日本共産党

2003年5月24日(土)「しんぶん赤旗」

「動き出したら止まらない」といわれた巨大公共事業

農民が止めた

川辺川の「利水事業」


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握手攻めで勝訴 報告会場に入る 梅山究原告団長=16日、福岡市

 熊本県相良村に建設が計画されている川辺川ダムの水を利用する国営川辺川土地改良事業(注参照)の農民側逆転勝訴の福岡高裁判決(十六日)は、十九日の農水大臣の上告断念で確定しました。提訴から七年。動き出したら止まらないといわれた巨大公共事業に、「ダムの水はいらない」とたたかった農民がストップをかけました。判決確定は、川辺川ダム建設にも大きな影響を与えます。 (熊本県 西田純夫記者)

「水はいらない」

ダムの目的ひとつ消える

 国の上告断念を受けて、地元熊本県の潮谷義子知事は「断念したことを評価したい。…川辺川ダム本体にも影響が出るだろう」(二十日付「熊日」)と発言。球磨川流域最大の都市・八代市の中島隆利市長も「利水という目的を失ったことで、ダム見直し論議が高まってほしい」(同)とのべています。

 この裁判は、一九九六年六月、本来、ダムの水の利用対象となる農民が「水はいらない」と農水大臣を相手取って起こしました。

 もともと、事業対象地域は、農民の長年の苦労の結果、水が少なくてすむお茶などが成功し、今では、ダムの水は必要なくなっていました。そのうえ、減反政策、農産物輸入自由化、後継者難ときびしい農業情勢があり、「高い水代を払えば農家はつぶれる」との危機感が、農民のなかに強くありました。

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「完全勝訴だ」

 事業の推進には対象農家の三分の二以上の同意が必要でした。裁判では、川辺川ダムをつくらんがために、国側が対象農家から無理に無理を重ねて集めた同意書のずさんさが明らかになりました。

 農民は「水代はただ」などのウソで同意書を集められたと証言。さらに、熊本地裁の一審では署名時にすでに死亡していた人の署名があることが判明し、高裁では、砂消しゴムや修正液で消した上で書き直す改ざんも明らかになりました。

 高裁判決は、署名と印影が本人のものでないものを「同意がない」とし、農民の同意が事業推進に必要な三分の二以上ないと事実認定し、違法としました。

 一方、原告側が違法性を訴えた、ウソの説明や同意書の変造などの手続きについては、同意がなかったとするほどの違法はないとしました。

 この判決について、弁護団は、判決後の記者会見で「事実認定だけで違法とした判決で、法解釈しか審理しない最高裁に上告することはできない。完全勝訴だ」と指摘。実際、亀井善之農水相は十九日、上告を断念しました。

 一方で、同相は、記者会見で「地域の農業者がダムの水を利用することは重要だと思う」(二十日付「熊日」)とあくまでダムの水を利用する発言をしています。

 しかし、この裁判に加わった農民は、補助参加も含め、対象農家の約半数。今後、新たな利水事業で三分の二以上の同意書を集めることは事実上不可能です。

 梅山究原告団長(72)は「計画は白紙に戻ったわけで、農民を中に入れ、農民が納得できる計画を作るべきだ。身近な水源が利用可能なわけで、いくつも選択肢はある。もし、ダムの水を使うのなら絶対にOKとはならない」と訴えます。

 判決確定は、治水、利水などの特定多目的ダムである川辺川ダム建設にも大きな影響を与えます。利水目的が失われた以上、現在の計画のままダム建設を進めることは許されません。

治水もダムなしで

漁民が「農民に続きたい」

 治水目的についても、ダムによらない、はるかに安上がりの代替案が専門家から提示され、住民討論集会(国交省主催)が進められています。このなかでは、下流域は、現状でも堤防の強化で八十年に一度の大洪水に耐えうること、上流域も河川掘削などで十分なことが明らかにされています。また、中流域は、ダムが完成しても水害は防ぐことができず、早急な河川改修が必要であることも指摘されています。

アユ価値失う

 ダム建設のための最後の法的手続きといわれる漁業権の強制収用を審理している県収用委員会にも影響は必至です。

 「ダムができたら、アユの商品価値はなくなる」と漁業権収用に反対してたたかっている「やつしろ川漁師組合」の毛利正二組合長(62)は「判決確定は本当にすごいことだ。農民のたたかいに続いて漁民のたたかいを勝利させたい」と決意を新たにしています。

 国交省が、今ごろになって「利水と治水は別」とダムに固執する発言をしていることにも、毛利組合長は「おろかな話だ。多目的ダムである川辺川ダムの目的のひとつの利水がなくなったわけで、当然計画を練り直さなければいけないはずだ。目的のそう失は『重大かつ明白な瑕疵(かし)』にあたり、漁業権の収用を審理している収用委員会も、却下しなければいけない」と語ります。

 「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」の中島康代表(62)は「農水省は、話をごまかし、まだダムからの水を利用したいとまやかしをいっている。国交省も危機感を感じ、なりふりかまわない行動に出てくることも予想される。いっそう結束を強めたい」と訴えています。


 (注)国営川辺川総合土地改良事業 国土交通省が計画中の川辺川ダムを水源とし、球磨川右岸の3000ヘクタール以上の農地に用水を供給するかんがい施設を整備し、あわせて農地造成事業と区画整理事業をおこなう事業。1984年に計画確定、94年計画変更のさい、対象農家の同意書集めのずさんさが問題になり、農民が農水相に異議申し立てしましたが、棄却。96年6月、原告・農民が棄却処分取り消しを求めて熊本地裁に提訴しました。2000年9月、同地裁は原告の請求棄却。原告が福岡高裁に控訴し、03年5月、同高裁は原告逆転勝訴の判決を下しました。国側は上告断念。


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