20、交通安全対策
子ども・高齢者等を事故から守る、自動車優先から歩行者優先へ
2024年10月
2023年中の交通事故による死者数が8年ぶりに増加に転じました。この間、重大な自動車交通事故が相次ぎ、交通安全対策の強化が急がれます。
交通死亡事故の現状を見ると、歩行者は36.0%、自転車乗用中が15.9%で死者数の半数を占めています。主要国で見ると、アメリカでは19.7%、フランス22.4%、イギリス27.9%、ドイツ30.2%にとどまっており、日本は、歩行者・自転車乗用車の割合が突出して高くなっています(2022年)。
また、生活道路(車道幅員5.5m未満の道路)における交通死傷事故は、他の道路に比べ減り方が鈍化しており、生活道路での歩行中・自転車乗用中の死傷者がしめる割合(45.3%)は、生活道路以外(25.1%)と比べ1.8倍にのぼっています(2023年)。この生活道路における交通事故の多くは、小学生・高齢者が犠牲になっています。
生活道路の安全確保のため、自動車優先から歩行者優先の道路交通政策に切り替えます
市街地中心部や住宅地など住民の生活空間の道路整備は、歩行者が安心して歩行できることを優先してすすめなければなりません。
生活道路での交通事故をなくすには、生活エリア内への通行車両の抑制、速度抑制、歩行空間の確保を図るために、交通規制と物理的手段の拡充をすることが必須であり、そのための予算措置が必要です。
衝突時に時速30kmを超えると歩行者が致命傷を負う確率が急激に高まります。
政府は、生活空間内での交通量と速度を抑制し歩行空間を確保するため「ゾーン30」や「生活道路対策エリア」を設置してきました。これらの区域では、区域内の速度制限や侵入抑制とともに、歩道側の整備や、車の走行路にはデコボコをつけて自動車の速度を落とさせる「ハンプ」、車道幅を狭める「狭さく」、「スラローム」の設置などが行われています。
区域内の速度規制などを行う「ゾーン30」は、2023年度末までに全国で4,358か所が整備されています(2018年度末の3,649か所から増加)。整備前年度と整備翌年度を比べると、交通事故発生件数も対歩行者・自転車事故件数はいずれも2割程度減少しています。ハンプ・狭さく・スラロームなどの設置を行う「生活道路対策エリア」は、2019年末で452市区町村1,065エリアとなっています。
わが党は、相互補完する関係にある「ゾーン30」と「生活道路対策エリア」が一致していない場所も200か所近くあると指摘してきました。担当省庁が警察庁と国土交通省に分かれており、速度制限や標識などの交通規制は警察が実施し、ハンプ・狭さく・スラロームなどの物理的対策は道路管理者(自治体など)が行うなど、担当が異なっていることで生じる問題です。「ゾーン30」と「生活道路対策エリア」は重なっていることが交通安全対策として有効であり、警察と道路管理者の緊密な連携が必要だと求めてきました。
わが党の国会質疑を受け、2021年8月、警察庁と国土交通省は、生活道路における人優先の安全・安心な通行空間の整備に取り組むとして、検討段階から緊密に連携しながら設定する「ゾーン30プラス」を開始し、歩行者の通行が最優先、生活道との安全を確保するとしています。2023年度末までに全国で128か所が整備されています。
さらに、今年7月、政府は、生活道路のうち中央線・中央分離帯・中央のポールがないなど車線が分離されていない区間の法定速度を時速30kmにすることを閣議決定しました。2026年9月に施行する予定で、全国に約122万kmある一般道の7割が該当するとみられており、今後、警察庁が周知に取り組みます。日本共産党が求めてきた方向であり、歩行者等の安全確保に資するものとなるでしょう。
住民の生活空間の道路整備は、歩行者が安心して歩行できることを優先させて進めなければなりません。
―――「ゾーン30」、「ゾーン30プラス」の区域を拡充します。
―――道路法や道路交通法に、生活道路や通学路、園児等の移動経路を位置付け、通過車両を排除・抑制する等の改正を行います。
