46、気候危機
気候危機を打開する取り組みは、人類と地球にとって待ったなしの課題です
2024年10月
気候危機の打開は、日本国民にとって待ったなしの課題となっています。猛暑による熱中症の増加や、線状降水帯・ゲリラ豪雨など風水害による災害によって、国民の命が脅かされ、農業や水産業にも大きな被害を与えています。2023年の世界の平均気温は、1850年の気象観測開始以来、もっとも暑い年で、産業革命前に比べると1.48度上昇し、パリ協定の温暖化抑制目標である「1.5度目標」に近づいているという発表もありました(EUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス(C3S)」)。
国連のグテーレス事務総長は、この事態を「地球沸騰化」と表現し、各国に気候危機対策の強化を呼びかけています。昨年12月に閉幕したCOP28(国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議=ドバイ会議)や、今年イタリアで開かれたG7では、気候危機打開のための取り組みの強化で合意しました。
COP28では、1.5度目標達成のためには、温室効果ガス(GHG)を2019年水準比で2030年までに43%、2035年までに60%の大幅削減が必要だという認識で、全加盟国が合意しました。さらに130カ国で、2030年までに世界の再生可能エネルギー容量を3倍にし、エネルギー効率改善率を2倍とするという目標で合意し、日本もこれに入っています。トリノG7気候・エネルギー・環境大臣会合では、二酸化炭素(CO2)の”排出削減対策のない”石炭火力発電を2035年までに段階的に廃止することで合意し、共同声明に盛り込みました。
現在、日本が国連に報告ずみの2030年度までの削減目標(2013年度比46%)は、国連が世界平均で求めていた2010年度比45%を下回り、同比42%に過ぎません(2021年12月、宮本徹議員への山口壮環境大臣の答弁)。COP28の新たな合意(2019年度比43%減)に照らしても、2030年度政府目標は2019年度比37%減にしかなりません。また2035年度目標では世界平均並み(2019年度比60%減)としても、政府の2050年までの削減ペースでは35年度の削減は2019年度比53%減にとどまってしまいます。
しかも日本は、国連が繰り返し「先進国は2030年までに石炭火力を段階的に廃止を」と求めたのに、G7で唯一、石炭火力からの撤退期限を示していません。大型石炭火力の建設を続けてきて、2030年どころか、温室効果ガス排出の「実質ゼロ」を達成すると自ら約束した2050年にむけても石炭火力を残す考えを持っているなど、政府の姿勢に内外から厳しい批判を浴びせられています。G7のなかでイギリスは先頭に立ち今年9月末、最後の石炭火力を停止しました。
2011年の東電福島第一原発事故を経験し、安倍政権でさえ表向き「可能な限り原発依存度を低減する」といってきたのに、岸田前首相は2022年の参議院選挙後、原発を「最大限活用する」「次世代革新炉の開発・建設に取り組む」といいだし、原発「回帰」に逆戻りしました。昨年、老朽原発の60年超の運転を認める改悪を、自民、公明、国民民主、維新の賛成で改悪しました。石炭火力についても10年ぐらい後には、アンモニアを混焼して20%CO2の排出量を減らし、またCCSでCO2を回収するとしていますが、技術的にも採算的にも合理性がないとされています。G7などで”排出削減対策をとっている”というのは、発電所から排出されるCO2の90%以上を回収することを指すとされ(IPCC)、日本政府のいう水準ではありません。こうした原発「回帰」と石炭火力の温存を柱にしているのが政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)」の実態です。これで「1.5度目標と整合している」といっても、「グリーンウォッシュ」(環境配慮をしているように装いごまかすこと)だとの批判の声があがっています。
➡原発問題については各分野の政策「41、原発問題」を、エネルギーについては「42、エネルギー」をごらんください。
昨年9月にニューヨークの国連本部で開かられた「気候野心サミット」で、岸田前首相が準備していた同サミットでの演説が、日本の気候危機対策の遅れによって「(出席の)基準を満たさなかった」として国連によって拒否されました。文字通り、自公政権のGXをはじめ気候危機対策に、落第という評価を、突きつけられたものです。
2030年までにCO2を最大60%削減する―――日本共産党の2030戦略
