日本共産党

2003年4月16日(水)「しんぶん赤旗」

横浜事件の再審決定

ポツダム宣言受諾後 治安維持法は失効

横浜地裁


 太平洋戦争中に雑誌編集者ら約六十人が治安維持法違反容疑で逮捕され、半数近い人が有罪判決を受けた大規模言論弾圧事件として知られる「横浜事件」で、横浜地裁(矢村宏裁判長)は十五日、終戦直後に有罪判決を受けた元被告の遺族らによる第三次再審請求について、「ポツダム宣言受諾によって治安維持法の一部は失効した」との判断を示し、再審を開始する決定をしました。

 有罪確定から五十八年を経過して名誉回復への道が開かれました。検察側は即時抗告する方針。旧憲法下の悪法と名高い治安維持法違反の再審が認められるのは初めて。再審が確定すれば、改めて免訴とすべきかどうかが争点になる見通しです。再審請求していたのは、元中央公論編集者の故木村亨さんの妻まきさん(54)ら元被告の遺族五人。 決定によると、ポツダム宣言は国際法的な拘束力を持っており、一九四五年八月十四日に天皇が終戦の詔を発したことにより、同宣言は国内法的にも効力を有するにいたったと認定。このため、思想の自由など基本的人権の尊重をうたった同宣言に反する行為は法的に許されない状態になったとして、治安維持法は実質的に効力を失ったと認めました。これにより、旧刑事訴訟法が免訴理由として定める「刑の廃止」があることになります。


 横浜事件 太平洋戦争中、政治学者細川嘉六氏の論文をてがかりに、「日本共産党再建計画」をでっちあげ、神奈川県特高警察が戦争に批判的だった約六十人の知識人を検挙。拷問で獄死するなどした言論弾圧事件。厳しい拷問などで強要した自白を唯一の証拠に、治安維持法違反を立件。半数近い人が終戦後の一九四五年八月中旬から九月下旬にかけ、横浜地裁で有罪判決を言い渡されました。同法は同年十月十五日に撤廃され、裁判で係争中だった人は免訴となりましたが、終戦後の訴訟手続きの混乱などで控訴しそびれた人の刑が確定しました。

 治安維持法 一九二五年に天皇制政府が制定した国民弾圧法。結社を罰する点でも、思想や研究までも弾圧する点でも、前例の無いものでした。二八年に大改悪され、天皇制批判には死刑・無期懲役を加えました。主な対象とされた日本共産党は、作家の小林多喜二や党中央委員の岩田義道をはじめ、獄死など多くの犠牲者を出しました。


横浜事件の地裁決定(要旨)

 横浜事件の再審開始に関する十五日の横浜地裁決定の要旨は以下の通り。

 元被告らに関しては直接および間接の訴訟記録が存在せず、原判決の具体的内容は明らかでなく、具体的事実関係に基づく再審理由の有無を判断できる程度にまで至っているとは言い難い。しかし、弁護人により提出された資料を総合すれば、元被告らが治安維持法違反の罪で処罰された事実自体を認めることができる。原判決の謄本がないことを理由として請求を棄却すべきではない。

 ▽争点(1)について

(1)ポツダム宣言の国内法的効力

 検察官の主張のうち、八月十四日の時点でポツダム宣言に法的な効力が生じていなかったとする点については相当でない。ポツダム宣言はいわゆる無条件降伏を日本に対し勧告する内容のもので、いわば緊急状況下における交戦国間の合意であって、その性質や受諾がなされた以降降伏文書に署名がなされるまでの経緯などにかんがみれば、受諾がなされたときより戦争終結の条件とされた条項については、当事国間において少なくとも国際法的な拘束力を生じるに至ったと考えられ、その後になされた降伏文書への調印等は、ポツダム宣言の受諾がなされた事実を確認する意味合いのものであったというべきである。

 天皇は、八月十四日にポツダム宣言を受諾するとともに終戦の詔書を発し、ポツダム宣言を受諾したことを国内的にも公示している。八月十四日に天皇が終戦の詔を発したことにより少なくとも勅令を発したのに準じた効力が生じたというべきであり、ポツダム宣言は国内法的にも効力を有するに至ったというべきである。

(2)治安維持法の効力

 ポツダム宣言一○項後段では、戦争終結の条件として、日本国国民間における民主主義的傾向の復活強化、言論、宗教および思想の自由並びに基本的人権の尊重の確立が求められている。同条項は、治安維持法等の法規の改廃を直接に要求するものとまでは言い難いが、これが国内法化されたことにより、当該条項と抵触するような行為を行うことは法的に許されない状態になったと解される。当該条項を適用し違反者を処罰することはポツダム宣言の条項と抵触するものと言える。

 治安維持法一条、一○条はポツダム宣言に抵触して適用することが許されない状態になった以上、もはや存続の基盤を失ったというべきであり、実質的にみて効力を失うに至ったと解すべきである。

 ▽争点(2)について

 旧刑訴法上の免訴事由には刑の実質的な廃止のあった場合も含まれると解されるところ、免訴事由のある場合も再審理由として規定されており、法の文言に反してまで、再審理由としての免訴を言い渡すべき場合から刑の実質的廃止がなされた場合を除外すべきと解する理由はない。実質的にみても、これを認めなければ本件のような事案では有罪判決を受けた者が積極的に救済を求める手段がなくなってしまうことになるが、そのような結論は衡平の観点から問題があるといわざるを得ない。治安維持法一条、一○条が実質的に失効したことも再審理由に当たる。

▽検討結果

 治安維持法一条、一○条は、ポツダム宣言が国内法的な効力を有するに至ったことにより実質的に失効したと解され、これは旧刑訴法三六三条二号にいう「犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廃止アリタルトキ」に当たると認められる。

 当裁判所の採用した鑑定人大石眞の鑑定書等の証拠は、その論拠とするところすべてを当裁判所において採用するものではないが、結論も含め当裁判所の見解に影響を与えており、旧刑訴法四八五条六号にいう新証拠といえる。


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