テロ根絶のためには、軍事力による報復でなく、法にもとづく裁きを

米国での同時多発テロ事件にかんする各国政府首脳への書簡

2001年9月17日


 9月11日に米国で起こった同時多発テロは、多数の市民の生命を無差別に奪う憎むべき蛮行であり、絶対に許されない卑劣な犯罪行為です。このようなテロ行為は、いかなる宗教的信条や政治的見解によっても、正当化できるものではありません。これは、米国への攻撃にとどまらず、国際社会全体にたいする攻撃であり、世界の法と秩序にたいする攻撃です。日本共産党は、この野蛮なテロを根絶することは、21世紀に、人類がこの地球上で平和に生きてゆく根本条件の一つになると考えています。

 日本共産党は、事件直後、テロの犠牲者、負傷者と、ご家族・関係者のみなさんに心からの哀悼とお見舞いの意を表するとともに、野蛮きわまるテロ行為を、深い憤りをもって糾弾しました。

 同時にわが党は、テロの根絶のためには、軍事力による報復ではなく、法と理性にもとづいた解決が必要であるという立場を、明らかにしてきました。

 この点で、私たちがいま懸念を深めているのは、軍事力による大規模な報復の準備が、すすめられているということです。テロ犯罪にたいして、軍事力で報復することは、テロ根絶に有効でないばかりか、地球上に新たな戦争とそれによる巨大な惨害をもたらす結果になり、さらにいっそうのテロ行為と武力報復の悪循環をもたらし、無数の新たな犠牲者を生み、事態を泥沼に導く危険があります。

 私たちは、そのことにたいする深い憂慮の念から、事態の打開と解決のための私たちの見解と提案を、貴国政府にお伝えし、国際社会に訴えるものです。

(1)

 私たちは、いま必要なことは、性急に軍事報復を強行することではなく、“法にもとづく裁き”――すなわち、国連が中心になり、国連憲章と国際法にもとづいて、テロ犯罪の容疑者、犯罪行為を組織、支援した者を逮捕し、裁判にかけ、法にてらして厳正に処罰することだと考えます。

 そのためには、だれが今回の犯罪の容疑者であり、またその支援者であるかを、可能なかぎり立証する国際的に協力した努力が重要です。そして、これらの勢力が明らかになるならば、国際政治と国際世論による包囲と告発、経済的・政治的制裁など、彼らを“法にもとづく裁き”の支配下におくために国際社会として可能なあらゆる努力をつくすべきです。

(2)

 テロ犯罪の容疑者については、被害を受けた国に引き渡して裁判にかけることが、国際的な諸協定にも明記され、世界で確立してきた基本ルールです。270人の犠牲者を出した1988年の米パン・アメリカン機爆破・墜落事故についても、国連による経済制裁をふくむねばりづよい対応の結果、一昨年、リビア政府が容疑者とされた2人の人物の引き渡しに応じ、昨年、裁判が開始され、継続中です。

 今回のテロ事件は、その規模の大きさや残忍さにおいて類例をみないものであり、全世界にきわめて深刻な衝撃をあたえています。しかし、この事件にたいしても、“法にもとづく裁き”という冷静な対応がもとめられています。この点で、9月12日に全会一致で採択された国連安保理の決議1368が、「すべての国にたいし、これらのテロ攻撃の実行犯と組織者、後援者に法の裁きを受けさせるために緊急に協力することを求め」ていることは、道理にたったきわめて重要な決定です。

 テロ問題についての国際的諸協定、国連安保理決議の精神にたって、テロ犯罪の容疑者を特定し、逮捕し、裁判にかけるために、国連を中心に国際社会が共同して全力をつくすべきです。米国外の容疑者であるならば、身柄の引き渡しを国際社会の共同の意思として関係国政府に求める必要があります。それに応じない場合でも、経済制裁などの集団的な強制措置をふくめ、国連憲章と国際法にもとづいて、国際社会が共同して対応することが重要です。容疑者の裁判にあたっては、国連のもとに特別の国際法廷を開設することも可能でしょう。

 法にもとづく裁判による犯罪の処罰は、人類の生み出した英知の一つです。裁判をつうじてこそ、事実にそくして、事件の真相を徹底的に究明することが可能となります。今回のテロ事件は、大がかりな国際テロ組織が関与したものであるとされていますが、それだけに、この組織の全貌を明らかにし、それを根絶することも、法にもとづく裁判をつうじてこそ可能となるでしょう。

(3)

 国際的な協力のもとでの法にてらしての処罰のための努力をつくすことなく、大規模な軍事力による報復に訴えることは、今日の国際社会が承認している原則に合致するものではありません。

 たとえ侵略にたいする対応としても、許されているのは、実際に発生している武力攻撃にたいする自衛反撃であって、武力報復ではありません。国連総会では、「武力行使をともなう復仇行為」を明確に禁止する宣言を採択しています(1970年)。

 国連安保理の決議1368は、国連の軍事的措置に関する憲章第七章に言及しておらず、個々の国連加盟国による武力行使を認める表現はありません。

 国連憲章と国際法上の根拠をもたない軍事力による報復は、テロ根絶のための努力の大義を失わせ、テロ勢力にとって思うつぼの事態をまねく危険があります。無法者にたいしては、法に根拠をもたない対応でなく、“法にもとづく裁き”こそもっとも有効な対応だと確信します。

(4)

 テロリストにたいする大規模な軍事力行使による報復の準備が急速に進行している状況のもとで、以上、私たちの見解をお伝えしました。

 そして、テロ犯罪の容疑者の特定、その逮捕と処罰、さらにテロ根絶のためのいっそう効果的な国際的措置をとることを目的に、国連が特別の国際会議を緊急に主催することを提案するものです。

 貴国政府が、この問題の道理ある解決のために、積極的な対応をされるよう、心から要請するものです。

 日本共産党中央委員会議長・衆議院議員 不破 哲三

 日本共産党幹部会委員長・衆議院議員 志位 和夫

 2001年9月17日

 


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