日本共産党

大規模化や農家選別の押しつけをやめ意欲ある農家すべてを大事にする農政を──政府の農政改革関連法案にたいし日本共産党は主張します

2006年5月15日 日本共産党国会議員団


 いま国会では、農政改革関連法案が審議されています。この法律は、「品目横断的経営安定対策」という新たな政策をすすめるためのもので、これまで作物ごとに行ってきた価格政策をすべて廃止し、ごく一部の大規模経営だけを対象に助成金を出すという内容です。

 すでに全国で、来年からの実施のためだとして、地域の受け皿づくりが進められていますが、具体化がすすめばすすむほど、実態からかけ離れた対策の問題点が浮き彫りになり、関係者の間に深刻な不安と苦悩、混乱が広がっています。

 この対策が本格的に実施されれば、生産の大半を担う農家経営が大きな打撃を受け、営農を続けられなくなります。田畑が荒れ、食料自給率がいっそう低下するのは必至です。

 国民にとって、農業と農村は、安全・安心の食料供給はもちろん、緑豊かな環境や景観の保全、洪水の防止や水資源のかん養など、かけがえのない存在です。こうした多面的な役割は、農村に多数の農家が住み、営農を続けてこそ、発揮されるものです。それを、「非効率」の名のもとに切り捨てることは、国民の生存基盤を根本から脅かす暴挙といわざるをえません。

 日本共産党は、大多数の農家の経営が成り立ち、国内生産の拡大を保障する農政こそ国民の願いにこたえる道であると確信し、法案の撤回を強く求めるものです。あわせて、危機的事態にある農業と農村をまもるために関係者が力を合わせることを呼びかけます。

 大多数の農家を生産から締め出す――新たな経営安定対策

 新たな対策は、自公政府が「戦後農政を根本から見直すもの」と述べているように、わが国の農業のあり方に大きな転換を迫る、これまでにない重大な内容になっています。

 すべての農家を対象とする価格政策は廃止する

 第一の問題は、これまで品目(米や麦、大豆、原料用バレイショ、テンサイ)ごとに実施してきた価格対策を廃止することです。農産物の生産量に応じた助成をおこなう価格対策は、生産・販売するすべての農家を対象とし、不十分ながらも生産を続ける条件になってきました。小麦や大豆では、農家の販売価格が、輸入価格の影響を受けて生産コストをはるかに下回るため、生産を維持するには政府の価格補填が不可欠でした。

 政府はこの価格政策を「零細な農業構造が温存される」として、多くの農産物で廃止してきましたが、わずかに残された品目の価格政策も今回、投げ捨てるというのです。多くの農家経営が成り立たなくなり、生産の崩壊が広がるのは目に見えています。

 大多数の農家を排除し、集落に混乱と亀裂をもたらす

 第二の問題は、新たな経営安定対策の対象がきわめて限定されることです。

 政府が示した対象は、個別の農家経営では4ヘクタール以上(北海道10ヘクタール以上)の規模をもつ認定農業者であり、集団では、個別の農家経営の要素をいっさい排除する「経理の一元化」や、法人経営に切り替える「計画」などの要件を満たす20ヘクタール以上の集落営農です。

 現状で、都府県の農家で4ヘクタール以上を経営しているのはわずか4%にすぎず、9割以上は対象外です。中山間地域や複合経営などでは面積要件に一定の緩和措置もありますが、大多数の農家が対象外という点では変わりがありません。しかも、認定農業者の他産業なみの所得をめざすという要件は、農産物価格の下落が続くなかで年々実現が困難になっています。

 集落営農をみても、全国にある約13万の農業集落のうちなんらかの共同組織があるのは約1万(8%)にすぎません。さらにその共同組織の54%は20ヘクタール未満で政府の示した基準に達していません。中山間地域では面積基準が10ヘクタール以上に緩和されていますが、そこでも38%は基準以下です。加えて、「経理の一元化」「法人化計画」といった要件を満たすのはそれぞれ10数%しかないのが現状です(農水省調査、2005年)。

 政府はいま、規模の小さい農家は集落単位でまとめてしまえ、集落で面積が足りないなら隣の集落と一緒になればいいなどと無責任にいいます。しかし、いまある集落営農の多くは、小さな農家を守りつつ、集落を維持することを第一に、関係者の多大な努力で作られてきたものです。そのため、活動内容や組織形態も機械の共同利用や農地の利用調整などきわめて多様です。たとえば米だけは作り続けたいという農家の思いから、集落営農が担うのは水田転作だけというふうに役割分担しているところも数多くあります。

