13、女性をはじめ、あらゆる人に対する暴力をなくす
痴漢ゼロ、刑法やDV防止法の改正、被害者に寄り添う支援の強化を
2024年10月
「#MeToo」「#WithYou」―――セクシュアル・ハラスメントや性暴力への抗議が広がっています。
レイプ事件無罪判決に異議を申し立てた「フラワーデモ」は、2019年4月の東京から始まり、その後47都道府県に広がりました。女性たちは、「今まで話せなかった」「被害を次の世代に続かせてはならない」と、次々と発言に立ちました。
「女性に対する暴力撤廃宣言」(1993年、国連総会採択)は、女性に対する暴力は「男女間の力関係が歴史的に不均衡だったことを明らかにするものである」と述べるとともに、「女性を男性に比べて従属的な地位に追いやるための社会的な仕組みとして、最も決定的なものの一つ」だとしています。レイプやDV、セクシュアル・ハラスメントなどの女性に対する暴力は、単なる個人間の〝けんか〟や〝トラブル〟という問題ではなく、ジェンダー不平等の社会の構造に、その根があるということです。だからこそ、政治が女性に対する暴力の根絶を、国の政策目標として明確に掲げ、真剣に取り組む必要があります。
いま芸能界や自衛隊でも被害者が実名で証言し、加害者に罪を問うています。旧ジャニーズ事務所の創設者による、10代の男性に対する性暴力が長年にわたって行われていたことが明らかになり、名乗りでた被害者は1,000人を超えました。芸能事務所の創設者という立場を利用し、夢をもって芸能界に入った子どもたちの人生を奪った行為は、重大です。芸能分野でのハラスメントを無くそうと、多くの人が行動しています。
自衛隊内で性被害にあった五ノ井里奈さんが告発したことをきっかけに、ハラスメント調査も実施されました。自衛隊内で行われたハラスメント調査「特別防衛監察」ではハラスメント被害の訴えが1,325件にのぼり、6割が相談窓口に相談していませんでした.
沖縄県では、米兵・軍属による少女への暴行事件が繰り返されてきました。2023年12月、嘉手納基地所属の米空軍兵が16歳未満の少女と知りながら、車で誘拐して自宅に連れ去り、同意なく性的暴行を加えたという事件がおこりました。日本政府と米軍によって隠蔽され、加害者が野放しになり、再発防止策とられなかったことは重大です。
「痴漢ゼロ」を政治の重要な課題に位置づけます
女性や子どもにとって、もっとも身近な性暴力が痴漢です。女性たちの運動と、日本共産党の国会と地方議会での論戦が実を結び、2022年度末に内閣府が「痴漢撲滅パッケージ」を策定し公表しました。「痴漢ゼロ」を国が政策課題に掲げたことは重要な前進です。
―――痴漢被害の実態を調査し、相談窓口の充実、加害根絶のための啓発や加害者更生を推進します。警察庁や民間事業者とも連携しながら政府あげて取り組むことを求めます。
刑法の性犯罪規定について、被害の実態と国際水準に見合った改正を進めます
日本は国連の女性差別撤廃委員会から、「強姦(ごうかん)の定義を拡張するとともに、性犯罪の職権による起訴を確保するための刑法の改正を促進すること」、「配偶者強姦が明示的に犯罪化されていないこと」などの勧告を受けています。
2023年、刑法の性犯罪規定の改正が実現し、「不同意性交等罪」が創設されました。▽暴行・脅迫▽アルコール・薬物の摂取▽恐怖・驚愕▽地位の利用――などにより、被害者に「同意しない意思」の表明、形成、全うを困難にさせた場合、処罰の対象となります。性交同意年齢は16歳に引き上げられました。ただし、同世代間の性的行為を処罰することを防ぐためとして、13~15歳は5歳以上の年齢差がある場合に処罰対象となります。公訴時効は5年延長し、被害児が未成年の場合は18歳に達するまでの期間を加算されます。性的部位の盗撮や画像の提供を取り締まる「撮影罪」▽わいせつ目的でSNSなどにより16歳未満を手なずける「面会要求罪」が新設されました。これらの改正は、いずれも性暴力の被害当事者や支援者が求めてきた方向と重なるものです。しかし、性交同意年齢の年齢差が「5歳差」というのは広すぎます。また、子どもの頃に性被害にあった場合には、それが性被害だったと気づく頃には時効を迎えている場合も少なくないことから、公訴時効(被害にあってから訴訟を起こすまでの期限)は撤廃する、あるいは成人になるまで停止させるべきです。関係団体等からの改正要求にもかかわらず、公訴時効の撤廃又は停止▽配偶者間における強姦の処罰化▽刑法における性犯罪に関する条文の位置―――などは、110年前の制定時のまま留め置かれました。
