69、学術、科学・技術
研究力回復へ、軍事・イノベーション偏重から「学問の自由」を保障する学術、科学・技術振興策に転換します
2024年10月
自民党政治によって、学術はかつてない危機に陥っています。
「教育研究の土台を壊す」――自公政権は大学関係者の反対を押し切って、2004年に国立大学法人化を強行しました。国立大学運営費交付金などの基盤的経費を削減し、競争的資金にシフトする「選択と集中」により、研究力低下に歯止めがかかりません。
そればかりか、財界の求める「イノベーション政策」と米国いいなりの「戦争国家」づくりに学術を総動員する体制をつくろうと、「選択と集中」をさらに強めています。
とりわけ、日本学術会議の会員候補6名の「任命拒否」からあらわになった、学術の独立性を奪おうとする策動は、「学術の終わりの始まり」(梶田隆章前会長)となりかねず、極めて危険です。
日本共産党は、官邸主導による学術総動員体制づくりをやめさせ、学術、科学・技術の多面的な発展をうながす振興策へと転換し、研究者が自由な発想でじっくりと研究にとりくめる環境をつくるために力をつくします。
日本共産党は、戦前の滝川事件の際に、政府を批判し、知識人や学生とともにたたかいました。結党以来102年、「学問の自由」を掲げてきた政党として全力をあげます。
学術の危機を打開し、研究力を回復させます
いわゆる質の高い論文数(TOP10%論文数)のランキングが、法人化後の20年で4位から13位に転落しました。「日本の研究はもはや世界レベルではない」(「ネイチャー」2023年10月25日付)と世界からも憂慮されていますが、自公政権は頑なに失敗を認めません。研究力低下の本質は、研究者が自由な発想で長期的視野からじっくりと研究にとりくめる環境が急速に失われ、学術の裾野を形成する研究が弱まっていることにあります。その原因となっている基盤的経費を削減し、競争的資金にシフトする「選択と集中」を是正し、研究力を回復させます。
学術・研究のすそ野を広げる
国立大学の運営費交付金の傾斜配分を廃止し、基盤的経費を増額する―――国立大学運営費交付金は、法人化された2004年度に比べ、年額で1,631億円も減額されています。地方国立大学では、教員一人当たりの基盤的経費配分額が年10万円程度になるなど、最低限必要な研究費の確保が困難になり、研究のすそ野が狭まっています。基盤的経費の削減によって競争的資金の獲得競争が激化し、申請業務の負担が増え、肝心の研究時間が減っています。短期的成果主義がまん延し、研究者が自由な発想で長期的視野からじっくりと研究にとりくめる環境が急速に失われています。その結果、世界から注目されるような質の高い研究論文が減っています。この問題を解決するために、基盤的経費の増額へとかじを切り、運営費交付金の削減分を元に戻し、増額をはかります。「実績」に応じた傾斜配分は廃止します。各大学の標準的な経費をもとに積算して、物価上昇や賃上げも考慮し、教育・研究費や人件費などを十分に確保するしくみに変更します。
科学研究費補助金を倍増し、配分の偏りを是正する―――国が大学や研究者などに交付する競争的資金は、この10年余で倍増しましたが、大幅に増えたのは新技術に直結する研究への支援や、一部の大学への巨額の資金投入などです。一方で、基礎研究を支援する科学研究費補助金は、この10年で2,400億円程度の横ばいになっています。物価高などを考慮すると実質の平均科研費配分額はこの10年で2分の1になりました。科学研究費補助金を倍増し、採択率を抜本的に引きあげます。
また、研究費の配分がより公正で民主的になるように、審査のあり方を改革します。
①人文・社会科学を軽視したり、旧帝大系など一部の大学に集中したりするような資金配分の偏りを是正し、研究のすそ野を思いきってひろげます。
②業績至上主義の審査ではなく、研究計画も十分考慮した審査に改めます。
