日本共産党

2004年3月31日(水)「しんぶん赤旗」

自由は奪えない

巨大新日鉄に立ち向かった5人の共産党員

兵庫・広畑


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判決後、記者会見する弁護団・原告団=29日、姫路市

 石川島播磨重工業に続き、新日本製鉄―。日本を代表する大企業の職場で、日本共産党員やその支持者を理由にした思想差別とのたたかいが相次いで勝利しました。

石播につづく勝利

 総合重機の石播では、日本共産党員らを一掃するために、「ZC(ゼロ・コミュニスト=共産党員撲滅)計画管理名簿」という極秘のリストを作成し、徹底した差別を続けてきました。二十二日の東京地裁での和解は、石播が八人の原告に謝罪し、「会社および従業員がやってはならない差別の事例」を十四項目にわたって明記した再発防止策を確約しました。

 鉄鋼最大手の新日鉄の広畑製鉄所では六〇年代以降、日本共産党員や支持者にたいし、上司が変節を強要したり、野球チームから退部を勧告されたり、仕事に欠かせないクレーンやフォークリフトの免許を取得する機会まで奪ってきました。

 八九年には、「第四クラフト」という隔離職場に配転。会社が反共インフォーマル(秘密労務)組織を使って、日本共産党員らを四六時中監視させるとともに、口をきかない、職場の行事に呼ばない、香典を受け取らないなど、ありとあらゆる“職場八分”状態においてきました。

 これに、人権じゅうりんと差別の撤廃、賃金差別是正を求めて九八年、五人の労働者が神戸地裁に提訴したものです。

 二十九日の地裁判決は、「かかる取り扱いは、いずれも、原告らが共産党員であることを理由とする差別的な取り扱いである」と明確に認定し、組織的・系統的な反共労務政策をくり返してきた新日鉄を断罪しました。

攻撃は打ち破れる

 鉄鋼や造船などの大企業は、八〇年代後半から大規模なリストラ・人減らしを強行しました。

 これに反対する日本共産党員やその支持者、まじめな労働者を狙い撃ちにして、仕事をとりあげ、隔離、みせしめにして全労働者への支配を強化しました。

 新日鉄では、自由にものがいえない職場がつくられ、安全軽視、利益第一主義のリストラで労働者の声が無視され、従来一組五人でしていた作業を一組四人に減らされたり、人減らしによる一人作業が増えました。その結果、昨年、名古屋製鉄所でガスタンクが爆発炎上し、北九州市の八幡製鉄所や千葉県の君津製鉄所などで九人もの死亡災害が続発して社会問題になりました。

 労働者の声を代表して、ものをいう日本共産党員らを差別し、労働者の自由を奪った結果がもたらしたものです。

 鉄鋼などの重大事故について、財界総本山の日本経団連も「まことに憂慮すべき事態。リストラに走るあまり将来的な人材力の蓄積が損なわれていないか。経営幹部は、自らの責任であるとの認識を持つべき」(「経営労働政策委員会報告」)というほどです。

 新日鉄の五人の労働者が隔離職場に配転されて十五年、裁判に立ちあがって六年。苦しく長いたたかいでしたが、「大企業に憲法はない」といわれるような状況でも、憲法や労働基準法に依拠してたたかえば、大企業職場でひどい攻撃を打ち破れるということを明らかにしました。

 八〇年代後半の日本鋼管(現JFE)、九〇年代の東京・中部・関西の電力各争議に続いて、反共思想差別をやめさせ、職場に自由と民主主義を確立する大きな意義を持った、たたかいです。また、クラボウや三井造船などでいまも人権侵害や思想差別とたたかっている労働者を大きく励ますものになっています。 名越正治記者


こんな差別とたたかった

「隔離職場」に配転
賃金は最低ライン
家族の葬儀にお悔やみもない
退職あいさつもさせてくれない

井原原告団長 感無量、誇りに思う

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 「感無量です。日本共産党員としてたたかってきたことを誇りに思います」―。勝利判決を受けて、原告団長の井原達雄さん(66)は、晴れやかな笑顔で語りました。

 井原さんは入社以来三十年、機械運転係として腕を磨きました。安心して働ける職場をつくりたいと一九五九年、日本共産党に入党。たたかいの先頭に立ってきました。

 新日鉄は、井原さんら日本共産党員の活動を嫌い、八九年、「第四クラフト」という隔離職場に配転しました。

後輩から“おい”

 「最初、ここが人権侵害の職場だと知らなかったんです。“労働者の比率”を見て、はっきりわかりました」

 “労働者の比率”とは―。反共インフォーマル(秘密労務)組織の労働者が六割、日本共産党員が四割という労働者の割合です。「何度配転があっても、この比率だけは絶対に崩れなかった」

 会社による監視体制が強まり、退職までの九年間、耐え難い人権侵害に苦しみました。「おい、井原」と後輩から名前を呼び捨てにされ、賃金は最低ライン。香典を持っていっても受け取らない、家族の葬儀にお悔やみの言葉一つもない…。

 「一番つらかったのは、定年で退職のあいさつをさせてくれなかったことです」と井原さんは悔しさをにじませます。

 裁判闘争では、四十七都道府県を回って団体署名を訴えました。

 「『巨大新日鉄と五人でたたかって本当に勝てるのか』とよういわれました。私が『難攻不落の城でもアリの一穴から崩れるというでしょ。風穴を開けたいんです』というたら、みんな署名してくれました」。その数は六千団体に上りました。

「えらい低いな」

 妻の桂子さん(61)は、「私は、給料がえらい低いなとしか思っていなかったけど、裁判のなかでいろんな差別を受けていたことを知って驚きました。この人は、自分のためにだけやっているんではないんやなぁと感動しました」と語ります。

 井原さんは「お金のためでなく人権侵害をなくすためにたたかってきました。『第四クラフト』が人権侵害の職場だと裁判所が認めたことが最高にうれしい。これからも、職場の安全を守り、人権侵害をなくすためにがんばっていきたい」。

 兵庫県・塩見ちひろ記者


新日鉄人権裁判判決 (要旨)

 二十九日、神戸地裁姫路支部で出された新日鉄人権裁判の判決(要旨)は次の通りです。

 1、被告の反共労務政策について

 広畑製鉄所は、昭和四十年頃から、作業長会や工長会、広労研などの組織(※)を通じて、組合役員から共産党員を排除するための施策をおこなってきたと認められる。

 2、被告の原告らにたいする差別的行為の有無

 原告らは、昭和三十七年以降、上司等から、民青や共産党からの転向を勧められたり、野球チームからの退部を要請されたり、クレーンやフォークリフトの免許取得の機会を与えられないなどの取り扱いを受けたほか、第四クラフトへの配転により他の従業員から隔離された。いずれも、共産党員であることを理由とする差別的な取扱いであると推認できる。

 3、昇給昇格格差の合理性

 原告らが主事昇格試験に合格していないことによる昇格格差には合理性があり、原告らが主担当にとどまっていることを広畑製鉄所の反共差別意思に基づくものと推定できない。原告らは、共産党員であることを理由に職務遂行能力を低く評価されたため、昇給面で最低レベルの処遇を受けてきたことが推認される。

 4、原告らの損害額

 昇給面での最低の処遇による損害は慰謝料の算定でしんしゃくするのが相当。精神的苦痛を慰謝するに足りる金員は、原告井原について二百万円、その余の原告らについて各三百万円が相当である。


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