日本共産党

2003年10月16日(木)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい 選挙特集

合併からマニフェストまで――当事者の言葉から見えてくる

「自民・民主対決」の本当の姿

菅直人氏「これまでの民主党では、経済界などに対して信用は薄い…」

小沢一郎氏「民主党は図体は大きいが政権を任せるのは不安だし…」


 「政権選択選挙」「マニフェスト(政権公約)選挙」。マスメディアは、こんどの総選挙をこう位置付け、連日のように「自民・民主対決」をあおっています。誰が何のために、こういうシナリオを書いたのか。民主・自由両党の合併、新民主党誕生の経緯、“政権争い”の演出から、こんどの選挙の「政治地図」が垣間見えてきます。

民主党と自由党の合併合意から始まった

 「自民党内の総理交代ではなく、政権与党と総理を替える本格的政権交代が何よりも急務である」「よって両党は『小異を残して大同につく』覚悟で、…合併に合意した」

 今日の「政権選択選挙」は、七月二十三日の民主、自由両党の電撃的な合併合意から始まりました。

 昨年来、何度も浮上した合併構想。しかし、民主党内の反発から、合併を推進した鳩山由紀夫代表が辞任に追い込まれ(昨年十二月)、菅直人代表のもとですすめられた合併話もことし五月に白紙に戻されたばかりでした。それが、急転直下の合併合意。いったい、何があったのか。

 「民主党単独では、どうにもならないことがわかったのではないですか。人の話によると、民主党は全選挙区を調査したところ、その結果はあまりにもひどく、愕然としたようです」

 当事者の一人、前自由党党首の小沢一郎氏は、月刊『政界』十月号のインタビュー(「政権交代へ走り出した新・民主党 “いま明かされる衝撃の合併秘話”」)のなかで、こう語っています。しかし、合併理由はそれだけではありませんでした。

自由党と組むことで“経済界は安心”と

 「経団連は、菅・鳩山の民主党に国を任せるのは不安だったと思います。そこに小沢一郎が加わるならば、と経団連としても二大政党の一方の党として安心するのではないですか」とのインタビュアーの問いに、小沢氏はこう答えています。

 「民主党は、図体は大きいが、政権を任せるのは不安だし、自由党は、その主張はいいが、図体が小さく、政権には遠い。ですから、民主党の持っていないもの、自由党の持っていないものを、おたがいに補完しあう関係が必要だということでしょう」

 同趣旨のことを、もう一方の当事者、民主党の菅直人代表も語っています。(月刊『BOSS』十一月号のインタビュー)

 同誌の主幹・針木康雄氏が、「小沢さんの怖さや気味の悪さを肌で知っている。その羽田さん(=孜・民主党最高顧問)が今度の合併に、なんであんなに積極的だったのですか」と質問。菅氏は、次のように答えています。

 「羽田先生の周囲には、本音では小沢さんをいいと思っていない人は確かにいると思います。ただ、それでも政権交代という一つの大きな目標のためには、そんなことを言っていたのではいけない。残念ながらこれまでの民主党では、経済界などに対して信用は薄い。やはりここは小沢さんと、自由党と組むことで、政権交代の可能性が増していく。そういう思いを、変えてではなく越えてやるべきだ、というのが羽田先生の一貫した姿勢です」

 要するに、小沢一郎氏率いる自由党と組めば、経済界が安心して信用してくれる条件ができる−菅氏は、羽田氏の意向という形ですが、小沢氏と共通の認識を表明しているのです。

財界は一連の作戦にどうかかわったのか

 「二大政党」をめざす民・由合併に、経済界はどのようにかかわったのでしょうか。

 民主・自由の合併合意の一週間前の七月十六日。菅代表をはじめ民主党幹部が、東京・大手町の日本経団連本部を訪問、奥田碩会長らと会談しました。

 席上、奥田会長は民主党にこんな注文をつけました。

 「民主党の政策は、中身が自民党と大きな差がなく、二大政党制のイメージがわきません。民主党は本当に自民党と異なること、自民党にできないことをアピールしてほしい」(日本経団連ホームページから)

 これにたいして、菅代表は―。

 「(言ったことを)実現できるかどうかが自民党との大きな違いだ。民主党にかけていただきたい」

 さらに、経団連側が、政治買収ともいうべき、政治献金のガイドライン(指針)について、各党の政策を参考にして策定するとの方針を説明したのにたいして、民主党の岡田克也幹事長は―。