被害者の勇気ある行動と、それに応え寄り添い続ける人々の運動が、ジェンダー平等を求める巨大なうねりをつくりあげています。被害者を守り、新たな被害者をうまない法制度を整えるべきです。
性暴力を、人間の尊厳を侵害する重大な犯罪として位置付けます
国連女性の暴力に関する立法ハンドブック(2009年)は、「性暴力は、身体の統合性と性的自己決定を侵害するものと定義すべきである」と勧告しています。強制性交等罪、性犯罪の保護法益は、人間の性的自由の保護にとどまらず、人間の尊厳、性的な人格権の保障です。
しかし、刑法の条文の位置は制定時のまま、社会的法益の第22章「わいせつ物販売罪等の性風俗に対する罪」とともに規定されており、便宜的に、「強制わいせつ、強姦」は「個人的法益に対する罪」、「わいせつ物販売罪等」は「社会的法益に対する罪」と分けて考えているにすぎません。
―――条文の位置を移動して「個人的法益に対する罪」であることを明確にし、人間の尊厳を侵害する重大な犯罪と位置付けます。
―――子どもへの性暴力は罪を加重します。子どもが被害者の場合は時効を停止するなどの見直しを行います。
警察、検察、裁判で、被害者の尊厳を守ります
ジャーナリスト・伊藤詩織さんの著書『BLACK BOX』では、被害者に対するとは思えない、警察の過酷な事情聴取の様子が描写されています。裁判では、事件とは関係のない、被害者の過去の性的な経験などプライバシーの暴露が行われています。これでは、加害者の処罰を望んでも、よほどの勇気がなければ訴え出ることはできません。「性暴力被害者支援情報プラットフォーム THYME(タイム)」の卜田素代香さん(仮名)は、2022年9月16日、性暴力被害を受けた直後に病院の緊急外来を受診したが証拠採取を希望すると「警察の依頼がないとできない」と病院から断られたことや、裁判に訴えると加害者に自ら氏名などが知られる危険があることなど、自らの経験を踏まえ、▽性暴力の証拠保全体制の整備と改善▽起訴状における被害者氏名匿名化のための法改正と運用推進▽被害者の情報保護――を国に対して要望しました。
―――性犯罪の捜査体制を強化し、事情聴取の専門的な訓練を受けた警察官、検察官の養成や配置を進め、一連の刑事手続きにおいて被害者の尊厳を守ることを求めます。
―――裁判の立証において、被害者の過去の性的な経験、傾向を用いてはならないとするレイプシールド法の確立をもとめます。
―――性暴力の深刻な被害実態を、司法関係者をはじめ社会全体の認識に高めるための取り組みを強めます。
加害者の更生プログラムを強化します
―――性暴力の加害者への更生プログラムの実施と強化に取り組みます。
―――刑事施設内での処遇をはじめ、施設外の民間の取り組みを支援します。
公教育に人権・ジェンダー視点に立った包括的性教育を位置づけます
JKビジネス、AV出演強要、デジタル性暴力など、子ども・若者が性被害のリスクにさらされています。相談や啓発の強化が必要です。
同時に、性犯罪やジェンダーに基づく暴力は、根強く残る男尊女卑の社会通念に起因しています。被害を未然に防ぎ、根絶していくために、暴力を生む社会通念そのものを取り除くためのジェンダー平等教育を推進する必要があります。
―――子どもや女性を「性の商品化」するビジネスの法規制、相談や啓発の体制を強化します。
―――科学的な根拠に基づいた包括的性教育を推進する『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』(ユネスコ)にもとづき、人権・ジェンダーの視点に立って、子ども・若者の発達・年齢に適した知識、態度、スキルの獲得を可能にする性教育を、公教育に位置づけることを求めます。
性暴力被害者支援法を制定し、性暴力ワンストップ支援センターの充実をはかります
内閣府「男女間における暴力に関する調査」(2024年度)で「不同意性交等の被害経験」で女性は1,597人の回答者の8.1%にのぼります。
上記で被害を受けたと答えた人のうち、55.4%が「誰にも相談しなかった」と答えています。多くの被害者は「恥ずかしい」「自分さえがまんすれば」などと、どこにも誰にも相談できず、警察にも病院にも支援センターにもつながることができずにいるのです。しかし、性暴力は、心身に長期に深刻なダメージを与え、被害を思い出し、異性に対する恐怖心を持つなど日常生活にも支障をきたします。被害者が早期に支援につながれることは、その後の被害回復、生活再建にとってきわめて重要です。社会全体に、「被害者は悪くない」「性暴力は加害者が悪い」のメッセージを打ち出し、全国どこでも1か所で十分な支援を受けられる体制を整備する必要があります。
