98、SDGs
市民社会がめざす未来を日本の政治に反映させる
2024年10月
2015年に開かれた国連の首脳会合で、国際社会の新たな共通の行動計画となる最終文書「持続可能な開発目標」を全会一致で採択しました。豊かで公正な世界をつくることを新たにめざすために、17目標169項目を掲げました。
持続可能な開発とは、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」であり(1987年の国連「環境と開発に関する世界委員会」最終報告)、そのためには環境保全を考慮した節度ある開発が可能であり重要であるという考え方です。
SDGsでは、この持続可能な開発を実現するために、経済・社会・環境の3つの側面を調和させるべきだと強調しています。さらに注目すべきことは、SDGsは、発展途上国だけでなく、「すべての国に適用されるもの」であり、「世界全体の普遍的な目標とターゲット」とされています。日本でも、各府省庁の政策評価や各計画で、前述の3側面からの評価を実施すべきです。前文では「我々は、人類の貧困の恐怖及び欠乏の専制から解き放ち、地球を癒し安全にすることを決意している。」、「この共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う」と述べています。
しかしSDGsの達成目標年まであとわずか6年という今、SDGsの169のターゲットのうち2030年までに達成可能なのは17%のターゲットだけで、残りは、半数が限定的な進捗であり3分の1が停滞しているというのは極めて深刻です。
状況が厳しいなかでも、世界的にも各国内でも、貧富の格差や貧困、食料・栄養と飢餓、水と衛生・医療、教育、ジェンダー、気候危機・災害、感染症などSDGsに基づいて世界や国内で努力を重ねることが必要です。SDGsの前進のためにODAや金融、国際連帯税などでの支援の強化が差し迫った課題です。9月の国連未来サミットで採択された「未来のための協定」の実行のために努めたいと考えます。またSDGsの前進のためには、若い人たちの積極的な参加と行動を支援することが大事です。
ロシアのウクライナ侵攻やガザでの武力行使をやめさせ、分断ではなく市民社会の共同を守る
世界のこの2年連続でのSDGsの後退には、ロシアのウクライナ侵略やガザでの武力行使などが、人道面や経済面などへ大きな負の影響を与えていると思われることは、SDGsの「持続可能な発展のための平和で包括的な社会の促進」(目標16)の重要性を改めて示しています。
イスラエル軍がパレスチナ・ガザ地区への大規模攻撃を開始してこの10月で1年が経過しました。ガザにおける死者は少なくとも約4万2千人に達しており、飢餓や伝染病の拡大などまさに人道的危機に瀕しています。イスラム組織ハマスによるイスラエルへの無差別攻撃は許されませんが、それを口実にしたイスラエルによるジェノサイド(集団殺害)を止めることは一刻の猶予もならない世界の大問題です。
またロシアによるウクライナ侵略は開始から2年半以上が経過し、戦争の終わりが見えない状態が続いています。その責任は、国連憲章を蹂躙して無法な侵略をつづけるロシアにあります。
米政権は、「民主主義対専制主義の闘い」のスローガンで世界に分断を押し付けていることや、ロシアの侵略を非難する一方で、イスラエルによるガザ攻撃を擁護し、軍事支援を行うという「ダブルスタンダード」をとっています。
「国連憲章を守れ」の一点で世界の圧倒的多数の国ぐにが結束し、市民社会が団結することこそ重要となっています。
「核抑止力」への依存をやめ、核兵器禁止条約で平和を守る先頭に
今年8月の広島市での平和祈念式典に、国連のグテレス事務総長が寄せたメッセージで「核兵器、その使用の威嚇は、…現実の国際関係で、日常的なレトリックとして再び姿を現しています」「現実世界で起きている脅威なのです」とのべました。9月に開かれた国連未来サミットで採択された「未来の多、目の協定」には、「核兵器のない世界」に向けての行動(行動25)を含み、武力紛争における市民の保護(行動25)、テロのない未来(行動23)、軍縮(行動26)への行動も提起しています。まさに前述のSDGsの目標16をすすめる要です。
ところが日米軍事同盟絶対の自公政権は、核兵器をめぐっても、今年7月に「日米拡大抑止協議」を閣僚級に格上げして開催するなど、米国による「核抑止」を日米一体で強化する姿勢を露骨にしてきました。石破首相は、「核共有」――米国と核のボタンを押すことを共有する勢まで示しています。「非核三原則」に違反します。「核抑止」とは、核兵器の使用を前提に相手国を脅迫することです。唯一の戦争被爆国でありながら、核兵器禁止条約に背を向け、逆にアジアでの核軍拡を激化させることなど絶対にあってはなりません。
