日本共産党

2003年5月2日(金)「しんぶん赤旗」

イラク戦争、北朝鮮問題について

CS放送朝日ニュースター

志位委員長語る


 日本共産党の志位和夫委員長は一日放映のCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、イラク戦争と北朝鮮問題、いっせい地方選挙の結果と後半国会の課題について、梶本章・朝日新聞論説委員の質問に答えました。そのうち、イラク戦争と北朝鮮問題に関する発言の大要を紹介します。


イラク戦争─平和のたたかいは今後に必ず生きる

「勝てば官軍」にしてはならない─無法で非人道的な戦争犯罪の追及を

 梶本 まず、一カ月足らずで終わってしまったイラク戦争について、どう総括していますか。

 志位 戦争の結果は米英軍が圧倒的な戦力を持っていますから、軍事的には「勝利」をおさめたということになりましたが、私は、「勝てば官軍」としてはならないということを強調したいですね。

 戦争の帰すうがああいうことになったとしても、国連憲章を踏み破った無法な戦争だったこと、それから多くの女性、子どもたち、お年寄り、民間の人々の数千人を殺傷した非人道的な戦争だったこと、この罪はきびしく追及されるべきであって、この無法な戦争を国際社会は決して追認してはならないということを強くいいたいですね。

 戦争の結果として、一時的にたとえば、米軍がバグダッドに攻め入ったと、それで「解放」したという映像が、いかにもそれが全体のイラク国民の表情であるかのように流されるということもありました。しかし、実態は「サダム・ノー」「アメリカ・ノー」という動きがいま、イラクでは進んでいるわけですね。

 ですから、ああいう形で軍事力で制圧をやり、そして軍事力をもって新しい政権を押しつけるという─―私たちは「新しい植民地主義」と呼んでいますけど、こういうやり方というのは、早晩大きな矛盾がふきでてくるというのは、間違いないということをいいたいですね。

戦争を食い止めるためにこれほど国連が力を発揮したことはなかった    

 志位 さらに、今度の戦争の全体の性格を考えるとき大事なことは、国連の存在感というものが今度の戦争ほど重く、国際政治の中で浮き彫りになった戦争はないと思うんですよ。すなわち、戦争が始まる前に国連の安保理を舞台にあれほど激しい外交のやりとりがやられて、安保理はともかく戦争を食い止めるために最大の力を発揮したと思います。最後は戦争になったけれども、しかしあれだけ戦争を食い止めるために国連が力を発揮し、機能したということはこれまでなかったことです。

 もう一つ、アメリカは国連の支持という“錦の御旗”を手にすることができませんでした。つまり、外交的には失敗のなかで戦争に入った。これも事実です。

 やはりその根底には、「国連の平和のルールを守れ」という世界的規模での諸国民のたたかいがあったわけです。私は、歴史というのはなかなか複雑でジグザグに進むという面がありますから、山あり谷ありなんだけれども、しかしこの平和の力というのは今後に生きてくると(思います)。

 あるドイツの学者が、「世界の抗議行動によって、国際法が強化されたといえる」といっていました。世界中のこれだけの人々が「国連憲章を守れ」と、何千万人もの人々が声を上げたというのははじめてなんですよ。やはり、法というのは人民が支持してはじめて力をえてくるわけです。そういう意味では、戦争という結果になって、そしていま表面的には(軍事力で)制圧しているように見えるけれども、しかし歴史の深部のところでは理性の流れがあり、それが本流になって現れるというふうに思いますね。そういう大きな流れで見ていく必要があると思います。

 梶本 確かに戦争について、八割近い人が反対していたわけですが、ただいの一番にアメリカを支持するという日本の行動について、内閣はそれほどダメージを受けていない。それどころか(支持率が)上がっているのはどんな要素なんですかね。

 志位 支持率というのは、いろいろな要素のくみあわせで出てくるものですから。ただ、戦争の実像を、どれだけ国民にメディアがきちんと伝えたかという問題も、あると思いますね。

 梶本 北朝鮮の問題なんかがあって、ここで支持しないとアメリカは、北朝鮮で何か問題が起きたときに自分たちを助けてくれないという意識が国民の間にまん延していたんじゃないでしょうか。

 志位 北朝鮮の問題との関係での心配というのは一方であったと思います。ただ私たちは、北朝鮮のことを考えても、イラクでの無法な戦争を食い止めることが平和のルールを守るうえで大事になるということを訴えました。