③科学者で常勤の審査員を大幅に増員し、将来性ある研究、萌芽的な研究を見極める「目利き」のある審査、公正な審査を充実させます。
「トップ大学育成」から分厚い研究者層の育成に転換する――「大学の構造改革」(2001年6月)以来、自公政権は「国際競争力ある大学づくり」を一貫して掲げてきました。とくに、安倍晋三政権は2013年に「今後10年間で世界大学ランキングトップ100に10校以上」を実現すると数値目標をかかげ、「スーパーグローバル大学創生支援事業」など大学ランキングの指標を上げるために巨額の支援を一部の大学だけに繰り返してきました。しかし、研究力低下に歯止めがかからず、100位以内は、10年前も今も東京大学、京都大学のみです。「国際競争力ある大学づくり」は完全に破たんしています。文部科学省の研究所(NISTEP)は、日本と論文数が同程度のイギリス・ドイツを分析して、日本の研究力向上のためには「上位層に続く層の厚みを形成する施策が必要」と指摘しています(「研究論文に着目した日英独の大学ベンチマーキング2019」)。一部のトップ大学に使い切れない資金が集中し、その他の大学は資金不足で研究が停滞する状況を是正する必要があります。「選択と集中」を是正し、分厚い研究者層を育成できるように全ての大学の基盤をしっかりと支える政策に転換します。国際卓越研究大学制度は、これまでにない規模の「選択と集中」で、新たな格差と分断をもたらし、「学術の中心」(学校教育法)であるべき大学を「稼ぐ大学」に変質させるものであり、廃止します。大学ファンドは、研究のすそ野を広げられる制度となるように抜本的に見直します。
腰を据えて教育研究ができるように雇用を安定化
2023年3月末、理化学研究所や一部大学で、任期付き研究者の大量雇い止めが強行されました。優秀な研究者が海外に転出する”頭脳流出”が起きるなど”国益”を損なう事態が起きました。国立の大学・研究機関の任期付き研究者のうち最大4,500人が、2023年3月末までに無期転換権を与えないための雇い止めにされる恐れがあることが、日本共産党国会議員団の追及により判明しました(2022年5月17日、参議院内閣委員会)。このうち無期転換権を得られたのは約2,400人にとどまり、約2,000人がそこでの職を失いました。そのうち1100人余りが海外も含めて他の大学や民間企業に転出を余儀なくされたとみられます。約440人の行方はつかめていません(文部科学省「研究者・教員等の雇用状況等に関する調査」2023年9月12日より算出)。理化学研究所では380人が雇止めの危機にありましたが、訴訟やストライキにより、196人の雇用を守ったものの184人は理研での職を失いました。文部科学大臣若手科学者賞を受賞し、画期的な研究成果を上げていた若手研究者が、雇い止めを強いられやむなく海外の研究機関に転出しています。研究者の人権を踏みにじり、研究力に打撃を与える暴挙と言わざるを得ません。
大学や公的研究機関では、有期契約の研究者や職員に無期転換権を与えないための雇用上限を設けることが広がっています。そのため有期契約の研究者や職員の雇用年数が短くなっています。大学や公的研究機関の雇用はますます不安定になっており、腰を据えて教育や研究に取り組む環境がますます失われています。
「非正規ワーカー待遇改善法」により、雇い止めをやめさせる――有期雇用の大学教職員、研究者、非常勤講師に5年・10年の契約更新上限をあらかじめ設けることは、雇用の安定化をめざした労働契約法改正(2013年施行)の「無期転換ルール」の趣旨に反する脱法行為です。無期転換逃れのための雇い止めは違法です。2023年10月に発表した「非正規ワーカー待遇改善法」により、非常勤講師や任期付教員・職員の違法・脱法的な解雇・雇い止めをやめさせます。
➡「非正規ワーカー待遇改善法」の提案――パート、派遣、契約社員、非正規公務員、ギグワーカーの皆さんへ 明日に希望が持てる、人間らしい労働条件とジェンダー平等の働き方の実現へ(2023年10月18日)
