日本共産党

2003年12月12日(金)「しんぶん赤旗」

住友金属賃金差別訴訟

「ヤミ人事制度」で女性差別

学歴・仕事に関係なく 最下位ランクに

裁判所への資料隠し発覚


 女性を最低レベルに位置づける「ヤミの人事制度」で差別し、裁判所の命令に反してまで差別の証拠を隠そうとする−−昇進・賃金の男女差別是正を求めて、住友金属大阪本社(大阪市中央区)の女性社員四人が大阪地裁に訴えた裁判で、同社の違法な労務管理と卑劣な実態が明らかになっています。提訴から八年、裁判は、いよいよヤマ場です。 (大阪府・小浜明代記者)

 住友金属大阪本社の足元の淀屋橋駅周辺でこのほど、原告と支援者ら五十八人が事実を暴いたビラを配りました。その数三千五百枚。住友金属の労働者を含め、出勤をいそぐ労働者が次々ビラを受け取り、熱心に見入る姿であふれました。社会的な関心が高まっているなかで、大企業住友金属はまさに追いつめられようとしています。

 原告は、北川清子さん(63)、井上千香子さん(53)、笠岡由美子さん(49)、黒瀬香さん(47)。高校卒業後、一九五九年から一九七五年にかけて住友金属に入社し、事務職として働き続けています。(北川さんは定年退職)

 女性たちは、同じ高卒の男性事務職との差別是正を求めています。これに対し会社側は、「男性は本社採用、女性は事業所採用。採用の区分が違うのだから、男女差別ではない」と主張しています。ところが、社員にまったく知らされていない「ヤミの人事制度」資料が発覚し、会社側の主張が破たんしました。

 「ヤミの人事制度」(表)は、会社の裏資料で明らかになったもので、事務職の社員を「イロハニホ」の五段階にランクづけて処遇・管理する制度です。女性を学歴・仕事にかかわらず最下位ランクの「ホ」に押し込めています。

 技能職から事務職に職掌転換した高卒社員で、BHと呼ばれる男性(ランクはハ)と、LCと呼ばれる男性(同ニ)は、会社のいう「事業所採用」です。ところが女性は、同じ「採用区分」であるはずのこれらの男性より、低い処遇におかれています。

30年以上もヒラ

 勤続四十年以上で定年退職した原告の北川さんの場合、北川さんのアシスタント業務をしていたBHの男性と比べ、年収で約二百三十万円もの格差をつけられていました。ちなみに、「ロ」の高卒男性とは年収で約五百万円、退職金で約一千万円もの格差がありました。「ロ」の男性は、勤続二十二−二十三年目には、九割が管理職の一歩手前の「管理補佐職」に昇進しますが、女性は三十年以上勤務してもヒラに据え置かれたままです。

 原告らは、差別の実態を明らかにするため、職掌転換者のBH、LCの男性の賃金台帳や履歴台帳の提出を会社に求めるよう、裁判所に申し立てました。会社は八百三十七人分の履歴台帳を任意に提出、その後、裁判所の文書提出命令を受けて同じ八百三十七人分の賃金台帳を提出しました。

司法もあざむく

 ところが原告らが調べてみると、職掌転換者の同僚数名が含まれていませんでした。この指摘がきっかけで、住友金属が三百十二人分もの履歴台帳・賃金台帳を隠していたことが発覚しました。裁判所の文書提出命令にも違反するものです。

 隠されていた三百十二人のうち、職掌転換男性のなかでも処遇が上のBHが過半数もおり、平均賃金を少なく見せるよう操作されていたこともわかりました。計算し直すと、原告の黒瀬さんと職掌転換男性との賃金格差は年収で六十六万円とされていたのが、百十万円にも拡大しました。

 住友金属はこれまで、事務職に職掌転換した男性について、「技能職として優秀であるとともに事務技術職掌としての能力を持つ者」を選抜してきたと主張していました。しかし、隠されていた三百十二人中、約半数が採用と同時か採用から二カ月以内に職掌転換していました。技能職の実績がない男性を事務職に大量に転換させていたわけで、会社の主張はここでも破たんしました。

 原告らの代理人である谷智恵子弁護士は、「未提出となっていた証拠は、原告側の指摘でやむなく出してきたもので、単なる手続き上のミスで済む人数ではありません。重要な証拠の大半を隠し、裁判所の判断を誤った方向へ導こうとするもので許されない」と批判します。

 住友金属が「女性差別はない」とする論拠は次々に崩れています。今後の裁判の進行、司法の判断が注目されます。

会社の「裏資料」から

 査定区分 学歴区分
 男 イ 大学卒
 男 ロ 高専・高校・鉄鋼短大卒
 男 ハ 職掌転換者(BH)高校卒
 男 ニ 職掌転換者(LC)高校卒
 女 ホ 大学・短大・高校卒

“会社は事実ゆがめるな”

 北川清子さん 住友金属が提出すべき賃金台帳を隠していたことはまさに犯罪行為です。私たち原告が精査して「資料隠し」がわかったもので、絶対に許されません。

 井上千香子さん 会社が本当に差別がないと主張するならば正々堂々と資料を出すべきです。裁判とは厳粛であると信じていました。

 笠岡由美子さん 女性のランクは学歴にかかわらず最低。被告が自分に不利なデータを隠し、原告からの指摘で初めて出す。事実をゆがめるこんなことは許されません。

 黒瀬香さん 結果が大きく変わることがわかっていたのに提出されなかった資料。この事実をふまえて裁判所は公正な裁きをしてほしい。


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