以外のメーカーではハブ破損が多発した例は報告されていませんでした。

 ユーザー側の「整備不良」「過積載」がハブ破損の原因なら、どのメーカーの車で起きてもおかしくないはずです。

 それにもかかわらず同省はなぜか三菱の「整備不良」説を一貫して支持してきました。「設計・製造上の欠陥ならこんな走行距離は走れない」と、担当者は三菱を擁護し構造的欠陥説を打ち消してきました。

 二〇〇二年五月二十二日、日本共産党の瀬古由起子衆院議員(当時)が国土交通委員会でこの問題を正面からとりあげました。

 洞駿自動車交通局長は二〇〇〇年のクレーム隠しで、「リコールを隠したら企業存立を危うくし、経済的には引き合わないとの認識が浸透している」と擁護。瀬古氏の「立ち入り調査もせず、メーカーから整備不良と聞いただけで、どうして整備不良と断定できるのか」との追及に洞氏は、「適切な点検整備がなされていればハブの異常摩耗が生じないと考えられる」と答弁。リコールには該当しないとの判断を示しました。

 同省が二〇〇二年六月に行った特別監査では摩耗がないハブでも亀裂が生じる、ハブの強度不足を示す重要なサンプル調査結果を三菱は隠していました。

 隠した三菱側の責任はもちろん重大です。しかし、立ち入り調査権限を持っている同省が、常識的に考えれば当然推測できる欠陥を長期間確認せず、見逃した責任はきわめて重大です。

リコール、業界任せ
第三者機関の設置こそ

 現行のリコール制度はリコールを届け出るかどうかをメーカーの自主的判断に任せています。〇二年の改正で、同省は条件つきで「リコールの命令」ができるようになりました。

 しかし、同省にはメーカー側の言い分を検証する能力や体制がありません。

 「メーカーにとって都合の悪い重大な危険を示す情報ほど消費者に知らされることなくメーカー内部で秘匿されるという構図であり、これがわが国の現状なのである」として、日本弁護士連合会も二〇〇〇年の意見書で「クレーム情報の重要性と収集・分析体制の整備の必要性」を強調しています。

 メーカー任せ、業界任せの行政からの転換と公正な第三者機関の設置によるリコール対策が求められています。

 遠藤寿人記者

タイヤ脱落事件の経過と本紙の主な追及報道
【1992年】東京の冷凍車で最初のタイヤ脱落事故が発生
【2002年】
1月10日横浜市瀬谷区でトレーラーのタイヤが脱落。母子3人が死傷
17日一般紙がタイヤ脱落の「前例なし」と報じたことにたいし、本紙は同種事故が過去2回起きていたことを報道
22日三菱、12万4千台を対象に「ハブ」の無償点検・有償交換措置を発表
2月三菱、社内調査班「フロントハブ強度検証ワーキンググループ(WG)」を設置
6日有償交換を無償へ変更
8日本紙「三菱大型車タイヤ脱落 本当に整備不良なのか」という見出しで、ベテラン整備士の声を紹介、ハブの強度不足の可能性をいち早く指摘
17日本紙、東名高速の一部区間で1997―2001年の5年間で108件のタイヤ脱落事故が発生し、うち64件がハブ関連だという民間団体の資料を紹介。全国的調査の必要性を訴える
5月22日瀬古由起子衆院議員(当時)が国土交通委員会でタイヤ脱落問題を取り上げ、立ち入り調査を要求
6月27日国土交通省が三菱へ特別監査を実施。三菱は摩耗に関係なく3割のハブで亀裂が生じている調査結果を国交省に示さず
【2003年】
10月24日神奈川県警が業務上過失致死傷容疑で三菱ふそうなどを強制捜査
【2004年】
1月1日本紙、三菱車のタイヤ脱落が93―96年製に集中し同社がハブの設計変更を繰り返していたことを報道
11日本紙、国交省への情報公開請求で、1996年広島県で起きた三菱製大型バスのタイヤ脱落事故について、の報告書を入手。同社が運輸省(当時)に「多発性はない」「整備上に問題があったものとする」としていたことが判明
27日神奈川県警が三菱自などを2度目の家宅捜索
3月24日三菱ふそう、リコールを届け出
4月6日神奈川県警、三菱自・ふそうの元首脳ら7人を業務上過失致死傷容疑と道路運送車両法違反で逮捕


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