米輸入の完全自由化につながる関税化を撤回し、WTO農業協定の改正要求を

1998年12月25日 日本共産党


 いま、国民の主食である米の輸入が完全に自由化されようとしています。日本の食料と農業の将来にとってきわめて重大な事態です。

 一九九五年に発足したWTO(世界貿易機関)農業協定は、それまで一定の輸入規制を認めてきた農産物についても、「例外なき関税化」ということで基本的に自由化することを決めました。そのもとで日本は、米について、二〇〇〇年まで一定数量の輸入を義務的に受け入れる(ミニマムアクセス)ことを条件に、「関税化」を拒んできました。ところが、政府・自民党は、この米の関税化を来年度から受け入れることを決めました。これは米の輸入自由化に大きく踏みだすものです。

 日本共産党は、このような関税化を中止し、WTOへの通告を撤回したうえで、日本の米と農業、国民の食料主権を守る立場にたって、政府がWTO農業協定の改正に堂々ととりくむことを強く要求します。

1、関税化は政府みずから改正要求を投げすてるもの

 政府・自民党が、関税化の「前倒し」を主張する理由は、いまのままでは二〇〇〇年までの二年間、国内消費量の〇・八%(玄米で約八万トン)ずつミニマムアクセスをふやしつづけなければならないが、来年四月から「前倒し」で関税化すれば〇・四%増でおさえることができ、それをこえる部分については、高率関税をかけて事実上、輸入できないようにすることができるというものです。

 しかし、関税化の「前倒し」によってミニマムアクセス数量がへるわけではありません。ふえ方はわずかにへるものの、二〇〇〇年には七十七万トンと、九八年より八万トンもふえます。

 また、高率関税を設定したら輸入がおさえられるという政府のいい分も、目先だけのことを考えたいいかげんなものです。WTO協定は、「例外なき関税化」と関税率の段階的な引き下げを主要な目的としているため、いったん関税化してしまえば、あとは自動的に引き下げていかなければならないしくみになっています。それは、政府自身、「高率関税が適用されたとしても、輸入制限がないと設定された数量以上の輸入がおこなわれる可能性がある」(外務省経済局『解説WTO』)と説明してきたことでも明らかです。

 関税化にふみきることは、食料安全保障の立場から関税化は認められないとしてきたこれまでの政府自身の立場や、不公正であると認めてきたWTO農業協定にたいする抜本改正の主張を、みずから投げすてるものです。

2、いまもとめられているのは米・農業を守るための改正交渉

 もともとWTO農業協定は、アメリカなど農産物輸出国と、巨大穀物メジャーなど多国籍アグリビジネスがみずからの利益を最優先するため、気候や地理的条件の制約を強くうけて生産される農産物の特性を無視して、一律に貿易自由化を押しつけたものです。

 協定発効から四年、日本では、米を二百二十二万トンも輸入させられ、減反は水田面積の三分の一以上にもおよび、米価暴落とあいまって農家に深刻な打撃をあたえています。世界的にも輸入国や発展途上国の農業に深刻な影響をあたえており、「WTO協定で甘い汁を吸っているのはアメリカなど一部の輸出国と穀物メジャー」という批判が高まっています。

 WTO農業協定の前文では、「食料安全保障、環境保護の必要その他の非貿易的関心事項(自由貿易だけで解決できない事項)に配慮」すると明記しており、WTO設立協定第一〇条は、協定の改正を提案する権利を加盟国に保障しています。したがって、農業協定を公正なものにするために積極的な提案をおこなうことは、日本政府の当然の権利であり、責任です。

食料自給率の極端に低い国では、実効ある輸入規制を保障し、一律の保護政策削減をやめさせる

 日本の食料自給率は、穀物で二八%、カロリーで四一%にまで落ちこんでいます。人口一億二千万人の国で食料自給がここまで崩壊しているのは異常な事態です。その日本で、唯一自給している米まで毎年数十万トンも輸入して、減反を拡大するというやり方が、いかに食料安全保障の基礎そのものをほりくずすものであるかはあきらかです。