 「政策実現の実績だけでは与党に有利になる。政治改革や政権交代への姿勢なども基準に入れてほしい」(時事通信)

 日本経団連はことし一月一日付で「活力と魅力溢れる日本をめざして」と題する提言(「奥田ビジョン」)を発表。そこでは、「野党は、政府・与党への単なる批判勢力から脱皮し、いつでも政権にとって代われるだけの能力を備え、国民の信頼を得ていかなければならない」として、野党にたいして「基本政策を明確にし、現実的な対案を提示」することを求めていました。民主党との会談での奥田会長発言は、この立場からのもので、民主党の対応は、これに呼応するものでした。

 民主・経団連会談の二日後の七月十八日には、財界団体の一つ、経済同友会が軽井沢で開いた夏季セミナーで、「『政権公約(マニフェスト)』で競う総選挙の実現を」と題するアピールを採択しました。アピールはただちに、小泉首相と菅代表に届けられました。

 経済同友会は、昨年十月二十二日に発表した提言「首相のリーダーシップの確立と政策本位の政治の実現を求めて」のなかで、「政策本位の政治を実現する政治改革」として、「各政党は政権政策(マニフェスト)を示して選挙を戦う」ことを提案。いらい、総選挙に向けて、野党に「批判勢力からの脱皮」を求め、保守二大政党による「政権選択」選挙、マニフェスト対決を働きかけてきました。

 こうしたなかで、民・由合併に直接かかわったのが、京セラの稲盛和夫名誉会長でした。

 小沢一郎氏が、前出の雑誌インタビューのなかで、「稲盛和夫名誉会長も、民由合併の後押しをされたようですね」との問いに、次のように語っています。

 「稲盛さんは早くから『一緒にならないと駄目だ』と一所懸命にいってくれていました。私にも、『いろいろあるだろうけれども、ここは我慢して……』とおっしゃるので『ぼくは、よくわかっています。政権交代を実現するためですから、なんでも我慢するつもりでいます』という話をしていました」

 民由合併合意に先立つ七月一日、都内で開かれた民主党の「大躍進パーティー」に来賓として招かれ、「民主党が政権交代可能な健全野党へ成長することを願っている。日本国民のため大同団結を」と、合併を促したのが、稲盛氏でした。

 このあいさつを聞いた鳩山由紀夫・民主党前代表は、稲盛氏にこういいました。

 「ぜひここは稲盛さんに、自由党との合流の話を実現させていただくために会談をセッティングしていただきたい」(月刊『政界』十月号)

新民主党と旧民主党どこがどう違うのか

 「政権交代可能な二大政党制の実現」という財界の期待を背負って合併し、船出した新民主党。小沢氏がいうように「図体」が大きくなっただけでなく、財界の「信頼」を得られるようにと、旧民主党とは違った顔を見せています。

 自民党・財界はいま、二十一世紀の大戦略として、消費税の増税と憲法改悪という二つの大悪政を計画しています。この計画に反対しないどころか、他党に先駆けて消費税増税などを打ち出し、応援団の役を買って出ているのが民主党です。

 民主党が五日に発表した「政権公約」では、次のように明記しています。

 「基礎年金の財源に消費税を充て、新しい年金制度を創設します」

 「憲法を『不磨の大典』とすることなく、…『論憲』から『創憲』へと発展させます」

 いずれも、同党が九月十八日にまとめたマニフェスト素案(第一次集約)にはなかったものです。これにたいして、経済同友会は、同党のとりくみを評価する一方で、「国家像や政策体系がやや不明確」などとして、憲法問題や年金問題について、いっそう明確にするように求めました。

 こうした注文も取り入れてつくられたのが、五日の最終案です。消費税率を18%に引き上げることを求めている日本経団連の奥田会長が「賛同する」とさっそく歓迎のコメントを出し(六日)、経済同友会の北城恪太郎代表幹事も評価しました。

 「経済同友会では、基礎年金部分については税の負担を提言してきたこともあり、民主党の政策は近い方向にあると思う。消費税を活用するという点でも同じ考え方である」(七日、経済同友会ホームページから)

