日本共産党

2002年2月10日(日)「しんぶん赤旗」

米大統領の「悪の枢軸」発言


米国 根深い先制攻撃論が背景に

 ブッシュ米大統領が一月二十九日の一般教書演説で行った「悪の枢軸」発言は、欧州同盟国も含め国際的な批判が高まり、それを懸念する声が共和党有力議員からも出ています。「米国がだれであれ侵略するということを意味しない」(五日にパウエル国務長官)との釈明もありましたが、同発言は決して思いつきではなく、深い根を持ったものです。 (ワシントンで坂口明)

「悪の帝国」にあやかって…

 「悪の枢軸(アクシス・オブ・イーブル)」発言は、共和党で依然、偶像視されるレーガン元大統領の一九八三年の「悪の帝国(イーブル・エンパイア)」発言を想起させます。ソ連を「悪の帝国」と呼んで大軍拡を推進し、ソ連崩壊を導いたと解釈されているレーガン氏にあやかり、「悪の枢軸」解体の大軍拡を進め、英雄視される大統領になりたい。そんな願望がうかがえます。

 ブッシュ大統領は演説で、テロリスト撲滅を国防の第一目標に掲げた後、「テロを支援する政権が大量破壊兵器で米国や同盟国を脅かすのを防止する」ことが第二の目標だとし、北朝鮮、イラク、イランを非難しました。

 その上で、「これらのような国と、そのテロリスト同盟者は、悪の枢軸を構成し、世界平和を脅かすために武装している」と発言。さらに「私は危険が高まっている折に、何か出来事が起きるまで待つことはしないだろう」と述べました。

“良い攻撃が 最良の防衛”

 「テロを支援する政権」への先制攻撃もやむなしとの主張です。これは偶然の発言ではありません。

 ラムズフェルド国防長官は一般教書演説後の一月三十一日の国防大学での演説で、「米国防衛には予防、自衛、時には先制(攻撃)が必要だ」とし、「良い攻撃が最良の防衛だ」と述べました。先制攻撃の必要性を公然と主張したのです。

 パウエル国務長官(三日)やチェイニー副大統領(六日)も、先制攻撃の必要を強調する発言をしています。

テロ撲滅と結びつけて

 昨年九月の同時テロ事件に乗じてイラク・フセイン政権打倒を目指す意向は、事件発生直後から一部の政府首脳が表明していました。その後、アフガニスタン以外に戦線を拡大しようとする意図が強まるにつれ、テロ撲滅と、大量破壊兵器保有阻止を結び付ける発言が目立つようになりました。

 これを「理論化」したのが、十一月末にシンクタンク、国際戦略研究所(CSIS)が発表した対テロ戦略に関する報告書『優勢に立つ』です。同報告は、テロ根絶には米国が「優勢に立つ」以外に選択肢はないと指摘。「米国、米軍、米国の死活的利益に対して核・生物・化学兵器を行使したり、それらの能力をテロリストに提供する政体は、政権から排除される」との命題を示しました。

 その上で同報告は、「米国に対する核・生物・化学兵器の行使が切迫していたり、その能力をテロ組織に提供しているとの証拠を米国が握れば、それらの能力を破壊する権利を米国は有する」とし、米国がテロ防止の先制攻撃の権利を保有するとの主張を打ち出したのです。

 今回の「悪の枢軸」発言と、その「先制攻撃」論は、こうした経過のもとで出てきたものです。

 大量破壊兵器取得の阻止を看板に北朝鮮などを攻撃しようとする戦略は、既に九三年にクリントン前政権が「拡散対抗戦略」として提起しています。この戦略でも、大量破壊兵器を所有しようとする国には先制攻撃を仕掛け、それを阻止するというのが、事実上その核心的内容でした。

 今回の「悪の枢軸」戦略は、対テロ戦争に乗じ、それとセットにして、「拡散対抗戦略」を復活させたともいえる内容となっています。


EU 「欧州の努力 無にしかねない」

 ブッシュ米大統領が北朝鮮、イラン、イラクに対し「悪の枢軸」と敵対宣言したことについて、三国と関係改善や対話をすすめてきた欧州連合(EU)諸国で「欧州諸国の努力を無にしかねない」と批判があがっています。(パリで山田俊英)

北 朝 鮮

外交関係樹立 核などで対話

 EUは昨年五月、議長国(当時)スウェーデンのペーション首相、ソラナ共通外交・安保上級代表、パッテン欧州委員会委員(対外担当)の外交の最高責任者三人が北朝鮮を訪問して金正日国防委員長・朝鮮労働党総書記と会談。同月、外交関係樹立を発表しました。十五のEU加盟国中、現在十三カ国が国交を持つか、国交樹立を決定しています。国交のないフランスは、パリに本部があるユネスコ(国連教育科学文化機関)の北朝鮮代表の駐在を受け入れ、非公式ながらここを両国関係の窓口にしています。

 EUは、一九九八年に北朝鮮と高官レベルの政治対話を開始。二〇〇〇年十一月には南北和解の促進、核とミサイル問題での「責任ある行動」を条件に北朝鮮への協力を拡大する方針を外相理事会で決めました。

 ペーション首相らに対し、金正日氏は南北共同宣言の履行とソウル訪問、ミサイル発射実験の凍結、EUとの人権対話の開始を約束。昨年六月、人権問題の初会合が開かれました。EUの経済援助は食糧支援、人道援助、「朝鮮半島エネルギー開発機構」(KEDO)への支出を含めて九五年以来三億ユーロ(約三百五十億円)にのぼります。

