日本共産党

2004年2月28日(土)「しんぶん赤旗」

オウム事件

極刑判決で終わらない

問われる行政・警察の責任


 地下鉄サリン、松本サリン、坂本弁護士一家殺害など十三事件すべてで有罪。二十七日、東京地裁は、オウム真理教教祖の松本智津夫(麻原彰晃)被告(48)に死刑判決を言い渡しました。極刑の判決を被害者はどう受けとめたか。その思いや、残された課題は――。

遅れる公的救済 「アフターケア」制度も知らされず

 地下鉄サリン事件の被害者の女性は後遺症がひどくて働けず、障害年金と生活保護を受給。被害者への損害賠償金を受け取ると、生活保護を打ち切られ、返還も要求されました。女性は厚生労働省などに働きかけました。やっとの思いで賠償金を収入と認定しないことになり、生活保護費の返還をしないですみました。

 「犯罪被害者がなぜ、このような仕打ちをうけるのか。体を元に戻して。それができないなら少しでも救済することが国の責任」―女性は、これまでの本紙の取材に幾度となく、訴えました。

 オウム犯罪被害者への公的救済や支援は大きく立ち遅れたままです。

 一連の事件の被害者にたいし、出された犯罪被害者給付金総額は六千六百万円。対象が被害者が死亡した場合と重度の障害を負った場合だけだったからです。

 地下鉄サリン被害者にたいし、国は労災認定をしました。が、その対象は被害者約五千五百人のうち七割弱。その労災認定被害者の後遺症対策である厚生労働省の「アフターケア」制度利用も現在までわずかに十二人です。多くの被害者が制度の存在すら最近まで知らされず、利用支給額は、九七年来の合計で百九十万五千円にすぎません。

健康被害も深刻 「後遺症の訴えに耳傾けてほしい」

 健康被害もいぜん深刻です。サリン被害者救済を続けるNPO法人「リカバリー・サポート・センター」(東京・新宿区)はアンケート調査(発送千五百七十三人中に有効回答が四百三十人)をおこないました。身体症状の上位三位は(1)体が疲れやすい(2)体がだるい(3)頭痛がする▽精神症状では(1)体が緊張している(肩こり、手に汗をかく)(2)忘れっぽい(3)気力がなくなった、憂うつな気分になる――でした。

 同センターの磯貝陽悟事務局長は「九年たっても後遺症の訴えが減りません。麻原の映像を見て震えが止まらない、眠れないなどの訴えがあります。サリン被害の後遺症の訴えについて厚労省はじめ行政は真剣に耳を傾けてほしい」といいます。

オウム増長させた行政と警察の対応

 遺族、被害者があらためて口にするのが、オウム真理教への行政対応の遅れと警察捜査の問題点です。

 オウムは、一九九〇年にはいり、山梨県上九一色村で、サティアンと称する違法建築、廃液たれながしなどの無法をくりかえしました。傷害・監禁事件なども起こしていることもわかりました。

 しかし、行政も警察も有効な手だてをうたず、オウムを増長させたのです。

 警察は坂本弁護士一家殺害事件で、当初からオウムの犯罪をうかがわせる有力証拠もありながら、「拉致事件」とせず、「失そう事件」と認定。強制捜査に踏み出しませんでした。一家殺害にかかわったという信者の証言もえながら、事実上放置したのです。松本サリン事件では、被害者を加害者に“でっちあげ”ました。

 警察庁長官は、二十六日、オウムの一連の事件捜査に一応「反省」を表明しましたが、なぜそうだったのか国民が納得する説明さえもありません。大きな課題が残ったままです。


「間違い」と謝罪してほしい

 オウム真理教家族の会(旧・被害者の会)会長・永岡弘行さん(65)

 「自分が間違っていた」と謝罪し残っている信者を救ってほしい――。麻原被告に望むことはこの願いだけです。法廷での麻原は、人に嫌がらせをするかのように“にやっ”と笑っていました。何も変わっていません。予想通りです。

 信者は、麻原によって自分の頭で考えられない人間にされました。親のいうことに聞く耳をもたない人間にされました。麻原は、オウムを信じない親を前世で敵対していた者といい、本当の親は「私だ」と説きました。出家した子の親を見る目は「敵対者」を見る目そのものでした。

 麻原の目的は、「人間の破壊」だったと思います。麻原は裁判のある時期からしゃべらなくなりました。死刑になると分かって信者を「道連れ」にするつもりでしょう。

 信者にとって麻原はいまでも「偉大なグル」です。親よりも麻原のいうことに価値があると思い込んでいます。麻原の口から「すべて間違いだった」と謝罪の言葉が聞かれれば、信者のマインドコントロールを解くきっかけとなるでしょう。

 自分の頭で考えられるもとの人間に戻すには入信していた年月と同じ年月がかかるでしょう。親がベストを尽くしていくしかありません。

 麻原自身は、死刑でも死刑判決をすでに受けた被告は、無期懲役ぐらいにならないのか。彼らは「加害者」でありながら麻原のマインドコントロールの「被害者」であったからです。


警察が強制捜査遅らせた

 一九九〇年から山梨県上九一色村富士ケ嶺地区でオウム真理教(現アーレフ)とたたかってきた竹内精一・日本共産党上九一色村村議(75)

 判決は当然だが、未解明の問題はたくさん残されたままで、最後まで麻原被告は何も語らず後味の悪い判決だと思う。

 それは、麻原被告が自分の犯した罪について真摯(しんし)に向かい合うことをしなかったことにある。何の落ち度もないのに殺された被害者とその遺族。いまだに後遺症に苦しむ人々。極刑でも決して受け入れられない。

 いまだにオウムに新しく入信する若い人がいるのは、麻原被告の謝罪がないからだ。人格をすべて麻原に任せる若者たち。純粋な青年が多い。脱会をすすめ親に引き渡してきたが、地道な説得が必要だ。

 真相が明らかになっていないことのもう一つは、オウムとサリンテロを結ぶ情報は早くからあったのになぜ警察は強制捜査を遅らせたのかだ。

 坂本弁護士一家殺害事件、上九一色村でのオウムの違法な妄動を取り締まっていたならばサリン事件は防げた。

 被害者を救済する制度がない。はじめてサリン被害を体験した国民にたいする国の責任は、健康破壊に対する恒久対策を講じることだ。


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