一九九八年八月二十七日 日本共産党
日本共産党の志位和夫書記局長が八月二十七日、国会内で記者会見して発表した「金融機関の不良債権及び破綻処理問題についての日本共産党の提案」は次のとおりです。
金融機関の不良債権問題と破綻(はたん)処理問題をどう解決するかが、いま日本経済の直面する重要な課題になっていると同時に、大きな政治問題にもなっています。
この問題で政府・自民党がこの間におこない、また、今後おこなおうとしていることは、徹頭徹尾、国民の税金投入で処理しようという立場からのものです。
三十兆円の銀行支援策につづいて、政府・自民党が今国会に提出している「金融再生トータルプラン」にもとづく「ブリッジバンク法案」など関連六法案は、金融機関の破綻処理にあたって、当事者の銀行業界には一円の負担増ももとめず、国民には際限のない負担増をもとめようとするものです。そればかりか、”ゼネコン徳政令”といわれるように、ゼネコンの借金を棒引きにし、銀行には税金を免除するという仕掛けまでつくろうとしています。
しかも「ブリッジバンク法案」は、日本長期信用銀行の問題であきらかになったように、大手銀行の破綻処理にたいしてはまったく使いものにならないものであることを政府自身が証明しました。政府は、日本長期信用銀行には、この枠組みによらず、法律上の裏づけをもたない「公的資金投入」を計画しています。こんなことが許されれば、今後ますます”ルールなき税金投入”が横行することになるでしょう。
国民の税金でことを解決するというこうしたやり方では、国民にははてしない負担を、銀行業界にたいしても、「なにをやっても最後は国が税金で面倒をみてくれる」という甘えとモラル・ハザード(倫理欠如)をもたらすだけで、けっして問題の解決につながりません。それは、バブル崩壊以降、銀行業界が不良債権化した担保不動産の処分をせず、値上がりを期待して、”塩漬け”状態にし、今日のようにこじらせてしまったことや、非道な貸し渋りの横行などをみれば、あきらかです。
このように政府・自民党の対応というのは、ただやみくもに税金投入をおこなうというだけで、今日の事態の道理ある解決にはなんの役にもたたないものです。
日本共産党は、不良債権処理や金融機関の破綻処理に国民の血税を投入することに、断固反対してきました。それは、この問題にいっさい責任のない国民に、ゆえなき負担をしいることが、道理にあわないからです。同時に、この立場をつらぬいてこそ、不良債権問題など日本の金融業界がかかえている問題を正しく解決し、ほんとうの意味での金融システムの安定と信頼を回復することができるからです。
金融システムの安定とは、金融機関が預金業務、決済業務、融資(与信)業務をしっかりはたし、日本経済や国民の暮らしに貢献することです。これこそ、金融機関が本来負っている公共的責任です。ところが実態は、乱脈経営で国民の預金を危うくする、貸し渋りや資金回収で企業を倒産に追い込むなど、金融業界の無法が横行し、政府・自民党はそれを終始野放しにしてきました。
いまなによりももとめられていることは、金融業界のこうした無責任な体質を大もとからただし、本来の公共的役割をはたさせることです。こうした自己規律を確立するためには、”自分の不始末は自分で処理する”という自己責任・自己負担の原則にしっかりたたせることが必要です。
自己責任・自己負担原則をつらぬいてこそ、各銀行はみずからの負担をおさえるため、乱脈経営を抑制し、処理すべき不良債権の償却を促進するなど、自己規律が確立し、国民の立場にたった金融システムの安定化をはかることができるのです。
アメリカでは、一九八〇年代に多数の貯蓄貸付組合(S&L)が破綻した際、その処理に巨額の税金を使ったため、経営者のモラル・ハザードをまねくという、「大恐慌以降、もっとも高くついた金融政策の失敗」(米財務省リポート「二十一世紀の金融業」)から教訓を引きだし、一九九一年「連邦預金保険公社改善法(FDICIA)」の制定によって、商業銀行の破綻にたいしては税金を投入せず、預金保険料の値上げなど、銀行業界の自己責任・自己負担で解決するという原則を確立しました。米国会計検査院(GAO)のバウシャー総裁(当時)は、銀行業界が自分の負担で解決するという自己責任の原則を打ち立ててこそ、業界が不良債権処理にまともに立ち向かうし、破綻処理のコストを業界負担にすることで、かばいあいをなくし、不良銀行を早めに金融業界から退出させるよう自己規律が働くと米議会で証言しています。いま、この教訓にこそ学ぶべきです。