北朝鮮核問題─「物理的抑止力」論は危険で有害、国際社会への仲間入りの努力を

平和的・外交的手段で、北朝鮮に核開発計画を放棄させる

 梶本 わかりました。今度は北朝鮮の問題ですが、先週開かれた米中朝の三者協議で、北朝鮮の方が「核を保有している」と初めて表明して、みんなびっくりしたわけですが、これはどう受け止められましたか。

 志位 これは(「核保有」の)事実関係はわからないですね。私たちは、当事者でない立場にあるわけで、本当のところはわからないわけですが、いくつか間違いないことがあるわけです。

 まず北朝鮮が核兵器開発の道を進んでいるということは間違いがないことだと思います。これは一月にNPT(核不拡散条約)の脱退宣言をしてきているわけですから、この道を進んでいる。(核兵器を)保有しているかどうかというのは、私たちは知りうる立場にないですけれども、これ(核開発)はしかし進んでいるということは間違いない事実ですね。

 それからもう一つはやはり、北朝鮮が核兵器の問題をいわば脅しのカードに使って、もてあそんでいると。これも事実ですね。

 これらは絶対に許しがたいことであって、北朝鮮に核兵器の開発計画を放棄させる必要があります。

 そしてあくまでも平和的な、外交的な話し合いで、これを放棄させる必要がある。これは国際社会のひじょうに重要な課題になっていると思います。

「約束違反」への批判とともに、核開発の「論理」の誤りをただす

 梶本 北朝鮮はいままで、「核は持つつもりもないし能力もないんだ」という形で、公には表明していたと思うんですが、アメリカとの交渉のなかで保有しているということを認めたということで、やはり信用できないなという感じはございませんか。

 志位 それはそうですね。北朝鮮の今度の行動というのは、まず国際的な核兵器問題に関する枠組みをつぎつぎと破ってきた、その動きが事実としてあるわけです。南北非核宣言を破る、あるいは米朝枠組み合意を破る、あるいは日朝平壌宣言を破る、あるいはNPTを一方的に脱退する。そして「核兵器は持たない」といってきたにもかかわらず、伝えられるところによると「持っている」という発言をする。ですから、こうした一連の約束違反ということは、ひじょうにきびしく批判されなければならないというのは、私が強くいいたい点です。

 ただ、そうした批判だけにとどまらないで、北朝鮮が核兵器開発を進めている論理そのものが、たいへん北朝鮮にとっても有害だし、周辺諸国にとっても、有害かつ危険なものだということを、道理をもって北朝鮮にしっかり説いていく必要があるというふうに、私は思っているんですよ。

北朝鮮が国際社会の仲間入りができない原因の大きな部分は自分自身にある

 梶本 どういうふうに説けばいいんですか。

 志位 たとえば朝鮮通信の最近のものを読んで、こういう一節があるんです。北朝鮮側の言明です。「ただ物理的抑止力、いかなる先端武器による攻撃も圧倒的に撃退することのできる強力な軍事的抑止力を保有してのみ、戦争を防ぎ国と民族の安全を守ることができるということがイラク戦争の教訓である」。こういうふうにいうわけです。

 「物理的抑止力」、核兵器まで持つことが最大の安全保障のカギなんだというわけですが、私は北朝鮮にとって、一番の安全保障上の問題は何かと言えば、この国が北東アジアで周辺諸国とまともな外交関係がない、つまり近所づきあいがきちんとできていない、不正常な関係にある、国際社会のなかで孤立している、これが私は北朝鮮にとって、安全保障上の一番の問題だと思います。

 しかもその原因の一番大きな部分は何かと言えば、そこには北朝鮮自身の問題があります。すなわち北朝鮮が国際的な無法行為を繰り返してきた。ラングーンのテロ事件とか、あるいは拉致問題とか、さまざまな無法行為を繰り返してきた。これをまだ清算していない。それからいま言われたような国際的なルール破りをやる。北朝鮮自身のなかに、そういう国際社会の仲間入りができない原因があるわけです。大きな原因があるわけです。

 ですから私は、(北朝鮮が)それを自ら本気になってただして、周辺諸国との平和・友好の外交関係を築いて、国際社会への復帰をはかるということこそ、北朝鮮にとっての一番の安全保障になるんだということを説く必要があると思うんですよ。

 北朝鮮がいまやろうとしていることは、その努力をまったくやらないで、ただ「物理的抑止力」だと、「強力な軍事的抑止力」だと、だから核兵器も必要なんだという理屈でいくわけですが、この理屈でいったら、ますます国際的な孤立が深刻になる。北朝鮮にとっても、この地域の平和と安定にとっても有害かつ危険な状況をつくる。

