日本共産党

2003年1月24日(金)「しんぶん赤旗」

イラク問題――いま平和解決の声大きく広げるとき

CS放送 朝日ニュースター

志位委員長語る


 日本共産党の志位和夫委員長は二十三日、CS放送「朝日ニュースター」の番組「各党はいま」に出演し、イラク問題や来年度予算案、金融政策、いっせい地方選に向けた党の取り組みなどについて、質問に答えました。このうち、イラク情勢の現局面をどうみるかについての発言を紹介します。聞き手は、早野透・朝日新聞編集委員です。

戦争反対が世界の大勢――孤立しながら攻撃計画振り回す米国

 早野 緊迫しているイラク情勢、日本でも十八日に日比谷公園でデモなどもありました。それなりに盛り上がってきていますが、しかし、アメリカはどうしてもやりそうだという空気です。

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CS放送・朝日ニュースター「各党はいま」に出演し、インタビューにこたえる志位委員長(左)。聞き手は朝日新聞の早野編集委員

 志位 いまの全体の状況についていいますと、まず、世界の世論をみると、戦争反対という声が、圧倒的な広がりを示していると思います。十八日に、全世界、三十カ国以上で、集会、デモがおこなわれました。

 それから、国連安保理の舞台でも、フランス、ロシア、中国、ドイツ、こういう諸国が、戦争反対ということを、明りょうに主張している。政府レベルで見ましても、圧倒的多数は、戦争反対、平和解決という流れが、国際政治のなかでの大勢を占めているというなかで、アメリカは、世論的には孤立を深めているというのが、現状だと思います。

 早野 国際世論のなかで、ということですね。

 志位 ただ、世論で孤立したら、(攻撃を)やらないかといったら、そうではないわけで、そういうなかで、彼らとして、一方的な攻撃のオプション(選択肢)を、居丈高(いたけだか)に振り回すということが、一方で続いているという事態だと思います。

平和解決の道は開かれている――いま国際社会の力の結集を

 志位 この問題を筋道たてて考えてみますと、いま起きている過程というのは、昨年十一月八日におこなわれた国連安保理決議一四四一にもとづく査察が進んでいるわけです。

 査察について、国連の査察団はなんといっているかというと、今月九日に中間報告が出まして、まもなくまた(二十七日に)報告が出ますけれども、ともかく、「大量破壊兵器の決定的な証拠は得られていない」。同時に、「疑惑は晴れていない」。だから、「査察活動は続けるんだ」(といっています)。IAEA(国際原子力機関)などは「(査察は)少なくともあと数カ月はかかる。じっくり査察をやって、問題解決をするのだ」と(のべています)。

 アナン(国連)事務総長も「国際社会が一致結束して、査察をすすめることによって、平和解決はできるんだ」とのべています。“この道(平和解決の道)は開けているんですよ”というのが、国連の立場ですね。

 イラクとの関係でも国連の査察団が(イラク政府との)共同声明を二十日に発表して、ともかく査察の段取りについての合意をえているわけですよ。ですから、この道をすすめば、戦争などやる道理はまったくないという道が一方で示されているんです。国際社会はこの実現に向けて力を結集すべきだと思います。

米国の道理ない態度――「証拠」があるなら国連に報告すべき

 早野 一般国民から見て疑問なのは、アメリカは、イラクは大量破壊兵器を持っていそうだと、証拠がありそうなことを言っているが、証拠があるのなら早く見せてほしいと思うんですが。

 志位 そこが問題なんですよ。

 早野 アメリカは証拠を持っているんでしょうか。

 志位 私は(証拠を持っているかどうか)知る立場にありませんが、アメリカは、国連の査察団が「決定的証拠は得られていない」といっているもとで、「重大な違反」があると断定しているわけです。「重大な違反」があるんだったら、その情報を国連の査察団にまず提供するのが、アメリカの当然の責務です。ところがそれをやらないわけです。

 国際社会に、違反があるぞあるぞと言いながら情報は提供しない。そして、「もう時間がない」、「国連が第二の新しい決議をあげないのだったら、アメリカの判断で武力行使をやることもある」とパウエル長官なども言っているわけです。

 早野 最近化学兵器のミサイルのからみたいなのが見つかったとか、科学者のなかに核開発の計画書があったとか、あれは証拠というふうになると思いますか。私は到底思えないのだけど。

 志位 そういういくつかの問題が出てきているのは事実だけれども、国連の関係者はこれを「重大な違反」とみなしてはいません。

 本当にアメリカの態度はおかしい。「重大な違反」の「証拠」を持っているのだったら国連に報告する義務があるわけだし、もしやらないのだったらアメリカ自身が査察を妨害しているということになります。

 もし(証拠を)持っていないのだったら虚偽の事実を流しているということになりますからね。これは本当に道理のないことです。

 やはりいま、全世界がイラクに査察の義務をはたしなさいということをいいながら、同時にアメリカに国連を無視した一方的な攻撃はやめなさいということをはっきり言うべきときですね。

 早野 にもかかわらず、アメリカは、別の論理でやっちゃうかもしれないという危険性は、無論あるわけですけれども、アメリカって一体、どうなっちゃったんだろうとごらんになっていますか。

「世界のルールはどうでもいい」――米国のおごりと、平和の流れの広がり

 志位 私は、一昨年来の経過を見ますと、同時テロがあり、それに対して、(米国は)報復戦争という手段に訴えた。(アフガニスタンの)タリバン政権を打ち倒した。しかし、問題は解決しなかったわけですね。