雇用は期間の定めのない直接雇用を原則とする――文部科学省の「研究者・教員等の雇用状況等に関する調査」(2023年3月31日)によると、2022年9月1日現在、国公私立大学、研究開発法人などに雇用されている労働者は65万3,597人で、無期労働契約者は34万1,603人(52.3%)、有期労働契約者(期限の定めのある契約の労働者)は31万1,994人(47.7%)です。
自公政権は、「流動性を高めるため」として任期付き雇用を拡大してきましたが、雇用主の都合で研究者を「使い捨て」にできるようにするだけで有害です。欧州では、研究者も期間の定めのない労働契約が原則とされ、流動性は、研究者が専門家としての能力を高めるための手段として位置づけられています(欧州委員会「研究者採用行動規範」2005年)。欧州のように無期雇用を基本にするために、「非正規ワーカー待遇改善法」により、雇用は期間の定めのない直接雇用を原則とし、1年以上の有期雇用は無期雇用に切り替えるなど、短期の雇用契約を繰り返し、いつでも雇い止めできる働かせ方をなくします。大学教員、研究員の任期制は、任期制法の廃止を含めた見直しを行います。
専業非常勤講師の処遇を抜本的に改善する―――専業非常勤講師は、1995年を境に大学教員における割合を高め、倍増しています。専業非常勤講師は、私立大学における教育と研究を支えているにもかかわらず、待遇が劣悪です。女性科学研究者の環境改善に関する懇談会(JAICOWS)のアンケート(2018年実施)によれば、年収150万円以下が過半数(男性59.1%、女性55.6%)を占めています。処遇を抜本的に改善するために、まずは労働条件などの調査を政府に実施させます。専任教員との「同一労働同一賃金」の原則にもとづいて賃金を引き上げるために私立大学への国庫助成を抜本的に増額します。社会保険への加入の拡大など、均等待遇の実現をはかります。
無期雇用を原則とできるように大学の人件費支出を増やす―――国立大学法人が「総人件費改革」で5年間に削減した人件費だけで、若手教員1万6千人以上の給与に相当します。国立大学が削減した人件費分を回復するために、国から国立大学への運営費交付金を大幅に増額し、任期付き教員を無期雇用に転換し、無期雇用を原則とします。国立研究機関や私立大学でも有期雇用を限定し、無期雇用を原則とできるように、国立研究機関の運営費交付金や私立大学への国庫助成を抜本的に増額します。正規雇用と非正規雇用の格差を是正します。
若手研究者の正規雇用化をはかる―――文部科学省は博士課程進学者を3倍にする「博士人材活躍プラン」を立て、産業界に採用の拡大や処遇の改善を働きかけています。しかし、肝心の大学や公的研究機関の若手研究者の処遇改善策は見当たりません。これでは、1990年代に大学院生を倍増したものの、ポスドクなどの不安定な研究職しかなく、「高学歴難民」「高学歴ワーキングプア」などと社会問題となり、大学院進学者が急減した失敗の教訓を生かしているとは言えません。まずは、大学や公的研究機関の研究者の雇用の正規化をはかります。ポスドクの賃金の引き上げ、社会保険加入の拡大をはかります。そうすれば、博士号取得者を先進国並みに増やすことができます。
博士課程院生への経済支援を強化する―――日本共産党国会議員団の質問がきっかけとなり、博士課程院生への経済支援の対象が1割から2割に拡大しました(2019年11月27日、衆院科学技術イノベーション推進特別委員会)。しかし、新たに設けられた次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)などは、対象が「破壊的イノベーション創出を目指す」分野に限定され、大学別、分野別に偏りが生じます。ピア・レビューにもとづいた審査ではなく、公平性、透明性が担保されない選考となる危険があります。博士課程院生は、研究者として位置づけ、日本学術振興会の特別研究員制度の拡充と大学院生に対する給付制奨学金の創設で経済的支援を強化します。
