日本共産党

障害者自立支援法の影響調査(第2回)

2007年9月26日 日本共産党国会議員団

障害者の全面参加と平等推進委員会


1、調査目的

 障害者自立支援法が実施されて1年半が経過した。政府は世論におされて利用者負担軽減等の「特別対策」を実施したが、原則1割の応益負担による障害者の負担と不安は依然としてきわめて大きい。また施設にたいする報酬が削減されて運営が危機に直面し、人材不足が深刻化している。これらの実態を把握し、自立支援法改正の方向性を明らかにするために、昨年6月につづき、第2回目の調査をおこなうこととした。

2、調査対象

 全国の障害者施設・事業所(法定)のうち、通所・入所授産施設(旧法)、居宅支援事業所(新法)を中心に無作為で抽出した350事業所。これに党地方議員が直接訪問して聞き取りをおこなったものを追加した。

3、回収状況

 郵送でアンケート用紙を送付し、郵便またはFAXで、40都道府県172施設・事業所から回答が寄せられた。回答のあった施設・事業所の利用者は全体で5798人である。

4、調査実施期間

 2007年8月30日から9月21日。

5、調査結果の概要および特徴

 (1)利用者負担増の影響について

 定率1割負担の導入で多くの障害者が過酷な負担増を強いられ、サービスの利用抑制をはじめ深刻な影響がでていることがあらためて明らかになった。

 ●月額1万円以上の負担増が6割

 負担増(給食代含む)では、最も多いのが月額「1〜2万円未満」で41.6%、次いで「1万円未満」が38.4%、「2〜3万円未満」が11.4%となっている。「月額3万円以上」となった人も6.3%ある。わずかばかりの障害年金と工賃収入の多くが定率1割の過大な負担増による支払いで消えてしまうという厳しい実態にある。

 ●サービスの利用抑制、外出控えなど自立生活が後退

 負担増によって、利用者の生活にどのような変化が起きているのかを自由回答で答えてもらったところ、「施設利用を中止・減らした」「外出を控えるようになった」「趣味に使うお金を減らした」「給食を断り、弁当を持参して別室で一人で食べている」など自立を阻害されている厳しい生活実態が数多く寄せられた。「利用料を滞納している人がいるが、行き場がなくなるので利用を拒むことはできない」(大阪府・知的障害者通所授産施設)との回答もあった。

 負担増を理由に、施設等のサービス利用を「中止した」人は83人、「日数を減らした」人は118人いた。「中止した」人の出現率は1.4%で、昨年6月調査の出現率0.9%の1.5倍と大幅に増加した。自治体の独自減免制度で「負担が軽減されている」との回答もあったが、全体としては応益負担による影響が月日を経るごとに深刻化しつつあるといえる。

 ●応益負担は「廃止すべき」が9割近く

 政府の「特別対策」(07、08年度実施、負担上限額を2分の1引き下げ)によって、負担が軽減された人は2551人あり、相当数が対象になっている。しかし、「特別対策」への評価は、「不十分」と回答した事業所が90.8%にのぼり、「十分」との回答は1%にも満たなかった。「不十分」だとする理由は、「2年間かぎりの措置」「応益負担はそのままだから」との回答が多くを占めている。

 「応益負担」について今後のあり方を聞いたところ、「廃止すべき」が88.0%と圧倒的に多い。「一時凍結すべき」は9.3%で、「現状でよい」は2.7%にすぎなかった。「応益負担廃止」は、福祉の現場で圧倒的多くの世論といえる。

 (2)事業所運営への影響について

 自立支援法による報酬の切り下げで、施設・事業所の運営が深刻な危機に直面していることがあらためて浮き彫りになった。

 ●事業所収入は1〜2割減 利用者・職員に厳しいしわよせ

 事業所収入の減収幅については、自立支援法実施前に比べて「1割台」と「2割台」をあわせると61.9%にものぼる。「3割以上減」の事業所も1割近くあった。現在はもちろん、今後の新事業体系への移行にも多くの事業所が不安の声をつのらせている。