「二大政党」以外の野党しめ出しを狙う

 新民主党は、自民党や財界の悪政に立ち向かう野党の立場と責任を投げ捨てただけではありません。「総選挙で政権交代が実現すれば、日本も本格的に二大政党に突入する」(菅代表)と、「二大政党」以外の野党を締め出す選挙制度改悪(衆院比例定数八十削減)まで、政権公約にかかげたのです。

 比例定数削減は、民主党の一貫した立場ですが、これを当面の「政治改革」のプログラムとして持ち出して、国会に押しつけることまではしませんでした。

 一九九九年から二〇〇〇年にかけて、与党の自民、公明が衆院比例定数二十削減案を持ち出したときには、民主党は「選挙制度というのは、国会の構成にかかわる問題で、与党だけでやることについて、そうですかと賛成するわけにはいかない」(羽田孜幹事長=当時)と、日本共産党とともに反対したものです。

 国民のなかにある少数意見を切り捨てるだけでなく、国会の構成を民意を反映しない極端にゆがんだものにしてしまう比例定数八十削減案。そんなものを、「二大政党制の実現」だといって、あれこれの公約の一つではなく、政権を取ったら「必ず実行する」七つの重点政策の一つに盛り込んだところに、新民主党の立場がはっきり出ています。

 こうした小選挙区中心の選挙制度改悪も、昨年十月の経済同友会提言(前出)が、単純小選挙区導入を提案したように、財界勢力が一貫して求めてきたものです。

 財界がシナリオを書き、自ら演出する「自民・民主の政権選択選挙」。それは、消費税増税と法人税減税、日本を海外派兵国家にする憲法九条の改悪など、自民党と財界が計画する大悪政を国民に押しつけるための、偽りの対決構図でしかありません。


民由合併・マニフェストの流れ

 1月1日 日本経団連が「活力と魅力溢れる日本をめざして」(「奥田ビジョン」)を発表

  18日 民主党大会で菅代表が、経済界、労働界、学者、知事らと連携して政権交代を目指す「国民会議」構想を強調

  25日 北川三重県知事(当時)が県主催のシンポジウムで「マニフェスト」選挙を提唱

 5月26日 菅民主党代表、小沢自由党党首が協議し、両党合流問題は白紙に

  29日 日本経団連が「税制改革」の意見書を発表。2007年度までに消費税を10%、25年度までには18%と引き上げる必要性を打ち出す

 6月11日 党首討論で菅代表がイギリスの「マニフェスト」を示し、“マニフェスト対決”を強調

 7月1日 民主党「大躍進パーティー」で京セラの稲盛和夫名誉会長があいさつし、「日本国民のため大同団結を」と合併促す

  7日 新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)が、自民党総裁選や総選挙に向けてマニフェスト作成を促す「緊急提言」を発表

  8日 経済同友会が「次期総選挙までに各政党は政権公約(マニフェスト)策定を」との談話を発表

  16日 菅代表ら民主党幹部が日本経団連本部を訪問し、会談

  17日 自民、民主、公明、自由、保守新、無所属の衆参国会議員計62人が「政権公約(マニフェスト)推進会議」を設立

  18日 経済同友会が夏季セミナーで「『政権公約(マニフェスト)』で競う総選挙の実現を」と題するアピールを採択

  23日 民主党、自由党が合併合意

 9月18日 民主党が「マニフェスト(第一次草案)」を発表。衆院比例定数80削減などを盛り込む。消費税については「検討中」と説明

 9月25日 日本経団連が政治献金に関する政策評価基準の「優先政策」10項目を発表。消費税増税、法人税減税を進める政党に献金をよびかけ

 10月1日 経済同友会が民主党の「マニフェスト(第一次草案)」について「期待する政策で、扱われていない課題も存在する」として憲法「改正」、「『年金制度改革』に関する給付と拠出の具体的水準」など8項目を提言

  5日 民主・自由両党合併大会。基礎年金財源に消費税増税や「新しい憲法をつくる(創憲)」など新たに盛りこんだ「マニフェスト」を発表

  7日 北城恪太郎経済同友会代表幹事が記者会見で、民主党の「マニフェスト」に盛りこまれた基礎年金財源に消費税を充てる提案に「消費税の活用に踏み込んだことにおいては、一歩前進の提案」と評価


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