IPCCは2021年、地球の平均気温の上昇を産業革命前にくらべ1.5度以内におさえようとすれば、この「決定的な10年」に、思い切ったCO2の排出削減に各国が取り組まなければならないという強いメッセージを発しました。
日本共産党は、2021年9月に「気候危機を打開する日本共産党の2030戦略」を発表しました。その中で掲げた次のような目標は、COPの合意やIPCCの提起にもこたえるものです。
日本共産党は、2030年度までに、CO2を50~60%削減する(2010年度比 ※1)ことを目標とするよう提案します。それを省エネルギーと再生可能エネルギーを組み合わせて実行します。エネルギー消費全体を4割減らし(電力消費を20~30%削減)、再生可能エネルギーで電力の50%をまかなえば、50~60%の削減は可能です。さらに2050年に向けて、残されたガス火力なども再生可能エネルギーに置き換え、実質ゼロを実現します。
(※1)2013年度比54~63%減、2019年度比46~57%減
➡全文は「気候危機打開の日本共産党の2030戦略」(2021年9月1日)(https://www.jcp.or.jp/web_policy/2021/09/post-882.html)をごらんください。
COP28で日本を含む条約加盟国が全会一致で合意した目標や方針をふまえて、2035年を期限とする新たな温室効果ガスの排出削減目標を来春、提出するよう国連から求められています。「2030戦略」で提起した目標や政策の実現に取り組むとともに、日本共産党は2013年度比で温室効果ガスの排出を75%から最大80%削減するようめざします(※2)。エネルギー消費全体で6割減らし(電力消費量は3割削減)、再生可能エネルギーで電力を80%をまかなえば、温室効果ガスの75~80%削減は可能です。世界5位の温室効果ガス排出国であり先進国として、国連が求める「野心的な取り組み」に挑戦することで、2050年よりも前に「実質ゼロ」を達成する可能性を開きます。
(※2)2010年度比73~78%減、2019年度比71~77%減
いま問題になっているのは、30年度削減目標が国連の要請よりも小さく、目標強化の要請に応じていないということだけではありません。電力業界の今後10年間の見通しをみても、政府の2030年度目標が達成できないのではという疑念が広がっていることです。
また政府は、2035年度の削減目標にふれずに、2040年度目標を国連に伝えるという報道もありますが、着実に気候危機対策を進め、国際的な検証に資するためにも、35年度目標を明確にすることを求めます。
アメリカのエネルギー省のもとにある国立ローレンス・バークリー研究所が公表した「2035年日本レポート」(2023年)でも、日本の原発の再稼働が難航すれば(低原子力シナリオ)、2035年には再エネ電力比率が77%を占めるとしています。
気候危機が進行する中で、若い人たちは将来に深刻な不安を感じています。新たな削減目標の検討に当たって、若い人たちの意見を反映するために、国会での発言を実現し、政策決定過程への参加を保障します。
省エネの推進と純国産の再エネの大量普及で、エネルギー自給率の向上を
エネルギー転換は、エネルギー自給率向上の観点からも急務です。日本のエネルギー自給率は10%程度と先進国で最低クラス(OECD加盟国38カ国中37位)です。原油価格の高騰、ロシアのウクライナ侵略、急激な円安の進行、中東情勢の緊迫など、エネルギーを外国に依存している経済の危うさが浮き彫りになっています。
環境省の調査でも、再生可能エネルギーの潜在量は、現在の電力使用量の7倍にもなります。しかし、政府のエネルギー基本計画では、2030年度の再生可能エネルギー電力の比率は36~38%にすぎません。これは現在のオーストラリア(36%)の水準であり、イギリス(46%)、ドイツ(52%)などは、さらにその先に行っています。これらの国々は2030年までに70%台~80%台をめざしており、日本はますます水をあけられることになります。現在、日本と同水準のアメリカ(23%)も、30年には59%まで拡大する見通しです。
こうした日本の決定的な後れは、石炭火力、原発にしがみつき、再生可能エネルギーを後景に押しやっていることが、最大の要因です。
―――すみやかに原発ゼロ、石炭火力からの計画的撤退をすすめ、2030年度に原発と石炭火力の発電量はゼロとします。
―――再生可能エネルギーの優先利用の原則を確立し、大手電力会社が原発や石炭火力を優先して、再エネ電力の導入にブレーキをかける、太陽光の出力抑制を中止します。再エネを最大限活用できるよう東西日本レベルでの電力運営システムや、電力網などのインフラ整備を進めます。
