日本共産党

2002年9月30日(月)「しんぶん赤旗」

北京の五日間(14)

中央委員会議長 不破哲三

27日 京劇の舞台を観て(下)


天軍と海兵の集団的立廻り

 次の演目は「虹橋贈珠」。これは音読みをするよりも、「虹の橋に珠(たま)を贈る」と読んだ方がよいようだ。このシナリオは、持参の『京劇』にはなかったが、「しんぶん赤旗」の北京支局が差し入れてくれた『中国京劇』という梨園劇場発行の解説書に、「神話劇」だとしてあらすじが載っていた。

 登場人物は、凌波仙子という仙界の女性。“りょうはせんし”と読んだらいいのか。ともかく「波を凌(しの)ぐ」という名だから、仙界といっても、海を本拠にした「水族」の女性のようだ。彼女が人間界の白泳(はくえい)なる文人と恋に落ちて結ばれる。その時、宝の珠を贈ったのが、題名の由来である。

 話がここで終われば、平凡な仙俗の恋愛劇だが、そうではなかった。仙界の女が人間と結ばれるとはルール違反だと、天帝が怒って、討伐の軍隊(天兵・天将)を派遣する。それを海の一族が迎えうつことになる。今度は立廻りといっても、いちだんと華々しい集団の合戦だ。

『西遊記』の登場人物が次つぎと

 登場人物とその紹介ぶりが面白かった。天軍の総大将は、顔中ひげだらけの、金ぴかの鎧(よろい)を着た偉丈夫。案内してくれた中連部の趙世通さんが「『西遊記』に出てくる“二郎”なんとかいう人がいたでしょう」。不破「二郎真君(じろうしんくん)?」。趙「そうそう」。二郎真君なら、天宮を騒がせた孫悟空をついに追い詰めた天軍最強の人物である。

 もう一人、ピンクの衣装をつけた小柄で敏しょうな闘士がいる。趙「この人は、口に那と書く人ですよ」。不破「なた太子(なたたいし)?」。趙「そうです、そうです」。

 なた太子といえば、天宮での合戦の時には、悟空にかなわなかったが、三蔵法師の供をしての妖魔たちとの戦いのさいには、何度となく悟空の応援に出動する好漢。私の『西遊記』知識もまんざらでないようである。

 なた太子とほぼ同格の形で登場する頭に黒い飾りの人物がいるが、これは趙さんも分からなかった。宿舎に帰って例の『中国京劇』を見たら、「伽蘭(がらん)」という天将の名があったから、おそらくその人物だったのだろう。

 この猛将たちを迎えうつ凌波仙子の側には、名だたる将軍は一人もいない。亀、すっぽん、鯉、蛙などなどからなる「海兵」あるいは「水兵」たちである。

 亀や魚の軍隊というのは、これも『西遊記』ではおなじみで、ごく最初の部分――孫悟空が、東海龍王のところを訪問して最強の武器・如意棒(にょいぼう)を強引に手に入れる場面で、ワニ将軍やスッポン元帥、魚の提督などがまず登場する。さらに三蔵法師とともに天竺(てんじく)への旅をする間にも、「水族」の軍隊が出てくる場面は何度もある。

 この軍隊、『西遊記』では、あまり強力な軍団ではなさそうなのだが、いま演じられる舞台の上では、その「海兵」軍が滅法(めっぽう)強い。孫悟空も兜(かぶと)を脱いだ二郎真君ひきいる天軍を、ついには撃破してしまい、凌波仙子と白泳の若い二人の恋も、見事に成就する。

主演女優の妙技に何回も拍手がわいた

 こういう物語だが、やはり見せ場は、天軍と海兵の集団的な立廻り。なかでも、凌波仙子が、自ら陣頭に立って抜群の勇猛ぶりを発揮する。なた太子や二郎真君とも打々発止(ちょうちょうはっし)の剣戟(けんげき)を見せる。

 場内が最高に盛り上がって拍手がやまなかったのは、四方から投げつけられる無数の槍(やり)を、彼女が手と足を縦横に使って確実に投げ手の手もとに投げかえす、絶妙の連続技だった。さきほどはジャッキー・チェンを引いたが、彼女の技には、新体操の選手たちの技を思わせる確実さと演技美とがある。演じている俳優は、李紅艶(りこうえん)。名前から見て女優さんだろう。

 中国の「京劇」は、以前は、日本の歌舞伎同様、女形(おんながた)が重要な地位をしめ、梅蘭芳(メイ・ランファン)の名は、世界的に知られていた。趙世通さんに聞くと、「梅蘭芳とそのあとしばらく残ったが、その後、女形はなくなった」とのこと。具体的な年代は分からなかったが、「文革」の時代に、毛沢東の妻江青の指揮のもと、「京劇の革命化」が問題になったことがある。あるいはそのころに起こった変化なのかもしれない。

 趙さんの解説は続く。「だから、いまは女役は女優がやる。しかし、女優が男役をやることはあるんです」。不破「じゃあ、歌舞伎風の女形はなくなったが、宝塚は残った、というわけですね」。日本通の趙さんのこと、この比較論は結構通じたようだった。(つづく)

 


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