日本共産党

2003年12月1日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPRESS

研修医の生活保障して

医学生の4人に1人が署名

週80時間労働、収入10万以下も


 医学生の四人に一人が書いている署名があります。全国に四万数千人いる医学生。そのうち約一万人から署名を集めたのは、全日本医学生自治会連合(医学連)です。学生以外から寄せられた分を含めると二万人に。医学界にも反響が広がっています。日本の医療を担う医者のタマゴたち。何を求めているのでしょう。


広がる医学連の運動

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CTスキャンをチェックする研修医の木村さん=東京・大田病院

 医学生は大学を卒業して国家試験に合格すると医師免許を得られます。免許があれば患者さんを診察できます。でも、いきなり一人で診療するのは心配です。そのため、特定の病院で二年間、指導医のもとで研修をします。これを卒後臨床研修(卒研)といい、研修中の医師たちを「研修医」と呼びます。

 「臨床研修を行うよう努める」としていた医師法が二〇〇〇年に改正され、「臨床研修を受けなければならない」とされました。来年四月から卒研が必修になります。これにともなって、研修医の賃金保障や、研修プログラムの策定が課題にあがっています。これは、医学連が長年求めてきた要求項目でした。

 医学連の署名は、卒研改善のために十分な財政措置を政府に求めるもの。鳥取大学医学部では、学生四百八十人の約七割が署名しました。中心的にとりくんできた鈴木健太郎さん(27)=六年=は「安心して研修できる制度をつくってほしい、というのは医学生の願いです。署名が行き渡れば医学生ならほとんど応じてくれる」と話します。

 「この署名はなんとしても実現させたいですね」というのは、東京・大田区の大田病院で研修医をしている木村宗一郎さん(27)。「患者さんの人生に寄り添えるような医者になる」のが目標。すべての研修医がきちんとした研修を受けられるよう、「国として医師を養成してほしい。そのためには財源が必要です」と強調します。

過酷な勤務で過労死

 いまの卒研は、多くの問題を抱えています。

 一九九八年、関西医科大学で研修医をしていた森大仁さん=当時(26)=が過労死しました。

 連日、朝七時半に出勤し、帰るのは夜十時、十一時。手術日には、明け方ごろまで勤務していたといいます。土曜、日曜も勤務をつづけ、亡くなるまでの二カ月半の時間外労働は三百八十八時間にのぼっていました。賃金は月六万円。「奨学金」という名目でした。

 筑波大学卒後臨床研修部の前野哲博助教授の研究グループがことし行った調査では、研修医の平均労働時間は平日で十三時間、休日で五時間でした。平均して週八十時間以上働いていることになります。(過労死ラインは週六十時間以上、年三千百二十時間以上といわれています)

 研修医の四分の一が研修開始から二カ月でうつ状態になったことも分かりました。関連する要因として、受け持ち患者数、勤務時間、キャリアや家庭生活への不安をあげています。とくに、うつ状態の研修医の受け持ち患者数が平均で約八人あったのに対して、そうでない研修医の受け持ち患者数は約六人でした。

 一方、賃金はとても低く抑えられています。

 医学連が〇一年に行った「研修医アンケート」によると、国立大学病院では75%が月二十万円以下、私立大学病院では74%が月十万円以下でした。

 給与が安く、生活のために八割の研修医が研修先以外の病院で当直のアルバイトなどをした経験があります。そのうち、単独診療に「不安を感じる」とこたえた研修医は九割もいます。医学連は「研修医が医療過誤にかかわることもあり、社会からも不安と厳しい目が向けられている」と指摘しています。

医療向上のためにも

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財務省に予算確保を要請する医学連の人たち(正面)。日本共産党の小池晃参院議員(左端)も同席しました=11月25日、財務省

 医学連は、安心して研修に専念できるよう卒研制度の改善へ提言を発表するなど継続して運動を続けてきました。医学連が集めた研修医アンケートは、マンガ『ブラックジャックによろしく』(佐藤秀峰作、講談社)などでも紹介され、大きな反響を呼んでいます。

 世論に押される形で政府も対策を検討。来年度予算の概算要求に厚生労働省は研修関連予算として二百十二億円、文部科学省は百四十一億円を盛り込みました。これが実現すれば、研修医一人あたり月三十万円の給与を保障できます。

