日本共産党

 障害者施策の拡充についての申入れ

2006年8月8日



内閣総理大臣 小泉 純一郎 殿

2006年8月8日
日本共産党国会議員団
障害者の全面参加と平等推進委員会
         委員長 小池晃

障害者施策の拡充についての申入れ

 障害者自立支援法が四月から実施されて4カ月がたちました。法施行後わが党や全国各地の障害者団体などの調査によって、原則1割の応益負担による大幅な利用者負担増、相次ぐ施設からの退所やサービス利用の手控え、施設経営を大本からゆるがす報酬の激減など予想を超える問題点が明らかになっています。厚生労働省自らが都道府県・政令市・中核市に対しておこなった調査でも、多くの自治体から懸念や不安の声が上がっています。将来の生活を苦にした親子の無理心中事件も起き、関係者に衝撃をあたえています。

 政府は、自立支援法案の審議のなかで、「サービス水準は後退させない」と繰り返し答弁してきましたが、全国各地で起きている深刻な事態は、この政府答弁に真っ向から反するものといわなければなりません。あらためて「応益負担」の持つ根本的な問題点がうきぼりになっています。

 日本共産党は障害者自立支援法についてこの施行直前の本年2月と、施行後の状況について実態調査に基づき6月に政府に対し緊急要求を行いました。あらためて、政府自身が施設退所やサービス手控えなどサービス利用の現状を直接に把握するための全国調査を行うとともに応益負担を撤回することを強く求めるものです。

 7月末におこなった障害者団体からのヒアリングをもとに障害者自立支援法の抜本的見直しとともに障害者施策の拡充を求め、以下、政府に対して申入れるものです。

1、自立支援法の抜本的見直しについて

 【利用者負担の軽減について

(1) 負担増による施設退所やサービスを受けられないことのないように福祉サービス利用料の負担上限額の引き下げを行うとともに、社会福祉法人減免制度の拡充やNPO法人など社会福祉法人以外の利用額減免制度の創設など、利用者負担の軽減策を拡充すること。

(2) 患者・障害者が安心して医療が受けられるよう自立支援医療の負担上限額の引き下げや負担軽減策の拡充をおこなうこと。自立支援医療の「重度かつ継続」の範囲は、施行を目途に見直すこととなっていたが、精神以外では見直されていない。ただちに見直すこと。

(3) 障害者の自立に逆行する世帯単位での収入・資産の認定をやめ個人単位にすること。生活保護にならい扶養共済年金を収入認定しないこと。

 【事業者の報酬について

(4) 報酬単価の引き下げ、日払化によって事業者収入は平均で1割から2割の減収となり、職員の労働条件悪化だけでなく経営の継続さえ困難な状況を招いている。このことは多くの自治体の調査でも明らかである。報酬単価を引上げ、障害者の特性や施設の利用実態にそぐわない報酬日払化は実態に見合うようただちに見直すこと。

(5) 10月からの新体系施行にあたっては、実態に見合った報酬単価、職員配置基準とすること。就労移行支援事業などに、雇用の場に何人結びつけたかなどによって公的な運営費に格差をつけるとされているが、競争原理は障害者福祉と相いれないので、これを、おこなわないこと。

(6) 当面自立支援法施設に移行しない小規模通所授産施設や福祉工場、精神障害者社会復帰施設などについて運営費補助金は従前通り確保し運営の安定を保障すること。当初予算で不足する場合には必ず財源を確保すること。

 【障害程度区分認定について

(7) 知的や精神の障害程度区分は身体に比べ軽くなる傾向が指摘されている。実態に合わせて判定基準の見直しを行うこと。

(8) 障害程度区分は介護保険と違いサービスの上限ではなくあくまでも支給決定の目安である。自治体において障害程度区分が事実上のサービスの上限とならないよう自治体に徹底するとともに、国としても必要なサービスが保障できる十分な財政措置を講じること。

