日本共産党


国民健康保険の危機を打開し

住民のいのちと健康をまもるために

2003年3月13日 日本共産党


国民健康保険にいま何が起こっているか

1、国保証の取り上げをやめさせることは緊急の課題

2、高すぎて払えない国保料(税)を引き下げ、減免制度の拡充を

3、市町村国保への国庫負担割合を計画的に復元する

国は約束どおり国保2割負担への引き下げを


国民健康保険にいま何が起こっているか

 国民の36%、4600万人余が加入する市町村の国民健康保険(国保)は、いま重大な危機に直面しています。国保料(税)を払えない世帯が、昨年6月には国保加入世帯数の18%、412万世帯に達し(厚生労働省調査)、深刻な空洞化が進行しているからです。消費税増税などの9兆円負担増で、今日の不況のきっかけをつくった97年当時と比べると、100万世帯以上も増えたことになります。

 重大なことは、滞納世帯の増大に呼応して、保険証(国保証)取り上げの制裁措置が劇的に広がったことです。国保証のない世帯は、97年と比べると3・8倍に増え、22万5000世帯を超えています。また、有効期間を1ヶ月、3ヶ月などと限定した「短期証」の発行も約78万世帯にのぼり、97年比で4・1倍という異常さです(いずれも02年6月現在)。まさに国保制度の存続をゆるがす事態です。

 国保証がないため、重症でも医療にかかれない、手遅れで命を落とすといった、悲惨な事件はあとを絶ちません。収入がなくても、生活がどんなに大変でも、保険料を払わなければ保険証は交付しないという、およそ社会保障の理念とかけ離れた、冷酷非道な行政がまかりとおっているのです。なぜこんな事態になったのでしょうか。

 1984年の国保法改悪を皮切りに、次々と国庫負担を引き下げてきたことが最大の要因です。もともと財政基盤が弱い市町村の国保財政は急速にゆきづまり、保険料の値上げとなって住民にしわよせされました。さらに不況の追い討ちです。所得が減るなかで保険料は上がり続ける、これでは滞納者が増えるのは当然です。滞納者が増えて財政が悪化すると、保険料がさらに引き上げられ、必死でがんばってきた層も支払い不能におちいり、滞納世帯がじわじわ広がるという構図です。まさに悪循環です。

 矛盾に拍車をかけたのが、97年の国保法改悪(小泉厚生大臣・当時)です。滞納世帯から国保証を取り上げることを、市町村の「義務」(2000年4月施行)としたのです。

 国保制度の改善は待ったなしの課題です。国保制度は「社会保障及び国民保健の向上に寄与する」するものです。日本共産党は、住民の命と健康をまもるという、国保制度ほんらいの機能を取り戻させるために、国、自治体に次の提案をおこないます。


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1、国保証の取り上げをやめさせることは緊急の課題

 国保料(税)の滞納が1年を過ぎると、市町村は、正規の保険証にかわって、「資格証明書」(資格証)を発行する仕組みです。それまでは「悪質滞納者」に限るとしていたものを、2000年4月からこのように改悪したものです。「資格証」は事実上の国保証取り上げを意味します。「資格証」になると、窓口で医療費全額を支払い、あとから7割分の払い戻しを受けることになります。しかし、保険料が払えない人に医療費全額を準備できるはずがありません。しかも、戻ってくるはずの7割分も、保険料滞納分として没収されるため、国保証がなければ医療にかかることはほとんど不可能です。国保証はまさに命綱です。「資格証」の発行をやめさせることは緊急の課題です。

(1)国は全国の実態を調査し、是正のための緊急対策を

 国保証取り上げの実態は、テレビでも放映されるなど、社会問題になっています。会社の倒産で国保料を払えない男性(53歳、北九州市)は、40度の高熱を3週間もがまんし、昨年5月に緊急入院。診断は肺炎・肺気腫でしたが、男性は入院を断り、退院しました。それでも国保証の交付を拒否された男性は、「貧乏人は死なないかん」とつぶやきました(JNN報道特集、03年2月16日放映)。これは氷山の一角です。

 こうした事態のおおもとに国保法改悪があり、第一義的な責任が国にあることは明白です。ことは命と健康にかかわる問題であり、市町村まかせは許されません。日本共産党は、国が「資格証」発行の実態を調査し、是正のための緊急対策をとることを求めます。また、「資格証」、「短期証」などの制裁措置を規定した法律条項は、すみやかにあらためることが必要であり、日本共産党はその実現をめざします。

(2)都道府県は国の方針の市町村への押しつけをただちにやめること

 国保は、市町村が運営主体であり、都道府県が国保証取り上げの先頭に立つなどは言語道断です。ところが、京都府は、市町村にたいして、「資格証」交付(保険証取り上げ)の「要綱」を作成し、府に提出することを求める「連絡文書」を出しました(01年3月)。そのため、京都府下の「資格証」発行は、4308件(02年6月時点)にのぼり、全国でも異常な急増ぶりです。兵庫県も、「資格証」発行のための「要綱」をつくり、県みずから国保証の取り上げに乗りだす意向をしめしています。