―――「ゾーン30」「ゾーン30プラス」区域内の時速30㎞以上の速度違反には、一般道路の2倍の反則金を科すなど徹底した安全対策を講じます。
子どもらが安心して通行できるよう、交通安全対策を緊急に講じます
通学路や園児等の移動経路など、子どもたちを交通事故から守る対策は喫緊の課題です。
2012年、京都府亀岡市で集団登校中の児童の列に車が突っ込み小学生ら10人死傷した事故をきっかけに、政府は全国の通学路を対象に緊急点検を実施し7万4,000か所を超える危険箇所を確認しました。危険箇所としては、「交通量が多い」「ガードレールがない」「交差点に横断歩道がない」「見通しが悪いのに交差点に信号機がない」「交通量が多いにもかかわらず歩道が狭い上に片側にしかない」「踏切の見通しが悪い」などが挙げられています。
これら危険箇所は、2017年度末までに約99%で対策が講じられましたが、通学路以外の幼稚園や保育園の散歩ルートなどは対象になっていませんでした。
2019年には、滋賀県大津市で保育園児らが車同士の衝突に巻き込まれて16人死傷した事故が起きてしまいます。政府は、保育所・幼稚園等から要請のあった園児等子供が日常的に集団で移動する経路についての合同点検を行い、道路管理者(自治体など)により全国約2万8,000か所において対策を実施することを決定し、2020年度末時点で約8割(約2万3,000か所)について対策を完了したとしています。
また、2021年6月には、千葉県八街市で小学生の列にトラックが突っ込み児童5人死傷した事故が起きてしまいました。この現場は、見通しがよいため、2012年点検の際、危険個所に指定されていませんでした。政府は、車の速度が上がりやすい箇所や大型車の進入が多い箇所も含め小学校の通学路を対象に合同点検を行い、対策案の検討をおこないました。その結果、全国7万6,404か所で対策が必要な箇所が抽出され、7万2,160か所(94.4%)で対策を完了、暫定的な安全対策を含めると7万6,404か所(100%)で安全対策を措置済みとしています。(2024年3月末時点)
―――通学路に加え、学童保育や園児等の移動経路など、子どもらの通行路を総点検し、危険箇所の安全対策を緊急に講じます。
―――危険箇所について、信号機・道路標識・ガードレールなど安全施設の設置、危険箇所を回避する通行路の見直し、子どもの見守り活動や交通安全指導など効果的な改善をすすめます。
―――学校や保育園等、公園の半径500m以内の道路は、「ゾーン30」「ゾーン30プラス」区域の指定をすすめます。
自転車や電動キックボード等から歩行者を守るための整備を推進します
自転車関連事故は2022年からの3年間で4,666件増加し、2023年には7万2,339件となり、全交通事故に占める割合も増加しています。特に東京都内での増加が顕著で、全交通事故に占める割合も5割近くとなっています。全国の電動アシスト自転車の事故も、この3年間に2,642件から5,712件へと倍以上になっています。
現在の自転車専用通行帯や自転車道といった、歩道・車道と明確に分離した自転車通行空間は18.1%(2021年)にすぎません。車道混在が8割以上で大半を占め、車道と分離した整備が進んでいない状態です。
また、2023年7月、改正道路交通法が施行となり、電動キックボードに関する規制の緩和が行われました。それまで電動キックボードは原動機付き自転車(いわゆる原付)の交通規則適用となっていましたが、「特定小型原動機付自転車」と区分され、最高速度が時速20キロ以下の場合は16歳以上なら免許不要、ヘルメット着用は努力義務、一部歩道も通行可能に緩和しました。
もともと、この規制緩和が議論された会議で、警察庁は「電動キックボードと自転車とは異なる危険性がある」と発言していましたが、事業者から事業成立のために「外国人の利用を進めるには免許不要」「ヘルメットの着用は任意」とするよう要望を受けて規制緩和が決定しました。ビジネスのために事業者の言うまま、交通安全対策を後退させたものです。
電動キックボードの規制緩和以降、特定小型原動機付自転車の交通違反検挙件数はこの1年余りで3万3,518件(2024年8月まで)、関連する交通事故は289件と激増し、死亡事故もおきています。