―――二酸化炭素排出量が大きい業界、大規模事業所に、二酸化炭素削減目標と計画、実施状況の公表などを「協定」にして政府と締結することを義務化します。
―――農地でのソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)、小規模バイオマスの発電の普及など、脱炭素を結びついた農業・林業の振興を進めます。
―――省エネの取り組みを産業、都市・住宅など、あらゆる分野ですすめます。
気候危機への本気の取り組みが新しい投資と雇用を生み、持続可能な成長を実現する
自動車工業会は、電力の脱炭素化が遅れれば、製造時の CO2の排出量が減らず、日本の車は海外に輸出できなくなり、最大で約100万人の雇用が失われ、経済影響はマイナス26兆円となるとしています(2021年10月「カーボンニュートラル 自工会発信メッセージ」)。石炭火力など化石燃料にしがみつき、日本経済の新しい成長の芽を摘み取り、産業の競争力さえ奪ってしまうことは許されません。
再エネは、密度が低いものの、日本中どの地域でも存在します。この特徴を生かして、地域と住民の力に依拠して活用をすすめてこそ、多様で大規模な普及が可能になります。そうすれば地域経済の縮小に悩むところでも、地域おこしの貴重な資源となります。地域のエネルギーとして、地域が主体になって開発・運営することで、エネルギー費用の域外流失が減り、地域での資金の新たな循環を生み出されます。住宅や小規模工場での省エネの普及・改修、その屋根への太陽光パネルの設置、自治体主導や住民の共同による事業、屋根貸し太陽光発電事業などを推進することで、地域に仕事と雇用を生み出せます。
日本共産党の「2030戦略」を実施すれば、省エネや再エネの推進を柱に10年間で民間と公的な投資は合計202兆円、GDPは累計で205兆円の押し上げとなります。雇用の創出も年間平均で254万人になります。国内に「新たな成長産業」を創出することになります。
気候危機打開のための経済・社会の大転換は、文字通り日本経済の構造的な大改革を意味します。その達成のためには、広範な国民の参加と共同が必要であり、目先の利益にとらわれ国民に分断をもたらす新自由主義から、中長期の展望をもった環境的にも持続可能な経済への転換が同時に求められています。地球環境を犠牲にした大量生産・大量消費・大量廃棄型から、持続可能な地域循環型経済への転換、大都市集中から地方の強化、非正規の不安定な雇用から安定した雇用の拡大と労働者の権利の保障へ―――こうした転換が同時に取り組まれてこそ、省エネ・再エネなどによる新たな仕事と雇用の創出の効果が、地域経済にも波及し、パリ協定にも盛り込まれた「公正な移行」による「雇用の移動」もスムーズに行われます。大企業内に滞留している巨額の内部留保を、賃上げとともに再生可能エネルギー・省エネルギーなどの国内投資へまわすために、日本共産党は大企業の内部留保について期間を限定した課税を提案しています。
データセンターの計画は、気候危機対策との両立を
データセンターの建設計画が急増し、それによる電力消費の増加を口実に、原発の再稼働を進める口実にしようという動きがあります。
データセンターによる電力消費の増加は、国内だけでなく世界的な問題となっています。台湾、アイルランド、シンガポールでは新設が停止され、ドイツでは新設計画でエネルギー効率の上限を設定し省エネが義務化されています。国連貿易開発会議(UNCTAD)は今年7月に報告書(「デジタル経済報告書」2024年版)を公表し、そのなかで、デジタル化は歓迎すべきものであり、世界の経済成長に必要な原動力だが、急速なデジタル化は環境への懸念を高めるため、包括的かつ持続可能なものでなければならないとしています。デジタル技術の地球環境への負荷を軽減するため、環境規制の強化と再生可能エネルギーへの投資を求めています。グテーレス国連事務総長はこの報告書の序文で「気候変動へのコミットメント(公約)を尊重するデジタル政策の枠組みを求めています」と明記しています。
これを考慮すれば、次のような条件を満たす必要があります。
(1)使う電力は、再生可能エネルギー電力とし発電時CO2を出さない
(2)立地は、冷房に要する莫大なエネルギーを節約するため、できるだけ寒冷な地域にする(ヨーロッパなら北欧)
(3)データセンターの省エネを徹底して、消費電力量や発熱量を減らすこと(ドイツの規制の例)――が求められます。
