日本共産党

2003年11月18日(火)「しんぶん赤旗」

保険料アップ 給付カット 増税

将来不安に拍車

年金 厚労省案


 十七日に公表された厚生労働省の「年金改革」案は、国民にいっそうの負担増と給付減を押しつけるものとなっています。これが実施されると、保険料の負担と受け取る年金はどうなるのでしょうか。

保険料 「年収の20%」へ 毎年引上げ

 厚労省案は、いまの厚生年金保険料(年収の13・58%、労使折半)を来年から毎年引き上げ、二〇二二年度には一・五倍の20%にする計画を打ち出しました。民間の会社員が払っている厚生年金の保険料は、現在約十兆円。厚労省案の通りになれば、五兆円の負担増を国民に求めることになります。

表

 保険料の引き上げ幅は、年0・354%。来年十月から毎年引き上げられます。平均的な被保険者(月収三十六・七万円、ボーナスは月収の三・六カ月分)で、毎月約六百五十円、ボーナス一回あたり約千百五十円の値上げとなります。一年間で約一万百円もの負担増が、二二年度まで毎年押しつけられるのです。

 この場合、20%になると約十九万円の負担増に。保険料額は年間約五十七万円で、月収の一・五倍も取られることになります。20%で「上限」だといっても、実態は負担の限界、天井まで引き上げることにほかなりません。“現役世代の負担を過重にしない”ためだという「改革」案の口実も、くらし破壊の改悪をごまかすものです。

 国民年金も、いま月一万三千三百円の保険料を、〇五年度から一一年度まで毎年六百円ずつ引き上げるとしました。一一年度には、月一万七千三百円に値上げする計画で、一人あたり年間四万八千円もの負担増となります。

 現在は、保険料を値上げするためには国会での法案審議が必要です。これまで、五年ごとの年金財政見直しの際に検討されてきましたが、今回の厚労省案が実現すれば、値上げのたびに法律を改定しなくてもいいことになります。毎年、「上限」に向けて自動的に保険料が引き上げられていくことになるのです。

給付 10年間で8%減、少子化でさらに

 退職後に受け取る給付は減らされます。厚生年金は現在、四十年加入の夫婦のモデル年金で、現役世代の所得の59・4%が給付されます。これを十年間かけて54・7%へ引き下げます。給付水準は8%の削減となり、月額二十三万六千円のモデル年金給付(夫婦)の場合で、年間二十二万六千円の減額に相当します。ほぼ一カ月分の給与を削ろうという改悪です。

 厚生年金全体の給付額は年間十九兆六千億円(二〇〇一年度)です。8%減にすると、現在価格で一兆五千億円の給付削減を民間の会社員に押しつけることになります。

 さらに経済情勢の悪化にスライドさせて給付水準を引き下げる仕組み(マクロ経済スライド)を導入します。

 これまでは一人あたりの平均賃金が上がれば、その分、新規の年金受給者の給付額は伸びていく仕組みとなっています。これを一人あたりの賃金がのびていても、賃金全体の合計が減っていれば、それにスライドして給付額を減らすようにするものです。少子化の進展による労働者数の減少(保険料の収入減)を、給付減に連動させようという改悪です。

 公的年金は、これまで現役時代の所得のどれだけを給付として確保し、建前であっても老後の暮らしをどの程度支えるようにするのかという考え方に立ってきました。それを保険料収入の範囲内に給付を抑制することを最優先する、それも国会審議もなしに自動削減できるように転換するもので、公的年金制度の根本改悪に踏み出すことになります。少子化で給付水準が変動することになれば、国民の将来不安に拍車をかけることにもなります。

国の負担 引上げ先送り、増税を検討

 各種の公的年金の土台となる基礎年金の国庫負担を引き上げるのが今回の制度改定の焦点となっていました。

 現行は、基礎年金の給付に必要な費用の三分の一を国庫負担としています。これを二分の一に引き上げることについて厚労省案は「将来に向けた道筋を明らかに(する)」とのべるだけ。本当に実施するかどうかもあいまいです。五年間で段階的に引き上げる先送り案が検討対象とされました。公明党の総選挙公約を取り入れたもので、努力して二〇〇四年に引き上げを実施すると国民に約束してきた政府の公約を破るものです。

 国庫負担二分の一は、十年来、政府が実行を迫られている年金財源安定化の重要課題です。前々回の九四年改革では、「所要財源の確保を図りつつ、二分の一を目途に引き上げることを検討すること」を政府に求める国会決議(付帯決議)が全会一致で採択されました。前回の九九年改革では「当面平成十六年(二〇〇四年)までの間に、安定した財源を確保し、国庫負担の割合の二分の一への引上げを図る」と法の付則にはっきり書きこまれたのです。

 厚労相の諮問機関である社会保障審議会年金部会がまとめた改革への意見(九月)も、二分の一引き上げは「国民に約束した事項であり、年金にたいする国民の信頼を確保していくためにも実現すべきものである」と強く求めていました。負担増だけは国民に求め、約束していた国の負担拡大はまたもや引き延ばす政府の姿勢は、年金不信をいっそう広げることになります。

 二分の一引き上げには二兆七千億円の財源が必要ですが、厚労省案にはこの手当ても不明です。引き上げの先送りを求め、坂口力厚労相が所属する公明党は、所得税の定率減税の廃止と年金課税強化による増税で確保するよう主張。小泉首相もこの増税案を否定していません。保険料負担増の五兆円、給付削減の一兆五千億円に加えて、この二兆七千億円の増税が実施されると国民に合計九兆円を超える負担増・給付減を強いることになります。


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