 厚労省は、「国として各都道府県に市町村の交付要綱の作成の指導、作成状況の調査などは指導していない」とのべています。国でさえ指導できないことを、都道府県が乗りだし、市町村に国保証取り上げを押しつけるようなことは絶対に許されません。日本共産党は、都道府県がこうした指導をただちにあらためるよう求めます。

(3)市町村も「特別の事情」などを最大限に活用し、国保証取り上げの中止を

 現行の法律でも「特別の事情」や、国の老人医療など24項目の公費医療(国保法施行規則第5条の5)の対象者は、「資格証」の発行の適用除外になっています。現実は、滞納世帯に機械的、一律に「資格証」を送りつけている自治体が少なくありません。

 静岡県では、住民運動と日本共産党議員の連携で、昨年11月、県当局に通知をださせ、市町村が機械的な対応をしないよう徹底させました。当然の措置ですが、いまあらためて自治体の姿勢が重要であり、すべての都道府県が同様の措置をとることを求めます。

 「特別の事情」について、国は、〈1〉災害や盗難にあった、〈2〉病気、負傷した、〈3〉事業を廃止、休止した、〈4〉事業に著しい損失を受けた、〈3〉これらに類する事由、の5つの事例を列挙しています(同施行令第1条の3、4)。しかし、これらは国の例示にすぎず、個々具体的な「特別の事情」は、「地方自治体が判断をする」(01年3月22日、参院厚生労働委員会における日本共産党議員への政府答弁)ものです。

 北海道・旭川市では、住民団体と日本共産党議員のねばり強いたたかいで、「特別の事情」に市独自の基準を設けさせました。12項目の独自基準によって、借入金返済のために保険料を納付することが困難な場合や、世帯のなかに失業者が出た場合も、「特別の事情」に該当させることが可能となり、「資格証」の発行を抑制させています。

 空前の失業と不況にあえぐ住民の現状は、「特別の事情」そのものです。市町村は、裁量権を行使し、「特別の事情」を住民の実態に応じて拡充することが重要です。安易な「資格証」の発行をやめ、悲惨な事件の再発を防ぐ真剣な努力を求めます。


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2、高すぎて払えない国保料(税)を引き下げ、減免制度の拡充を

 いま国保加入者の約半数は、年金生活者など無職の人たちであり、1世帯当りの平均所得は198万円(00年度)にすぎません。それでも平均の保険料(税)は1世帯当り約15万円です。200万円の収入でも年間20万円前後の国保料(税)はざらです。憲法25条は、「健康で文化的な最低限度の生活」を国民に保障しています。それを具体化したのが生活保護法であり、生活保護費からは保険料も税も徴収されることはありません。国が決めた「最低限度の生活」ができなくなるからです。生活扶助費は標準3人世帯(大都市)で年間195万円程度です。ところが、国保世帯には生活保護基準以下でも容赦なく保険料が課されており、まさに憲法に抵触する事態が横行しているのです。国保料(税)を引き下げ、だれもが払える国保料(税)にすることこそ、住民の切実な願いです。自治体としても、そのための最大限の努力を求めます。

(1)市町村も積立金の活用などで国保料(税)引き下げの努力を

 市町村の積立金、「国保基金等保有額」は、全国的には4900億円(2000年度)に膨れ上がっています。国保加入者一人当たり1万1000円余に相当する金額です。

 厚労省は、積立金の取り崩しについて、「過去3ヵ年の平均保険給付費の25%以上を積み立てていると同時に、直近の単年度収支が3年連続で黒字保険者の場合」という指針をしめしています。しかし、地方分権一括法の施行(2000年4月)によって、国保行政は自治事務とされたことから、政府も認めているとおり、国の指針はあくまで目安的なものにすぎません。個別の対応は各市町村の裁量にまかされています

 秋田・湯沢市は、積立金を活用して02年4月から国保税を1世帯当り年間2万円余引き下げています。岩手・陸前高田市も、積立金を取り崩すなどで、03年度から1世帯当り年間約1万3000円引き下げる予算案を提案しました。

 しかし、多くの市町村では、国の医療改悪を受けて、国保料(税)を値上げする計画がすすめられています。不況のときだからこそ、市町村は、積立金を取り崩す、あるいは一般会計からの繰り入れも考慮し、住民の苦難を解消することが重要です。いまこそ自治体が「住民の福祉の増進を図る」(地方自治法第1条の2)という、ほんらいの使命を最大限に発揮するよう求めます。

 都道府県の責任も重要です。市町村国保への都道府県支出金は、ピーク時の96年度の541億円から322億円に激減しています。東京都のように半分以下に減らしたところもあります。依然として1円も支出していない県も9県あります。都道府県も、市町村国保にたいして積極的に財政支援をおこなうことを求めます。