 国連食糧農業機関(FAO)は、九八年に食料不足に直面している国が、九六年の二十五カ国から三十七カ国にふえていると報告しました。九六年にひらかれた「世界食料サミット」(百八十カ国の政府代表参加)は、「増加しつつある人口に食料を供給し、食生活を改善するためには……世界の食料をさらに大幅に増産することが求められている」(「行動計画」)と各国によびかけました。多くの国際機関が、二十一世紀にはさらなる世界的な食料不足が避けられないと予測しています。食料自給率を向上させることは、日本自身の食料の安全保障のうえで不可欠であるとともに、世界的な食料危機を回避するうえからも重要です。

 ところが、WTO農業協定は「食料安全保障への配慮」をいいながら、自給率の保障をその枠組みになんら組み込まず、日本のような自給率の極端に低い国の輸入規制や国内助成まで一律に禁止あるいは削減を迫っています。食料安全保障に配慮して、国内助成の削減対象からはずすことを認めているのは公的備蓄だけです。これでは真の食料安全保障を確立することはできません。自給率向上のため、少なくとも次の改正を提起すべきです。

 〔食料自給の根幹をなす米を自由化の対象からはずすなど、実効ある輸入規制がおこなえるようにする〕

 「例外なき関税化」=輸入自由化を大原則にした現協定は、関税以外の輸入規制を原則的に禁止しています。そのもとで認められている関税化の除外措置も、ミニマムアクセスのうけいれや国内の生産調整が条件となっています。そのため、日本のように国内で必要のない米の輸入を年々ふやしたり、農家に水田面積の三分の一以上もの減反がおしつけられてきました。これではおよそ除外措置とはいえません。関税化を猶予する条件から義務輸入をはずすべきです。

 日本にとって、米は食料自給の根幹をなすものであり、自由化の対象から除外させるなど、実効ある輸入規制がおこなえるよう改正させるべきです。

 〔各国の生産拡大への助成措置を一律に削減・禁止する条項を削除する〕

 国内生産の拡大は、自給率を向上させるための欠かせない課題です。ところが、農業協定は、アメリカなどの輸出補助金を残す一方で、各国、一律に現行の保護政策の削減を義務づけ、新たに生産に対する助成や価格政策などをおこなうことを禁止しています。もともと気候や地理的・自然的条件によって生産が制約される農業生産にたいする保護を否定することは、各国の食料主権にたいする侵害です。各国に農業生産の縮小をせまる内政干渉的規定を削除し、各国の自主性が尊重されるようにあらためさせるべきです。

環境保全のための施策にアジアモンスーン地帯などでの農業生産の維持を加える

 WTO農業協定は前文で環境保護に配慮すると規定しています。しかし、助成がみとめられているのは、欧米諸国でおこなわれている単位あたりの収量を減らしたり、農地を休ませることによって環境を保護する場合に限られています。農業生産をつづけることによって環境・国土保全をはかる措置にはまったく言及していません。

 ところが、日本、韓国をはじめアジアモンスーン地帯では、手間をかけて水田を維持し、農業生産をつづけることが、環境と国土の保全に大きな役割をはたしています。それぞれの国や地域のこうした特殊な条件に配慮した内容にあらためさせるべきです。

3、改正をもとめる世界の動きと連帯して

 農協組織がおこなった「新たな農産物貿易ルールの実現」をもとめる請願署名に、一千万人をこえる国民が賛同の署名をおこないました。”米を守れ、農業を守れ”は、農業者だけではなく、広範な国民の声です。

 輸出国の利益に偏重したWTO農業協定を、各国の食料主権を尊重した、公正なルールに改正することをもとめる動きは日本だけでなく、世界各地で広がっています。食料サミットNGOフォーラム(八十カ国・二千五百組織参加)の「声明」では、「各国とも、みずからが適切と考える食料自給と栄養水準を達成するための食料主権をもつ」として、WTO農業協定の改正をもとめました。アメリカをふくむ家族農業者の組織、消費者運動、環境保護団体などにも、その声は広がっています。OECD(経済協力開発機構)農相会合も、環境保全など農業がはたす多面的機能への配慮を強調しています。

 政府は、農業の再建と食料自給率の向上、世界的な食料問題の解決のため、WTO農業協定の改定をもとめる国際世論の高揚と連携に、最大限の努力をすべきです。

 そのためにも、政府がいまのように、みずから米輸入の自由化を認めたり、減反を押しつけるやり方を根本的に転換し、食料自給率の引き上げを国政の中心課題に位置づけ、日本の米と農業を守り、発展させる方向に大きく足を踏みだすことです。


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