 【地域生活支援事業について

(9) 「地域生活支援事業」について、今年度予算では200億円しか計上されていない。大幅に予算を増やし自治体の積極的な取組を支援するとともに自治体が無料または応能負担による低廉な利用料を設定できるよう財政措置を講ずること。

(10) 障害者の自立と社会参加に大きな役割を果たしている小規模作業所が、安定して運営がおこなえるよう、地域生活支援センターについて補助基準を大幅に引上げること。希望する小規模作業所が義務的経費の諸事業に移行できるよう要件の緩和などの措置を講ずること。

 【基盤整備について

(11) 地域でのサービス基盤が圧倒的に不足している。新制度が発足しても、精神障害者のグループホームをはじめ希望するサービスが受けられない事態が起きることは明白である。基盤整備のための「特別計画」を策定し、予算を大幅に増額し、基盤整備を緊急にすすめること。

(12) 「障害福祉計画」について、国の示した基準に沿うことを強制するのではなく、都道府県・市町村が障害者の生活実態と利用者意向を十分に反映した「計画」を策定できるよう奨励・援助を行うこと。

2、働く権利の保障

 授産施設・福祉工場など福祉的就労に対する利用料の徴収は、障害者の就労意欲を後退させている。新体系における就労移行支援など就労系事業については利用者負担を廃止すること。重度障害者のための福祉的就労の場を整備すること。

(1) 法定雇用率・納付金を引上げるとともに、精神障害者への適用拡大と障害者の就労環境の整備を義務づけるなど、現行制度の見直しと新たな就労支援施策の前進を図ること。

(2) 障害・疾患を理由にした不当な差別や解雇を禁止すること。

(3) 国、地方公共団体が特別枠で障害者雇用の場を拡大すること。また、国の機関及び地方公共団体の職員採用試験について点字などによる試験など、障害者の受験を確保するための措置を講ずること。

3、障害者の所得保障

(1) 学生の無年金障害者などへ「特定障害給付金」が支給されることになったが、すべての無年金障害者の救済を年金制度の枠内で解決すること。特定障害給付金を障害基礎年金並に引き上げること。

(2) 障害者が自立して生活を送ることができるように、障害基礎年金、各種手当を大幅に引き上げること。

4、難病対策

(1) 小児慢性特定疾患について、対象となる患者の要件緩和とともに対象疾病を拡大すること。全額公費負担に戻すこと。

(2) 難病患者の特定疾患治療研究事業について対象疾患を増やし、予算を増額するとともに全額公費負担に戻すこと。人数を口実にして疾病外しは行わないこと。難病相談支援センター事業に対する予算を増額すること。

(3) 治療中のウイルス性肝炎患者に対し医療費及び生活費支援を行うこと。当面、ウイルス性肝炎に対するインターフェロン療法や、肝硬変、肝がんに対する治療などを特定疾病制度の対象とすること。肝機能障害を「身体障害者福祉法」の内部障害の対象とすること。障害年金の認定基準を緩和し、慢性肝炎なども支給対象とすること。公費による無料のウイルス性肝炎の検査制度を確立すること。ウイルス性肝炎治療体制を確立すること。就学・就労差別をなくすよう具体的施策を講ずること。

(4) パーキンソン病治療薬など諸外国に比べて数倍高い薬価を引き下げること。

(5) てんかんの専門医療機関の整備、相談・支援体制の充実を図ること。

(6) 高次脳機能障害支援モデル事業により、診断基準や支援プログラムなどが示されたが、この成果を生かし、重度者を含めた生活支援策を確立すること。

5、精神障害者の地域生活支援

(1) 障害者施策の中で最も遅れた分野である精神障害者施策の抜本的改善をはかること。とりわけ、通院治療・生活支援施策・働く場の保障など、安心して暮らせる施策の充実を図ること。

(2) 精神障害者の雇用促進対策と、企業内の在職者に関するメンタルヘルス対策とは関連する施策であり、別個の施策として各々に進められることなく、より効果的に企業や社会に受け入れられるようなシステム作りを図ること。

