日本共産党

2004年2月22日(日)「しんぶん赤旗」

「マクロ経済スライド」

生存権おびやかし、何が安心

憲法25条の最低限度にもほど遠い基礎年金


 国会に提出された年金改悪法案は、いまでも低い国民年金の給付水準を二〇二三年度までに実質15%切り下げます。憲法二五条(生存権の保障)にもとづいて老後の生活を支えることが目的の国民年金の土台を否定する、歴史的改悪です。


給付の引き下げ際限なし

 政府・与党は「現役世代の平均的収入の50%以上を確保する」としていますが、この対象となるのは厚生年金の「モデル世帯」(夫が四十年加入で妻は専業主婦)など一部にすぎません。共働き世帯、単身世帯は40%、30%台です。

 国民年金だけの給付だと、これにはるかに及びません。経済産業省の試算によると、夫が四十年間自営業、妻は主婦という片働き世帯は33%。夫婦とも四十年間自営業という共働き世帯は21%です。これを15%切り下げるのですから、20%、10%台の給付水準でがまんさせられるのです。「百年安心の年金」(公明党)などというのは詐欺にも等しい宣伝です。

 しかも「マクロ経済スライド」がいったん導入されれば、少子化などの進行程度によって、政府の裁量でよりいっそうの給付引き下げが可能になります。実態は、引き下げに歯止めをかける下限などないのです。

 厚労省は、「マクロ経済スライド」を実施する「スライド調整期間」は二〇二三年まで、「スライド調整率」は0・9%を見込んでいます。しかし、実際に「スライド調整期間」がどれぐらいの長さになるのか、「スライド調整率」が何パーセントになるのか、政府の裁量に任される政令で定めることにしています。「マクロ経済スライド」は、政府に際限ない給付引き下げの「フリーハンド」を与えるものです。

国民年金 平均4万6千円

暮らしにも事欠くのに

写真
日だまりでくつろぐお年寄り

 国民年金(基礎年金)は公的年金すべてに組み込まれ、四十年間保険料(月一万三千三百円)を払いつづけて満額の六万六千四百円を受け取ることができます。国民年金が公的年金の一階部分となり、厚生年金など(被用者保険)はこれに賃金に応じた給付(報酬比例部分)が二階部分として上乗せされます。

 中小業者や失業などで仕事のない人は国民年金のみの加入となり、二階部分の支給はありません。国民年金のみの加入者への給付は平均で月額約四万六千円(〇二年度)にしかならず、満額給付を二万円も下回っている状態です。この給付水準を目減りさせようというのが今回の改悪です。

 厚生年金の給付水準を現行の59・3%(現役の平均収入比)から50・2%へ15%切り下げる制度改悪を横並びで国民年金にあてはめるのです。

 国民年金は、福祉や社会保障を向上させなければならない国の責任(憲法二五条)にもとづいて給付されるもので、老後の生活不安をなくすだけでなく、生活が良くなることを目的とすることが法律(国民年金法)で決められています。これまでは老後の生活の基礎的部分の保障を目標に給付額が増やされてきました。基礎的部分の中身となるのは、高齢者世帯の基礎的消費支出で、「これは食料、住居、光熱水道、家具・家事用品、衣服および履物、こういったものの合計」(矢野朝水・年金局長、九九年三月衆院答弁、当時)です。

 該当するのが総務省の全国消費実態調査で、この合計は約六万円、夫婦二人で約十二万円(一九九九年)で、高齢者に欠かせない保健医療費を含めて一人あたり約六万六千七百円。満額給付でようやく足りる水準なのに、実際の国民年金の給付平均はさらに低い月四万六千円。しかも調査のなかの食料費は一人三万一千四百円。一日千円で朝昼夜三食をまかなうというものです。

年金給付、実質目減り

グラフ

 生活の安定を考えず給付水準切り下げを行う方法が、「マクロ経済スライド」という新しい仕組みです。

 いまの年金制度は、労働者一人あたりの平均賃金が上昇すれば、その分年金も引き上げるようにしています。「マクロ経済スライド」は公的年金全体の加入者(被保険者数)が減ることを理由に、給付水準の引き下げにつなげる仕組みです。今後の少子化による保険料の減収を自動的に給付抑制につなげることをねらったものです。

 さらに「マクロ経済スライド」は、年金受給者の給付期間が長くなること、つまり平均余命の伸びに連動して給付水準を下げる仕組みになっています。これら少子化の進展、長寿化の二つの要因によって、厚労省は平均年0・9%程度(スライド調整率と呼ぶ)下げていくことを見込んでいます。