銀行業界の自己責任原則による自己規律を確立するうえで、国がはたすべき役割と銀行業界がはたすべき役割を、しっかり区分・整理することが重要です。
国がやるべきことは、不良債権の実態がどうなっているかを検査し、その情報を全面的に開示し、正確な情報を国民に提供することです。金融機関が投機的な業務にのめりこんでいないか、不当な貸し渋りや資金回収をおこなっていないか等々を監督し、必要があれば業務改善命令など、是正措置を講ずることも国の重要な責任です。また、債務超過におちいったり、預金の払い戻し不能になるなど、放置すればますます傷口を拡大するような金融機関にたいして、破綻認定をおこなうことも重要な役割です。それをこえて、破綻処理への国による直接の管理、財政資金の投入はやるべきではありません。
銀行業界は、金融機関が破綻したとき、監督当局の監督・指導のもとで、その破綻処理に責任を負うべきです。その際、なによりも優先すべきは、預金者の保護、善良な借り手の保護です。そして、もっとも重要なことは、これらの処理コストを銀行業界自身が負担するということです。
政府・自民党がやってきたように、この区分をおかして、金融機関の破綻処理を国自身の仕事として、その負担と責任を背負い、住専処理への税金投入や三十兆円の銀行支援策など、国民の税金を銀行救済に次から次へと投入するやり方は、かえって日本の金融システムの確立に逆行し、混迷を深めてきたのです。
その極端なものが、日本長期信用銀行への公的資金投入です。今年三月には、「健全銀行」と認定して、千七百六十六億円も公的資金を投入し、いまも「債務超過」になっていないと説明しながら、数千億円とも一兆円ともいわれる公的資金を投入しようとしています。日本長期信用銀行は、系列ノンバンクにたいして五千二百億円の債権放棄をおこないましたが、その結果、系列ノンバンクの乱脈経営も、そこからの借り手もまったく責任が免罪され、穴埋めだけは税金というひどいものです。しかも、日本長期信用銀行の合併相手の住友信託銀行にまで、公的資金を投入するというのです。
国民がこうしたやり方に怒りを燃やしているのは当然です。日本共産党は、日本長期信用銀行への公的資金投入にきびしく反対するものです。
日本共産党は、以上の考え方にたって、金融機関の破綻処理にたいして、次の提案をおこなうものです。
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いま金融監督庁が大手十九行(都市銀行、信託銀行、長期信用銀行)にたいし、検査に入っていますが、その結果は公表しないというのが小渕内閣の方針です。不良債権の実態をあきらかにせず、やみくもに財政資金を投入するやり方は、国民の納得が得られるものでは到底ありません。実態を開示することは、不健全な銀行を監視し、退出させることにもつながり、金融システムへの本当の信頼をかちとる前提となります。
その際大事なことは、「善良な借り手」を保護するという立場から、道理ある方法での情報開示が必要だということです。いまの貸出債権の分類は、回収の危険性がない「第T分類」、通常より回収の危険性がある「第U分類」、損失発生の可能性が高い「第V分類」、回収不能な「第W分類」となっており、問題債権のうち金額のもっとも多いのが「第U分類」です。銀行によって、そのほとんどが「要注意先債権」とされていますが、これを「不良債権」として処理をすれば、数多くの中小企業をきりすてることになる一方、不良債権の実態を、じっさいより過大にあらわして、税金投入の口実をひろげることになります。
こうした事態をまねかないためには、処理を急ぐべき不良債権と善良な借り手を明確に区別する合理的な基準の設定が不可欠です。そのもっとも重要な基準となるのが、その融資が投機的なものか、どうかということです。
また、バブル期には、多くの金融機関が「かならずもうかる」などと、詐欺的商法で庶民に多額の融資をおこなったり、地上げなどで金融機関と暴力団など闇(やみ)の世界との癒着もひろがりました。こうした、金融機関の貸し手責任、暴力団などの借り手責任も徹底的に究明することが、不良債権の増大をふせぐうえでも大切です。