 そうした実態や農家の思いを無視して、全国一律の基準で「経営体」への発展を迫ることに無理があります。まして、いま組織のない集落に、短期間で基準にあう「経営体」をつくることはほとんど不可能です。新しい対策を利用しようと思っても、要件が実態とあまりにもかけ離れているために自治体や農協の関係者の多くが途方にくれています。大多数の農家や集落を排除し、集落に深刻な混乱と亀裂を広げずにはおかない、そんな無謀なやり方はただちにやめるべきです。

 対象となる「担い手」のやる気さえ奪う

 第三の問題は、たとえ「担い手」と認定されても経営が安定する保障がないことです。

 新たに導入される品目横断的経営安定対策は、米を含めて、価格暴落などによる収入減を補てんする仕組みと、麦や大豆などの外国産との生産コストの格差を補てんする仕組みの二つで構成するとしています。

 まず前者は、各農産物の販売価格が下がるにつれて基準となる収入も下がっていく仕組みになっており、生産コストを償うものではまったくありません。これでは暴落対策の名に値せず、「担い手」の経営安定を保障できません。

 後者の中心は、過去の生産実績にもとづく支払いです。支払い額はその年の生産量にかかわりがなく、麦や大豆の生産を増やしても前年までの生産実績がない農地にはいっさい支払われません。逆に実績があれば、何も作らなくても支払われる仕組みで、増産や規模拡大はおろか、生産維持にも結びつきません。こんな「対策」に国民の理解が得られるのでしょうか。

 大規模農家が多く、対象となる経営が多い北海道でさえ、「担い手支援というが、話が違うではないか」「農家のやる気を奪うものだ」と反発と不信が広がっています。

 生産者米価の下落をいっそう促進する

 第四に、生産者米価の下落をいっそう促進することです。

 麦や大豆は、北海道以外では主に水田の転作作物として作られていますが、「対策」から外される農家は麦や大豆が採算的に作れなくなり、米づくりにもどる可能性も指摘されています。加えて、07年から米の需給調整を生産者団体に完全にゆだね、政府は手を引くことになっています。すでに米の流通が全面的に自由化されているもとで、流通量の5割程度しか扱っていない農協組織が米の需給調整を担うのは困難です。大手米流通業者の買いたたきなどで、いまでも下落し続けている米価が、さらに下がることは十分予想されます。

 新たな対策では当面、米は、高関税を課しているとして、外国産との生産コスト格差の補てんの対象作物から外されていますが、WTO農業交渉の行方次第では組み込める仕組みになっています。米でも、関税の大幅引き下げを受け入れ、外米との丸裸の競争にさらしたうえで、一部の担い手に限って所得を補償することを想定しているのです。こんな先行き不安があるなかで、どうして規模拡大し、増産にとりくむ意欲がわくでしょうか。

 背景には、貿易や投資の拡大のために、農業はいらないという主張

 今回の法案や新たな対策は、小泉内閣が昨年春にまとめた農政の新基本計画を具体化したものです。そこでは、農業の「構造改革」の加速化を農政の最重点にすえ、「育成すべき担い手を明確化し、施策を集中化、重点化する」「貿易自由化の流れに対応し、・・競争力の強化を図り、・・国境措置に過度に依存しない政策体系を構築」することを強調しました。自由化をいっそう進め、外国産と競争できない農業はつぶれてもいいという政策にほかなりません。

 政府は、価格政策の廃止などは、農業保護の削減を求めるWTOのルールに対応する措置だといいます。しかし、欧米諸国では、価格政策を削減はしても、廃止はしていません。それに代わる所得補償(直接支払い)も手厚く、対象を一部に限定することもしていません。自国の農業の窮状をかえりみず、WTO協定での約束水準をはるかに超えて農業保護を削減してきたのも自公政府です。みずからの農業切り捨てを“外圧”のせいにするのは許されません。

 小泉農政「改革」の背景には、工業製品の輸出や投資の拡大のために、農産物の輸入をさらに増やし、農業予算の大幅な削減を求める財界の強い意向があります。農産物市場の全面開放をせまるアメリカのいいなりでもあります。そこには、9割近くの国民が切実に願い、新基本計画でも掲げている食料自給率の向上を真剣に追求する姿勢はまったくありません。

 こんな農政に、日本と地域の農業、国民の食料の将来を託していいのでしょうか。

 続けたい人、やりたい人をすべて大事な担い手として応援を

農家の連帯、消費者・住民との共同を強め、地域農業まもろう

 いま、農家の後継者が減り、高齢化が急速に進むなかで、地域農業の担い手問題はまったなしです。集落の農業をどう維持するのか、当面の担い手をどう確保するのか、地域の実態をふまえた真剣な議論と対策が求められるのはいうまでもありません。