「免許を不要にして、現在の交通安全教育と同等の水準が確保できるのか」との日本共産党の質問に対し、当時の二之湯智国家公安委員長は「官民協議会で教育の在り方を検討していく」と述べるのみで、確保できるとは言えませんでした。交通安全教育の課題を抱えており、そもそも自転車通行空間の整備が不十分な中、今後も事故が拡大する恐れがあります。
―――歩道を安全な空間にするために、歩道・車道と構造物で分離した自転車道や生活道路における自動車の速度規制など、道路環境の整備を進めます。
―――電動キックボードの規制緩和を見直します。
歩行者優先の道路整備に切り替え、そのための予算を確保します
これまで自民党政権のもとで進められてきた自動車優先・道路偏重の交通施策では、子どもや高齢者、障害者など、交通弱者と呼ばれる方たちの交通安全が後回しにされてきたといわざるを得ません。
生活道路の安全対策を早急にすすめ、歩行者優先の道路整備、安全設備の設置をすすめるためには、予算の確保が必須です。しかし、この間、信号機や道路標識の設置・改修などの費用である交通安全施設整備事業費が大幅に減少しています。国の補助事業費用は13年間で94億円の減額です。2020年度までの3年間は増額になっていましたが、老朽化した信号の更新のためのものです。更新補助は当然のことですが、信号機の新設などに必要な予算が減っているのです。地方自治体の単独事業費用は31年間で半額程度です。地方自治体が単独で行う道路交通安全施設整備の経費に充てるための財源として交付される、交通反則金等収入を原資とした交通安全対策特別交付金はその額を大きく減らしてきました。反則金に依拠した不安定な財源ではなく、安定した財源を十分に確保するべきです。東京都においては、近年、交通安全施設整備費の予算の執行率が低く抑えられてきました。日本共産党の指摘もあり、上昇してきていますが、いまだに新設信号機の設置数は予算の7割台にとどまっています。生活道路の交通安全対策の予算を抜本的に拡充し、計上された予算を執行し、しっかりと信号機の新設などに使うべきです。
また、実態に合わない交通事故統計に基づいて、政府が交通安全政策を作っているのではないかという問題もあります。交通事故に関する統計は、警察庁による交通事故統計と、損害保険料率算出機構による自賠責保険の統計の二つあり、死亡者数は継続してほぼ一致していますが、負傷者数は2006年以降乖離が大きくなり、2023年には自賠責保険82.6万に対し警察統計は36.6万と半分以下になっています。警察庁も、実態を反映しているのは、自賠責の統計だと事実上認めています。
さらに、警察庁が策定した「信号機設置指針」と「信号機合理化等計画(2019~2023年度)」に基づき、都道府県警察が「撤去が妥当」と判断した信号機は7,384基に上ります。2022年度までに2,977基が撤去(移設158基含む)され、その間に新設された1,680基を大きく上回りました。また、2023年度には、さらに905基の撤去が計画されています。この指針と計画が、信号機の撤去を進めるとともに、新設を抑制する障害となっているのです。撤去対象には、小学校の通学路の信号機も含まれている箇所もあります。広島県広島市や滋賀県高島市では、住民運動によって通学路の信号機撤去を見直させました。しかも、この撤去計画そのものが住民には知らされていないことも問題で、警察庁は、周知不足は反省しなければならないと答弁しました。
大津市の園児死傷事故では、交差点で信号待ちしていた保育園児らが、車道で衝突した自動車に巻き込まれ死傷したことから、防護柵が設置されていれば防げたのではないかと指摘されています。しかし、現在、交差点の防護柵設置等について設置基準には、衝突で歩道に飛ばされた車から歩行者を守る対策は明示されていません。
―――自動車優先から歩行者・自転車優先にした道路交通政策に転換します。
―――警察庁の「信号機設置指針」「信号機合理化等計画」を見直し、交通安全対策や歩行者優先の道路整備のための予算を抜本的に拡充します。