 新たに年金を受け取る高齢者(新規裁定者)の場合は賃金上昇率から「スライド調整率」0・9%を差し引き、すでに受給している高齢者(既裁定者)は物価上昇率から差し引いて、それぞれ毎年給付水準を落としていきます。

 かりに年間の賃金上昇率が2・1%、物価上昇率1・0%の場合、「新規裁定者」の給付額は賃金上昇率から0・9ポイントを差し引いて1・2%増、「既裁定者」は物価上昇率から0・9ポイントを差し引いて0・1%増とします。これが繰り返し実施され、厚労省の試算で二〇二三年度に受け取る年金額は、「マクロ経済スライド」が導入されない場合と比較して、約15%の給付減となるのです。

賃金・物価下がれば給付額を削減

 政府与党は「マクロ経済スライド」で受けとっている途中で給付の名目額を下げることはない、引き下げ圧力の「スライド調整率」(0・9%)が賃金は物価の上昇率より大きくなった場合は名目額を維持するとしています。しかし賃金・物価が下がった場合には、下落分の年金額を引き下げる「賃金スライド」「物価スライド」が実施されます。

 「物価スライド」による年金削減は、〇三年度実施され(0・9%減)、〇四年度も実施(0・3%減)されようとしています。改悪案にはさらに、検討中だった九九年から〇一年の過去三年間の物価下落分(1・7%)についても実施することをもりこみました。〇五年度以降にある物価上昇分を相殺する形で実施するとしています。

 物価が上がった場合は「スライド調整率」で差し引かれて、物価が下がった場合は「物価スライド」の優先適用で給付を減らす――そこに政府の責任で生存権を保障するという憲法の精神はなにもありません。


高齢者の収入 6割が「年金のみ」
グラフ

 収入は年金のみという高齢者世帯は、政府の国民生活基礎調査で、公的年金を受給している高齢者世帯の59.6%を占めています。

 18日の党首討論で、日本共産党の志位和夫委員長に対し小泉純一郎首相は「年金以外の収入のあるお年寄りもいる」と答えました。実態をまったく無視しています。

 金融広報中央委員会の「家計の金融資産に関する世論調査」(2003年)で、老後の生活について「心配している」と回答したお年寄り(65歳以上)は75.6%にのぼります。不安の内容について「公的年金があてにならない」が60代の53.3%で、年金額について「日常生活費程度もまかなうのが難しい」という65歳以上のお年寄りは38.7%となっています。


国民年金受給額 月2万、3万円台が46%
グラフ

 国民年金のみの受給者は、01年度末で889万4500人です。(社会保険庁調査)

 そのうち、受給額が月3万円未満の人が全体の12.9%、3万円以上4万円未満の人が33.1%です。国民年金受給者の46%にものぼる人が、月4万円未満の年金しか受け取っていません。

 また、国民年金受給者のうち、女性は648万6900人で72.9%を占めます。うち、受給額が月3万円未満の人が15.2%、3万円以上4万円未満の人が34.9%です。月4万円未満の人が5割以上を占めています。

 「マクロ経済スライド」による給付水準引き下げは、こうした低い年金額で生活している人にも適用され、老後の生活に大打撃を与えるものです。



財政問題だけの年金改革
社会保障の名に値しない
中央大学経済学部教授
工藤 恒夫さん

 日本の年金制度は、厚生年金の民間サラリーマン、これに厚生年金基金が上乗せされている大企業労働者、共済年金の公務員、国民年金だけの自営業者など、階層ごとに分かれていることに特徴があります。

 国民年金しか受け取っていない層は、もっとも受給者が多いのですが、受け取っている年金額は、平均で月五万円程度にすぎません。憲法二五条に明記された「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するには、政府の試算でも十万円以上必要ですが、その五割程度しか受け取っていないのです。

 基礎年金が、最低生活の保障を満たしていないという状態は、日本の年金制度の最大の問題です。社会保障制度がある先進諸国では考えられないことです。そのことを政府は一切認めず、今回の年金「改革」では「給付と負担のバランス」という財政の問題だけをとりあげ、「マクロ経済スライド」で、基礎年金額まで給付水準を減らそうとしています。

 日本の社会保障制度の問題点は、資本家、大企業の拠出分が低く抑えられてきたことです。一九七〇年代までは、国がある程度カバーしてきましたが、八〇年代から国庫負担を削減する政策に転換しました。国民に「自助努力」を求める流れになったのです。

 他の国では、日本の国民年金に相当する基礎年金は、全額国庫負担のところがほとんどです。最低生活を保障する基礎年金の給付を下げるというのは問題外で、日本の社会保障制度が、ますます社会保障の名に値しないものになってしまいます。



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