核兵器禁止条約は、現在、94か国が署名、73か国が批准し、2回の締約国会議が開催されるなど、国際政治において現実的な役割を発揮しています。今年のノーベル平和賞は、被爆の実相、核兵器の非人道性を語り続け、核兵器全面禁止を世界に訴えてきた日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)への授与が決まりました。日本政府が核兵器禁止条約に加われば、この流れが巨大なうねりとなることは確実です。
被爆国である日本政府は、核兵器禁止条約を批准し核兵器の廃絶のために先頭を走るようでなくては、世界の平和で日本は役割を果たせません。
社会のゆがみを、SDGsにそって是正する
SDGsの達成度や進み具合に関する国際レポート『持続可能な開発レポート』2024年版によれば、日本の評価は世界で18位とされていますが、深刻な課題があるとされている分野としてジェンダー平等(目標5)、つくる責任・使う責任(目標12)、気候変動対策(目標13)、海の豊かさ(目標14)、陸の豊かさ(目標15)が上がっています。とくにジェンダー平等については、世界経済フォーラムが今年発表したジェンダーギャップ指数で日本が146カ国中118位という依然、深刻な状況です。つくる責任・使う責任で問題にされているのは、プラスチックごみの輸出が多いことです。また重要な課題がある分野としては、飢餓(目標2)、クリーンなエネルギー(目標7)、働きがいと経済成長(目標8)、不平等の是正(目標10)、まちづくり(目標11)、国際的な連携(目標17)が挙がっています。
国内のこうした分野でSDGsの停滞が続くのは、政治・社会の根本に二つの大きなゆがみがあるからです。一つは、財界・大企業の利益優先の政治です。国民の暮らしや環境を犠牲にしてまで財界・大企業の利益確保を優先しています。もう一つは、日米軍事同盟を絶対視するアメリカいいなりの政治です。日米軍事同盟強化のためなら、憲法も壊し、沖縄での米軍基地建設強行のように民意も地方自治も、生態系さえ踏みにじる政治です。
自民党の政権復帰後(2013年以降)、大企業の内部留保は200兆円以上も増えて539兆円に膨れ上がりました。大富豪40人の資産は7.7兆円から29.5兆円へと4倍近くに増えました。一方で、労働者の実質賃金は年収で404万円から371万円へ33万円も減っています。7月に発表された「国民生活基礎調査」では、「生活が苦しい」という回答が59.6%にもなっています。昨年の中小企業の休廃業・倒産は5.8万件と過去最多となっています(東京商工リサーチの集計)。
ここには、「大企業や大金持ちを儲けさせれば、それが滴り落ちて国民全体が潤う」という財界・大企業の利益優先の自民党政治があります。「アベノミクス」以来、超低金利や公的マネー投入で株価をつり上げ、大企業への減税と消費税増税、大企業のコスト削減のための賃金抑制と社会保障改悪を続けてきました。石破首相も、この悪政を「継承する」としています。
年金の”実質減額”が続いていますが、憲法25条は、国民に生存権を保障し、国に社会保障増進の責務を課しています。国民が高齢・障害・病気などになっても、人間らしい暮らしをおくれるようにするのは政治の責任です。物価高騰から暮らしを守るうえでも、長期低迷から脱して日本経済を再生するうえでも、大企業・大金持ち優遇の政治を切り替え、暮らし優先に転換することが求められます。
SDGsは多様な達成目標を掲げていますが、改めてもともとの出発点である「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」(目標 1)、「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」(目標 5)、「気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る」(目標 13)、「すべての人々のための包摂的かつ持続可能な経済成長、雇用およびディーセント・ワークを推進する」(目標 8)、感染症への対処を含む「あらゆる年齢とすべての人々の健康な生活の確保」(目標3)、「公正、平和かつ包摂的な社会を推進する」(目標 16)など、SDGsが提起している重要なポイントを踏まえ、日本社会のゆがみの是正に取り組みます。
私たちは国内で「人間らしい雇用」(目標8)を推進するために「自由時間拡大法」や「非正規ワーカー待遇改善法」を提案し、「質の高い教育の提供」(目標4)の前進のために国立大学の授業料値上げの中止とただちに授業料半額・入学金ゼロの実施、そして学費ゼロの社会の実現を提起しています(該当する各分野政策の項目をご覧ください)。