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金融機関が破綻した際、監督当局の指導・監督のもとで、その業務をおこなう主体となるのは預金保険機構です。その処理コストは、銀行業界の自己負担・自己責任でおこなうべきです。
ある銀行が破綻したとき、その銀行の預金者や善良な借り手を保護するため、それを引き継ぐ銀行を選定したり、必要なら新たな受け皿銀行を設立する業務を預金保険機構がおこないます。
破綻処理のため、預金保険機構の資金が不足すれば、銀行が支払う預金保険料を引き上げるのは当然です。
政府は、銀行業界の自己責任原則を否定しようとして、「銀行に体力がない」という口実を最近もちだしていますが、日本長期信用銀行のように、頭取や役員に億単位の退職金をとめどもなく払いながら、「体力がない」といって、国民の税金投入をもとめるやり方が、国民のあいだで通用するはずもありません。また、大蔵省が「銀行業界全体では不良債権を処理する十分な体力はある」と説明していたのは、わずか半年前のことです。その後、情報開示もやらず、根拠も示さないでいて、にわかに「体力がない」ことを税金投入の根拠にもちだしても、それは、まったく無責任な方便でしかありません。
アメリカでは、商業銀行の破綻処理を銀行業界の負担でまかなうため、預金保険料を一気に三倍に引き上げたことがあります。このとき、アメリカの銀行は身を削る努力をしました。日本の銀行業界には、そんな姿勢はまったくありません。日本の場合、業務純益にたいする保険料負担率は大手銀行で五%弱であり、アメリカの最高時の八%と比べて低いものです。また預金保険料率もアメリカのピーク時の三分の一にすぎません。
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不良債権の実態の全面的な公表、銀行業界の自己負担・自己責任原則による不良債権処理や破綻銀行の処理をおこなうために、金融監督庁や預金保険機構、銀行業界を指導・監督するのが、新たに設置される「金融監督委員会」です。
金融監督委員会は、金融機関の乱脈経営を監視するとともに、不当な貸し渋りや資金の回収を禁止するなど、金融機関がその公共的役割を発揮するように指導します。いま国際金融の舞台で活動する力をもたない銀行が、海外業務や国際的なデリバティブ取引に手をだし、そのために公的資金による資本注入を受けたり、貸し渋りをおこなっています。日本の金融機関のなによりも第一義的な役割は、国内金融の円滑化に貢献することです。国内企業を犠牲にして海外業務にのりだすなど本末転倒です。そうした金融機関は、国際業務から撤退させます。
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破綻した銀行の不良債権の回収は、承継銀行による努力など関係金融機関の努力が重要ですが、預金保険機構が積極的な役割をはたすことも必要です。現在、不良債権の回収を預金保険機構の下部組織である整理回収銀行がおこなっていますが、その実績はきわめて不十分です。悪質な借り手を野放しにしないため、告発権限を強化します。その際、まじめな借り手については、強権的な取り立てがおこなわれないようにしなければなりません。新旧経営陣の無責任経営を許さず、その責任を徹底究明することも当然です。
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金融問題では、政府・大蔵省による情報独占が横行しています。たとえば、ことし三月の一兆八千億円の資本注入は「金融危機管理委員会」の決定によるものですが、資本注入を受けた銀行の経営実態は、国民にも、国会にも知らされないままでした。
このような”密室行政”をやめ、国会に不良債権問題や銀行経営、金融行政について、専門に調査・審議する委員会をつくる必要があります。この委員会には、金融監督委員会などの金融行政をチェックし、銀行などにたいする資料提出要求、証人喚問などの国政調査権を発動し、国民に開かれた金融行政にします。
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