2004年2月29日(日)「しんぶん赤旗」
岩手県東南部、陸中海岸国立公園の南端・陸前高田市(人口二万六千人)に、中里長門市長(57)=前日本共産党市議=が誕生してから一年がたちました。昨年は公約通り、市民から「無駄だ」と批判の強かったタラソテラピー(海洋療法)施設の建設を中止。そして二年目―中里市政は、市民とともにどう歩んでいるのでしょうか。
東北総局 吉武克郎記者
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二月二十六日に始まった市議会で、中里市長は、そう施政方針を表明しました。二〇〇三年度に比べて、財政規模はマイナス1・8%と縮小。そのなかで、第三子保育料の無料化などの生活支援や、特産のカキやホタテを生かした水産業振興、林業の担い手対策事業など、地域経済の活性化を訴えました。
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この一年の間に中里市政は、八億円のタラソ建設を中止。全会一致で、国保税の引き下げや乳幼児医療費の就学前までの無料化などを実現してきました。
「中里市長は、公約の実現に向け十二分にやってくれている」―中里市長を誕生させた「あたらしい陸前高田市をつくる市民の声」の米澤政敏会長(52)=理髪業=は、そう評価します。同会は二月七日、保守系を含む七人の与党議員と市民ら百七十人が集まって総会を開き、今後も市長を支えることを確認しました。
「今後は、どう地域経済の振興や生活支援を進めていくのか、総合的なビジョンを示していかなくては。昨年はタラソをやめさせた。これからは、市民が『市政は変わったな』とハッキリと感じるような、建設的な施策を進めてほしい」
有効求人倍率は県全体の〇・六一倍を下回る〇・五三倍(二〇〇三年十二月)。市内経済は低迷が続きます。中里市長が始めた市民との懇談会や、市長直送の手紙には、経済振興を渇望する声があふれています。
「七十、八十まで出稼ぎしたくない。『出稼ぎのまち』から脱却して、安心して生活できるまちづくりを…」(六十三歳の男性からの手紙)
陸前高田市の基幹産業は第一次産業。市として、どう安心して水産業や林業に取り組める環境をつくるかは、中里市政の最大の課題です。
二〇〇三年は、低気圧や、地震の津波によるワカメやカキ、ホタテの養殖施設への被害が相次ぎました。中里市政は、より頑丈な施設にするための事業を漁業関係者と協力して進めてきました。
「カキの養殖業者も、不況で苦しい。災害が起きたときに迅速に対策をとってくれたことは、ありがたかった。第一次産業を重視するという点では、市長には引き続き努力していただきたい」。市内の漁協関係者からも評価の声が聞かれます。
保育所や学校、市営住宅など、公共施設に地元産木材を用いることも、経済振興策の一つ。中里市長の、市議時代からの提案でもありました。
タラソテラピー タラソは「海洋」、テラピーは「療法」という意味。海水や海藻、海泥など海の資源を用いて身体の機能を活性化させるという自然療法。 |
気仙木材加工協同組合連合会の鈴木正専務理事は「この十年間ほどで、原木の価格は、輸入材の影響で半分ほどになっている。市が地元材を使う姿勢を見せることには意味がある」と語ります。
中里市長は、施政方針演説のなかで「産業振興は成果をあげるのが難しい分野だが、避けられない課題だ」と述べ、新たな取り組みへの決意を明らかにしています。
市民生活が苦しさを増すなか、市政は市民とともにどう前進するのか。二年目の中里市政が注目されます。
中里市長の話 この一年間、幅広い市民のみなさんと一致できる点で出した公約は、何が何でも実現するよう努めてきました。 経済振興は、とくに重視しました。カキの初出荷の際、東京の築地市場に出向き、漁協関係者と一緒に売りこんだこともありました。市内に工場を設けている企業の本社を訪ね、撤退することのないようお願いして歩いたこともあります。現在、市内から撤退した企業は一つもありません。 苦しい財政状況ですが、市民と一緒に、今後も市政に取り組みたいと思います。 |