日本共産党

2004年4月6日(火)「しんぶん赤旗」

そもそも けいざい ワールド

???「多様な働き方」って???


グラフ

 「“多様な働き方”という言葉をよく聞きますが、どういう意味ですか?」。読者から、こんな質問が寄せられました。――さっそく調べてみました。畠山かほる記者

労使のニーズ?

 “多様な働き方”にかかわる発言や主張は、数多くありました。「労働の多様化に対応した企業だけが存続していく」(柴田昌治日本経団連副会長『経済Trend』二〇〇三年十二月号)、「『働き方の多様化』に対応した社会システムの整備…が必要」(坂口力厚労相『〇三年版労働経済白書』)など、経営者も行政も、強い関心をもっています。

 まず、厚生労働省へ。

 多様な働き方とは?

 「定義はありませんが、一般的にはパートや派遣など正社員以外の働き方が増えていることをいいます。働く側のニーズ(要求)に応じて、選び取っていく働き方です」

 労働政策担当参事官室の係長は、こう説明しました。

 なぜ“多様な働き方”が増えているのですか?

 「要因は、労使双方のニーズが合致したためです」と同係長。短時間就労を希望する女性や高齢者、正社員以外の働き方を望む若年層などの労働者が増えていること、企業も少子高齢化で女性や高齢者の積極的活用を求めているのだといいます。

 企業の主張はどうか。経営側を代表する日本経団連に取材を申し込むと、「電話で済ませたい」と広報の担当者。電話での話はこうでした。

 「就労者のニーズが多様化してきている。それにあわせて、人事管理(雇い方)も多様化する必要がある、というのが基本」

 あくまで、労働者の要求があるから企業が対応するとの立場でした。

選べるのは誰?

 そうはいっても、就きたい職に就けないという声をよくききます。現実に、労働者は働き方を選べているのでしょうか。

 労働者の話を聞くため、求職者であふれる東京都内の公共職業安定所(ハローワーク)にむかいました。

 「やっぱり、正社員になりたい。生涯賃金がまったく違うから」というのは、営業職希望の男性(25)です。家庭の事情で就職活動ができずアルバイトで食いつないできたという彼は、「企業がバイトや派遣を採りたがるのは、調整可能な人材だから。調整される側の身になったら、そうはなりたくない」と話します。

 職探しを始めて三カ月の女性(47)は「絶対、正社員です。この先、生きていくため十年二十年と働くには安定性がないと。でも、求人が少なく一度も面接できていません」と訴えます。

 年代を超えて、求職者の希望はほとんどが正社員でした。全体状況を職安の職員にききました。

 「『正社員で安定した仕事を』という求職者が多いのですが、とくに事務職の求人は少なく、有期で妥協せざるを得ないのが現状」と語るのは、ハローワーク新宿の磯井衞職業相談部長です。

 渋谷にある若年者対象のヤングハローワークの職員も、「圧倒的に求職者は安定した正社員希望です。しかし企業が求める人材は即戦力の経験者なので、なかなか就職に結びつきません」といいます。

 現実は、求職者の多くが正社員を望んでいても、企業が求人をするのはパートや派遣などの非正社員です。つまり、“多様な働き方”を選択できるのは企業であって、労働者ではありません。労働者の選択肢は、あくまで非正社員の枠内なのです。

経営にも悪影響

 現状の多様化=非正社員化を警告する研究者は少なくありません。独立行政法人「労働政策研究・研修機構」で三月まで主任研究員だった佐藤厚さんは指摘します。

 「企業が正社員の雇用維持が厳しいからと、その場しのぎで非正社員化をすすめていけば、経営に悪影響を及ぼすことになる」

 非正社員への代替がすすむと、非正社員自身は雇用の短期化による精神的心理的な不安が強まること、一方、正社員は仕事がふえ評価が厳しくなるため、プレッシャーがかかり長時間労働と労働強化がすすむことが、欧米の研究で明らかになっているといいます。その結果、労働者のモラルや意欲の低下をまねき、企業組織もガタガタになってしまうと警鐘をならします。

 佐藤さんはいいます。「企業の力をつけていくためには、雇用を安定させ、ちゃんとした労働条件をつくっていくことが基本線です。大事なのは、“感情をもった”労働者の雇用というものを大切にすることです」


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