 しかし、ともかく戦争に「勝った」ということで、かなりの慢心、おごりがはなはだしくなったと思いますね。去年一年間みても、「悪の枢軸」発言から始まって、「国防報告」で、先制攻撃論を打ち出す。国家安全保障戦略でも、それを権威づけする。そういう流れが、ずっと出ていますね。「核態勢の見直し」報告(NPR)では、核兵器による先制攻撃論まで出てくる。

 本当に、「世界のルールなんかどうでもいい」「国連憲章なんか、どうでもいい」と。要するに、「おれが気に食わないものは、いつだってやっつけるんだ」と、この論理が、もうむき出しにでてきたというのが、去年一年間です。

 しかし、それにたいして世界の反対の世論も、ずーっと広がりましたね。これも大きな変化だと思いますね。

国連決議なしの武力行使に「反対」といえない日本政府の従属姿勢

 早野 そこで日本なんですけれども、何か、日本からの声というもの、僕たちの気持ちを代弁するような声はあまり出ていないんですが。

 志位 国会の答弁を聞いていましても、私たちが「イラク攻撃に反対しなさい」と言いますと、(首相答弁は)「イラクが決議を守るべきだ」で終わるんですよ。イラクが決議を守るべきだというのは、当たり前のことで、問題は、「アメリカも国連憲章を守れ」ということをいうべきなのに、いっさいその部分は、答弁からすっぽりないですね。

 早野 最近のテレビでの各党の議論を聞いていますと、自民党も含めてイラクが大量破壊兵器を隠しているということの明白な証拠が必要だ。それからもう一つ、国連決議は必要だと、このラインでは一致しているようですが。

 志位 いやそうではないんです。この前の日曜日の討論会をみていましたら、自民党の山崎幹事長の発言は、要するに国連で新たな決議がないもとでアメリカが武力行使に踏み切ってしまった場合に「賛成しますか、反対しますか」と問われて、「反対する」といわなかったですよ。「政治判断だ」と言うんです。つまり「賛成」、「協力」に道を残す発言をしているわけです。

 これは決議一四四一をまったく理解していない発言です。あの決議というのは、ともかく査察の結果を判断する権限を持っているのは国連安保理だけ、それに対する対処の権限を持っているのも国連安保理だけ、アメリカが自動的に武力行使をすることを排除する。これが国際的なコンセンサスになったのが一四四一であるわけです。勝手な武力行使ができないというのが国際社会の合意なのです。

 それなのに、そういうことをやった場合にどうするかと聞かれて、「ノー」と言えない。言えないだけじゃなくてイージス艦を出して既成事実を作っているわけですから、私はこの点での対米追随の姿勢は世界でも突出していると思いますね。こんな国は本当に世界の中でも数えるほどしかないと思いますね。

平和な秩序ある世界か、弱肉強食の無法の世界か――世界は分岐にたっている

 早野 本当にこれは、国連というものを中心に世界のいわば秩序や道理を築くのか、それともそれを脱ぎ捨てて、力ずくかというような、どうもそんな境目なような気がします。

 志位 本当にそうです。この問題というのは、二十一世紀の世界が、国連憲章を守って、平和な秩序ある世界になるのか、それとも、弱肉強食のジャングルのような無法な世界になってしまうかの、一つの分岐なんですよ。だからこそ、世界がこれだけ反対の声をあげている。

 それと、もう一つ、私は、実際にイラク攻撃がやられた場合の、被害、犠牲という問題があると思うんですよ。

 国連の内部文書が報道されていますけれども、だいたい五十万人という規模で、負傷者が出る。二百万人、三百万人という規模で難民が出るという被害予想をしています。

アラブ世界、イラスム世界――地球的規模で大きな動乱もたらす危険

 志位 それから、私たちはこの間、中東や南アジアに、ずっと訪問団を出して、(早野「志位さんもインド、パキスタンいかれてましたね」)ええ。インド、スリランカ、パキスタンにいきました。どこでも、戦争反対で一致するわけですが、そのなかで、私たちが感じるのは、この戦争を起こしてしまった場合に、単にイラクで犠牲者が出るだけではなくて、たとえば、アラブ世界全体の動乱につながるという心配を、みんなしているわけですよ。

 そのことを、アラブ連盟のムーサさんという事務局長が、「中東の地獄の門を開ける」という表現でいいました。つまり、パレスチナ・イスラエル紛争に飛び火しないという保証はない。

 もう一つ、イスラム世界への影響という問題があります。いま、イスラム世界というのは、全世界で、OIC(イスラム諸国会議機構)に入っているだけで、五十七カ国、十二億人ですよ。サウジアラビア、パキスタン、インドネシア、マレーシア、エジプト、こういう国々が入っているわけです。

 このイスラム世界全体の大きな動乱につながらないという保証も、ないんですね。ですから、これは、地球的規模で、非常に大きな傷跡を残す危険があるということを、みんな心配しているわけです。

 早野 アメリカ人の知り合いなんかでも、このことによって、またテロがいろんなところで起きてくるようなことにつながっていかないかと心配していますからね。

 志位 私たちは、イスラム世界=テロみたいな、そういう見方には、絶対にくみしませんが、しかし、イスラムの世界からしますと、やはり「同胞に対する攻撃」というふうに、「同じムスリム(イスラム教徒)にたいする攻撃」というふうにとらえるわけですよね。ですから、この大きな否定的影響ということも、ちょっとこれは想像がつかないほどのものです。

 はじめてしまった場合、どうなるかということの想像が誰にもつかない戦争をやろうとしているということですから、絶対にこれは食い止めなければいけないと思います。


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