また、男性の性暴力被害者や、障害者、外国人、性的マイノリティ当事者などが相談しやすい体制の充実も、求められています。
性暴力被害者が相談できるワンストップ支援センターは、2021年2月現在、全国のすべての都道府県、52カ所に設置されています。国連の指標である「女性20万人に1カ所」と照らすと、日本はまだ約6分の1です。
また、急性期の被害者に医療的ケア(緊急避妊、感染症予防など)、証拠保全を行える病院拠点型センターや、24時間365日対応のセンターは、それぞれ20カ所程度にとどまっています。各県に病院拠点型センターを最低1か所設置する必要があります。
政府はワンストップ支援センターの24時間化を進めるとして、2022年秋から夜間休日のコールセンターを開設しました。しかし、被害者から遠いところにあるコールセンターで適切な支援ができるのか、専門家から懸念の声もあがっています。
ワンストップセンターの予算不足も深刻です。「しんぶん赤旗」の調査によると、国による交付金は運営費の2分の1、医療費の3分の1と定められていますが、実際の運営にかかる経費は交付金の上限額を上回り、4年間で3億円近くも不足していることが分かりました。多くのセンターは脆弱な財政基盤の下、医師の多忙と低賃金のスタッフ、ボランティアの熱意に支えられている現状です。国内で、先進的に性暴力被害者支援をおこなってきた、性暴力ワンストップセンター大阪SACHICOは、存続の危機を迎えています。2024年9月6日、千葉、東京、名古屋、大阪、京都、兵庫、島根、広島で性暴力被害者支援をしている8団体が国にワンストップセンター存続・強化のための要望書を提出しました。国が必要な費用をすべて補助し、全体のレベルを高い水準に引き上げることを求めました。また、病院での医療従者の支援行為にも補助金を出すよう訴えています。
性暴力からの回復へ、被害者が速やかにつながることができるよう、国は抜本的に予算を拡充し、支援体制を強化すべきです。
日本共産党は野党共同で、2018年6月、衆議院に「性暴力被害者支援法案」を提出しました。法案の成立に力を尽くし、センターの充実をはかっていきます。
➡性暴力被害者の支援に関する法律案(衆議院webサイト)(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g19605035.htm)
リベンジポルノ、SNSでの誹謗中傷などオンライン暴力への対策を強化します
「昔の交際相手に、性的な写真をSNSにアップされた」「女性がSNSで意見を主張すると、誹謗(ひぼう)中傷や殺害予告などが殺到」―――オンライン上の暴力は、被害者を精神的に追い詰め、命すら奪いかねない重大な人権侵害です。
国連人権理事会は2018年6月、女性が安全にネットを使用し、暴力や威嚇を受けないことを確保するための勧告を採択しました。また、フランスではこれに先立ち、2017年11月、首相直轄の諮問機関「女男平等高等評議会」が勧告「女性に対するオンライン暴力の不処罰をなくす」を提出、立法強化や被害者保護の充実などを提起しています。
➡女性に対するオンライン暴力の不処罰をなくす――フランスの諮問機関勧告(全文)(2017年11月)(https://www.jcp.or.jp/jcp_with_you/2020/03/post-28.html)
―――オンライン上の暴力について、通報と削除の仕組みを強化し、被害者のケアの体制をつくります。
AV出演被害を防止・救済する取り組みを強め、性交契約を禁止する法律の制定をめざします
アダルトビデオ(AV)出演による被害の防止と救済を目的とした「AV出演被害防止・救済法」が2022年の通常国会で成立しました。
この法律は、▽書面により契約・説明をする▽契約・説明から撮影まで1カ月、撮影終了から公表まで4カ月をあける▽公表前に出演者に映像を確認する機会を設ける―ことを事業者に求め、これらに違反した場合、契約の取り消しや解除を可能としています。また、契約に違法がなくても無条件で契約を解除できる規定もあります。事業者は映像の回収を含めた原状回復義務を負い、出演者は公表の差し止め請求ができるとしています。規定に違反した事業者に対する罰則も定められています。これらの規定は、被害防止と被害の救済にとって、これまでにない重要なものです。
