日本共産党

2004年3月7日(日)「しんぶん赤旗」

国家公務員法違反を口実とする弾圧を許さない

ビラ配布不当逮捕、起訴

自由法曹団が声明


 「しんぶん赤旗」号外の配布を口実に社会保険事務所職員の堀越明男さん(50)が不当逮捕、起訴された事件で、自由法曹団(坂本修団長)は六日、「国家公務員法違反を口実とする弾圧を許さない」と題する声明を発表しました。


 一、今月三日、警視庁公安部は、昨年十月の総選挙時に、「しんぶん赤旗」号外などを勤務時間外に居住地で配布した行為が、国家公務員法違反であるとして、厚生労働省・社会保険庁目黒社会保険事務所に勤務する堀越明男氏を逮捕し、東京地方検察庁は、送検された翌日に、即日起訴するという暴挙を強行した。

 すでに多くの自由法曹団員は、この不当な弾圧に対し弁護活動にとりくんでいるが、この弾圧の重大性にかんがみ、千六百人余を結集している自由法曹団として、全団員の怒りと決意をこめて、ここに声明する。

 二、本件は、この数十年間、例を見ない違法・不当な人権の侵害であり、目にあまる政治的弾圧である。

 人は誰もが、言論、表現、思想、良心の自由をもっている。自ら信じ、自ら思うところを広く人々に伝えること、そして、そうした情報を誰でも知ることのできることは、民主主義の基本である。日本国憲法はそのことを「侵すことのできない永久の権利」(憲法第一一条、同一九条、同二一条)として保障し、国連の世界人権宣言(第一九条など)も人間社会の公理として明記している。

 国家公務員だからといって、こうした基本的人権を奪われる理由はどこにもない。戦後、マッカーサー書簡に基づく政令二〇一号に由来する国家公務員法と人事院規則は、もともと違憲無効なものである。

 たしかに、この憲法違反の法律と規則は、今日なお、廃止されてはいない。しかし、憲法との矛盾はあまりにも明白であるが故に、人事院は「禁止規定の適用は、その行為の態様、社会通念に応じて具体的に判断して規則を運用すべきである」としてきた。こうした通達と、なによりも、人権侵害を許さずたたかった労働者、国民の努力によって、実際には、本件のような勤務時間外のしかも居住地での一市民としての政治活動については、適用は不可能とされてきていたのである。

 にもかかわらず、今回、警察および検察は、数十年にわたるこうしたルールを破って、本件弾圧を強行した。

 警察は、昨年十月の行為を四カ月以上たってから、堀越氏を任意出頭すら求めず、いきなり逮捕した。捜索は多数の警察官を動員し、日本共産党千代田地区委員会はじめ六カ所に及んだ。同委員会の捜索は、三十名余の警官で約六時間に及び、パソコンまで押収した。同党中央区区議宅では、五年前の一九九九年以降昨年までの区議の手帳まで押収している。これらの逮捕・捜索には、あらかじめ警察が連絡して多数のマスコミ記者らが集められていた。まるで「天下の大罪」扱いである。

 一方、検察は、「裁判所に法の正当な適用を請求」すべき職責(検察庁法第四条)を負っているのに、目的でもやり方でも違法な捜査に加担し、公訴権を乱用して即日起訴するという暴挙を行った。

 検察が違憲の国公法理と人事院規則を合憲とする立場に立っても、起訴するかどうかは「行為の態様、社会的通念に応じて具体的に判断」しなければならないこと、警察の違法なやり方を容認してはならないことは当然の事理である。かつて、検察は一九八三年の東京貯金局国公法違反事件について、私たち自由法曹団員の弁護人らをはじめとする人々の意見をも聞き、労働者を警察が国公法違反で逮捕・送検したときに、慎重に捜査し、不起訴処分にしたことがある。最小限ではあれ、そこに検察の「良識」が働いていた。それに比べて、今回の即日起訴はまさに「問答無用」「切り捨て御免」のやり方だと言わなければならない。そこには一片の「良識」もない。警察と意を通じての権力―公訴権―の乱用がされたことは明らかである。

 三、自由法曹団はこうした警察と検察が一体となっての前例のない暴挙に、全団をあげて抗議する。自由法曹団はその八十余年の伝統がそうであったように、誰であれ、その思想信条、立場のいかんにかかわらず、違法不当に権力によって人権を侵害された人の人権を守ってたたかう。同時に、私たちは、憲法に違反するイラク出兵が強行され、わが国を「戦争をする国」に仕立てあげるために、国民総動員法などの有事諸法が上程され、憲法改悪が数年の射程で計画されているときに、本件弾圧が行われたことを重視する。

 「戦争をする国」にするために、民主主義と人権を奪うということは、戦前の痛苦の歴史が証明しているところである。本件は、一人の労働者、市民の人権が侵害されただけではない。多くの国家公務員労働者の権利が脅かされているだけでもない。警察と検察は、すべての国民の人権に、権力による規制という“大網”をかけようとしているのである。本件弾圧は、民主主義のない“暗闇の日本”そして、“戦争をする国”への暴走につながっている。このことは、二月に自衛隊のイラク派兵に反対する市民のビラ配りに対し、逮捕・捜索が行われたことによっても証明されている。

 四、自由法曹団はこの許しがたい弾圧の重大性を直視する。しかし、二十一世紀の今日、世界の流れにも反するこのような弾圧は、けっして成功するものではない。すでに広範な人々から抗議の声が上がっている。マスコミの中からも「極めて異例」という疑問や、「懸念続々、反戦排除につながる、言論自由の弾圧も」という報道が現れている。世界からも、フランスの法律家団体(『法と連帯』協会)がきびしい抗議声明を発している。

 本件弾圧は、あまりにも乱暴で非常識であり、その内容でも、やり方でも、二重三重に大きな弱点を持っている。真実と正義を求める人間の力はつよく、それ故に、みんなが声をあげ、力を合わせれば、“歴史の歯車”の逆転を許さず、この弾圧をはねのけることは必ずできると私たちは確信する。

 自由法曹団は、

 第一に、公訴権の乱用である本件起訴を検察がすみやかに取り消す(刑訴法二五七条)ことを要求する。

 第二に、もし、検察がこの要求に応じないときは、来るべき公判において、真実を明らかにし、憲法と人権の大義を掲げ、広範な国民と力を合わせ、無罪をかちとるために、直接に弁護を担当する弁護団とともに、全団の力を結集してたたかう。

 右声明する。


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