博士が能力をいかし活躍できる多様な場を社会にひろげる―――公務員の大学院卒採用枠を文部科学省だけでなく他の省庁に広げます。学校の教員職や科学に関わる行政職、司書や学芸員などのポストを増やし、博士を積極的に採用します。博士を派遣や期間社員で雇用する企業に対して正規職への採用を促すとともに、大企業に対して博士の採用枠の設定を求めるなど、社会的責任を果たさせます。
大学職員を増員し、教育・研究・診療への支援体制を充実させる―――大学は、教員だけでなく、技術、事務、医療などの職員によって支えられています。大学の基盤的経費を増額して職員を増員するとともに、雇用は正規が基本となるよう促します。
軍事・イノベーションのための総動員体制づくりを許さず、「学問の自由」を保障します
この間、自民党政権が行ってきたのは、科学技術と経済力を軍事に組み込む「経済安全保障」の推進と、企業の利益に直結する「イノベーション」の推進です。
岸田政権下で決定した国家安全保障戦略では「官民の高い技術力を、安全保障分野に積極的に活用していく」として、そのための研究開発は「防衛力の抜本的強化と不可分一体のもの」であり、「安全保障に活用可能な官民の技術力を向上させ、研究開発等に関する資金及び情報を政府横断的に活用するための体制を強化する」と推進しています。民生品の軍事利用(デュアルユース)も含め、科学技術の軍事一体化のために資金を投入し、体制も強化すると宣言しています。経済安保推進法に基づいて策定された「経済安保推進基本方針」では、「経済面における安全保障上の一定の課題については、政府が支援と規制の両面で一層の関与を行っていくことが必要」としています。企業や研究者に対して、「支援」という飴と、「規制・罰則」という鞭で、「経済安保」政策を進めていくということです。科学技術の軍事一体化を推進し、学問の自由などを侵害すると言わなければなりません。
政府の科学技術政策の司令塔「総合科学技術・イノベーション会議」(CSTI)は、各省より一段高い立場から「科学技術政策」の企画立案・総合調整を行い、「科学技術イノベーション戦略」案の策定や、予算・人材の配分に関する調査審議などを担う組織です。この構成員は、議長としての総理をトップに、関係閣僚とともに、財界代表者が複数入っています。大企業、財界の利潤追求をトップダウンで推進する司令塔が置かれていることは重大です。
また、「経済安保」政策の下で、政府の規制を拡大して巨額補助金など支援策を拡充すれば、企業と政府の接点が増え、官民癒着も拡大することになります。
財界奉仕の政治の転換が求められています。
軍事研究強化と日本学術会議法の改悪は軌を一にしています。戦前の学術界は独立性を奪われ、科学者が軍事研究に総動員させられました。繰り返させてはなりません。
日本学術会議会員の任命拒否を撤回させ、独立性を守り、予算・体制を充実―――違憲・違法の任命拒否を撤回させ、6名を任命します。日本学術会議が懸念を表明している学術会議の法人化の検討を中止し、学術会議の独立性を守ります。任命拒否に至った全容を明らかにし、再発を防止します。日本学術会議の自主的改革を尊重し、予算や事務局体制を欧米のアカデミー並みに増額・充実させます。
官邸主導のイノベーション政策を抜本的に見直し、研究者の声を反映させた科学・技術の総合的な振興計画を確立する―――研究者の自治が保障され、ボトムアップで政策が立案されるように、科学技術・イノベーション基本法や同基本計画、総合科学技術・イノベーション会議などを抜本的に見直します。内閣府の「司令塔」機能を廃止し、科学・技術政策を官邸主導で策定し、経済政策に従属させるやり方をあらためます。日本学術会議をはじめひろく学術団体の意見を尊重して、行政と学術界がコンセンサスを図れる場を作り、科学・技術の調和のとれた発展を図れるような総合的な振興計画を策定します。国の科学技術関係予算の配分を全面的に見直し、人文・社会科学の役割を重視するとともに、基礎研究への支援を抜本的に強めます。また、防衛省の軍事研究費、高速炉開発など原発推進予算、大企業への技術開発補助金、戦略的イノベーション創造プログラムなどの露骨に大企業を支援する産学連携支援策など、不要・不急の予算を削減します。