―――道路構造や「防護柵の設置基準」に、交差点など危険箇所を明示し、防護柵の設置を義務付けるなど、歩行者を守るための施策を緊急に実施します。
視覚障害者が安全に道路を横断できるよう整備します
近年、視覚障害者が犠牲となる交通事故も起きています。視覚障害者が安全に道路を横断するための命に係る情報である音響式信号機(いわゆるピヨピヨカッコー)は全国で信号全体の1割程度、横断歩道上に点字ブロックがある「エスコートゾーン」はたった1.5%しか整備されていません。都道府県警察が「特に必要」とした2,387か所ですら、音響式信号機とエスコートゾーンの両方が設置されているのは半数程度です。しかも、音を出す時間は日中のみなどに制限している音響式信号機が8割もあります。
音響信号機の稼働停止中に視覚障害者が死亡する事故も発生しており、歩行時の安全が根底からおびやかされています。道路交通法7条は、歩行者は信号に従う義務を課し、罰則も科しています。信号を認識できなければ、その指示に従うこともできません。9割の信号で視覚障害者が認識できない状況を放置するわけにはいきません。視覚障害者のための音は、騒音ではなく命に係る情報であり、早朝夜間も信号機の音を切るのではなく音量調整など工夫して24時間対応にすべきです。
政府は2025年度中に原則として全ての「特に必要」とされた箇所に設置された信号機に音響機能を付加し、横断歩道にエスコートゾーンを設置する方針としています。また、2023年5月には、視覚障害者用付加装置等の設置場所、音響鳴動時間、鳴動方法等の運用状況の把握と公表を求める通達を警察庁が都道府県警宛てに発出しました。政府のこうした対応は、視覚障害者団体の粘り強い運動の成果です。
―――障害者が安全に安心して通行できるよう道路や設備などを整備します。
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高齢者が自ら運転しなくてもいい環境の整備
2019年4月の池袋暴走事故など高齢ドライバーによる痛ましい事故が相次ぎ、大きなニュースとなりました。
人口の高齢化に伴い、運転免許を保有する75歳以上の高齢者は今後も増加しつづけます。一方で、自動車優先のインフラ整備が行われ、鉄道やバス、タクシーなど地域の公共交通は路線廃止や縮小がつづき衰退させられ、とりわけ人口減少が進む地方で顕著に表れています。こうした地域では、高齢者が自ら運転しなければ日常生活が成り立たない状況にあります。
高齢運転者の事故防止対策として、第一に必要なのは、高齢者が自ら運転しなくても、自由かつ安全に安心して移動できる社会環境を整えることです。
1998年から導入された「運転免許証の自主返納制度」の利用が増加しています。2019年には「運転経歴証明書」交付要件の緩和も行われました。また、多くの自治体で、「自主返納」者への支援として、バスや電車などの公共交通機関やタクシーの運賃割引が受けられるなどの施策を設けています。運転に不安を感じるようになった高齢ドライバーの「自主返納」しやすい環境づくりも必要です。
さらに、近年の先進技術によって「衝突被害軽減ブレーキ」やアクセルとブレーキのペダル踏み間違い防止対策などが開発されており、このような機能をつけた「安全運転サポートカー」や後付け装置の設置などの普及の促進により、交通事故の減少も期待できます。
―――高齢者が支障なく日常生活を送れるよう、地域鉄道、地域循環バス、オンデマンド交通、乗合タクシー、福祉タクシーなど地域公共交通網の整備を最優先してすすめ、高齢者の移動手段を切れ目なく確保します。
―――地域住民の支え合いよる高齢者の移動手段確保の取り組みを支援します。
―――高齢ドライバーが自主的に運転免許証を返納しやすい環境を、国が責任を持って整備します。
―――自治体による運転免許証の自主返納を支援する取り組みを、国として積極的に後押しします。
―――「衝突被害軽減ブレーキ」やペダル踏み間違い防止対策など安全運転支援システムの購入支援に取り組みます。
➡各分野の政策「49、交通・運輸」もごらんください。