SDGsの国内の取り組みだけでなく、グローバル・パートナーシップを活性化して途上国を支援することの重要性は、ますます切実なものとなっています。ワクチン提供、債務の救済・再編、ODAを国民総所得(GNI)の0.7%をめざす(実績は2023年0.44%)などを、協力関係を強化します(目標17)。
➡各分野の政策「97、ODA」をごらんください。
新型コロナ禍で明らかになったように、全人類的な課題である感染症への対応や資金不足は続いており、不足を埋めるのに従来の資金調達では困難で「革新的資金調達」の実現が必要です。そのための国際金融取引などへの国際連帯税の新設に取り組みます。
パーティー券問題=ヤミ資金――日本の政権党にもSDGsの”当事者性”が
目標16のもとにあるターゲットの中には「あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる」(16.5)や「あらゆるレベルにおいて有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる」(16.6)があります。この立場から見れば、パーティー券による使途不明のヤミ資金が政権党の国会議員に蔓延することなど、あってはなりません。SDGsが途上国だけの課題ではないことを、真剣に受け止める必要があります。
自公政権のSDGsは異質――科学技術イノベーションとスマートシティ
政府はSDGs推進の重点施策として、経団連が掲げた「ソサエティ5.0」をそのまま持ち込んでSDGsを「科学技術イノベーション」の目標にすり替え、また「地方創生」の名でデジタル化と一体のスマートシティ構想を提唱しています。この”日本型SDGsモデル”は他のEUなどの先進国のSDGsの取り組みとは、まったく異質のものです。とくに日本のスマートシティ構想は、日本を中国のような「監視社会」に導き、個人のプライバシーと権利を侵害する重大な危険性があります。
政府や経済界の「SDGsウォッシュ(やっているふり)」に目を奪われたり、あるいは警戒感からSDGsに取り組むのをためらう例もありますが、日本共産党は、世界・国内の市民のみなさんと連帯し、本筋のSDGsの実現を追求します。
市民の参加を拡大し国内の独自目標・計画の導入を
SDGsを本格的に進めていくためには、市民の目線で、日本の社会が抱える問題をチェックしていく仕組みが必要です。来年2023年のSDGs実施計画の改定に向けて、作業が始まっています。
現在、事実上、外務省に対応を背負わせ、市民団体や経済界、有識者が参加する「円卓会議」が設けられています。しかし、SDGsの広範な提起を考えれば、内閣府が責任をもって取り組む体制をつくり、市民団体をはじめ、幅広い分野の関係者からの意見を反映させる体制が必要です。
貧国に直面する人が増えていますが、こうした人たちの声が政治・行政に届きにくいのが現状です。また「人類史における重要な分岐点に立っている。今日の決断と行動が将来の世代に重大な影響を及ぼす」(劉振民・国連経済社会問題担当事務次長)と言われているときに、青年たちから「将来世代は選挙権・被選挙権も限られ、意思を反映させるための仕組みもほとんどない。現在の政策決定に本質的にかかわることができない」という切実な声が出されています。青年たちの積極的な参加を支援するプラットフォームの整備など、より多くの市民の声を政策決定に反映させていく取り組みが、SDGsの達成には不可欠です。
SDGsはもともと、各分野の目標を達成するために、各国が独自の計画をたてて取り組むことができることになっています。ところが、日本では貧困問題で典型のように、毎年実施の信頼性の高い調査を実施しないまま、データがないとして実態も明らかにせず、問題がないかのようにしているのは、不当です。信頼できるデータ・統計を作成し、国民・市民、各セクターが主体的にかかわり、国政・自治体が目標・計画をもってリードしサポートするとともに、市民の目線で検証し取り組みに生かす多面的・包括的な体制をつくることが必要です。
SDGs基本法・条例の制定を
SDGsの達成期限まであと8年、SDGsという言葉についての周知度は上がってきていますが、他方SDGsをまだ途上国の課題として誤解している風潮も残っています。SDGsに対する認識を共有し、基本方針と前述のデータ収集と目標の設定、各主体の役割とパートナーシップの明確化、各分野での市民参加の保障と政策決定への関与の重視、内閣府を中心とした推進体制の確立などを明確にするためにも、SDGsに関わる基本法や自治体の条例の制定を進めます。