イノベーション支援の重点を中小企業、地域に移す―――科学・技術の研究、開発、利用への国の支援は、非軍事とともに「公開、自主、民主」の原則にたっておこない、大企業優遇ではなく、平和と福祉、安全、環境保全、地域振興など、ひろく国民の利益のためになされるべきです。大企業のためのイノベーションから中小企業を中心にした多面的なイノベーション、地域に密着したイノベーションに支援の重点を移します。
「安全保障技術研究推進制度」を廃止し、大学や公的研究機関の軍事利用をやめさせる―――大学や公的研究機関に対する軍事機関(防衛省や米軍など)からの資金提供や研究協力は、「学問の自由」を脅かすものであり、禁止すべきです。防衛省の「安全保障技術研究推進制度」や新設した「防衛イノベーション科学技術研究所」を廃止し、偵察衛星など宇宙の軍事利用もやめさせます。大学や公的研究機関における研究開発は、非軍事・平和目的に限定し、その成果を暮らしと産業の発展のために広く活用します。軍事機密を理由にした研究成果の公開制限や秘密特許に反対し、宇宙基本法や原子力基本法の「安全保障」条項を削除します。
「経済安全保障推進法」を廃止し、知的財産権をめぐる問題は外交で解決する―――経済安全保障推進法は、科学技術の軍事研究化を推進し、学問の自由を侵害する恐れがあります。すでに2回の補正予算で5,000億円が計上された経済安全保障重要技術育成プログラムの成果は、防衛省の判断で軍事技術として活用できます。プログラムの参加者に、罰則付きの守秘義務を課します。特許出願非公開制度は、民生技術を軍事技術に吸収し、戦争遂行に動員した戦前の秘密特許制度の復活です。特定技術分野の発明は外国出願禁止ですが、日米防衛特許協定を理由に米国に対してのみ禁止を除外しています。軍事特許を日米同盟に役立てる仕組みとなっています。
中国の覇権主義や組織的なサイバー攻撃、知的財産権の侵害などは、事実に基づき厳しく批判され、外交的に解決されなければなりません。しかし、「平和のとりで」(ユネスコ憲章)であるべき大学や国際交流があってこそ発展する研究までも仮想敵を持って対立に巻き込むことはあってはならないことです。「経済安全保障推進法」は廃止します。
学術、科学・技術の健全な発展のために
国立研究機関の自主性を尊重し、基礎研究重視に転換します
国立研究会開発法人(独立行政法人)など国立の研究機関は、国民生活の向上、産業振興、民間企業が担おうとしない基礎研究など、国民の要求にこたえる研究機関としての役割を発揮することが求められています。
ところが、自民党政治のもとで公務員削減がつづき、国民的、社会的に必要とされる分野が切り捨てられています。定員削減により国立感染症研究所の機能が弱体化してきたことは、その典型です。
さらに、安倍政権以降、理事長などの役員人事への官邸の影響が強まり、軍事研究とイノベーション創出に偏重しています。
国立研究開発法人における防衛省「安全保障技術研究推進制度」の採択は、9研究機関のべ68件にのぼります。軍事研究の下請け機関へと変質する危険が強まっています。
国立研究開発法人では、国策にもとづいたプロジェクト研究を政府の都合で自由に編成できるように、非正規雇用が野放図に拡大しています。とりわけ国研で最大規模の理化学研究所は、8割弱が非正規雇用で、研究センターやプロジェクトチームの再編のたびに大規模な解雇や雇い止めが横行しています。短期的な成果主義が蔓延し、優秀な研究者が米国、中国などの研究機関、企業に流出する事態が起きています。