 「収入減への対応」として、利用者・職員への犠牲回避の努力が必死につづけられているが、多くの事業所が苦渋の選択を余儀なくされている。「利用者サービス関係」では、利用者の「夏季・年末年始休暇の日数減」、「土・祝日の開所」などで営業日数を増やし、一方、利用者が楽しみにしている「一泊旅行の廃止」をおこなうなどの対策をとらざるを得なくなっている。「職員の労働条件関係」では、「賃金の切り下げ」、「一時金のカット」、「正規職員から非正規職員・パートに切り替え」など労働条件の切り下げを余儀なくされ、深刻な事態に直面している実情が数多くの施設から寄せられた。

 ●1年間で2割近くの離職者

 「人材不足」もいっそう深刻化している。この1年間(06年度)で離職した職員が「いる」と回答した事業所は半数を超える。離職者数・職員定数を明記してきた74事業所についてみると、離職者は239人で職員定数の18.2%にあたる。「職員20人中8人が離職した」という回答もあった(東北地方の知的障害者授産施設)。

 今春(07年4月)の職員募集については、「募集人数どおりの応募があった」事業所は33.8%にとどまり、「募集人数に足りなかった」が66.3%にのぼった。

 「職員が辞めたり、集まらない理由」としては、「労働がきついうえに、賃金が低い」ことが共通してあげられている。新規募集についても、非正規職員の採用枠とせざるを得ないため、「将来不安から応募する若者がいない」との悲痛な声が多く寄せられている。

 ●報酬単価引き上げ・月額支払いの要求切実

 国への要望では、危機的な事態を打開するために、「報酬単価の引き上げ」「報酬支払い方式を月額制に戻す」ことが、圧倒的多くの緊急・切実な声となっている。

 (3)在宅サービスについて

  今回の調査では、在宅サービスの実態についても可能な範囲で把握することとした。

 訪問系サービス利用者の状況について52事業所から回答があった。自立支援法実施前にくらべて「水準は維持されている」との回答は35.5%で、「サービスが制限され後退している」が64.5%あった。今後、さらに後退するのではないかと不安の声が寄せられている。

 自治体の地域生活支援事業の問題点としては、「地域活動支援センター(小規模作業所の移行先として想定)の補助金が少ない」、「移動支援の利用時間や利用内容の制限がある」などを指摘するものが多く、「コミュニュケーション事業の有料化」をあげたところもあった。自治体間格差を憂慮し、国の財政支援の強化を望む声がつよくだされている。

 4、政府や国会への要望

 自立支援法を抜本的に見直し、応益負担の廃止と報酬の引き上げを緊急に求める要望が数多く寄せられた。このほか、障害認定の見直し、施設・事業所の職員配置基準の改善、児童デイサービスへの支援強化など切実な要望・意見が数多く寄せられている。

 「国による一時的な軽減策が講じられましたが、自立支援法が抱える根本的な問題は解決されていません。障害をもった方たちの精神的負担、事業所の経営の圧迫は深刻です。一日でも早い法の改正を願っています」(千葉・身体障害者授産施設)。これは、今回のアンケートで共通する、全国各地の施設・事業所関係者の切実な声である。  

以上                      

〔参考〕 「障害者自立支援法の問題点、政府や国会への要望」への回答から

 ▽「障害を好きでもった訳ではありません。このままでは、お金のない人はどうにでもな

 れという感じがします。安心して暮らせるように障害者自立支援法を根本から見直してください」(長野県・通所授産施設)

 ▽「サービスを自己選択できるしくみというが、山間の地ではえらぶほどサービスはない。山間に住む人はうかばれない」(鳥取県・生活介護施設)

 ▽「年収200万円台の職員がほとんど。良い支援ができないだけでなく、職員確保が困難。若い人は結婚できないし、結婚したい人、子どもをほしい人は辞めざるをえない。官製ワーキングプアをつくっている。(憲法25条の)健康で文化的な最低限度の生活は福祉の現場にはありません」(京都府・知的通所授産施設)。

 ▽「障害者福祉は市場経済主義にはなじまない。発達障害児対策が急務」(北海道・児童施設)。

 ▽「応益負担が導入されたことにより、利用者と事業者が対立関係になったことが気になる。単価が引きあがった分、利用者負担がふえるので応益負担撤廃と単価引き上げは両輪であると思う」(兵庫県・多機能型)

 ▽「国は障害者の自立を考えていない。いかに財源を減らすかのみである。予算を大幅に増やさなければ、職員の確保ができず日本の福祉の将来の展望はない」(香川県・知的障害者通所授産施設)。



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