6、障害児の発達と教育の保障

(1) 発達障害者支援法にそって、診断・治療にかかわる医師など専門家の育成、「自閉症・発達障害支援センター」の全都道府県への設置、乳幼児健診や就学健診での早期発見体制の整備などを促進すること。

(2) 障害の早期発見・治療・発達保障のための発達クリニックや通所指導相談を整備すること。

(3) 専門的な教職員など必要な人員を確保し、学校、地域、福祉・医療など横断的な支援体制を確立し、一人ひとりの障害と発達に見合った就学相談・指導を充実させること。養護学校などの整備や、「特別支援教育」に必要な予算を増額すること。

(4) 障害児の放課後保障に重要な役割を担ってきた児童デイサービスの利用児童の年齢要件を緩和するとともに、報酬単価を引き上げること。学童保育を含む障害児の放課後対策を充実させること。

7、 障害者の範囲の見直し。総合的障害者福祉法、障害者差別禁止法の制定

(1) 国連の「障害者の権利宣言」や「国際生活機能分類」に生活上の困難に着目して障害者を定義するのが国際的な流れである。この考え方に基づいて、「障害者等の範囲」の3年後の見直しを前倒しして検討し、難病をはじめ対象外とされる障害者が含まれるように「障害」の範囲を広げること。

(2) 難病、高次脳機能障害、てんかんなど「施策の谷間」でサービスを受けられない患者・障害者が十分な福祉サービスを受けられるよう、一刻も早く総合的な福祉法を制定すること。

(3) 障害を理由にした差別禁止を実効あるものにするため「障害者差別禁止法」の制定を急ぐこと。

8、情報アクセス権の保障

(1) 障害者が必要な情報を利用できるように、字幕や手話をつけたビデオ・DVDの製作、複製、送信などの著作権について法的整備をすすめること。

(2) 災害時の、障害者への情報伝達など避難体制の整備を進めるために、必要なガイドラインの作成や市町村への財政援助をおこなうこと。

9、バリアフリーなど社会参加の促進

(1) 障害者が自由に安全に移動し、社会参加する権利を保障するため、不特定多数が利用する施設・空間のバリアフリー化を促進すること。交通バリアフリー法・ハートビル法で努力義務とされている既存施設のバリアフリー化について、国と事業者の責任で計画的に進めること。一日利用客5000人未満の小規模駅であっても、要望がある施設については積極的にバリアフリー化を進めること。

(2) 障害者にたいする利用拒否やバリアフリー施設の不正改造など権利侵害が起こらないよう、事業者への指導を強めること。

(3) すべての障害者がバリアフリー新法の対象になることを事業者・関係者に徹底し、公共交通機関等の利用の際の配慮、バリアフリー整備計画の策定や事業実施の際の意見反映を保障すること。

(4) バリアフリー新法にもとづく国の基本計画の策定やバリアフリー基準見直しにあたっては、関係者の意見を十分に反映し、実効ある改善を図ること。駅ホームからの転落防止のため、可動式柵やホームドアの設置を義務づけ、整備を促進すること。音響信号機とエスコートゾーン整備を促進すること。聴覚障害者向けの光、音量増幅、振動、文字による情報提供、窓口での筆談対応などを基準に盛り込むこと。ホテルの客室についてもバリアフリー基準に位置づけ、整備を進めること。

(5) 災害時に避難所となる学校や公民館をはじめ役所などの公共の建物はバリアフリー化を義務づけること。既存の建物は計画的に改善をはかるよう指導を強めること。

(6) 交通運賃割引制度を精神障害者を含むすべての障害者と介護者に拡大すること。100キロメートル制限を撤廃し、JRの特急・寝台料金も割引の対象とすること。

(7) 障害者が安心して生活できる公営住宅を大量に整備すること

10、参政権の保障

(1) 在宅投票制度の対象者拡大や手続きの簡素化など、いっそうの改善を図ること。

(2) 政見放送に字幕をつけること。点字広報や点字記載の投票用紙を配布すること。

(3) 投票時のガイドヘルパーの派遣や投票所のバリアフリー化などを進めること。


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