日本共産党

2002年10月10日(木)「しんぶん赤旗」

北京の五日間(24)

中央委員会議長 不破哲三

28日 江沢民総書記との首脳会談(四)


“イラクへの軍事攻撃に反対する”――中国の立場は明確

 江沢民(こうたくみん)総書記は、まず国連の尊重という立場から、いま世界の状況をどう見ているかについて、語りはじめた。

 「中国は、国連安保理事会の常任理事国として、すべての活動で国連の決定を尊重しており、湾岸戦争のときにも、コソボ問題(対ユーゴ戦争)のときにも、国連で解決することを主張してきました。しかし、いくつかの国は、国連の役割を尊重せずに、国連の頭越しでやっています」。

 いくつかの国というのは、対ユーゴ戦争が、アメリカの単独行動としてではなく、NATO(北大西洋条約機構)の集団的な戦争行動としておこなわれたことを、さしているのだろう。

 「決定的なこととして、いま、きびしい問題が出されています。それは、イラクにたいする軍事攻撃の問題です。中国の態度は明確です。イラクにたいする軍事攻撃には反対です。平和的な話し合いを通じて解決することに努力しています。目下、世界の大多数の国は軍事攻撃に反対しています。一昨日は、アメリカから、国連はもはや必要ではないという声が聞こえてきました」。

 一昨日といえば、八月二十六日。チェイニー副大統領が、アメリカの退役軍人会で、ブッシュ政権のイラク攻撃の決意と計画を詳細に展開してみせた日である。副大統領は、この演説のなかで、「先制攻撃」に踏み切る断固たる意思を強調し、それに反対するいくつかの議論に猛烈な反撃をくわえたが、「先制攻撃」が国連憲章のもとで許されるかどうかというもっとも核心をなす問題については、ついに一言も語らなかった。

立場も視点も違う二つの党が一致したことの意義は大きい

 対イラク戦争に反対するという言明を、江総書記がおこなったのは、たしか、ここでの発言がはじめてだった、と思う。立場も視点も違う二つの党が、たがいの見方を率直につきあわせながら、国連とその憲章の尊重を基準にして世界の秩序を確立してゆくべきだという長期的視野での世界論の点でも、イラクにたいするアメリカの軍事攻撃の企図に反対するという当面の緊急任務においても、合意を確認しあった意義は大きい。

 つづいて、江沢民総書記は、核兵器の問題をとりあげ、「核兵器の先制不使用と核兵器の全面的な禁止」が、中国の一貫した主張であることを強調した。これも、現在の国際政治のうえでは、重要な一致点である。「核保有国のなかから廃絶へのイニシアチブを」という私の提起への直接の答えはなかったが、長い視野でみれば、この問題提起が必ず生きてくることを、私は確信している。

資本主義国の共産党の運動をめぐって

 江総書記は、そのあと、中米関係の見通しやそれにのぞむ姿勢や世界の共産主義運動の問題などについて見解を述べた。最後の問題では、「アジアでは、貴党が四十万の党員をもち、八十年の歴史をもつ最大の共産党です」と日本共産党の存在と活動への評価の言葉を述べながら、ヨーロッパの多くの国で「マルクス主義政党が、社会民主主義に取って代わられる状況」が生まれていることなどをあげて、「資本主義国の共産党」の「低調さ」についての懸念を表明したのが、特徴的だった。

 江総書記は、最後に、十一月に開かれることが発表された第十六回党大会について、それが「新しい世紀の最初の大会」として大きな意義をもつことにふれて、また対日関係について簡潔にふれてその発言をしめくくった。

 私は、その発言をうけて、資本主義国の共産党の運動の問題についてだけ、補足の発言をおこなった。それには理由があった。四年前の最初の首脳会談のとき、会談の終わり間近になって、江総書記の方から、「冷戦後の世界の共産主義運動の問題」が提起され、「私自身の考えを述べたうえで、不破委員長のご意見をうかがいたい」ということで、たがいの意見を交換しあったことがある。そのとき、江沢民総書記が「私の専門は工学ですが、党中央にきてから、この問題にも取り組みました」と、たいへん謙虚な言い方で問題を切り出したことは、いまも記憶に鮮明に残っている。

運動の前進か後退かの分岐には、ソ連問題がある

 私は、訪問の準備段階から、「その議論の続きもぜひやりたい」との考えを中国側に伝えてもいたので、経過からいっても、補足の発言をする責任と義務を感じたのだった。

 私が、「前回、世界と社会主義の問題について話がありました」と切り出すと、江総書記は、おぼえているといった表情でうなずく。私は、続けた。

 「資本主義国の共産党の運動は全体として低調だという話がありましたが、その根本にはソ連問題がありました。前回も、ソ連が解体したことで、その問題がなくなったわけではない、と述べました。ソ連への追従を方針としてきた党は、ソ連の解体で深い影響を受けた上、そのことが国民の不信の原因ともなっています。その問題をきちんと清算しないと、国民の信頼をかちとりつつ活動する道は開けません。そういう立場に立てるかどうかが、前進するかどうかの分かれ目になっています。

 資本主義諸国でも、私は、この問題できちんと決着をつけた諸党が前進していることに注目したい、と思います。そういう党は、ヨーロッパにも存在しています」。(つづく)

 


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