国立研究開発法人制度を見直す―――国立の研究機関の大半は、2001年に独立行政法人化され、国策にもとづくトップダウンが強まり、様々な問題が噴出しています。2015年に国立研究開発法人制度が導入されましたが、独法制度の枠内です。理化学研究所、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構は、特定国立研究開発法人となりましたが、成果が上がる見込みのない場合は責任者を解任できるようにするなど、政府による統制を強化し、研究所の自主性・自律性を奪うものとなっています。国立研究開発法人制度全体を見直し、研究者が独創性・創造性を発揮できる研究環境をつくります。国民生活、産業振興、基礎研究に係る重要な分野は研究者を増やし、正規雇用を基本にして、任期付き雇用は限定します。
筑波研究学園都市の研究施設整備をはかる―――「筑波研究学園都市」の発展をはかる見地から、研究者とりわけポスドクなど非正規雇用を含めた若手研究者が安心して研究に打ち込めるよう、「筑波研究学園都市建設法」にのっとり国の責任で研究施設の整備と宿舎の確保などの条件整備をすすめます。
学術・高等教育分野でのジェンダー平等を推進します
➡各分野の政策「70、高等教育、大学改革」をごらんください。
公正で民主的な研究費配分を行い、不正行為の根絶をはかります
科学・技術の振興に光をあてる―――政府は2019年度から「科学技術予算」が”過去最大になった”と宣伝しています。しかし、これは、①「科学技術を用いた新たな事業化」などの予算を2016年からさかのぼって集計する、②先進技術を活用した公共事業などを「イノベーション転換事業」として2018年度から計上するという二重のかさ上げによるものです。いずれも国際比較される政府研究開発予算には入らないものです。政府が発表する「科学技術予算」は、科学技術の事業化・活用に偏重し、海外とも過去とも比較できなくなっています。科学・技術の振興そのものに光をあてる予算編成に転換します。
過度の競争を是正し、研究における不正行為を根絶する―――研究における不正行為は、研究の要となる実証性を損ない、他の研究者の研究に深刻な打撃を与えます。科学への社会の信頼を裏切る行為です。不正事例は、競争的資金の重点配分や任期制など競争的環境が強まった2000年前後から急増しています。不正の根絶をはかるために、科学者としての倫理規範の確立を促すとともに、不正の温床となっている業績至上主義とそれを助長する過度に競争的な政策をあらためます。理化学研究所が、不正論文の責任著者として、競争的資金の不交付の処分中の大学教授を主任研究員として採用し、「国の研究費配分機関の処分を無効化している」と批判されています。このようなことができないように大学・研究機関における外部資金の管理を厳格にします。
産学連携の健全な発展をうながします
産業と学術が連携し、協力しあうことは、互いの発展にとって有益なことです。同時に、福島原発事故で明るみにでた原子力産業と一部大学との癒着にみられるように、大企業の利潤追求に大学が追随するような連携は、大学本来の役割が弱められ、研究成果の秘匿や企業との癒着などの弊害がうまれます。
産学連携の健全な発展のために、国からの一方的な産学連携のおしつけでなく、大学の自主性を尊重し、基礎研究や教育など大学の本来の役割が犠牲にされないようにします。また、産学連携を推進する国の事業(共同研究への補助など)は、地域や地場産業の振興にも力を入れ、中小企業の技術力向上への支援を拡充します。
大学と企業との健全な関係をむすぶため、以下の点で国のきちんとしたガイドラインを作成します。
①企業との共同研究の際、学会などでの研究成果の公開が最大限保障され、だれでもひろく使えるようにする。
②共同研究や委託研究での相当額の間接経費や、共有特許での大学の「不実施補償」を、企業側が負うようにする。
③企業から受け入れた資金は、大学の責任で管理、配分し、公開することを原則とし、研究者と企業との金銭上の癒着をつくらない。