日本共産党

2002年12月17日(火)「しんぶん赤旗」

働く女性の確かな一歩

笑顔輝く12原告

住友生命ミセス差別勝利和解


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支援の人たちから祝福を受ける、コサージュを胸に着けた原告12人(前列)と弁護団=16日、大阪高裁前

 支援者がつくってくれた生花の黄色いバラと白いマーガレット、かすみ草のかれんなコサージュが左肩に咲く十二人の原告たち――。「無我夢中でやってきました。裁判をしてよかった。勝訴で新しい人たちにバトンタッチでき、来年三月の定年を迎えられます」。十六日、記者会見で、笑顔輝く一人ひとりの原告を代表し、団長の渡辺康子さん(60)はこう喜びを語りました。既婚女性への差別を問う全国初の裁判で、住友生命と国の双方が原告と和解した今回の勝利和解は、原告たちだけでなく、働く女性にとってもうれしいプレゼントとなりました。(大阪府・小浜明代記者)

既婚者差別は違法という跡残せた

退職強要、配転…嫌がらせに勝った

 記者会見で原告の市野千衣子さん(59)は「このたたかいを始めてから職場では結婚、出産しても働くことが当たり前のようになってきました」と話し、山本員枝さん(61)は「既婚者差別は違法という跡を残せた。勇気をもって告発すれば差別は是正されると思いました」と、こみあげる思いを語りました。

 渡辺さんら十二人は一九五八年から一九六三年に入社。当時同社では、入社面接で「結婚したらやめてもらう」。結婚しても働き続けたいという女性には、「君のような人がいると私が困る」などと退職を強要。「結婚式で社長の祝電は打たないように」と社内通知するなど、徹底して「既婚者排除」をすすめてきました。

 それでもやめなかった原告たちには、保育所へのお迎えができない遠方への転勤、残業できない分仕事しろと、けい腕症を発病するほどの過重な業務を強い、妊娠七カ月で仕事場を一階からトイレも電話もない二階に移し、呼び出しのたびに階段を昇り降りさせるなどの嫌がらせを続けました。

 渡辺さんの場合、長男を出産していつものように育児時間をとって出勤すると、きのうまでの場所に自分の机はなく、同僚に背を向けて窓際に押しつけられて置かれていました。その日の仕事は百枚のコピーだけ。みせしめそのものの仕打ちに「私は何も悪いことをしていない」といいきかせてじっと終業時間を待ちました。

 保育所に迎えにいき、わが子の笑顔をみると、こらえていた怒りが一気に噴き出し、次から次へと涙がほおを伝いました。

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残業しても査定は低く

 こんな仕打ちだけではありません。昇給昇格でも徹底して未婚女性と差別しました。

 原告の調べでは、同期入社の未婚女性は六十一人中五十人が役付きとなっているのに、既婚者は三十二人中結婚後改姓しなかった二人だけ(九六年三月末)。未婚の役付きの女性とは年収で二百万円もの差となっています。

 必要な残業をこなしても査定は五段階評価で最低ランクの二。入社五年の男性より低い賃金でヒラのままで定年を迎え、人間としての尊厳をズタズタに傷つけられてきました。

 渡辺さんらは九二年、九四年の二回、二十二人で旧労働省の大阪婦人少年室に「男性は結婚しても差別されないのに、女性が差別されるのはおかしい」と調停を申請しました。しかし、同じ採用区分(一般職)に男性がいないため均等法の趣旨にあわないと却下されました。

 そのため十二人が九五年、提訴を決意。普通に評価されれば一九八八年には最低の役付けに昇格していたことの確認、差額賃金と慰謝料など三億三千万円を請求しました。調停を却下した国に対しても慰謝料を請求しました。

支援と運動大きく広げ

 裁判で、住友生命側は、「既婚女性は産前産後休暇、年休をとるので労働の質・量が大きくダウンする」「家庭責任の負担が仕事の制約となっており、残業できない。育児時間取得中は残業ができない」ので低査定は当然という時代錯誤の主張を展開しました。

 これに対して、渡辺さんらは退職者や同僚をはじめ多くの証言の協力を得、未婚者と既婚者への差別が明白であることを立証。大阪争議団共闘会議に結集し、支援と運動を大きく広げてたたかいました。

 そして二〇〇一年六月、大阪地裁は、既婚者差別があることを認め、労基法上の権利を行使したことや家事育児が重くのしかかり残業させられないから低査定は当然とする会社を違法と断罪。原告全員にたいし九千万円を支払うことを求めました。ただし、国に対しての請求は却下しました。

 住友生命が控訴したため、原告も付帯控訴。高裁からの和解勧告で、裁判と並行して和解の話し合いがすすめられてきました。原告の女性たちのがんばりとともに、大阪労連などが参加する幅広い支援共闘会議を結成、五百五十人を超える著名人の賛同を得るなど、運動と世論がいっそう高まりました。

 それが、今回の勝利和解に実を結びました。

 寺沢勝子弁護士は和解の意義をこう強調しました。

 「働き続ける人たちの勝利です」

 「人間の尊厳の回復を」「差別のない職場をつくりたい」と十一年間にわたってたたかってきた十二人の女性たち。きょうまた、確かな歩みを刻みました。


大阪地裁判決とは

 「和解条項」で住友生命と原告の女性たちが「尊重する」とした2001年6月27日の大阪地裁判決とは――。

 ○既婚女性を理由に「人事考課面で低査定をおこない、昇給・昇格差別をすることは違法」と日本で初めての判決。

 ○原告12人全員について、既婚女性を理由にした差別の存在を認め、住友生命に差額賃金相当損害金と慰謝料の支払いを命じる。

 ○「(会社の)既婚女性の勤務継続を歓迎しない姿勢は被告会社の管理職の姿勢となっていた」と結婚退職強要などのいやがらせを事実と認定。

 ○「(会社が)産休、育児時間の取得をもって低く査定したのであれば、それは労基法で認められた権利の取得を制限するもので、違法なもの」とした。

 ○住友生命の「家事や育児などの家庭責任によって労働の質・量がダウンする」との主張に、「合理性をもつものではない」と否定した。


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