 いま進もうという道が本当に北朝鮮にとっても有害だし、周辺にとっても有害なんだということ、本当の善隣友好の関係に踏み出すための努力を北朝鮮自身がやりなさい、ということを、道理をもって国際社会も説くし、日本政府も説いていく必要がある。このことを強く言いたいですね。

おたがいに先制攻撃をやらないという確認は、交渉のあたりまえの前提になる

 梶本 現実には、北朝鮮は核を持っているぞと言って、アメリカ側と交渉して、体制の認知ですね、いまの体制を認めてほしい、できれば攻撃しないということもちゃんと言ってほしい、こういうことが言われています。他方、アメリカの方は、核開発をやめなさい、しかし核開発をやめなさいと言っているのか、独裁政権をやめろと言っているのか、そこはアメリカももう少し奥がいろいろあると思いますけれど、そういう両方がいま交渉しているわけなんですけれども、今後の交渉がどう展開していくと見ていますか。

 志位 これは交渉事ですから、どういうかけひきややりとりが交わされるかというのは、あらかじめ言えないわけですが、いま言われた「体制」を「認知」するというのは、無理筋なことになるんですよ。体制というのはその国の人民が決めるわけですから。

 ただ、お互いに先制攻撃をおこなわないということを米朝双方が確認するということは、「見返り」うんぬんということではなく、交渉の当たり前の前提をつくることになると私は思います。

 日本政府としても、日本自身が先制攻撃をやらない、それから他の国が先制攻撃をやったとしても、どんな形であれ、それに支持を与えたり、参加したりしない、そういう原則を明らかにすることは、当然のことだと思います。

 梶本 アメリカ側は、ここはむずかしいところなんですが、国連に北朝鮮の核問題を持ちこんで、制裁なり、決議をあげて、北朝鮮はやっぱり違反だということをはっきりさせようと、こういう動きが一つ考えられますが、他方で米中朝で、三者なりの協議をやっていますけど、この枠組みはどんなふうに見ておられますか。

 志位 (北朝鮮問題が)国連安保理に付託されるという事態になっていますが、安保理としてもまだ制裁というところに踏み込むということは考えていないというのがいまの状況だと思うのです。

 というのは、いま交渉が始まったわけですから。三国交渉が始まったということは、ともかくも話し合いのなかで問題を解決する、制裁に行かないで解決するということが始まったわけですから。私は、この流れ自体はひじょうに前向きな流れだと考えていますし、ぜひそういう外交的な手段によって解決をはかる糸口をつくっていってほしいと思いますし、日本もそういうなかでの努力が必要になっていると思います。

軍事力行使の事態は絶対につくってはならないし、簡単にはならない

 梶本 北朝鮮は交渉をすると、核を持っているぞという形で、瀬戸際政策をやるわけですよね。他方、アメリカも最近は、交渉ではなくて、ピン・ポイントで爆撃した方が早いというような感じで、ラムズフェルド路線というのか、そういう形で両方かなりきわどいことをやるようになったので、ひょっとするとその破局シナリオというんですかね、アメリカが攻撃する、それに対して北朝鮮が韓国を攻撃するとか、あるいは日本にミサイルを撃つとか、そういうようなこともシナリオのなかで言われているんですけれども、それはどんなふうにご覧になりますか。

 志位 そういうシナリオに至るような事態をけっしてつくってはいけないし、簡単にはそういう方向に行かないと思います。

 この問題は九四年の(北朝鮮)核危機で国際社会がいったん経験していることですね。あのときは実際、そういうピン・ポイント攻撃のシナリオが、実行一歩手前までクリントン政権のもとで行ったわけです。ところがこれを韓国の大統領が電話で直談判して押しとどめて、「そんなことをやっても韓国の兵は一兵たりとも動かさない」といって押しもどして、その時にアメリカも韓国も北朝鮮も戦争を始めたら、これは人口密集地での地上戦になり、おびただしい犠牲が避けられないというなかで、戦争という手段をやめたという経過がありますね。

 あの歴史的経験を通じて、それぞれが戦争をやったらどういう大変なことになるかということは、ある程度それぞれ一つの教訓をひいていると思います。ですから私は、これは楽観はできませんが、平和的、外交的な方法での解決ができると思いますし、あくまでそれを追求すべきだと思っています。