イ ラ ン

アフガン難民支援で援助

 九七年の選挙で当選したイランのハタミ大統領が言論統制の緩和、対外関係の改善に乗り出したのを評価し、EUは九八年から半年ごとに外務次官級会談を定期化、エネルギー、通商、難民支援、麻薬取り締まりについて相互協力しています。「政治、経済、社会の改革でイランの変化を見ながら段階的に関係を発展させる」(欧州委員会)というのがEUの方針です。二〇〇〇年十一月には双方に作業グループを設けて通商協定締結に向けた話し合いが始まりました。

 ハタミ大統領は九九年から二〇〇〇年にかけてイタリア、フランス、ドイツを公式訪問。英国とも外交関係を正常化させました。

 隣国アフガニスタンへの米英の報復戦争にイランは強く反対しています。EUは昨年九月末、議長国(当時)ベルギーのミシェル外相らをイランに派遣してハタミ大統領と会談。「テロリスト」の定義で意見がくい違いましたが、テロ根絶と難民支援では一致しました。イランにいる外国難民は約二百万人。うち百五十万人がアフガニスタンからです。欧州委員会は九五年から毎年、難民対策の援助を支出し、二〇〇〇年には二百万ユーロ(約二億三千万円)。EUは増額を約束しています。

イ ラ ク

国連決議尊重 人道援助も

 湾岸戦争後、イラクが大量破壊兵器廃棄の国連による査察を拒否しているため国連はイラクへ制裁を続け、EUも公式関係を持っていません。関係改善にはイラクの国連決議実行が条件という立場です。ただし国民生活への影響を考慮し、欧州委員会は九一年以来、医療、衛生、学校などを対象に合計二億四千万ユーロ(約二百八十億円)を援助。イラクへの人道援助としては最大の提供者です。

 国連がイラク国民向け人道物資購入に限定して石油輸出を部分的に解禁(石油・食糧交換計画)したため、九七年からEU諸国との通商が再開され、EUのイラクからの輸入額はクウェート侵攻前とほぼ同水準に回復。イラクの輸出の三分の二はEU諸国向けです。

 昨年九月のテロ事件以来、米国がイラクへの攻撃を公言していることについてEUも各加盟国も「根拠がない」と反対しています。

 特にフランスは湾岸戦争後、米英が繰り返し行なっているイラクへの空爆を「戦略的政治的誤り」「国民が犠牲になっている」(外務省報道官)と批判し、九八年十二月にはイラクの飛行禁止空域の監視・攻撃作戦から離脱しました。フランスはイラクと外務次官級の接触を続け、外交的手段で国連の査察受け入れを求めています。その一方、昨年末、国連安保理が「石油・食糧交換計画」の半年延長を決議した際、監視対象物資を減らすよう制裁緩和をはたらきかけました。


中国 「米国の覇権宣言」と批判

 ブッシュ米大統領の「悪の枢軸」発言を批判する論調を中国のメディアが相次いで発表しています。

 上海発行の新聞、文匯報は六日、ブッシュ発言は「新世紀における米国の覇権宣言」にほかならないとする陳玉剛署名の論評を掲載しました。同論評は、「悪の枢軸」というのは米国が次の攻撃目標を決めたもので、それを「口先だけのもの」と軽視することはできないとの見方をしめしています。

 広州発行の週刊紙、南方週末は七日、「『悪の枢軸』論でなにをするつもりか」と題する中国社会科学院米国研究所の張国慶氏の論評を掲載。

 「反テロ戦争は終わってはいない。始まったばかりだ」とのべたブッシュ大統領の一般教書演説を実際には「反テロ」の旗をかかげた「敵を討つ檄文(げきぶん)」だと指摘しました。

 さらに、「ある程度において反テロが国家目的を実現する米国の手段、口実になっている」とのべ、「すべての問題を武力で解決できると米国がますます信じるようになっているのは、非常に危険な信号だ。それは思考を単純化し、情勢を複雑にする」と警鐘を鳴らしています。


独紙 独仏首脳の不同意を称賛

 ドイツ週刊紙ツァイト七日付は、「あらたな世界秩序」と題した論評で、独仏首脳が四日のベルリン会談で、欧州統合推進と世界平和の重要性を確認、ブッシュ米政権の戦争政策に不同意を表明したことに賛成を表明しています。

 論評は、欧州が一九九〇年代初めの「ソ連崩壊」を経て平和的な環境のもとに欧州連合(EU)を建設できるようになった矢先「暴力」が復活した、ふんだんに兵器を用いる米国のアフガニスタンでの戦争を目の当たりにしたと指摘しました。

 論評はまた、欧州諸国が米政権が主張する世界各地での対テロ戦争や「悪の枢軸」論に追随せず独自の対応をとっているとし、欧州には「米国の側に立つのか、それとも反対するのか」などという「つまらない問題」とは別の課題があると反論しました。

 さらに論評は、欧州は将来、欧州連合の建設を通じ強化され、世界にも米国にも大きな影響力を与えることになるとしながらも、「二十一世紀における力というものは、まず何よりも精巧な爆弾とか無人偵察機のような(軍事的な課題を)第二義的とするだろう。欧州は、経済活動から付加価値をつくりだし、文化を世界に向かって輝かせるだろう」と結んでいます。 (ベルリンで坂本秀典)

 


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