日本共産党

2003年9月29日(月)「しんぶん赤旗」

9条改憲で どうなる日本

自民要綱案を小沢隆一静岡大教授と読む


 自民党をはじめとする改憲勢力は、憲法九条のどこをどう変えようとしているのか。自民党憲法調査会憲法改正プロジェクトチームは七月に、九条改憲案ともいうべき「安全保障についての要綱案」をまとめました。それをもとに、九条改悪の狙いを憲法学者の小沢隆一静岡大学教授に解説してもらいました。(中祖寅一記者)



集団的自衛権
米国とともに武力行使

表

 要綱案は、「日本国は国家の独立と安全を守るため、個別的自衛権及び集団的自衛権を有する」と明記しています。

 集団的自衛権とは“自分の国が攻撃されていない場合でも、自国と密接な関係にある外国が攻撃を受けた場合、一緒に武力で反撃できる権利”とされています。日本はこの権利は保有するが、行使はできないというのが、歴代政府の憲法解釈です。憲法九条のもと、自衛のための武力行使を認めるとしても「わが国防衛のための必要最小限度」にとどまるべきで、集団的自衛権の行使は、その範囲をこえるというわけです。

 小沢 そもそも「自衛のための最低限の実力は保有できる」として自衛隊を「合憲」とみること自体に問題がありますが、それをこえる集団的自衛権の行使を憲法解釈の変更で認めることは、どうしても無理だということです。

 そこで憲法に集団的自衛権を明記して、差し迫って必要とされる、アメリカと共同の軍事力行使を可能にしようというのが狙いです。

 政府はこれまで、アメリカの要求にこたえる形で、周辺事態法(一九九九年)、テロ特措法(二〇〇二年)、イラク派兵法(〇三年)など海外派兵法を強行してきました。しかし、「集団的自衛権は行使できない」ということを建前としているために、米軍が海外でおこなう武力行使には「後方地域支援」しかできないという「制約」をもうけざるをえませんでした。ところが、それでは米国の要求にこたえられないということで、集団的自衛権の行使を明記して、この「制約」突破をはかろうというのです。

 小沢 しかし、集団的自衛権を認めれば、国際法を無視した先制攻撃や違法な侵略さえやりかねないアメリカの戦略についていくことになります。これは結局、現憲法九条一項の戦争放棄の建前すら踏みにじることにつながっていくでしょう。

国際貢献
国連を無視し米国追随

 要綱案では個別的・集団的自衛権の行使のほかに、「国際貢献上必要」な場合の軍事力行使が可能とされています。これは何を意味するのか――。

 小沢 いまアメリカは“力こそ正義”であり、自らが理想とする「国際秩序」を守るために国連を無視しても軍事力を使うという考え方に立っています。日本がアメリカとの協力をすすめるとき、国連を無視しても米国についていくという考えで、「国連」という言葉を意図的に入れなかったとすれば、非常に危険だといえます。

自衛軍
憲法原理が破壊される

 憲法九条二項は、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」として、一切の常備軍を持つことを禁止しています。要綱案は、「自衛権行使のための組織として、自衛軍を保持する」とし、これを正面から否定しています。自衛隊を軍隊として憲法上認知するというにとどまらない重大な問題をはらんでいます。

 小沢 日本は、過去の侵略戦争の反省に立って常備軍を持たないで、平和を希求するという選択をしました。人権や、民主主義という憲法原理の実現が「軍隊」のない状態で可能なのだという考え方を示したところに、九条二項の意味があります。

 そこを変えて軍隊を持つならば、人権や民主主義も破壊されるでしょう。例えば、要綱案では軍隊の行動について「緊急事態」ということで国会の事前承認も不要とされ、国会中心主義が形がい化されています。

国民の責務
戦争の邪魔をさせない

 軍隊の保持とかかわって、要綱案には、「国民は、国家の独立と安全を守る責務を有する」と「国民の責務」が明記され、緊急事態における内閣総理大臣の「国民に対する命令権」「地方自治体への直接指揮権」などが明記されています。

 小沢 これも非常に大きな問題です。

 成立した有事法制でも国民の義務は規定されていますが、まだ具体的な法的義務とされていません。それは現在の憲法が軍事的な規定を持たないからです。ところが、憲法に軍隊の保有と、国民の責務が書きこまれるとすれば、軍事的なものへの正規の協力義務が定められてくるということになります。

 徴兵制も可能ということになりますが、現実的には、「後方支援」に国民を強制動員する、あるいは国民に戦争の邪魔をさせないということに中心的な意味があると思います。

 要綱案は九条の「改正」にとどまりません。軍隊の存在を中心に、平和主義、国民の人権尊重主義、民主主義・国会中心主義、地方自治などの現憲法の根本原理の全体に真正面から挑戦するものだということに重大な特徴があるといえます。


憲法9条

 第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 (2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。


これが自民“改憲案”

写真
記者会見で自民党の憲法改正案づくりを改めて表明した小泉純一郎首相=22日夜、首相官邸

 自民党憲法調査会の憲法改正プロジェクトチームが七月二十四日にまとめた「安全保障についての要綱案」は、九条改憲論議のたたき台というべきものです。自民党機関誌『月刊自由民主』(九月号)に全文が掲載されています。その柱と主な内容は次の通りです。

 第一 国家の防衛

 日本国は、国家の独立及び安全を守るため、個別的自衛権及び集団的自衛権を有する。

 第二 自衛軍

 1自衛軍の設置

 日本国は、第一に掲げる自衛権を行使する組織として、自衛軍を保持する。

 2自衛軍の任務

 3自衛軍の指揮及び組織・運用

 第三 国民の責務

 国民は、国家の独立と安全を守る責務を有する。

 第四 国家緊急事態

 1国家緊急事態の宣言等

 2国家緊急事態における措置

 (1)防衛緊急事態における措置(イ略)

 ロ 防衛緊急事態及び治安緊急事態において、内閣総理大臣は、法律で定めるところにより、国民に対し、国家の独立と安全を守るために必要な措置を実施するため、命令を発することができる。

 ハ 防衛緊急事態及び治安緊急事態において、内閣総理大臣は、法律で定めるところにより、国家の独立と安全を守るために必要な措置を実施するため、地方公共団体を直接に指揮することができる。

 (2)災害緊急事態における措置

 第五 国際貢献

 国際貢献上必要と認められる場合において自衛軍の軍事力を行使するときは、原則として事前に、緊急の必要がある場合には事後に、国会の承認を得なければならない。


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