 梶本 アメリカがイラク戦争で新しい教訓を得たというふうには言えませんかね。

 志位 これはひじょうに危険なことです。これを世界に広げるということは絶対に許してはいけない。(つぎの標的が)シリアという話が出る。あるいはイランという話が出る。そういう国名が実際にあがっているわけですが、これを世界に広げるような事態を絶対に許してはいけない。ただ、それでは北朝鮮にたいして、すぐアメリカがそういう軍事(力行使)に切り替えるかといったら、私はそう単純にことはいかないだろうと思うし、現に動いている流れも、いま対話が始まったわけですから、そういう方向ではない方向にいま動いているわけです。

日朝交渉─一つの課題での合理的解決が、全体の解決につながることも

 梶本 わかりました。それから日本も、当事国の一国と言えるんですけれども、たとえば拉致問題があります。国交も回復していませんし、そういうことで日本はここで、北朝鮮はとにかくアメリカを交渉に引き出して、二人で交渉したいということだと思うんですけれども、日本はここでどういうかかわりをしてですね、どういうことを言っていったらいいのか、そのへんはどうお考えですか。

 志位 私は、日本政府が、日朝平壌宣言という一つの到達点があるわけですから、そのうえにたって、いま知恵をつくし、汗をかいて、事態を打開するために力を発揮すべきときだと思うんですね。

 そのうえで大事な点をひとつ言いたいのですが、日朝平壌宣言では、「諸課題を包括的に解決する」ということを確認しているわけですね。すなわち日朝間には、核の問題がある、ミサイル(の問題)がある、拉致(の問題)がある、過去の清算(の問題)がある、さまざまな問題があるけれども、それを「包括的に解決する」という解決方法を確認しているわけです。私は、これは理性的な方向だということで支持しました。これはいまでも変わりありません。

 ただ、この「包括的な解決」の方法というのは、交渉の過程ですべての課題を同時並行に進めなければならないということではないと、私は思うのです。

 やはり核兵器(問題)には核兵器(問題)なりの解決の合理的な道筋があると思います。拉致の問題には拉致の問題の性格にふさわしい合理的な解決の道筋があると思います。ですからそれぞれだと思うんですね。

 そして、交渉の過程のなかで、あれこれの課題の交渉が先に進むということは、ありうることです。たとえば核兵器の交渉が先に進むと、あるいは拉致の問題が先に進むと、いろんなことはありうることです。

 あれこれの課題の交渉が先に進むことはありうることであって、かりに一つの課題で合理的な解決の道が開かれたとしますでしょう。そうしますと、他の問題でも合理的な解決に道が開かれて、それこそ全体の「包括的な解決」へとつながっていきうるわけです。

 かりに核兵器の問題で、本当に道理をつくして、理をつくして北朝鮮に、“あなた方が国際社会に復帰するうえでも、これまでみたいなやり方をあらためて、核をもてあそぶようなことはあらためて、放棄しなさい”ということで、国際社会が働きかけをやる、日本政府もそういう働きかけをやる。そしてこれで突破口が開かれたとしますでしょう。それで合理的な解決がはかられたら、それは拉致問題を合理的に解決をすることにもつながってきうるのです。

 一つの問題での前向きな解決がはかられたら、全体に響くことになるわけですね。そういうことで「包括的な解決」を最後はやって、(国交)正常化に進むということもありうるわけです。

 日本政府は「包括的な解決」という方法について、そういう原則を貫きながら、柔軟性をもって対応するということがひじょうに大事だと思いますね。政府はいま知恵を出し、汗をかかなければならないと思います。それを強く求めたい。

「道理をもって説く」─日本政府の交渉の力が問われている

 梶本 北朝鮮はアメリカと二人で話し合いをやりたいというのが基本的な方針ですから、なかなか日本が割っていくすきがないというか、なかなか知恵の出しようがないんじゃないかなという気がしますけれど。

 志位 ただ、核兵器問題も本来で言えば、日朝平壌宣言がもっとも直近の国際合意なのです。ですからこれを日本が強く握って、これを守りなさいということを言う一番強い立場に、日本政府は本来はあるわけです。全体をみた、大局観にたった原則的で柔軟な交渉態度をいま日本政府がとれば、これは一つの道が開かれるという可能性があるのです。

 核兵器の問題について、北朝鮮に“約束違反ですよ”と言うのはこれは当然必要です。それにとどまらず、“こんなことをやっていたらあなた方の国にとっても有害なことなんだ。本気になっていままでの問題を清算して国際社会の仲間入りをする努力をしなさい。それが、北朝鮮の安全を守る一番の道でもあるのですよ”という大局論にたった、理をもった働きかけ、交渉が必要だと思いますね。

 それを日本政府はやる必要があるし、国際社会もやる必要があります。


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