国内で、データセンターによる将来にわたる電力需要の見通しについては、これまでの需要抑制の経験や開発中の省エネ技術によって需要増は限られ、大勢に影響はないという批判も出ています。現にEUは、省エネなど適切な対策をとることによって将来は、電力需要が減る可能性もあるという報告書を出しています。今の技術で、拙速にデータセンターを乱立させれば、エネルギー効率が悪いままの施設が大量に残って、環境への悪影響だけでなく、運営コストが高いままくユーザー負担が重くなります。
日本の電源構成からいえば、再生可能エネルギー電力の比率が低いまま電力需要を急増させることは、地震・津波のリスクある原発を動かすか、石炭火力を使い続けてCO2の排出増につながります。
さらに立地の問題で、今ある立地計画の面積でみると、8割以上が東京圏・大阪圏に集中し、再生可能エネルギーが豊富に存在する場所ではありません。また巨大な建物が居住地域に隣接して建設する計画など、住環境に悪影響を及ぼす恐れがあるものもあります。膨大な排熱でヒートアイランド化を促進することも懸念されます。自治体の気候危機対策を台無しにすることがないよう、企業が地球環境保全での責任を果たし、規制のルールをつくります。
自治体の「実行計画」策定へ市民の積極的参加を
地球温暖化対策推進法や政府の「地球温暖化対策計画」にもとづき、自治体では区域内の「実行計画」(区域施策編)の策定を求められています。2050年のCO2排出「実質ゼロ」や30年までの思い切った排出削減を踏まえて、「低炭素」社会ではなく「脱炭素」社会に向けて計画を立案していく必要があります。
環境省によれば、「2050年までにCO2排出ゼロ」を表明した自治体は、東京都・京都市・横浜市を始めとする1,122自治体(46都道府県、624市、22特別区、372町、58村)に達しています(2024年9月30日時点)。この目標の達成のためにも、いよいよ自治体レベルでの具体的かつ計画的な取り組みが求められています。
「2030戦略」でも示したように、日本のCO2の排出量のうち、60%は排出量の多い上位200余りの施設・事業所から排出されています。こうした特別な大口排出事業所への対応は、国が積極的に乗り出すべきです。「2030戦略」では、大口排出企業は政府と削減の協定を結ぶよう提案しています。
全国の1,700余の自治体の多くは、大口排出事業所がなく、規模の小さな工場や農林水産業、建設業、オフィス・商業施設などの業務部門、運輸部門、家庭部門からのCO2の排出となります。これらの全体の省エネをどう進めるのかが課題です。電力に着目すると、CO2排出の相当部分が購入電力による場合が多く、区域内での再エネ発電所や建物・農地での太陽光発電の増設を図るとともに、住民・事業者がCO2排出の少ない電力を選んで購入することが大事となります。
光熱費の削減とともに、地域外へのエネルギー費用の流出を削減でき、地域の事業者への受注や農業者の再エネ収入増による地域経済の底上げに寄与します。地域の住民・専門家・事業者の連携による新たな地域活動の創出にもつながります。
「実質ゼロ」の実現にふさわしい自治体の目標を、住民参加で策定する―――自治体の領域内の特徴を踏まえた野心的な削減目標の設定。住民の年齢や職種などの構成比に合わせくじ引きで参加者を選出して開く市民会議など、市民の意欲や知恵、協力が反映できる計画となるよう策定会議を工夫します。
省エネを推進する―――断熱に優れた住宅・建物の普及、省エネに優れた機器への買い替え、EV車の普及や、公共交通などの利用による省エネ交通システムの整備を図ります。
再生可能エネルギーの導入拡大を進める―――地域の条件をいかした多様な再生可能エネルギーの導入、排熱の地域利用、地域の企業や家庭が再エネ比率の高い電気を選ぶように助言する仕組みを導入します。
都市の貴重な緑を守る――猛暑のなかで都市部のヒートアイランド化が深刻化していますが、その抑制のための貴重な緑が、風の流れを遮りエネルギーの消費増となる高層化などの再開発によって犠牲にされています。欧米では植樹を取り入れたまちづくりが進められており、気候危機対策の観点から都市のあり方を見直します。
対策の立案に専門家の知見を生かす―――自治体と地域の専門家、実務者が協力し、省エネの診断、ひも付きでない中立の立場での紹介・アドバイスを実施しできるよう、支援組織の設立を進めます。
脱炭素を地域発展につなげる―――地元企業が省エネ対策や再エネ導入で仕事を受注し、雇用が増えるよう協力や支援の体制を整備します。
自治体施設・事業での脱炭素計画を重視する―――建物の断熱や省エネ設備の導入、再エネ100%を追求するなど、地域の模範となるような計画を推進します。