日本共産党

2004年3月22日(月)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集

成果主義賃金って何だ

“がんばっただけ報われる”はホント?


 “がんばっただけ報われる”――企業がこう宣伝する成果主義賃金制度。低い賃金に不満をつのらせる若い労働者に、期待をもたせるうたい文句です。いま多くの大企業が、本格的な導入をすすめています。ほんとうに“がんばっただけ報われる”のでしょうか。 畠山かほる記者


成果はどう測る?

図

 成果主義賃金は、単年度ごとに個人の仕事の実績を賃金に結びつけることで、労働者を競わせ、「やる気と生産性」を高めようとする制度です。

 「成果」で賃金が変わるというなら、労働者にとって、競争する条件が公平であること、評価結果が公正で納得できることは欠かせません。

仕事の選択は

 まず、競争条件の公平性はどうか。労働者が仕事を選ぶことはできるのでしょうか。

 配属先が会社の重視する成長事業か、撤退対象の事業か。自分の経験を生かせる分野か、経験のない分野か…。どの部署で何を担当するのかは、仕事の結果を左右する重要な問題です。

 希望通りに配置すれば、部署によって配置人員が偏り、会社運営が成り立たなくなります。全員の希望を受け入れることは不可能です。

評価は公正か

表

 評価の公正さはどうか。一人ひとりの労働者の「成果」はどうやって測るのでしょうか。

 大企業ほど、仕事内容は細分化されています。技術職では、一つの製品を設計するには各パーツごとに担当チームがあり、多数の労働者がかかわっています。研究職でも、チームによる個別の調査・分析と集団的検討を積み上げて、一つの成果に到達するのが通常です。成果を直接測りにくい総務など間接部門にも、多数の労働者が働いています。

 多くの労働者による共同の「成果」を、個人ごとに評価することなどできないことです。測れないものを無理に測り、単年度ごとに評価の差をつければ、恣意(しい)的な評価にならざるをえません。

 松井証券の松井道夫社長は、「しょせん、評価は好き嫌いだ。それ以外にはやりようがない」(三月五日開かれた金属労協の集会、連合通信三月十三日付)と語っています。

マンガ

全員達成では

 評価の公正さにかかわってもうひとつ。労働者全員が目標を達成したら、みんなが高い評価と賃金を得られるのでしょうか。

 成果主義は、企業業績への貢献度に応じた賃金・処遇制度です。今日、大企業各社は、事業部ごとに業績にもとづく厳しい予算管理をしています。

 このため、会社や所属部門の業績が下がれば人件費枠は低くなり、全員が目標を達成しても賃金は上がらず、下がることになります。業績がよい場合も、会社が認めた予算の枠内にとどまるので、各労働者が納得できる評価と賃金を得ることは困難です。

 企業は、限られた人件費のもとで労働者の意欲を保つため、ごく一部の労働者に高い評価をすることがあります。しかし、それは成果をあげても賃金が上がらない多くの労働者を生み出すことになります。

 このように、成果主義賃金は公平でも公正でもありません。労働者の納得が得られにくい矛盾をもった制度です。労働者が逆にやる気を失い、結局は企業活力をそぐことになります。

大企業のねらいは?

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 それでも大企業が成果主義の導入にこだわるのは、なぜでしょうか。

 財界総本山の日本経団連(会長・奥田碩トヨタ自動車会長)は、二〇〇四春闘にむけた「経営労働政策委員会報告」で、そのねらいを語っています。報告は、「自社の付加価値生産性に応じた総額人件費管理を徹底」し、「賃金水準の適正化と年功賃金からの脱却」をはかるとして、「能力・成果・貢献度などに応じた賃金制度」を徹底すべきだと強調します。「短期的な業績向上による成果配分は、賞与・一時金によって従業員に還元していくべきである」とものべています。

 言いかえれば、徹底して総額人件費を抑えるということです。そのために“年功賃金をやめて成果主義賃金を導入しろ、業績が上がっても賃金は上げるな”という主張です。

 あいまいな評価で賃金を決める成果主義賃金制度は、人件費削減をねらう大企業にとってきわめて都合のいい制度だといえます。


“先進国”アメリカでは?

成果主義賃金は労働者の20%

 成果主義“先進国”といわれるアメリカでは、どうなっているのか。

 意外なことに、労働者の80%は年々賃金が上がる年功制で、成果主義賃金は20%のエリート社員にすぎないといわれています(竹村之宏多摩大教授『エコノミスト』〇三年十一月四日号)。

 別の学者の調査によると、アメリカのホワイトカラーの賃金は、係長クラス以下で基本給98%、成果給にあたる業績給が2%です。部長クラスでも基本給76%、業績給24%にすぎません。この基本給は、査定を含みますが減額することはまずなく、仕事経験の幅や深さをもとにした定期昇給です(小池和男東海学園大学教授「国際相場をこえた短期化」財務省財務総合政策研究所『フィナンシャル・レビュー』〇三年一月)。

 技能職を含む全社員を対象に、定期昇給を廃止し、役割・成果による査定と評価で賃金をきめようとする日本企業の異常さが浮きあがります。


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見直し迫られる企業も

「職場の連帯失う」「部下の育成軽視」

 成果主義賃金は、職場から矛盾が噴き出しています。“少ない人件費でより働かせて高い生産性を”という財界・大企業のもくろみ通りに、ことは進んでいません。

 「短期的な成果だけを追い本質的な生産性の向上を見失う」「職場の連帯感が失われる」「部下や後輩の育成が軽視される」「失敗を恐れて高い目標に挑戦しなくなる」「個人の努力やプロセスが評価されず不満がたまる」。これは、産業界の労資などでつくる社会経済生産性本部が、成果主義を導入した企業での問題点をあげたものです。

 同本部は「成果主義に一元化された人事制度は、日本では成立し難(い)」と、成果主義導入に否定的な見解を示しています(「日本型成果主義研究委員会報告」〇二年七月)。

 こうした矛盾は成果主義賃金を導入した企業に見直しを迫っています。東海ゴム工業は「士気の低下という新たな問題を引き起こしてしまった」(近藤和雄・取締役人事部長、朝日新聞「be」一月十七日付)ため、廃止した年齢給を四月から復活させることを決めました。



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