(2)国保料(税)の減免制度を拡充し、滞納者の発生を防止する

 国保料(税)の減免制度は、国が適用基準を決めて財源を負担する法定減免と、各市町村が条例または規約で独自におこなう申請減免の二通りがあります。申請減免について、法律は、〈1〉天災その他特別の事情がある場合、〈2〉貧困により生活のため公私の扶助を受ける者、〈3〉その他特別の事情のある者、としています(国保法77条、地方税法717条)。この規定を受け、各市町村が条例などで具体化するものです。

 千葉・市川市は、昨年9月、減免条件を「所得が50%以上の減少」から、「30%以上の減少」に緩和する決議を全会一致で可決しました。住民団体と日本共産党議員の2年越しの努力が実ったものです。減免条例を拡充し、生活実態に即した国保料(税)の免除・軽減措置を全国に広げ、滞納世帯の発生を未然に防止することが重要です。

 国保料(税)は、所得・資産に応じて徴収する「応能割」と、均等・世帯ごとに定額を課す「応益割」を足して計算されます。一般的には、「応益割」の比率が高いほど、低所得者の負担は重くなる仕組みです。国は95年の国保法改悪で、「応益」割合を高くした場合に国保料(税)軽減率を引き上げるなどの措置と抱き合わせで、「応益」と「応能」の比率を50対50に誘導する、「平準化」の方針を導入しました。このため、「応益」部分は年々上がる一方です。北九州市は58%にもなっています。国の減額上乗せ措置などの関係で、「応益」割合が高いほど国保料(税)も高くなるということにはなりませんが、それぞれの自治体で、低所得者の負担を軽減する立場から、国保料(税)の算定方式を具体的に見直すことも重要な課題です。


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3、市町村国保への国庫負担割合を計画的に復元する

 国保は、低所得者が多く加入している医療保険であり、国の手厚い援助がなければ成り立たない制度です。ところが、政府は1984年の国保法改悪で、国庫負担率を医療費の45%から38・5%に引き下げ、その後も国の責任を次々と後退させました。その結果、84年度から2000年度までのあいだに、市町村国保の収入に占める国庫支出金は、49・8%から34・9%へと14・9%も減りました。2000年度で1兆3600億円も削減されたことになります。一方で、住民一人当たりの国保料(税)は、同期間に3万9020円から7万9123円に、2倍に増加しています。今日の事態を招いた国の責任は明白です。国保再建のためには、国庫負担を引き上げることが必要不可欠の要件です。国は、無駄な歳出を見直し、5ヵ年程度の計画をたて、国庫負担を84年当時の水準に戻すべきです。

 厚労省は、「一元化」の名で、市町村が運営する国保を都道府県単位で統合する計画をすすめています。しかし、国の責任を棚上げしたまま、国保の根本的な矛盾を解決することは不可能です。まず、国が財政面で責任を果たすことを求めます。


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国は約束どおり国保2割負担への引き下げを

 小泉首相は、「国保も3割負担だから」などと、サラリーマンなどの窓口3割負担を強行しました。しかし、国保の3割負担が、必要な受診を抑制し重症化の一因になっていることは、高額療養費の件数でも明らかです。高額療養費は、自己負担が上限を超えた場合に、超えた分の全額が保険から給付される仕組みで、病気の重症化をあらわします。その件数をみると、市町村国保(高齢者と退職者を除く)は、2割負担の政管健保本人の5・6倍です。一人当たりの医療費も1・3倍です。3割負担が重症化をまねき、医療費を増大させ保険財政を圧迫していることを証明しています。

 もともと、国保の患者負担を2割にするというのは、国がいったん法律(84年)にも明記し、国民に約束していたことです。「公平化」というなら、政府の公約どおり、まず2割にそろえるべきです。国は、サラリーマン3割負担などの医療大改悪を中止し、国保の窓口負担も2割に引き下げることを求めます。そのためにも、国庫負担を計画的に元に戻して、国が第一義的な責任を果たすことが重要です。

 同時に、各自治体も3割の自己負担分を軽減する独自の努力が重要です。長野県下の19町村は、国保世帯主の3割負担を、「老人医療並み」または最大で2割に引き下げています。国の医療改悪のもとで、独自施策を後退させる動きがでていますが、乳幼児医療費無料化などの福祉医療制度をふくめ、こうした独自施策をまもり、拡充させる自治体の努力がますます重要です。

 国は、自治体が国の不備を補うために、乳幼児医療費無料化などの独自施策をおこなった場合や、不況で国保料(税)の収納率が90%を割った場合に、国保補助金を減額するという、ペナルティー(制裁措置)を科しています。これは市町村国保をますます窮地に追い込むものであり、このようなペナルティーはただちにやめることを求めます。

 「医者にかかるときは死ぬときだけ」というのは、100年も前のことでした。ところが21世紀のいま、国保制度のもとで同じ事態が広がっています。皆保険制度の崩壊です。国保制度の再建は、日本の医療制度、ひいては社会保障制度を再建する課題です。住民の命と健康をまもるために、草の根から大運動をおこそうではありませんか。日本共産党は、みなさんと共同し、国保制度を再建するために全力をつくします。



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