日本共産党

2003年9月13日(土)「しんぶん赤旗」

長野から岩手へ転勤 「いやなら辞めろ」―

「ここで働き続けたい」 労組が生まれた

工場存続へ25人の半年

JMIU支部 地域ぐるみ


 「私たちは、ここで定年まで働き続けたいのです。今、会社を確かに追いつめていると実感しています」。長野県上田市で、工場閉鎖・整理解雇に反対して、生まれて半年にも満たない、全日本金属情報機器労働組合(JMIU)東北住電装支部。田中真奈美さん(41)を委員長に、管理職を含む二十五人が明るくたたかっています。(青野 圭記者)

 自動車用ワイヤーハーネス(組み電線)を製造販売する住友電装100%子会社の信州ハーネス(長野県上田市、従業員九十人)が、グループ会社の東北住電装への吸収合併を発表したのが昨年九月。同十二月には“信州工場の閉鎖・岩手への転勤か退職、応じない者は整理解雇”の方針が突きつけられました。

 「合併を知らせる臨時朝礼は、同席した住友電装取締役の横で、信州ハーネス社長(現工場長)が顔も上げず、紙切れを読み上げ、五分ほどで終わりました。こんな大切なことが、これで終わり?」。田中さんには納得できない思いだけが残りました。

 田中さんは、勤続十五年で基本給がわずか六万六千円(他に生産手当)。「こんなに安い給与でも働き続けるのは、自宅から車で十分の通勤時間の魅力です」。他の従業員も事情は同じ。「家族を抱え、今さら岩手にはいけないのです」

 しかも、信州ハーネス、東北住電装とも、金融機関からの借り入れが一切ない「超優良企業」(仮処分申立書)。「整理解雇の要件を充足せず、法的にも断じて許せない」(日本共産党の木島日出夫衆院議員)

手探りで

 合併発表後、田中さんは相談相手を求め、インターネットで検索しては片っ端から電話。労基署や県労政事務所にも足を運びました。が、返ってきたのは「しょうがない」の返事ばかり。

 「やっぱりだめか」。万策尽き、愚痴をいうために訪ねたおばの家。そこに高村京子さん(日本共産党県議)の事務所からの封書がありました。「京子さんに相談してみたら」。おばちゃんの声に押されて受話器を握りました。そしてたどり着いたJMIU。

 長野地本の事務所を訪ねた田中さんは、ドアを開けて思わず立ちすくみました。待ち構えていたのは、井上今朝雄・地本委員長らいかつい顔の男性五人。「私の話を聞くために、こんなにたくさんの人が時間をさいてくださる。もうびっくり。こんな所もあるんだ…」。田中さんは「午前九時半から、昼食も取らずに一時すぎまで」夢中で訴えました。

 ここで聞いた井上委員長のことばは「今もはっきり覚えている」といいます。「工場存続を要望の第一に掲げるんだよ」。「えーっ、そんなことできるんですか」。「やってみなけりゃ、分からないじゃないか」。この日、小さな労働組合が産声をあげました。

管理職が

 働く仲間は、田中さんを一人にはしませんでした。吸収合併当日の四月一日、会社に組合結成を通告。その日の退社時刻、田中さんは支援者とともに、初めて門前でビラを配って組合加入を呼びかけました。

 翌朝、出勤すると十数通もの申込書が集まりました。「“いやなら辞めろ”って、これまで何人泣かされたことか」。悔しい思いをぶつけるように加入した鈴木直行さん(32)。「一労働者が会社に、こんなに思い切り言えるんだっていうのが実感」と笑います。

 信州ハーネス創業時のメンバーで勤続二十六年の前山芳一さん(58)の思いは複雑でした。同期は顧問や副工場長ら。トップクラスの管理職です。

 会社への愛着が強かっただけに無念さがこみ上げました。「黙っていようかとも思いましたが、若い人が頑張っているし、アドバイスできればいいかなって」

 書記長を引きうけた西澤和久さん(39)も管理職。どうしても転勤できない事情がありました。

 脳性まひで体幹機能障害一種二級の長女(11)を普通学級に通わせるために七年間、教育委員会や学校長、地域に足を運び、やっとの思いで介助員の配置、小学校へのエレベーター設置を果たし、中学校でも設置にメドをつけたばかりでした。

 「不安ばかりですが、何か困れば相談できる人たちがいる。みんなが同じ気持ち。人間のつながりをすごく感じますね」

市議会も

 団体交渉は九月二日で九回を数え、「整理解雇」を明言しながら「整理解雇の四要件」を示せないなど、会社側の不当さを浮き彫りにしました。

 会社の工場閉鎖強行に備え、七月二十八日には長野地裁上田支部に地位保全の仮処分を申し立て。その後の報告集会で、高村議員と参加した保守系県議の発言に会場がわきかえりました。

 「『家族の一員』といってきたみなさんを平気で切り捨て逃げ出すのは、経営者の風上にも置けない。二十五人の方だけじゃなく、われわれも上田市も地域も一体となってたたかう」

 上田市議会の保守系や無所属議員の激励も相次いでいます。上田市議会は六月三十日、「解雇権の乱用」「工場の閉鎖は上田市の税収と地域経済にも大きな打撃を与える」などとした「工場存続の陳情」を趣旨採択。田中康夫知事にも直接、閉鎖撤回を訴えました(八月)。日本共産党も、木島衆院議員が国会で住友電装に閉鎖計画の再検討を求めるなど全力で支援しています。

 住友電装グループ企業のなかで唯一の、小さな労働組合は今、地域をあげてのたたかいに、確かな歩みを進めようとしています。十五日には一千人規模の決起集会を計画しています。今月上旬には、二十六人目の仲間も加わりました。


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