 この機会に、関係者が力を合わせて、地域農業の現実が求める以下の施策を政府に迫ろうではありませんか。同時に、自治体や農協などが知恵と力を発揮し、農家の連帯、消費者・住民の共同を強めて、地域農業をまもる可能な取り組みを発展させようではありませんか。

 日本共産党はそのために、みなさんと力をあわせて奮闘するものです。

 《現場に混乱をもたらす「対策」を中止する》

 新しい「対策」は制度が複雑なうえ、助成金の水準も「未定」で、市町村や農協の担当者が農家の疑問に答えられない事態が起きています。こんななかで、今年の秋までに「担い手」の登録を急がせるのには無理があります。多くの農家の納得が得られず、現場に混乱をもたらしている現状で、新たな対策は中止するか、最低限、実施を延期すべきです。

 《いま存在する多様な農家経営を大事にし、できるだけ多く維持する》

 わが国の農業は、大規模専業経営とともに小規模の兼業農家、複合経営、各種の生産組織など多様な農家やその共同によって担われているのが実態です。担い手が減少し、高齢化がすすんでいるとはいえ、今後の担い手の確保も、その現実から打開策を見出す以外にありません。一部の大規模経営に農政の対象を限定するなら、担い手は大幅に減少し、集落や農地の維持はさらに困難になります。農家を経営規模の大小で区別するのでなく、続けたい人、やりたい人を大事にし、農家経営の多くを可能な限り維持することに力を注ぐべきです。

 《農家経営を支える集落営農なども重視する》

 高齢化などで営農が困難になる農家が増えているもとで、その農地や機械作業を引き受けるさまざまな共同や組織が各地で生まれています。そうした自主的な集落営農や各種の生産組織を大事にし、機械の導入や更新、ほ場整備への助成などそれぞれの条件に応じて支援すべきです。その際、「経理の一体化」などの画一的な基準を押しつけるのでなく、集落営農の構成員となる農家が希望すれば自分の経営も続けられる条件を保障することも大事です。農協などによる農作業受託も地域農業を維持する役割として重視します。

 《非農家からの新規参入者などに手厚い支援をおこなう》

 同時に、非農家からの新規参入者、最近増えている離職就農者、定年帰農者、Uターン、Iターン者などの本格的な定着にも社会全体が取り組むべき課題です。一定期間の生活支援や資金や技術、農地の面での思い切った支援を国、自治体がおこなうべきです。

 《地産地消や直売所など消費者・住民との共同を支援する》

 近年、地産地消や直売所、都市と農村の交流などの取り組みが各地で広がっています。高齢者や女性、兼業農家などが元気に参加している例も少なくありません。厳しい条件のもとでも自治体や農協が知恵や力を発揮し、関係者が力を合わせればさまざまな可能性があることを示しています。そうした取り組みと結びつけて地域農業の担い手の確保を重視します。

 《担い手支援は価格保障に所得補償を組み合わる》

 ここ数年の米など農産物価格の暴落は、大規模経営により大きな打撃を与えています。いま、大規模経営をふくめて農家がなによりも願っているのは、農産物価格の暴落に歯止めをかけ、とめどない輸入拡大を抑えることです。大規模稲作経営者の団体の代表も「米価がこれ以上下がらない仕組みが必要」と訴えています。農政はこの声に答えることが第一です。

 日本共産党は、当面、生産費をつぐなう価格保障を基本にし、それを補完する所得補償も組みあわせて提案しています。米では、政府の100%拠出による不足払い制度を創設して、生産コストに見合う価格に近づけます。麦、大豆などの価格保障、転作奨励金も充実します。

 中山間地域等の直接支払いを改善・拡充するとともに、営農による国土・環境の保全など「農業の多面的機能」を評価して、平場地域も対象に加えます。あわせて、生産資材価格の引き下げ、地産地消の推進、流通・加工経費の削減などにも力を入れます

 《自由化一辺倒でなく、家族経営が成り立ち、各国の農業が共存できる貿易ルールに》

 こうした国内農業の振興策や担い手確保の障害となる貿易拡大一辺倒のWTO農業協定を、各国の食料主権を尊重する貿易ルールに改めることを求めます。

 いま、各地の地方議会や農業委員会では、新たな対策の中止を要求したり、価格保障を基本とした経営安定対策、意欲あるすべての農家への支援などを求める請願や意見書が採択されています。こうした動きを全国に広げ、農業つぶしの悪政をやめさせようではありませんか。

 農家や消費者・住民の連帯を強め、地域での多面的な取り組みを発展させるなら、大多数の農家の締め出しをねらう小泉農政「改革」をはね返す確かな力になるでしょう。日本共産党はそのために全力をつくすものです。


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