 ところが、財務省が予算に難色を示したことから空気が一変しました。

 「こりゃいかん、と多くの医学生が思ったと思います」と鳥取大学の鈴木さんは話します。そこへ医学連が署名を提起、全国に広がりました。授業の合間、クラスに署名用紙が回りました。率先して集める教官も出てくるなど、賛同が広がっています。

 十一月二十五日、医学連は財務省に署名を提出。計三百五十三億円の予算をつけるよう訴えましたが、財務省側は増額の必要性は認めるものの、額については「満額はありえない」との回答です。

 医学連の小西央彦(ふみひこ)委員長(愛媛大学六年)はいいます。

 「研修医の危ない状況をなんとかしなければ、の思いは共通しています。研修プログラムさえないなかでは、実習が身についたかどうかさえ分からない。雑用に回される現状を改善し、日本の医療の質を高めるために、まずは研修医の処遇を改善したい」


財源保障は不可欠

舞鶴市民病院 松村理司副院長

 舞鶴市民病院の松村理司(ただし)副院長は、次のように話しています。

 もともと、臨床研修の必修化については厚生労働省が「財政面でも面倒をみる」と言いきったので医療関係者が納得したという経緯があります。昨年あたりまでそう言っていたと思います。ところが、経緯の分からない財務省が渋っている。私たちとしては長い間議論してきて、いざやろうというときにはしごを外された気分です。

 問題は、医学生の賃金という話ではない。国として医療をどうしていくのか、そのための高等教育をどう保障していくのか、ということです。

 教育にはお金がかかります。指導医の確保もそうですし、研修医の生活保障もそうです。アメリカでは、研修医一人あたり八―十万ドルの予算を出している。医者を育てるのに国家として責任を持っているんです。

 ところが日本では国に金がないから出せない、病院で出せ、という。教育に対する認識が間違っています。かりに病院が払うとしたら、そのしわ寄せが、患者負担の増大につながりかねません。

 研修医問題では、二十一世紀の高等教育のあり方が問われていると思います。高等教育にお金を使うのか、それとも別のムダなところに使うのか、ではないでしょうか。


各界から賛同

 医学連の署名には、各界から賛同メッセージが寄せられています。一部を紹介します。

 伴信太郎・名古屋大学付属病院総合診療部教授

 新医師臨床研修制度の構築に当たっては、当事者である学生がもっと声を大にして、より良い研修制度の設計に関与していくべきであると思っていました。今回の署名行動にみられるような学生諸君の主体的活動を全面的に支持します。

 森大量(ひろのり)・研修医過労死裁判原告

 私は平成10年(1998年)、研修医であった子どもを過労死のため、亡くしました。私は研修医の労働条件改善のため、運動を展開しています。しかし、相変わらず過酷な労働条件で研修医は酷使されております。結果、研修医自身の過労死・自殺が相次ぎ、患者に対する医療事故も続発しております。来年より研修医の二年間の研修が義務化されます。どうか安心して研修できる為に、研修医の賃金保障を平成16年(04年)度の国家予算に盛り込むよう、切にお願い申し上げます。


グラフ

イラク派兵 学生の66%が反対

東京電機大学前島教授調査

 東京電機大学理工学部の前島康男教授が教育学概論の授業でアンケートをとったところ、学生の66・0%が自衛隊のイラク派遣に反対であることが分かりました。アンケートは憲法についての理解や自衛隊のイラク派遣への賛否などについて問うもの。およそ二百人が回答しました。

 イラク自衛隊派遣への支持を問う項目では、賛成17・0%、反対66・0%、分からない17・0%。反対が圧倒的でした。

 憲法九条の二つの条項(戦争の放棄、軍備および交戦権の否認)を問う設問では、両方理解している学生は16・6%、片方を理解している学生は57・0%、両方とも書けなかった学生も26・4%いました。

 調査した前島教授は、次のように語っています。

 「思った以上にイラク派遣に反対が多く、とくに女子学生は八割が反対でした。憲法九条をきちんと理解している学生は自衛隊の存在も『違憲』と答えていました。学生は知識を身につければきちんとした判断ができます。学生のなかにある平和への思いを信頼していいのではないかと思いました」


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