55、観光
大企業・インバウンド優先の観光政策から地域・住民最優先の政策へ
2024年10月
インバウンド頼み、大企業・富裕層を優遇する観光政策を転換します
2020年、新型コロナウイルスの感染が広がり、観光・交通産業をめぐっては、「不要不急」の外出や会食、帰省の自粛など、移動や密集の抑制が呼びかけられました。国内外の観光客は激減し、宿泊施設や旅行会社をはじめ、交通会社や土産物店など地域の観光関連企業の経営状況は急激に悪化、観光地は様変わりしました。
コロナ感染が下火になり23年4月に水際措置が撤廃されると、円安の影響もあり、訪日外客数は急回復し、23年は2,507万人となりました。(22年383万人、21年25万人)
24年は上半期で1,778万人に達し、国交省はこのペースが下半期も続けば24年は3,500万人も視野に入るとしています。これはコロナ前の19年の3,188万人を超える勢いとなっています。
コロナ禍の前、安倍・菅政権は、観光を成長戦略・「稼ぐ力」の柱として位置づけ、訪日外国人客数を20年に年間4,000万人、30年で6,000万人受け入れるという目標を掲げ、インバウンド重視の観光政策を進めてきました。コロナ後の2023年5月の観光立国推進閣僚会議では「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」を決定し、その動きは現在も引き継がれ、いっそう加速しています。
政府は首都圏空港の機能強化に加え、カジノを含むIR事業誘致の推進を掲げており、空港の増便やアクセス道路整備、IR(統合型リゾート)施設や国際会議等の誘致(MICE)、大規模ホテル建設や大型クルーズ船の受入港湾整備等、外資系企業や大企業への税制優遇や規制緩和など、住民を置き去りにした観光政策を強引に推し進めています。
こうした政策の結果、各地では深刻なオーバーツーリズム(観光公害)が引き起こされ、コロナ後は更に深刻な問題となっています。公共交通の混雑、生活道路での駐車や交通渋滞、私有地等への侵入、騒音やゴミ、写真撮影などのマナーに関するトラブルが多発し、地域の住民の生活と安全が脅かされています。
政府は23年10月に「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を発表しましたが、オーバーツーリズムを理由にライドシェアや開発を進めようという動きも見られます。
また、21年6月にまとめられた「上質なインバウンド観光サービスの創出に向けた観光戦略検討委員会」の報告書では、日本はインバウンド富裕旅行の受け入れに舵を切るべきだとし、「高付加価値化」という言葉と共に、一部の富裕層向けのサービスにスポットが当たる施策を推し進めています。
その上、24年7月の観光立国推進閣僚会議では、全国35カ所の国立公園を31年までに「世界水準のナショナルパーク化」する方針を打ち出しました。「魅力向上」という文句を掲げ高級リゾートホテル等の大型宿泊施設をつくろうとするその姿勢に、国民や自然保護団体から批判が噴出しています。
その他にも、24年2月には「文化財を活用した文化観光の推進による地方創生パッケージ」を策定し、誘客のために文化財(世界遺産や国宝等)の高付加価値化と、それを活用するためのコンテンツづくりを促進する動きも見られます。
06年に制定された観光立国推進基本法は、「地域社会の持続可能な発展を通じて観光を促進することが、将来にわたる豊かな国民生活の実現のため特に重要であるという認識の下、施策を講ずべき」だと定めています。
つまり「地域の住民が誇りと愛着を持つことのできる活力に満ちた地域社会の持続可能な発展」が不可欠であり、掲げられた「住んでよし、訪れてよしの国づくり」という理念は、豊かな国民生活を実現するためのものです。
文化や歴史、遺産など日本の魅力が広がること、そして観光を通して国際相互理解が進むことは歓迎すべきものです。しかしインバウンド需要に固執し続け、「稼ぐ」ことを第一義とするあまり、住民の生活や自然、文化財を犠牲にするような政策は見直すべきです。
「住んでよし、訪れてよし」の観光立国推進基本法の理念に反した住民合意のない開発、インバウンド頼みの政策、大企業・富裕層を優遇する姿勢を改め、地域住民目線の観光政策への転換が求められています。
―――インバウンドや富裕層・大企業優遇をやめ、観光立国推進基本法の理念に立ち返った観光政策へと転換します。地域住民のみなさんが望む形で観光客の受け入れができるよう、住民と自治体と観光関連業界とで検討されるサスティナブルツーリズム実現のため支援をしていきます。
―――自由に時間が使え、余裕のある暮らしができる人が増えてこそ観光は発展します。人間らしい生活を営む収入とともに、自由な時間を持つための「1日7時間、週35時間制」の労働時間短縮の実現がその土台となります。
どの地域であれ、IRカジノの導入・設置に反対する
23年4月、政府はカジノを含む統合型リゾート(IR)誘致に関する特定複合観光施設区域整備推進本部で、大阪府と大阪市の整備計画を認定すると決定しました。
「日本の成長戦略の目玉」としてカジノ解禁を強引に進めた安倍政権を継承した岸田前首相は、「IRは、国内外から多くの観光客を呼び込むものとして、我が国が観光立国を推進する上で重要な取組です。大阪のIRについては、2025年の大阪・関西万博の開催後の関西圏の発展や我が国の成長に寄与するとともに、日本の魅力を世界に発信する観光拠点となることが期待されています。」発言しました。
18年7月に当時の安倍政権がカジノ実施法を強行成立させた当初の想定では国内のIRは3カ所、24年ごろに開設とされていましたが、しかし国民の強いIRカジノ反対の世論のなかで、現在残っているIR計画は大阪府・市の1カ所のみです。
横浜は21年の市長選挙により、和歌山は22年の県議会により、IR誘致が頓挫しました。長崎は23年12月に国が県の区域整備計画の不認定を発表し、24年3月に県が計画を断念しました。国民・住民の強い反対が、政府の目論見を確実に追い詰めています。
石破政権でも、IR担当は引き続き斎藤鉄夫国土交通大臣となっています。自公政権と維新がIRカジノにしがみつくなか、日本共産党を伸ばし政権交代を実現することこそ、日本へのカジノ上陸を阻む確かな力です。
➡各分野の政策「99、万博、カジノ――ただちに中止せよ」もごらんください。