同時に、法律はAVの定義を「性行為に係る人の姿態」を撮影した記録などとしています。被害者の支援団体などから、これが実際の性交を伴う契約を合法化するものではないかとの懸念が示され、立法過程で法文の修正が重ねられたものの、課題の解決が急がれます。
法律の付則は、「契約を無効とする条項の範囲」について施行後2年以内に検討を加え、必要な措置を講じるとしています。性交を含む契約を禁止する方向での世論と運動を広げ、さらなる見直しの議論につなげていくために、日本共産党は力を尽くします。
―――法律に定める契約の規制や救済の手段を広く周知・啓発するとともに、法律に盛り込まれた相談体制の整備を、支援・運動団体とも連携して進めます。
―――対価を払って実際に性交させることは個人の尊厳を傷つけるものです。AV出演被害防止・救済法の2年後の見直しに向けて、実際の性交を伴うAVを正面から規制する法整備を進めます。
DV防止法を改正し、被害者保護と加害者更生を強めます
全国のDV相談の件数は2022年度は、17万件を超えました。依然として暴力が多数存在している社会です。
DV防止法の中核的な制度である「保護命令」の発令件数は減少し続けています。「保護命令」は、被害者の申し立てで裁判所が加害者に被害者への接近禁止等を命ずるものです。これが使われずに減っているのは、「保護命令」できる暴力の範囲が、身体的暴力と生命等への脅迫に限定されているためです。
実際のDV相談では、「暴言」や「無視」などの精神的DVが6割を超え、経済的DVや望まない性行為などの性的DVも増えています。「暴力を寸止めして威嚇するなど、加害者も暴力を選んでいる」、「アザがあるなど緊急性がないと警察が動かず支援につなげないことも多い」などの実態が報告されています。支援者・支援団体からは、DV防止法の対象となる暴力の範囲の拡大の要望が強くあがっています。
2023年5月12日、改正DV防止法が衆院本会議で全会一致で可決・成立しました。保護命令の対象を、精神的暴力など非身体的暴力の被害にも広げ、保護命令の期間も6か月を1年へと延長しました。これは、被害者支援の現場の要望が一部実現したものです。
一方、「退去命令」(被害者と共に生活している住居からの退去と付近の徘徊を禁止。期間は2ヵ月)の対象には精神的暴力は含まれませんでした。また、保護命令が出るまでに一定の時間がかかるため、加害者にすぐに自宅付近への接近を禁止するなどの「緊急保護命令」の創設が急務となっていますが、これは導入が見送られました。
支援に携わる人たちが何より求めているのは、「被害者が逃げる選択しかない制度」を変えることです。困難も多様化、複合化する中で、ニーズに沿った切れ目のない支援を行うことが必要であり、逃げられない、逃げないDV被害者をどう支援するのかが課題となっています。
―――国の予算を増やし、関係諸機関との連携協力・ネットワークづくり、配偶者暴力相談支援センターの増設、24時間相談体制の確立などをすすめます。民間への財政支援と関係機関との対等な連携をすすめ、切れ目のない支援体制を確立・強化します。
―――民間シェルターへの委託費、運営費への財政的支援を強め、施設条件の改善をすすめます。中長期滞在できるステップハウスへの助成、公営住宅への優先入居など、被害者の自立、生活再建のための支援を強めます。
―――DV被害者や子どもの心身のケアをふくめ専門スタッフの養成・研修の充実、警察内での教育の徹底などをすすめます。
性暴力をなくすには、加害者を更生させること、二度と加害を行わないように行動を変容させることが非常に重要です。内閣府は2020年度から複数の地方自治体で加害者プログラムを試行的に実施し、その成果をもとに「配偶者暴力加害者プログラム実施のための留意事項」を2023年5月にまとめています。政府は、地方自治体や民間団体の関係者に対し、加害者プログラムに関する理解の促進を図り、各地域における実施を推進し、全国展開につなげたいとしています。
現在は、加害者に更生プログラムへの参加を義務づける仕組みがありません。刑事施設内での更生プログラムの実施を推進するとともに、施設外でも参加が促進されるよう、諸外国のような受講命令・社会更生命令の制度下を日本でも検討すべきです。
―――加害者更生プログラムの制度化など、加害者更生対策をすすめます。
―――虐待や貧困、性的搾取などの困難を抱える若年女性への支援を強化します。